家に帰るまでが廃墟探検です
『でさ、結局、タツヤたちは何者なの?』
と、ダニロが聞いてきた。
いまさらだが、当然の質問だ。
『んー、誰にも言っちゃダメだよ? 僕と彩歌は、地球を守る正義の味方なんだ』
『地球が壊れないように、色々な敵と戦ったりしてるのよ』
途端に、ワクワク顔になる4人。
キラキラとした眼差しが眩しすぎる。
『はいは~い! 私もしつも~ん!』
『俺も! 俺も!』
あらら。質問コーナーっぽくなってきたぞ?
『それじゃ、答えられる範囲でな?』
『やったー! えーっとね……』
『ズルいわよぅ! 私が先なんだから!』
……すっかり遅くなってしまった。
僕と彩歌は、4人を自宅まで送り届けるため、彼らの住む、〝ゼッディナー・ゼー〟まで、移動中だ。
ちなみに、僕と彩歌は徒歩、子どもたちは、4人とも自転車だが、小走りで楽々ついていける。
『2人とも、スゴいね。正義の味方って、走るのも早いの?』
良かった。ハンナは、もう呪いの影響も無さそうだ。
『ずっと、息も切らさないな。オリンピックに出られるんじゃない?』
ライナルトの言う通り、今の僕や彩歌がオリンピックに出たら、金メダルを総取り出来るだろう。
だが、そんなに大っぴらに力を使うわけにはいかない。
『……どうして秘密にするの?』
ラウラの疑問は、もっともだ。力をひけらかして、堂々と地球を守る。それが出来たら、どんなに楽だろう。
『何ていうか、強い力を持つと、色々と難しいんだよな』
僕の言葉に、彩歌が続ける。
『そうね。悪い人たちが、私たちの事を知ったら、この力を悪用しようと考えるわ』
『でも、アヤカ。そんな悪い人たちは、やっつけちゃえば良いんじゃない?』
『ラウラ。私や達也さんは、誰にも負けないわ。でも、家族や友達が狙われたら、どうしようもないの』
『あ……! そっか……』
そう。人質に取られた家族のために、悪事に手を染めるのは、ドラマや映画なんかで良くあるパターンだよな。
『だから、僕たちの事は、絶対に秘密にして欲しいんだ』
そこで、ラウラが不思議そうに聞いてきた。
『……なんで、アヤカの魔法で、私たちの記憶、消さないの?』
〝自宅に着いたら、家族の記憶を魔法で消してあげる〟
彩歌は4人に、そう言っていた。
ライナルトの携帯電話で、それぞれの自宅には、もうすぐ帰り着くと連絡は入れてあるけど、さすがに午前様は、小学生にとってはヘビーだからな。
そして、4人の記憶は、残すことにした。なぜなら。
『あなたたちが、今日の出来事を忘れたら、きっとまた、あの地下室を目指すでしょう? 私の魔法で、ある程度の恐怖心は与えられるけど、それぐらいじゃ、子どもの探究心は、抑えられないのよ』
4人は、なんとなく納得したのだろう。ライナルトとダニロが、俺は行かないけどお前はいくよな、行かないよ、的な会話をしている。
少し間をあけて、彩歌が続けた。
『特に、友情パワーがあると。ね?』
彩歌の言う通りだ。子どもは、人数が集まれば集まるほど、何をしでかすか分かったもんじゃない。
僕も、子どもは2回目で、中身は大人だけど、やっぱりみんなと居るとウズウズしてくるし。
『タツヤ、キミは〝26歳〟で〝単独〟でも洞窟探検をする人間だ。一緒にされては、世の子どもたちが迷惑だろう』
『ちょ……?! 待てブルー! あれはお前が誘導したんだろ?』
『私が関わったのは、キミの上司が休暇を用意する辺りだけだ。あとは、キミ独自の判断と行動だよ?』
『マジでか?! あの、山に行きたい衝動とか、洞窟に入りたい衝動とか、勝手に湧いたヤツなの?!』
『まあ、そうなると見越して、キミの会社の取引先の倉庫を、少しパズル要素を込めて、地震で引っ掻き回したけどね』
『凶悪だな。そして、プロ棋士も真っ青の先読みだ。おかげで僕は、3月の土日全部、休み無しなんだぞ?』
『あはは。タツヤ、その未来はさすがにもう来ないだろう。キミの3月の土日は、ぜひ地球を救うために使ってもらいたい』
『どっちにしろブラックじゃないか』
クスクスと彩歌が笑っている。
結構なスピードで走り続けながら普通に会話して、笑ったり怒ったりしている僕たちを見て、子どもたちは、さすがに呆れ顔だ。
さて、話を戻そう。
『とにかく、あの場所には、2度と近付かないで?』
……そう。あの場所〝ベーリッツ陸軍病院跡〟の地下には、まだまだ罠も残っているし、デトレフが現れる可能性もある。
記憶を無くせば、また、危険な目に遭うのは、目に見えているのだ。
『もう、絶対に行かないよ!』
ダニロが、思い出したように、身震いして答える。
『あなたたちは、他にも色々な場所を探検してるかもしれないけど、くれぐれも気をつけてね?』
4人がほぼ同時に、は~い! と答えた辺りで、町外れの、ラウラの家に辿り着いた。
心配そうに家の前に立っているのが、ラウラの両親だ。
僕と彩歌は、軽く会釈をする。
……と、即座に彩歌が魔法で2人を眠らせて、記憶を操作した。
両親は、静かに扉の奥へと消えて行く。
『じゃあね! 今日はありがとう!』
ラウラもその後に続いた。
最後に、こっちを見てヒラヒラと手を振り、ウインクしている……よし、うまくいったな。
>>>
……順番に、同じ手順で家族の記憶を消していく。
最後に着いたのはライナルトの家だ。
『タツヤ、アヤカ。明日、日曜日じゃん? もし良かったらさ、ベルリン観光に行かないか?』
彼は、僕たちが初めてドイツに来た、という事を聞いて、そう提案してくれた。
『達也さん! ベルリンですって!』
もちろん、彩歌が食いつく。
というか、僕も行ってみたい! でも、こういう場合はいつも……
『タツヤ、アヤカ?』
ほら来た! ブルー先生だ。
ごめんなさい。今回はおとなしく帰り……
『行こう。ベルリンには、私も用事がある。ついでに少し観光するのもいいね』
『いいの?!』
小躍りして喜ぶ彩歌。
それを見て、ライナルトと僕は顔を見合わせて笑う。
『でも、用事って何だ? ブルー』
『あそこにはね〝壁〟があるんだ』
いや、ブルー。その壁、とっくに崩壊して無くなったヤツだよな?




