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回想と決闘

 俺は九条大作(くじょうだいさく)

 ちょっとだけ、昔話をしてもいいかな。






 >>>






 ……神奈川に引っ越してきたばかりの頃の俺は、新しい環境に馴染(なじ)めずにいた。


「やー! 何してるの?」


「あー、えっと……別に……」


 世の中には、チヤホヤされるタイプの転校生と、そうでない転校生がいる。

 後者だった俺は、教室の隅で、新しく貰った教科書を、ただ眺めていた。

 ……そんな俺に、ユーリは話し掛けてくれたんだ。


「だったらさー、こっちへおいでよ! のっさんがね、また、変顔の新作を発表するんだって!」


 嬉しかった。

 もちろん、聞いたことのないあだ名で、変顔自慢(へんがおじまん)の誰かさんを紹介された事ではないぜー。

 自分で勝手に壁を作って、孤立しようとしていた俺を、ユーリは救ってくれたんだ。


「えー! それって、たっちゃん()の近くだよー!」


 その日の内に、俺がどこに住んでいるのか聞かれた。

 まったく。ラテン系とガテン系を、足して2で割らないタイプの性格は、昔から、面白いほど変わっていないよな。

 たっちゃんは忘れてるみたいだけど、実は、俺と、たっちゃん、栗っちが、仲良し3人組になったのも、ユーリの手引きなんだぜー。


「ねえ、たっちゃん! 今日は大ちゃんも一緒に行っていいよね!」


 その頃ユーリは、たっちゃんの家に毎日のように遊びに行っていたし、俺も、即日連れて行かれたんだ。〝大ちゃん〟っていうのも、その時ユーリがつけた、あだ名だ。


「僕は内海達也(うつみたつや)。あの大きな家って九条くん()だったんだね! 明日から、一緒に登校しようよ!」


 たっちゃん、結構長い間、俺の事〝九条くん〟って呼んでたよなー。


「もー! たっちゃん! 次に〝九条くん〟って呼んだら、罰ゲームだからねー!」


「なんでだよユーリ!?」


 それを強制的に〝大ちゃん〟に変えたのも、ユーリだった。

 ……で、(しばら)くすれば、ユーリがたっちゃんを好きなんだって、なんと無くわかってしまった。

 ショックだった。で、そのショックで、自分がユーリの事を好きだって気付いたんだ。皮肉なもんだよなー。

 確かにショックだったんだけど、たっちゃんは……ああ。今思えば、栗っちもだな。なんとなく、普通と違う、ヒロイックな部分とかがあって、不思議と納得したんだ。


「まさか、本当に英雄候補だとは思わなかったけどな?」

 

 俺、こっちに引っ越してくる前は、本当に友達がいなくてな。まあ、俺の能力を理解してくれと言っても、普通の子どもには無理だろうから。

 ユーリは、そんな事お構い無しに、俺とたっちゃん、栗っちを繋いでくれたし、おかげでクラスの皆とも、仲良くなれた。そして俺は、どんどんユーリに惹かれて行ったんだ。






 >>>






 俺の昔語(むかしがた)りを聞いてくれてありがとなー。

 おっと。時間を食っちまったけど、今は降って湧いたこの状況を、どうにかしないと……


「やー! 里人(りひと)! 大ちゃんは嘘なんかついてないんだよ!」


 ユーリが必死に止めようとしているのは、ユーリの従兄弟(いとこ)里人(りひと)

 彼も、ウォルナミスの血を引く者だ。その証拠に、彼らの戦闘衣装である、ウォルナミス・ガジェットの、レプリカを装備している。

 その姿は、埴輪(はにわ)にそっくりだ。ずんぐりむっくりで、見ている分には可愛い。


「ユーリちゃんは黙ってて! こいつは一族の敵なんだ!」


 しかし、可愛いとか言って、(なご)んでいる余裕はない。

 ガジェットを装備した彼らは、人間など一瞬で葬れる程の戦闘力を持っているぜ。

 頼むから落ち着いてくれ、里人(りひと)


「大ちゃんは、本当に私を助けてくれたんだよ! ガジェットも直せるんだよ!」


 ユーリ、説得は有り難いんだけど、俺の腕にしがみついたままだと、彼の怒りは蓄積(ちくせき)されていく一方だぜー?


「もう我慢できません! この恥知らずの大嘘を、ボクが暴いてやる! 長老様、どうか、こいつと戦わせて下さい!」


 血走った目で、そう言い放つと、里人(りひと)は俺に向かって戦闘態勢をとる。


「これだけ言ってもまだわからんか! やめいと言うておる!」


 声を荒げて制止する長老。


「いいえ、やめません! さあ、覚悟しろ、ペテン師!」


 どうやら、彼は怒りで我を忘れているようだ。

 長老は、やれやれといった表情を浮かべて、申し訳なさそうに、こちらを見る。


「仕方がない……大作さん。済みませんが、相手をしてやってもらえますか」


 俺は、軽くうなずいて、ベルトをリュックから取り出し、腰に巻いた。


「ユーリ、ちょっと離れててくれ」


 リュックサックは、もう動力源ではない。

 ブルーの欠片(かけら)が埋め込まれ、そこから無尽蔵に、高濃度のエネルギーが供給されるようになったから、ベルトは単体で稼働するんだ。

 ちなみにリュックの中には、おふくろが作ってくれた、今日の昼飯のサンドイッチが詰まっている。


「……変身!」


 まばゆい光が辺りを包み、変身が完了した。


「な……! お前、何なんだよ!!」


 里人(りひと)は、俺の変身を見て、驚いている。

 聞かれたからには、自己紹介しなくちゃなー。


「私はレッド。地球を守るために戦う、正義の戦士だ」


「やーん! 大ちゃんカッコイイ! 私も守って!!」


 ユーリ、色々と(こじ)れるから、静かに見ててくれないかなー。

 ……ほら見ろ、里人(りひと)くん、鬼の形相で襲い掛かってきたじゃないか。


「ち、畜生! 死ねえええぇぇぇ!!」


 〝死ね〟って言っちゃったなー!

 ……まあ気持ちはわかるけど。

 逆の立場なら、俺だって死に物狂いで戦うぜー。


「自動回避システム、発動」


Ready(レディー)


 でも、悪いなー。俺は死ねないし、絶対に負けられない。

 突進してきた里人(りひと)を、難なく(かわ)す。


「なかなかのスピードだが、私には当たらない」


 あー、回避システムが無くても、俺、攻撃が見えてるなー。機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)の効果で、俺自身の身体能力も上がってるんだよな。


「避けた?! ふ……普通の人間が、なんでそんなに動けるんだよ!」


「私は普通の人間ではないぞ、リヒト少年。もうやめ……」


「うるさい! まぐれだ! まぐれに決まってる!」


 俺の言葉を(さえぎ)って、里人(りひと)は、何度も攻撃を仕掛けてくる。

 が、もちろん俺には当たらない。そろそろ、わかってもらえたかな。

 俺は、彼の強烈な右ストレートを、手首を掴むことによって、目の前で止めた。


「無駄だ。君は、私には勝てない。これで私が普通の人間ではないと、わかっただろう?」


「うそ……だ……嘘だ嘘だ嘘だ!」


 里人(りひと)は、俺の手を振りほどき、距離を置いた。


「魔神の剣!」


 そして、彼はとうとう、剣を抜いた。


「いかん! やめるんじゃ、里人(りひと)よ!」


 長老が止めようとするが、彼は聞く耳を持たない。あれが、ユーリのガジェットの剣と同じ威力なら、俺にとっても油断の出来ない攻撃力を秘めているはずだ。


「リヒト少年。私は、君達と戦いに来たのでも、騙すために来たのでもない。共に地球を守るために来たのだ」


「知るか! ユーリちゃんに……! ユーリちゃんに近づく奴は許さない!!」


 やっと、本音が聞けたな。俺も昔、心の底では、たっちゃんに、そう叫び続けていたんだぜ。


「リヒトくん。君の気持ちはよく分かる。私の事を認めたくないのだろう」


 俺も最初は、ただ、たっちゃん……内海達也(うつみたつや)を、恋敵(こいがたき)としか見れなかった。けど……


「パープル・ブレード」


 腕から飛び出した(つか)に、紫色の怪しい光が伸びる。


「それならば、私も君に認めてもらえるよう、全身全霊でお相手しよう」


 内海達也という男を、知れば知るほど、俺は彼を認めざるを得なかった。彼は、どんな時も、優しく、強く、正しかった。

 俺は、たっちゃんに勝てるように、頑張ってきたんだ。ユーリに、相応(ふさわ)しい男になるためになー!


「リヒト少年! 私を超えてみろ!」


 魔神の剣で、斬り掛かって来る里人(りひと)


「メルキオール・マリオネット、発動」


Ready(レディー)


 次の瞬間、紫色の光を放つ剣が、魔神の剣を弾き、里人(りひと)の全身の装甲を一瞬にして剥ぎ取る。

 魔神の剣は、床に突き刺さり、レプリカ・ガジェットは、ドムン! という不思議な音を立てて、勾玉の姿に戻った。


「そこまでじゃ!」


 長老が右手を挙げると、どこから現れたのか、ウォルナミス人であろう数人に、取り押さえられる里人(りひと)。暴れることもなく、ただ、俯いて、呆然としている。


「私で良ければ、いつでも相手になろう。だが、何度も言うように、私が君達の味方だという事は、覚えておいて欲しい」


 俺の声が届いているのかどうかわからないが、里人(りひと)は、表情も無く、ただ涙を流していた。

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