謝罪
僕はポケットから、もう一個のブルーの欠片を取り出した。
右手のひらの透明な部分に、ピタッとそれを当てて、彩歌に見せる。
「こんな感じで刺さっていたんだ」
右手を裏返し、甲にも当てて見せる。
『タツヤとの〝同化〟には不要な部分なので、切り離した』
彩歌は、不思議そうに僕の右手を両手で握り、観察するように見ている。
「不思議ね。これが、ブルー……! 地球の意思……?」
「そう。僕は地球が壊れるのを防ぐために、導き手として選ばれたんだ」
「地球が……壊れる?」
彩歌はまだ手を離してくれない。青い部分と手の境目を、指でなぞっている。
『そう。私、つまり地球は近い将来、破壊される』
ブルーの言葉に驚く彩歌。
「そんな……本当に?!」
「うん。それは間違いない。僕は15年後の未来で、その前兆を見たんだ。そして地球が壊れる前に、ブルーの力で時間を巻き戻されて、11歳の、この時代に戻ってきた」
『先程の悪魔が、アヤカに使ったという魔法とは違って、身体的な能力は巻き戻さずにね』
ブルーが、ちょっとだけ得意げに補足した。
「15年後から……戻って……?」
「そう。僕はこう見えて、君と同い年だ」
彩歌の手は、あまりのショックからか、震えている。
「でも大丈夫。僕がちゃんと導けば、そんな事にはならないから」
慌てて、彩歌の手を握り返して言う。
「あ! う……内海……さん?」
何かを思いついて、急に真っ赤になり、パッと手を離す彩歌。
「達也でいいよ……どうしたの?」
「あの、わ、私、その……男の人と話したりとか……手を……その……」
うつむいて、小声でボソボソと喋る。
「ご……ごめんなさい。私、た、達也さん? ……の事、その、こ、子どもだと思ってたから……」
どうやら、彩歌は、同年代の男性と接する機会がなかったようだ。
……子どもを相手にしているつもりが〝ある意味〟大人の男性だとわかって、赤面しているらしい。
ヤバイ。マジカワイイ。
だが、本題はここからだ……僕は真顔で、彩歌に向き直る。
「でも……僕は君に、とんでもない事をしてしまったんだ」
声のトーンを落として、本題に入る。
『必然的に、私も共犯となる』
ブルーも、謝罪に付き合ってくれるようだ。
「え? どうしたの?」
首をかしげる彩歌に、僕は全てを話し始めた。
「僕は、地球と同化して、死なない、老いる事のない体になった」
『そう。タツヤは、地球が壊れる程のダメージを受けない限り、無敵の存在になった』
「不老……不死……?」
『正確には、星が死ぬまでタツヤも死ねない』
ブルーの言い方が正しい。死ねないのだ。
「そして……君はさっき、僕の油断から致命的なダメージを受けた」
首を横に振る彩歌。
「いいえ、それはあの悪魔の仕業……」
僕はその言葉を遮って続ける。
「僕がちゃんと君を守れていれば、君の怪我はブルーの欠片を触媒とする方法で癒やすことが出来たんだ。でも、その方法では治せない傷を負わせてしまった」
左手のブルーの欠片が、パキパキと音を立てて心臓の形に変わる。ありがとう。わかりやすいよ、ブルー。
「君の心臓は、悪魔に破壊された……君を救うには、この方法しかなかったんだ」
僕は、ブルーの作ってくれた心臓を、自分の胸に当てて見せる。
「……まさか、今の私の心臓って」
『そうだ。私の欠片を、心臓にして置き換えた』
パキパキと、欠片を元の形に戻しつつ、ブルーがいつになく無機質に告げる。
「本当にごめん……」
僕は深く頭を下げた。
「君も同じように、僕がブルーから貰った性質を受け継いだ。それが君にとって、幸せなのか不幸なのか、僕にはわからない」
彩歌は、瞳を潤ませて呆然と話を聞いている。
『君は、老いることはない』
ブルーと僕の声が、それを同時に告げた。




