表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/267

大波神社

※視点変更

内海達也 → 九条大作


※舞台変更

ドイツ → 大波神社

 大波神社(おおなみじんじゃ)

 ここは、一見、普通の神社のように見えるが、実は太古の昔、ワケあって地球に住み着いた、異星人たちの、活動拠点である。

 ……あ、俺は、九条大作(くじょうだいさく)。たぶん、地球で一番頭が良い小学生だぜ。


「やー! あの時、私と(きょう)ちゃんを助けてくれたのって、大ちゃんたちだったの?!」


 正月の、誘拐事件の時の話だ。

 この神社の前で、ユーリは、町田鏡華(まちだきょうか)橋月日奈美(はしづきひなみ)と共に、暴漢に襲われたんだ。


「あー、そうだぜ。たっちゃんが運転して、栗っちが、ナビだったなー」


 ちなみに俺はメカニックだ。ナイスコンビネーションだったぜ。

 ……パッと見は、ヒーローと銀行強盗の仮装をした、ちびっ子3人組だろうけどな。


「やっぱ、大ちゃんたちはすごいなー! これからは私も、一緒に頑張るよー!」


「おう、もちろんだ! みんなで地球を守ろうぜ!」


 大波神社の、長い長い石段を登る。


「大ちゃん! 早く早く!」


「ちょっと待ってくれユーリ」


 お前のペースに合わせるのは、普通の人間には無理だぜ、ひぃふぅ。


「大ちゃん、変身しちゃえばいいのに」


「いや、良くねえよ。神社の階段がキツくて変身するヒーローなんてイヤだろ」


 たっちゃんと藤島さんは、ドイツでベルリン観光らしいけど、その話は、後でゆっくり聞くとして、今回はちょっとだけ、俺とユーリの話に付き合ってくれよな。

 さっき俺は、たっちゃんとブルーに連絡を取った。

 あっちは深夜だけど、たっちゃんもブルーも寝ないから、いつでも応対してくれて助かるぜー。


「大ちゃん! こっち! 長老様は、この奥に居るんだよ」


 ちなみに時差があるので、日本(こっち)は今、朝の8時だ。

 なぜ俺が大波神社に来ているかというと、さっき、たっちゃんとブルーに、お(うかが)いを立てた事に関係があるんだ。

 ……俺は昨日、ユーリのお姉さんを安心させるために、修理したばかりのガジェットを見せた。


「やー! それにしても、姉ちゃん、驚いてたなー!」


 そりゃ、驚くよな。扱える技術者も(まれ)な、星間戦争用の装備を、俺みたいな小学生が、修理どころか、劇的に改良してしまったんだから。

 ガジェットの能力は、数十倍に向上させた。まあ、土台が良いから出来たパワーアップなんだけどな。

 そして、それを見たお姉さんが、俺を、一族に紹介したいって事になったんだ。

 俺たちの事は、極秘事項だ。たっちゃんとブルーには、ちゃんと話しとかなきゃな。

 あ、返事はもちろんOKだったぜ。


「でも、取り敢えず今日話すのは、俺の事だけだぜー?」


 たっちゃんや、栗っちの事を説明するのは、また次の機会に、直接みんなで来たときにしよう。


「大ちゃん。もし、反対されたら……私と逃げてくれる?」


「〝反対されたら〟って、ちょっと待て! 〝娘さんを下さい〟って言えってのか? 俺、これから、お前の一族に、協力者になることを、伝えに行くんだぞ?」


「……ちぇ」


「ちぇ、じゃないぜ……まあ、〝娘さんを下さい〟は、いつか必ず言うし、もしお前の一族が反対するようなら、全員を敵に回してでも、かっ(さら)うけどなー」


「にゃうう!! もう我慢できにゃい! いますぐ(さら)って!!」


「何でだよ! ちょっ、耳が出てるって! いま攫ってどうするんだよ!」


「にゃー! 攫ってくれないなら、私が攫う! もう離さにゃい!!」


「痛い痛い! 抱きつくなって!」


 俺、常時、変身してないと、いつかお前に絞め殺されるなー。


「…………おい! お前!」


 ……ん? 誰か呼んだか?

 通路の脇に、俺たちと同い年ぐらいの子どもが立っている。

 明らかに敵意を(はら)んだ眼差しで、俺を(にら)んでいるな。


「お前! ユーリちゃんから離れろ! ただの人間のくせに!」


 ……俺に〝ただの人間〟と言うって事は、彼は、ウォルナミス人の末裔だなー。


「悪いけど、離れろっていうのは、ユーリの方に言ってくれ。その方が俺も助かる」


 事実、あと少しで、窒息具合が限界を迎える。

 まあ、ユーリに絞め殺されるなら、まんざら悪くない気もするが。


「聞いたぞ! お前、この前の戦いで〝戦場(ボード)に立った〟とか言っているらしいな!」


 お姉さんから、既に連絡が来ているみたいだ。そりゃ、一族にしてみたら、大ニュースだもんな。


「ガジェットも修理できるとか、デタラメ言うにも程があるぞ! このペテン師め!」


 〝ペテン師〟って、久し振りに聞いたな。

 ちなみに〝ペテン〟の語源は、中国の方言から来てるんだぜー。


「ユーリちゃん! 騙されないで! 地球人の子どもが、ユーリちゃんを助けたなんて……! その上、ガジェットを修理する技術を持っているなんて、嘘に決まってるよ!」


里人(りひと)。大ちゃんは、誰も騙したりしないんだよ。大ちゃんはね、スゴいんだ!」


 彼は、リヒトって言うのか。ドイツ語で〝光〟を表す言葉でもあるけど、ユーリは(とも)と、(さと)だし、お姉さんは、(あい)(さと)あいり(あいり)だった。

 ウォルナミス人の名前には、よく〝里〟という字が使われてるみたいだから、もしかしたら、彼は、(さと)(ひと)と書くのかもな。


「ユーリちゃん、何を言ってるんだ! そいつ、ただの地球人だろ? 何がどうスゴいんだよ、わけがわからない!」


 それにしても、どうやら、かなり嫌われてしまっているようだなー。

 好きだった親戚の女の子が、急に彼氏を連れて来た、みたいな感じかもな。


「あー、リヒト君。初めまして、俺は九条大作。俺が止まった時間の中で動けるのも、ガジェットを直せるのも、本当の事なんだ。君たち一族の、力になりたいと思っている」


「まだ言うのか、この泥棒猫! それ以上言うなら、ボクが叩きのめしてやるぞ!」


 〝泥棒猫〟は、一般的に、女性が女性に対して使う言葉だし、たっちゃん風に言うと〝猫はお前だろう〟。


「永い間、地球を守り続けてくれたウォルナミス人を、俺は心から尊敬している。お前と争う気は全く無いぜ」


「ぬかせ! お前のやせ我慢がいつまで続くか、試してやる! ……武装!」


 ポケットから取り出した勾玉(まがたま)を頭の上にかざすと、里人(りひと)は一瞬にして、埴輪のような姿になった。

 ……おいおい。ガジェットは、ユーリの持っている物が最後だったはずだが?


「やー! やめて里人(りひと)! 〝レプリカ・ガジェット〟まで持ち出して……!」


 なるほど。複製品(レプリカ)なのか。たぶん、訓練用とかに、武装部分だけ再現した物だろう。

 生身でもヤバいのに、武装したウォルナミス人に、叩きのめされたりしたら、命にかかわるぞ。

 どうせ死ぬなら、いっそ、さっきユーリに絞め殺されとけばよかったなー。


「……やめい! 里人(りひと)! そこまでじゃ!」


 通路の奥から、声が響いた。

 ゆっくりと現れたのは、白くて長い髭を生やした、猫耳のお爺さん。


「やー! 長老様!」


 ユーリが叫んだ。

 ……やっぱり長老か。ひと目で、そうだろうと思った。


「長老様! とめないで下さい! この破廉恥(はれんち)な嘘つきを、懲らしめてやらないと!」


 まてまて。さっきから〝破廉恥な行為〟をしているのはユーリの方だ。

 埴輪の格好をしているせいで、妙にコミカルな里人(りひと)

 だが、こう見えて、もし俺が生身で、一撃でも攻撃を食らえば〝懲らしめる〟とかいう、優しい表現では収まらない。

 ……俺は、ひとたまりもなく絶命するだろう。


「ならぬ! 控えよ!」


 長老の声に、里人(りひと)は、唇を噛み、渋々、長老の方に向き直り、(ひざまず)く。


「九条大作さん。お話は、愛里(あいり)から聞いております。よくぞお越し下さいました。この者……里人(りひと)が、大変なご無礼を働き、申し訳ございません」


 長老は、深々と頭を下げた。

 猫耳老人がペコリと頭を下げる(さま)は、可愛らしいの一言に尽きる。


里人(りひと)友里(ゆうり)は、従兄弟(いとこ)同士で、幼い頃から、兄弟のように仲良くしておりました。此奴(こやつ)も、色々と思う所があるのでしょう。どうか、お許し下さい」


 そうか、従兄弟だったのか。ユーリは誰にでも人気だなー。


「長老様、大ちゃんは優しいから、そんな事は、全然気にしないのさー!」


 俺の腕にしがみついてくるユーリ。ダメだ、空気読め! 腕から手を離せ!

 ……(にら)んでる。里人(りひと)くん、無茶苦茶睨んでるんだけど。


「……プチッ」


 おう?!


「……プチプチプチッ!」


 あ、これは、里人(りひと)の、堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒が切れる音だなー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ