第9話「真実を告げる風」
夜の繁華街ーー
路地裏でレッドワイズの構成員たちがうめき声を上げ倒れている。
ソードアーマー=直江尊に腕をひねられアタッシュケースを落とす構成員。
シューティングアーマー=ラルフが落ちたアタッシュケースを開けると中には、
たくさんのコネクトシールが入っている。
「尊の睨んだ通りだったね」
「ここ1年内の失踪者は、レッドワイズの構成員との接触が確認されている。同じ失踪者の佐古井リルアと御影マコトの
首筋にもコネクトシールを貼られているのを確認した。おそらくアルテを追いかけていた仮面の女も」
「だけど、このシールは理事長の会社が開発したもの。ギャングたちに配らせて何をしようと?」
「分からない。ただ、あの女も女性失踪事件の容疑者の1人ってことだ」
変身を解除した尊は、スマホを取り出し通話をする。
「ツカサ、そっちの方はどうだ?」
別の路地裏ーー
「こっちはとっくに片付いたぜ」と電話越しに尊と話す火条ツカサ。
突然"ドドドド"と、振動とともに何かが崩れる大きな音が聞こえて来る。
「なんだ⁉︎」
ツカサは、路地裏から飛び出し、すぐさま繁華街の表通りに出ると
通りを歩いていた通行人たちが悲鳴を上げ逃げ惑って来る。
「⁉︎」
通りに面したビルや商店の外壁が崩れ落ちて、路上に駐車していた車は押しつぶされている。
そこには、白いアーマードギア=ストームゾーンの姿がある。
「アーマードギア⁉︎」
ツカサは、変身ブレスレットである"ギアコマンダー"をかざして「へんし…………」と言いかけるが
白いアーマードギアは舞い上がった土けむりの中に姿を消してしまう。
「待て!」と駆け寄るが、やはり白いアーマードギアの姿は無い。
「どこへ行きやがった⁉︎」と、ツカサは、辺りを見渡す。
すると、白いローブを纏った10代前後の小柄な少女が倒れているのを発見する。
「おい!大丈夫か?しっかりしろ」とツカサは少女を抱き上げるが反応がないーー
***
早朝のキサヒメ学園
談笑しながら廊下を歩いて来る火条アルテと同級生のリサ。
「とこでさ、アルテに相談があるんだけどいい?」
「どうしたのですか?」
「私ね、ハルト君のことが気になっていて…………」
「ハルト君って方はたしかリサと同じサッカー部の?」
「そう、私ね。マネージャーとして彼をいつもサポートしているんだけど、彼にどうやって告白したらいいのかなって」
「な、なぜ、その様な男女のことを私に尋ねるのですか?」
「だってアルテ高校生なのに結婚してるじゃん。だからアルテはすごく大人だなって」
「そ、そんなことありません。リサたちと同じです。(それは皇女故に育ちの良さでみなさんより大人びているかもしれませんが」
「だから、私にその秘訣を教えて。ねぇどうしたらアルテのように男女の仲になれるの?」
「書類とハンコ」
「え?」
「え?」
「…………」となる2人。
「い、いやなんというか、大事なのは偽装でもいいから既成事実をつくる」
「え?」
「え?」
「…………」となる2人。
「や、やっぱアルテに聞いたのが間違いだったわ」
苦笑いのアルテ。
「アルテってときどき腹黒いところあるよね」
「ど、どこがですか⁉︎」
「高校生で結婚してるし」
「⁉︎」
「そうだアルテ、救世の巫女って知ってる?」
「え⁉︎…………そ、その救世のなんとかってのがどうかしたのですか?」
「アルテの部だったら調べてない?なんか強い風が吹いたと思ったら突然、建物がとかが壊れる事件」
「う、うんツカサたちが…………」
「聞いた話なんだけど。その現場にはいつも"私は救世の巫女"って名乗る女の子が現れるんだって。
なんか不気味だよね。なんでもどこかの国をひとつ滅ぼしたーとか、みんな悪魔なんじゃないかって噂しているんだよ」
アルテは、ハッとガルドの言葉が頭をよぎる。
「いるんだよ。悪魔も神もそして天使もこの世界に」
「⁉︎(悪魔…………私が)」
***
キサヒメ学園の保健室
ベッドの上で白いローブを纏った少女は目を覚ます。
少女は朦朧とした意識の中,起き上がるとベッドの横にはツカサがいる。
「お!起きたか」
「ここは…………」
少女はふら〜とツカサにもたれかかる。
「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」
***
アルテとリサの前に保健室の札が見えて来る。
「あ、私冷却スプレー補充しないと行けないから寄って行くね」
「うん」
保健室のドアを引くと、アルテとリサの目の前に少女を抱きしめるツカサの姿が
目に飛び込んでくる。
「わ、私行くね」と、修羅場を察したリサが立ち去る。
「あ、アルテ」
「ツカサー!」と頬を張る音が校舎の外にまで響く。
***
キサヒメ学園生活安全部部室
手のひらの跡がくっきりと残った頬が腫れ上がり不機嫌そうなツカサ。
「なんでこうなるんだよ」
クスクスと笑う尊とラルフ。
「ツカサがいけないのです。浮気なんてするから」ぷいっとするアルテ。
「浮気じゃねぇよ」
「まぁまぁ」と、観葉植物に水をやるウルヴァがアルテをなだめる。
「ツカサ君はこんな態度だけど反省してるよきっと。許してあげよ」
「なんで俺が悪いみたいになってんだよ、おっさん。第一夫婦ってのは設定なんだから怒ることじゃないだろ」
「女心が分からない男ってのは哀れだね。おっさん泣けてきたよ」
「なんでだよ」
アルテは、リサの話を思い出しウルヴァに尋ねる。
「ウルヴァさん、救世の巫女はなんなのか教えて下さい」
「おまえ、救世の巫女なのに知らないのか?」
「父からは、人々から敬われる特別な存在とだけ聞かされていただけで、その実、救世の巫女とは本当はなんなのか理解してません。
お恥ずかしい限りです。これまでこの身に起きたことを考えると本当は恐ろしい存在なのでは?とそのように思えてなりません」
「私の分かっている範囲で話すが、救世の巫女は揃えば4人。それぞれ"覚醒"、"拡張"、"創造"、"革新"
の力を持っている。未完成だったファイヤーグリフォンの合体プログラムを完成させたアルテ君は
おそらく"覚醒"の巫女だと考えている。救世の巫女の力は巫女が信頼する人物にしか宿らないとされている。
アルテ君は生活安全部の部長として仲間を信頼し助けてくれている。だから私たちにとって君は恐ろしい存在ではないよ」
瞳を潤ませ頷くアルテ。
***
「ツカサ君大変!」と慌てた様子の月代サヨが部室に入ってくる。
「保健室で寝てた女の子がいなくなったの」
「なんだって!」
ツカサは部室を飛び出し保健室に向かって走る。
すると"ゴー"と、強い風の音ともに廊下の窓ガラスが次々に割れていく。
向かってくるガラスの破片に「うっ!」と 、両腕で顔を覆うツカサ。
***
異変のあった校舎の中庭に向かうツカサ、尊、ラルフ。
中庭に着くと校舎の外壁は崩れ落ち、数名の生徒が血を流し倒れている。
そしてそこには白いケープを纏った少女が立っている。
「おまえ⁉︎」と、驚くツカサ。
尊は少女の顔を見て、ハッと思い出す。
「あの子は、1年前に失踪した当時12歳の伊井野ミキだ」
「あ!思い出した。部室のホワイトボードに貼ってあった写真の子。だけど失踪者がなぜ?」
「どうりで見たことあると思ったらそういうことか。おい、ミキ!お家に帰るぞ」
「私をそのような名で呼ぶな。我は華僑院神に仕えるイシュタルトの使徒であり、華僑院様の救世の巫女レリエル」
「華僑院だと⁉︎」
「あれがアルテ以外の救世の巫女?」
「変身」と、レリエル=ミキはギアコマンダーをかざして白いアーマードギア=ストームゾーンに変身する。
「昨日のアーマードギア!おまえだったのかミキ!」
「こっちも変身だ」
3人はギアコマンダーをかざしてアーマードギアに変身する。
「力づくでもおまえを父ちゃん、母ちゃんのところに連れてってやるぜ」
ファイヤーアーマーは右腕の装甲を展開、炎を纏ってストームゾーンに飛びかかる。
だが、ストームゾーンから放たれる強い風に弾き飛ばされる。
ストームゾーンは右手に刃のない柄を持って振り回すとアーマードギアの3人は四方から全身を斬り刻まれる。
「うああああ!」
***
中庭の方へ走るアルテ。
目の前にフェリス・グレモリーが現れる。
「待ちなさい」
「理事長どいて下さい。ツカサたちが苦戦しています」
「あなたにお客様よ」
「それどころじゃありません」
「VIPが来ているの。来なさい」
***
ストームゾーンの見えない攻撃に苦戦する3人。
「どうなってやがんだ、どうやって攻撃した?」
「おそらくあの救世の巫女の力は風を操るんだ。今のも風の力を利用した刃かまいたちだ」
「まさに見えない剣,厄介だね。だけどウルヴァさんが言っていた救世の巫女の力とは違うような」
「だから違和感を覚える」
「クソ、どんな技だろうが俺の拳で突っ切る」
ファイヤーアーマー再び炎を纏ってストームゾーンに突進して行く。
だが、見えない力に弾き返され壁に叩きつけられる」
「ツカサ!」
「圧縮空気だ」
「風や空気を操られてちゃ攻め所が…………」
「いや、ラルフ。ひとつあるぞ。ツカサにいいヒントを得た」
***
地下室の1、2、3、4と書かれた格納庫の4番から武器とアーマーが射出される。
***
飛んできた武器とアーマーを装着するソードアーマー。
そして「ドリルランサーモード」と叫び、ドリルの形をした巨大な槍を構え西洋の甲冑のようなフォームとなったソードアーマーは
回転したドリルランサーを正面に構えストームゾーンに向かって突進して行く。
ストームゾーンも風を巻き起こし、圧縮空気の力をソードアーマーに放つ。
回転したドリルランサーがストームゾーンの風の攻撃の気流を変えることで力を分散させていく。
「今だ!シールドブレイク」と、ソードアーマーはそのまま一気に突っ込み、ストームゾーンを倒す。
変身が解除され倒れるレリエル=ミキ。
「フー」とひと息つく3人。
***
目を覚ますレリエル=ミキ。
「ハリケロスよ!我の前に」と叫ぶと上空に風能力を吸収したプロトフ=ハリケロスが現れる。
ハリケロスが放つ強風に3人がたじろいでいるその間にミキはハリケロスに取り込まれる。
「このハリケロスの力で貴様たちに親愛なる華僑院神の罰を与える」
「行くぜ!」ライドファイヤーは、3機のアビリティマシンと合体してファイヤーグリフォンとなる。
ソードライダーも登場し、2体でハリケロスに攻撃を与える。
「ブレストバーニング」と胸から火炎ビームを出すファイヤーグリフォンだが、
ハリケロスの両肩のタービンから放たれる強風に刃が立たない。
地面に叩きつけられるファイヤーグリフォンとソードライダー。
「クソ!このままじゃやられちまう」
その時、ライフルの銃声とともに閃光がハリケロスの右肩のタービンを貫く。
そしてタービンが次第に凍りついていく。
「あれは⁉︎」ファイヤーグリフォンは、ハリケロスの背後の上空にAGX-Ⅱを発見する。
「桐川コーポレーション製の冷却弾の味は如何かな?」
AGX-Ⅱは再びバスターライフルを構え狙撃する。
ハリケロスの左肩のタービンも凍りつくと、風の攻撃が止む。
「よっしゃ、今だぜ。ブレストバーニング」
ファイヤーグリフォンの攻撃にひるむハリケロス。
その隙にファイヤーグリフォンは大剣グリフォンソードを取り出して
「トドメだ!」とハリケロスの頭上に振り下ろす。
ハリケロスは、真っ二つになり、大爆発を起こして塵になる。
グリフォンソードを納め、悠然と佇むファイヤーグリフォン。
***
キサヒメ学園 応接室
アルテがドアを開け応接室に入るとグールド・グレモリーの姿がある。
「はじめましてアルテミア・グリティシア姫」
「…………」
応接室のドアを少し開け中の様子を伺うフェリス。
そこに「おい、あんたに話がある」と、フェリスの肩を掴んで尊が現れる。
***
キサヒメ学園 理事長室
「理事長に向かって"おい"は失礼ではなくて。まったくこの学園の指導がなってないですわね」
「だったら理事長であるあんたの責任だな」
「なっ⁉︎それより話ってのはなんです。私も忙しいのですからはやくして下さい」
「女性失踪事件の謎が解けた。今頃病院に運ばれているお嬢さんのおかげでな」
「思ったよりはやかったですわね。聞かせて頂戴」
「この事件の首謀者は内閣総理大臣華僑院玄徳。つまりはこの事件を起こしていたのはスメラギ国政府そのものだ。
それに大きく加担したのがあんたの兄グールド・グレモリーだ」
「聞き捨てなりませんわね。我が兄を愚弄するばかりか国家そのものが犯罪を犯したというなら、その動機を示しなさい」
「"救世の巫女"、華僑院総理はなんらかの目的で救世の巫女を手に入れようとしている。イシュタルトがグリティシア王国を滅ぼしたのはアルテを手に入れるため。
アルテがこの国に辿り着くまでに事が上手く運び過ぎているのも引っ掛かっていた。
そのイシュタルトが信仰する神が華僑院玄徳。まさかこの国の総理が神だったとは、まさに神隠しだ」
「うまいこと言ったつもり?」
「周期的に救世の巫女が4人揃うことが可能だが、公表されているアルテを除いて、この地球上から残り3人を見つける事は困難。
だからグールド・グレモリーとあんたたちクリエスルは提案したんだろ?コネクトシールを使って人工的に救世の巫女を作り出すことを。
コネクトシールによって覚醒した女性は救世の巫女になりえる存在。その女性たちは失踪したことにして、本人たちの記憶を消して上で
今は、イシュタルトの信者として生活している」
「確かにコネクトシールによって能力が発現できる人間は限られていますわ」
「コネクトシールの登場によって当初の計画より変わって来ているはずだ。はじめは華僑院玄徳に仕える天使たちが自力で探していた。
だが私欲に走り計画は破綻。きっとそう仕向けたのもあんたたちだ」
女性を連れ去り、コネクトシールでエナジーを吸収する園井シュン=天使の姿がインサートする。
「本当に救世の巫女を欲しているのはあんたの兄グールド・グレモリーなんじゃないのか?
これまで俺たちの身に起きたてきたことは全て華僑院の計画のイレギュラー。アルテとガルドが俺たちのところに転がり込んできたのも
そうやって計画にイレギュラーを起こすことで救世の巫女をグールド・グレモリーが手に入れる。あの銀仮面もおまえたちの仲間だな?」
「ひとついいかしら、私の兄が黒幕だとしたら私はなぜあなたたちに女性失踪事件の調査を依頼したのかしら?私は兄を裏切ることになりますわ」
「俺たちに事件の犯人を知ってもらい華僑院玄徳を潰してもらうためだ」
「兄は華僑院様に取り立てて頂いた恩はあれども潰す理由がありませんわ」
「グールド・グレモリーは、華僑院の後継者として次期総理大臣と噂されている。総理の座を後継者として譲って貰ったとなれば
華僑院が目の上のたんこぶになるのは明白。おそらく華僑院自身も傀儡政権として考えているはず」
「見くびられたものですわね。我々グレモリー家は」
***
キサヒメ学園 応接室
「あなたのお父上、いや、グリティシア王国国王バルザット・グリティシア様が亡命先の地で亡くなられた」
「⁉︎お父様が…………」
「イルミナ・カイという女性をご存知ですか?」
アルテは動揺する心抑え口を開く
「はい…………グリティシア王国に仕えるメイドです。とても美しく私は姉のように尊敬しておりました」
「潜伏先まで国王に寄り添い、国王の最後を看取ったのが彼女出そうだ。どうやら国王妃がご存命のころから
深い関係だったそうだ」
「私の知らなかったことが多すぎて頭の整理が追いつきません。だけど理解したことがあります。
私は何も知らなすぎた。父の汚らわしい部分も自身の存在のことも。これもすべて私が救世の巫女だからですか?
救世の巫女はきっと厄災をもたらす悪魔なのですね?」
涙を流し声を荒げるアルテ。
「強く否定はしません」
「あなたもご存知なのですね救世の巫女のことを?」
「ええ、だから私たちスメラギ国政府は救世の巫女たるあなたを保護したい」
***
キサヒメ学園 理事長室
「どうして華僑院は救世の巫女を求めるんだ?80を超えた老人が全ての権力を手にしているにも関わらずまだ
この先何を得ようとしているんだ。救世の巫女とは一体なんなんだ?」と、フェリスに迫る尊。
***
キサヒメ学園 応接室
「救世の巫女はさまざな言い伝えがあるが、その実"終末をもたらす兵器"だ」
「兵器⁉︎…………」
グールドの言葉に目を見開き自身の言葉を失うアルテ。
「かつて一度だけ救世の巫女を手に入れた存在がいた。北欧の神ロキだ。
ロキは4人の巫女の力を使い、神々の黄昏にして終末の"ラグナロク"を引き起こした。
それによって多くの神は消滅、概念と化した。そして人間がこの地球に生まれ今がある」
***
キサヒメ学園 理事長室
「終末をもたらす兵器だと⁉︎」
驚愕する尊。
「終末を告げるラッパ、あれはつまり救世の巫女のことですわ」
「じゃあ、あんたの兄貴も世界を滅ぼすために救世の巫女を手に入れようとしてしているのか⁉︎
だから同じ野望を抱く華僑院玄徳の計画に加担している」
「無礼者!我が兄グールド・グレモリーを愚弄するのはそこまでよ。兄は華僑院が企む世界の終末を阻止するためにl
戦っているの!兄は世界を救うために内閣総理大臣になるのよ!」
涙目で尊の胸ぐらを掴み訴えるフェリス。
尊は珍しく本心をさらけ出したフェリスにたじろぐ。
***
アルテの目を見つめてグールドは語りかける「だから協力してほしい。君たち…………」
***
涙目を潤ませるフェリスは、尊を見つめながら迫る「あなたたち…………」
***
「生活安全部に」