第8話「全ては本の中に踊る」
直江尊は、刀を引き抜き、「キサマー!」と、ガルド・ゲイザーに斬りかかる。
だが、ガルドの一振りで壁へと叩きつけられる。
「その太刀筋、その直江という名、お前、人でありながら戦いの神と称された、直江カネツグとどういう関係だ?」
「よ、養父を知っているのか?」
「久しいの、ガルド」と、普段、温厚なウルヴァが険しい表情で近づいてくる。
「ウルヴァか?」
「今回の佐古井リルアさん失踪の犯人は、担任である巻坂ハルトと爆破のあったマンションで
遺体で見つかった内閣府の官僚、佐本カズマ。そして、その佐本カズマを失踪者の監禁場所であった、
あのマンションで殺したのはお前だな?」
「正解だ」
「そして逃げた巻坂をここまで追って来て殺した・・・」
「ああ、途中妙な邪魔が入ったがな」
「ガルド!お前は戦争が終わっても尚、血を求めるのか?
処刑される筈だったお前を拾って、国際警察に入れてやった。
それは、破壊しか知らないお前に守ることを知って貰いたかった。
それがお前の償いだからだ」
火条ツカサ、火条アルテ、ラルフ、月代サヨが駆け寄ってくる。
「おっさん、このおっさんは誰なんだ?」
「ガルド・ゲイザー。大戦時代に神殺しのガルドと恐れられた傭兵だ。
昨日まで味方だと思えば、今日は敵。人であろうが、神であろうが、
悪魔であろうが、どんな存在であれ、斬れればそれでいい。何かを殺せるなら敵味方関係なく暴れる。恐ろしい男だ。
こいつには散々煮湯を飲まされたよ」
「昔の話だ」
「待って下さい、ウルヴァさん」と、サヨが尋ねる。
「この人もそうですが、神様とか悪魔とかどういうことですか?世界が一つにまとまるきっかけとなった20年前の大戦で一体何があったんですか?」
「私にも、教えて下さい」と、アルテもつづく。
「その話は、救世の巫女とも関係ある話ではないのですか?」
「それは・・・」
「教えてやる。手当てしてくれた礼だ。いるんだよ悪魔も神もそして天使もこの世界に」
「⁉︎」
「そして大戦を引き起こしたのはこの男だ」
一同は、ウルヴァの顔を見やる。
「え⁉︎ おっさんが?」
ウルヴァはしばらく沈黙して口を開く。
「書籍だよ。簡単なことさ本は心理と思想を示すことで容易く人々の感情を煽り戦争へと駆り立てることができる」
「どこまで胡散臭いおっさんなんだ」
尊は蔑んだ目でウルヴァを見る。
「てへ」と舌を出して戯けるウルヴァ。
ガクッとなる生活安全部一同。
「ウルヴァ、悪かったな。今回は俺の衝動じゃない、家族のために天使を狩りたかったんだ」
「お前が家族?」
「1年前だ・・・」
***
1年前ーー
俺は、およそ10年の幽閉生活を解かれ国際警察の特殊能力犯罪捜査課12係に配属された。
特殊能力犯罪捜査課は、主に悪魔や神による能力で引き起こされた事件を扱うところだった。
当時の12係は俺を含め4人ーー
24歳の若手刑事里崎コウスケと、生まれついた霊能力の高さを買われ所属していた18歳の高校生、柊紫月と
15歳の中学生、橘ひまりだ。紫月は16歳の時に事業に失敗しただかで両親が自殺し、ひまりは、ギャンブルで身を滅ぼすような
ろくでもない親に捨てられ、孤児院で育った。2人とも俺と同じ家族や身寄りのない天涯孤独の身。
そのせいか、とくにひまりは俺たち、12係のメンバーをよく家族と言っていた。
「紫月は、私のお姉さん」
「え?」
「里崎くんはお兄ちゃんだよね。なんか最近、紫月と怪しいし」
「そ、そうかな〜」と、里崎は顔を赤らめ目を泳がせている。
「違うよ、違うひまり」と、顔を赤らめた紫月が否定する。
「それでガルドは・・・うーん、親戚のおじさん」
「ひまりちゃん、それはちょっと家族とは違うよ。一族だねそれ」
ひまりは、顎に手を当てガルドの顔をじっと見つめながら考える。
「・・・お父さん」
「やだよこんな怖い顔のお父さん」
「俺は犬だ」
「え?」
「俺はいろんな奴に噛み付いて生きてきた汚ねえ野良犬だ。家族なんてもんあったて餌にもなりやしないだろ」
「ふふん、そっかガルドは私のかわいいペットってことなんだ」
「ちょ、ちょと待てクソガキ」
「ペットだって大事な家族なんだよ」
***
"人ならざる者"の仕業である可能性があるということで、俺たちは相次ぐ女性失踪事件の捜査をしていた。
その時点で、捜査線上に浮上していたのが、天使の3人。アルマロス=佐本カズマとハニエル=巻坂ハルトと青年実業家をしていたザドキエル=園井シュン。
3人の身の周りで失踪している女性が多いことで目が付けられていた。
中でも園井シュンは、当時の華僑院内閣の法務大臣の息子で厄介だった。
俺たち12係にこの事件が回して来たのは簡単に尻尾切りが出来るからと容易に理解出来た。
つまり、組織は厄介者である俺をついでに体良く追い出す腹ってことだ。
「ひまり、学校楽しい?」
「楽しいよー。潜入捜査じゃなきゃもっと」
ひまりは、巻坂が勤める中学校に潜入させて、監視させていた。
***
あの日だったーー
ひまりから、巻坂たちが廃工場に女性を連れ込んだとの情報が入った。
俺たちは、急ぎ突入の準備を進めていた。
「ひまり、あと30分で向かうわ。あなたはそのまま待機をお願い」
「待たないよ」
「ひまり待ちなさい」
「いつものように先に行って懲らしめてるから、紫月たちはゆっくり来てね」
「ダメ!!あなたはいつもそうやって突っ走るんだから」
「私、みんなより強いんだよ。知っているでしょ?」
ひまりの独断専行はいつものことで、俺たちが駆けつける頃には全ては片付いている。
それがお決まりのパターンだ。
***
廃工場
女性の悲鳴が屋外からでも聞こえて来る。
女性は、まるで十字架に縛りつけられたように宙に浮いている。
女性の足下には魔法陣が浮かび上がり、女性の全身から光のエネルギー
を吸収している。
その傍らには、パイプ椅子に座った園井シュンがいる。
右腕にコネクトシールを貼り、目は虚ろになっている。
「ザドキエルやり過ぎだ。この女が死んでしまう」
佐本と巻坂がやって来る。
「先輩いらしたんですか?」
「国際警察が俺たちのことを嗅ぎ回っているらしい。場所を移すぞ」
「先輩このシールやっぱすごいすっね。こんな簡単に人間のエナジーを吸うことができるんだから、俺やめられねぇ」
「堕天するぞ。俺たち天使にとって人間のエナジーは、人間で言うところのヤクと同じだ。
人間も天使のお迎えなんてよく言ったものだが、人間の生命を吸うことで多幸感が得られる。だがやり過ぎはよくない」
「とにかく急ぎましょう。アルマロスさん」
「ああ」
背中の天使の翼を広げ、飛び立とうとする佐本と巻坂だが、突然
佐本の片方の翼がぽとりと床に落ちる。
その場にうずくまる佐本。
「アルマロスさーん!」
「こんにちわ。悪い天使さんたちお仕置きしてあげる」と、大型の剣=クラウを持ったひまりが現れる。
「人間⁉︎」
「あれは、うちの生徒・・・」
「あの武器、神を使役しているのか?」
ひまりは、目にも止まらない素早い動きで、3人を薙ぎ払う。
「人間風情が神の力を使うなんて生意気だ」と、天使の姿になった園井が飛び掛かって
パンチでひまりを壁に叩きつける。
ひまりは崩れた瓦礫の下敷きになってしまう。
「先輩、神様が宿る程の霊能力を持った女だ。飛びっきりのエナジーが吸えるんじゃないですか?」
「気をつけろ、ザドキエル」
「ガキ、俺をもっと気持ちよくさせてくれよ」と、園井は高笑いを上げているとハッと体の違和感に気付く。
恐る恐る自分の左半身の方を見ると、腕が無くなっていることに気づく。
「ぎゃああああ!!!」
「今度は、その鬱陶しい羽を引きちぎってあげるね」
瓦礫の中から、白く変化した髪を逆立て、瞳が赤くなったひまりが出て来る。
「理から外れた人間だと⁉︎」
変化したひまりの姿に驚く佐本。
「アルマロスさん、行きましょう」
巻坂は、佐本を肩に担いでその場を離れる。
ひまりは突然、園井の目の前から消えたと思うと背後に現れ
園井の首元へ蹴りを入れ、弾き飛ばす。
間髪入れずに、横に回って今度は腹部に減り込む程の強い蹴りを入れる。
「ぐはぁ!」
ひまりは、園井に反撃する隙を与える間も無く、殴る蹴るの攻撃を繰り返す。
「すぐに楽にはさせないよ。たくさんの女の人を苦しめた分、苦しんで貰うんだから」
ひまりは、園井の襟首を掴み持ち上げる。
「まだ足りないと思うけどこれでトドメね」と、左手に手刀をつくり構える。
その瞬間"ドス"と鈍い音がする。ひまりは、自分の腹部をみると、折れて尖った木材が突き刺さっている。
背後に、園井に捕まっていた女性がひまりに木材を突き刺し立っている。
「ねぇひまり。いつになったら私に天使を殺らせてくれるの?」
「悪魔・・・あなた・・・」
「早くその体を私にちょうだい」
***
ひまりが通う中学校の図書館。
夕日が差し込む窓際の席で本を読んでいるひまり。
「ひまりはいつになったらその体を私にくれるのかな?」
本棚の上にいる一匹の黒猫が、ひまりの脳内に語りかけている。
「またあなた?」
「だって天使を倒したいんでしょ?そのためには私が必要じゃない」
「理の話でしょ?」
「そう。神は悪魔を使役できる。悪魔は人を使役できる。そして人は神を使役できる。我々はその理の中でこの世界に存在する。
人は悪魔を生み出し、やがては神を超越できる存在となる。それを恐れた神々は加護などと偽り人間を管理していた。
人間の言語や思想価値観を人種で分け、相互理解を深めないようにした。時には信仰の名の下、人間同士をいがみ合わせ戦争へと駆り立てた。
それもすべて、人間を神を超越する存在へと至らしめないため。だが、やがて人間は気付いてしまった。どんなに文明が進歩しても戦争が無くならない理由を。
それはすべて神が原因であることに」
「だから20年前戦争したんでしょ?人は神様と」
「そうよ」
「それすべてこの本に書いてあることだよね?まだ読んでいる途中だからネタバレしないでよ」
ひまりの読んでいる本のタイトルは『宇宙転換論』著者にはウルヴァの名前が記されている。
***
廃工場
「人の力を得た悪魔は、天使どころか神を凌ぐと言われている。だから今こそ私が必要でしょ?ひまりちゃん」
ひまりは、刺さった木材をぐっと握りしめる。
「だったら 使いなさいよ。あなたの力見せてみなよ。だけど魂までは譲らないから!」
ひまりの頬に紋様が浮かび上がり、全身が黒いオーラに包まれる。
***
廃工場の外
到着した紫月とガルドと里崎。
廃工場に向かって走り出す3人。
だが、突然里崎が背中から斬りつけられ、その場に倒れ込む。
「コウスケ!」
気づくと3人は、フード付きの白いマントを着た集団に囲まれている。
マントを着た者たちは、口々に呪文を唱え始める。
辺りにたくさんの魔法陣が発生する。
***
巨大な鎌を作り出したひまりは、その鎌で園井ごと自分の体を貫かせた。
「ひまりちゃん何を⁉︎」
「もちろん退治するならあなたごとよ」
***
「紫月ごめん・・・ヘマしちゃった」と、ひまりの声が聞こえたような気がした紫月はハッとする。
「ひまり!」
大きな爆発が起こり廃工場は光の衝撃の中へと消える。
***
「俺が瓦礫の中から這い出た頃にはもう誰の姿も無かった。俺はそれから取り逃がした天使2人を始末するためにここまでやって来た。
柄にも無い家族って奴のために・・・あとで分かったことだが、俺らを取り囲んだ白い奴らは、イシュタルトとかいう宗教団体だった」
「イシュタルト!」
アルテは祖国であるグリティシア王国を滅ぼすきっかけとなったその名に反応した。
「この事件には、何か大きな神の力が働いているに違いない。あとは任せた、俺はもう充分だ」
尊は何かの気配に気がつく。
辺りを見渡すと物陰から武装した警察官隊が銃を構え、ガルドと生活安全部を取り囲んでいる。
怯えるサヨ。
「ウルヴァ、お前はよくも家族なんていう大きな償いを背負わされてくれたもんだな」
「お前が殺してきた者たち全てに家族がいた。お前が天使を殺したように、誰かも家族のためにお前を
殺したいと願っていたはずだ。因果応報、身をもって失うことの痛みを知ったお前は戦士だよ」
ガルドは笑う。
「お前たちは行け」
「俺たちも戦う」と、ツカサは変身のポーズを構える。
「君たち、ここを離れるんだ」
「だけど、おっさん」
「いいから、早く!」
ツカサたちは、ウルヴァの鬼気迫る目に気押されその場を離れる。
ガルドは、剣を構え、警官隊に突っ込んで行く。
***
逃げる生活安全部の面々。数百メートル離れた地点でも
ガルドと警官隊が交戦する声と銃声が響いて来る。
尊は「ガルドー!」と叫ぶ声が、日が沈む空にこだまする。
***
息を切らしその場にしゃがみ込むガルド。
「なぜ俺を助ける?」
ガルドの前にシルバルドと黒きアーマードギアブラックジョーカーを纏ったグールド・グレモリーが現れる。
「俺をあの高校生たちに会わせてペラペラ過去まで喋らせて何が目的だ?」
***
1日前ーー
ガルドの左腕を斬りつけるシルバルド。
「この近くにキサヒメ学園という学校がある。そこに身を寄せろ。生活安全部の生徒が必ず手助けしてくれるはずだ」
***
「ガルド・ゲイザーは死んだ。今日から私のために戦ってくれ」
と、ガルドにアーマードギアの変身ブレスレットを渡す。
「私には、成し得たい望みがある。一緒に見てみないか?私が創り上げる世界を」
「面白い。その世界が気に入らなければ、俺は只喰ってやるだけだ」
ガルドは紫のアーマードギアヴィダルファングに姿を変える。
「さあ、行こうか」
3人は沈む夕陽とともに姿を消す。