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別れ、指輪、そして日本へ

 その後、僕と彩歌は、パズズの魔力に当てられて呆然としている警官隊に、同じく動けなくなっている強盗犯たちを引き渡し、ライナルト、ダニロ、ラウラ、ハンナの4人を抱えて、スタコラサッサと逃げてきた。

 唯一の犠牲者は眼鏡の男。犯人は、デトレフ・バウムガルテンだ。






 >>>






『それじゃ、またな』


 ライナルトが、ちょっと寂しそうに笑う。ナイスなガイドありがとう!


『いつか絶対、日本に行くよ!』


 ダニロは、忍者を直接見たいそうだ。その時は一緒に行こう。

 ……えっと、京都でいいかな。


『ねえ、もし近くに来たら、遊びに来てね?』


 ラウラが笑顔で言う。必ず来るよ。ドイツには何故(なぜ)か、縁があるんだ。


『2人とも、大好きよ! 元気でね!』


 ハンナが、ポロポロと涙を流しながら、彩歌(あやか)と僕の手を握っている。お前らも元気でな!

 仲良し4人組を、"ゼッディナー・ゼー"の、自宅まで送り届けた後、僕と彩歌は帰路についた。






 >>>






「達也さん、体、大丈夫?」


「ああ。もう大丈夫だよ。心配掛けてごめん」


 僕の(たましい)の損傷は、魔王パズズが(ふさ)いでいる。


「それにしても驚いたわ。魂に剣を刺されたまま、魔王相手に、あんな高圧的な態度をとるなんて……」


「うん。実はあれも、ブルーの入れ知恵なんだよ」


 星の化身らしく、尊大で高圧的な態度で臨めば、それまでに見せた、僕の人間離れした特性と相まって、交渉を有利に進められるだろう。と、ブルーは言った。

 ……っていうか、僕も怒ってたから、ブルーに言われなくても、あれ位は言っていたかもしれないけどね。


「でも、"魂の傷"を、魔王で塞ぐなんて、いったいどういう仕組み?」


「いや、それがね。僕も知らなかったんだけど……」


『"光合成"を使ったんだ。普通の使い方とは違うけどね』


 どうやら、他者の肉体と能力を、自分に取り込んでしまうというのが、僕の持つ特性、"光合成"の本来の使い方らしい。


「葉緑素とか、二酸化炭素と光でデンプンとか、そういう話だと思ってたよ」


『キミは、私から際限なくエネルギーを供給されている。その光合成は必要ない』


「いや、おかしいなとは思ってたんだけどさ……」


 さて、その光合成だが、やり方は簡単。

 相手を拒否出来なくなるまで弱らせるか、完全に服従させてから〝自分の体のどこかに組み込む〟と、宣言すればいい。


『でもね、"光合成"は、他者を体に宿すから、そこから出続ける〝思念〟の影響を受け続けてしまうんだ。だから今まで、キミには説明しなかった』


「例えば、ダーク・ソサイエティの怪人を倒して吸収すると、その怪人の邪悪な思想や行動原理、趣味嗜好まで一緒に取り込んでしまうらしい。僕が僕じゃ無くなってしまうな」


『そうだね。いくら光合成でキミを強化しても、心が別人になっては、意味がない』


「そして、ここからが応用編だ。今日僕は、パズズを、自分のどこに組み込むか決める時、"魂の損傷した部分"を指定した」


「まって達也さん。それじゃ、魔王の思念が……」


「パズズの邪悪な思念は、頭に届く前に、僕の"偉大なる魂"に吸い込まれて消える。僕の思考が魔王化する事はないから安心して」


『そしてもうひとつ、重要な点がある。肉体を持つ者を光合成で取り込むと、分離が不可能になる』


「でも、パズズは魂だけの存在だから、用が済めばポイっと取り出せるんだ」


「伝説の魔王を"ポイっと"って……本当に凄いわ、達也さん」


 そう? なんか嬉しいな。もっと褒めて!


『星の化身よ。お願いがございます』


 うっわ、ビックリした!

 いきなり、胸の辺りから声が聞こえた。


『パズズか?! 脅かすなよ!』


『大変申し訳ございません。どうか、発言をお許し下さい』


 変な感じだなぁ。

 前に、心臓から僕の声が聞こえて、ビックリしていた彩歌の気持ちが、分かった気がする。

 ……でも僕のは、魔王の声だからな? そりゃ驚くさ。


『いいよ。どうかしたのか?』


『先ほど話されていた件です。その……御魂(おんたましい)が修復されたら、私をお捨てになる、と……』


『まあ、そこまでが、お前の役目だからな。魂が治ったら、出てっても良いよ?』


『いいえ、どうか! どうかこのまま、私をお側に置いて頂きたい! 何卒! 何卒!』


『って、何でだよ! どうしたんだよ? 急に!』


『星の化身である貴方様の魂に、こうして直接触れる事により、改めて貴方様の素晴らしさを、恐れながら思い知らされました次第で御座います。どうか、末永くお側に仕えさせて頂きたいと存じます! どうか何卒!』


 忠誠を誓われたよ。伝説の魔王に。


『いいけど。もう、悪さすんなよ?』


『はい、誓って致しません……お約束の(あかし)に、これをお持ち下さい』


 眼の前に、テニスボール大の、緑色に光る玉が現れた。スルスルと形を変えて、指輪になる。


『それは、私の命です』


 命って、おいおい!


魔王の指輪(デモンズリング)! 達也さん、それは魔王との契約の証よ。絶対の忠誠を約束した者にだけ、手渡されると言われているの」


『万が一、何かお気に触るような時は、握り潰して下さいませ。私は死にます』


『うっわ! 別にここまでしなくても!』


『いいえ。どうかそれを御指(おんゆび)に。私は永遠の忠誠を誓います』


 魔王の指輪(デモンズリング)を手に入れた! ……呪われてないだろうな。

 左手の人差し指に()める。


『我が主よ。全ては御心のままに』


「達也さん、なんて言ったら良いか……本当に凄いわ!」


 そうだろ? すごく嬉しいな。もっと褒めて!!


『タツヤ、気付いているとは思うが、キミは現在、体のいろいろな所から声が出る。実に面白いな!』


 ……合計3箇所だ。すっごい嫌な気分になった。

 本当にそういうの上手いなブルー。






 >>>






 電車とバスに乗り、3時間かけて〝ヘルムシュテット〟まで移動した。

 ここに、ドイツから日本へ向かう〝ルート〟の入り口がある。


「一旦、オランダに戻るのかと思ってたよ」


「私も」


『いや、それは遠回りだ。ここからの方が近い』


 ルートの入口が開いた。ここに飛び込めば、石川県小松市に着くらしい。

 ……それからの事は、向こうに着いてから考えようか。

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