第5話「表裏比興前編」
キサヒメ学園理事長室
赤い絨毯がひかれ、アンティーク調の家具が置かれた、英国風の部屋。
広さは教室とほぼ同じくらいだ。
そこに呼び出された、キサヒメ学園生徒会長、天影乃アカネ
長いストレートの黒髪でガタイの大きな彼女は、腕を組み堂々とした仁王立ちで
目の前の執務室机に座る、フェリス・グレモリーと対峙する。
「お呼びでしょうか?」
「この学園には改革が必要です」
「は?」
「この学園は、我がグレモリー家が経営する学園の中でも最もレベルが低い学校。
堕落しきっています。特に初代の校長は勝手に巨大な地下室や一歩間違えれば
テロリスト同然の訳のわからない部活を作る始末。就任早々頭が痛いです」
「地下室?」
「そこで私は、新理事長として宣言します。あなたの生徒会長の任を解きます。
そしてこの私が、理事長として生徒会長を兼務します」
***
キサヒメ学園生活安全部部室
「というわけで横暴だと思わぬか。ツカサ」
アカネの相談を受けるツカサ、尊、ラルフ、アルテ、ウルヴァ、サヨの生活安全部一同。
「遅刻したぐらいで、ガミガミうるさい暴力女が生徒会長じゃなくなって俺はすっきりだがな」
「遅刻すれば誰だってうるさいわ!毎朝、毎朝、何度文句言わせれば気がすむんだ。貴様は!
毎朝、モーニングコールしてやってる私の身にもなれ!」
アルテの中からブチ!っと鈍い音がする。
アルテは、お茶の入った湯飲みを、アカネとツカサの前に置く。
「あっち!もっと丁寧におけよ。アルテ」
「ところでツカサ、貴様とは幼き頃よりの長い付き合いだが、
妹がいたとは驚きだ。てっきり貴様は、天涯孤独の身だと思っていた」
「前生徒会長、私はツカサの妹ではありません!」
「おい、よせアルテ」
「現生徒会長だ。失礼した、ただの親戚だったか」
「私は、火条ツカサの妻!ただならぬ関係です!」
アカネは思わず、口に含んだお茶を吹き出す。
「にゃ、にゃにぃ、ツ、ツカサ、ど、どういうことだ」
頬を赤らめ、わなわなするアカネ。
「どうもこうもありません!ツカサと一緒に過ごした時間が長いからって調子に乗らないで!
ツカサの昔を知っているから何?もう、私のモノなの。もう世話は妬かないで、朝のしつこいあの電話はあんただったのね」
「生徒会長として、き、きさまたちの不純を認める訳にわいかにゃい」
「籍入ってますので心配御無用です。前生徒会長」
「やめろ、犯罪の証拠を見せびらかすな」
ツカサたちのやり取りを見て、あくびをしている尊。
「お姫様とツカサを見てると飽きねえな。同じ部屋に住まわせて正解だった。
ところでラルフは今度何に夢中になっているんだ?」
ツカサたちの騒動を尻目にパソコンに熱中するラルフ。
「桐川博士からAGX-Ⅱのカスタマイズウェポンの設計を任された」
パソコンのディスプレイには強化パーツのような物が映し出されている。
「楽しそうだな・・・(理解できないけど)」
尊は、フェリス・グレモリーについて調べた資料を読み上げる。
「とにかく、まずは相手を知ることだ。フェリスグレモリー18歳・・・15歳でスメラギ国有数の名門大学を飛び級で卒業後、
クリエスルの社長に就任。キサヒメ学園には理事長として就任と同時に3年生に編入。スメラギ国で大きな影響力を持つ
グレモリー家の一人娘。まさしくお嬢様か・・・何にせよ、泣かしてやる。」
「大変です!」と、慌ただしく、生徒会の女子生徒が部室に入ってくる。
一同は女子生徒に案内されエントランスホールの方へと走る。
***
キサヒメ学園エントランスホール
生徒たちの人だかりを割って進むフェリスの一団。
先頭のフェリスの右後ろには、側近の箔馬騎士がいる。彼は護衛のため剣を帯刀している。
そして左後ろには同じく側近の氷城冷菓がいる。
短い黒髪に黒縁メガネが特徴の女子だ。
後方の男たちは大きな機材を運んでいる。
フェリスの前にアカネと生活安全部が立ちはだかる。
「これはこれは、どこの巨塔の総回診ですか?理事長」
にらみ合う、アカネとフェリス。
「あら、前生徒会長ごきげんよう。これから丁度、生徒会室に向かうとこですの」
「こんな団体さんで、大荷物を持って何しに?」
「もちろん、生徒会室を私にふさわしい場所に模様替えするためですわ。
今のはみすぼらしくて」
「ここを通す訳にわ行きません。キサヒメ学園の生徒は、誰一人あなたを生徒会長として認めていません」
フェリスは手を大きく広げ、ホールいっぱいに響く声で宣言する。
「みなさん、ごきげんよう。私は、キサヒメ学園の新理事長にして新生徒会長フェリス・グレモリーです」
「美人だ」「俺たちと同い年くらいだぞ」とざわつきはじめる生徒たち。
男子生徒たちの前でフェリスは組んだ腕で大きな胸を持ち上げ強調する。
トドメのウィンクに男子生徒たちは、鼻の下を伸ばして「フェリス、フェリス」とコールする。
「支持率は高いようですわ」
フェリスは「ありがとう下等生物たち」と男子生徒たちに手を振る。
"ぐぬぬ"となるアカネ。
「申し上げたでしょ、前生徒会長。この学園には改革が必要だと。これも全て初代校長が
招いたこと。ねえ?ウルヴァさん」
「校長?」と一斉にウルヴァの方に振り返るツカサたち。
柱の陰から恐る恐る顔を出すウルヴァ。
「お久しぶりです。フェリスお嬢様」
「ええ!」と、生徒たちのどよめきが起こる。
「私は許しませんわ、我が父アール・グレモリーを誑かしてこの学園を作らせ、
自由な校風を謳った結果、生徒や教職員たちは堕落。
何よりも問題なのは子供たちには自由な教育の場が必要だとか何とか抜かしていた、
あなたがこの学園で一番自由奔放に好き勝手やっていることです。
あなたの罪は重いですわ」
「そうだ、そうだ、もっと言ってやれ」
「お前はどっちの味方だ。ツカサ」
「儂の自由な場が欲しかったんじゃー!」
「本当、呆れますわ」
「ときどき恐ろしい本音を漏らすな、あのおっさん」
「私はここに公約を宣言します。まず一つ、生徒たちが優雅に勉学に励めるように
カフェテリアを作りしましょう。カフェのコーヒーには、グレモリーグループが管理する、最高高級豆を
用意します。日本式の授業スタイルは窮屈で退屈。なので欧米式を取り入れ生徒たちが学びたい学問
を積極的に学べるようにしましょう。そこから一気にキサヒメ学園をスメラギ国随一の名門校にしてみせます。
もちろんスポーツでもトップを取るために、クリエスル社のスポーツ開発部の下、で合理的かつ有効的な
運動方法を取り入れ体作りを強化します。必要あらば、金の力で全世界から優秀なコーチを集めましょう。
これらはまだ、改革のほんの一部でしかありません。これは、世界でも唯一無二の理事長にして生徒会長である私だからできること」
周りの生徒たちから大きな拍手が起こる。
「前生徒会長の後ろにいるあなたたちが、生活安全部ね。ウルヴァさんの負の遺産。あなたの解散もちゃんと
公約の一つになっています」
「何だと!」
「待て!」と、フェリスの前に出る尊。
「生徒たちの一票で選ばれた生徒会長を一方的にクビにして勝手に生徒会長に就任するなんて
民主主義を無視した愚行だ!」
「申し上げますわ。よく聞きなさい!改革は痛みを伴うもの。私の改革を実現するためには
学園の生徒は高い学力と高貴な品性を持ち合わせてなくてはなりません。
よって見合わない生徒には去って頂きます。調べ上げたとこによると去って頂く生徒は全校の3分の2以上。
そして、後ろに控える箔馬と氷城のように優秀な学園から生徒を引き抜いて補填します。どれも私の支持者たちばかりを。
だから、選挙の必要ありませんわ」
フェリスコールで盛り上がっていたホール内は一瞬で凍りつく。
そして、勝ち誇ったように「オーホホホ」とお嬢様特有の高笑いがホール全体に響き渡る。
突然、尊はフェリスの頬を平手打ちする。
「貴様!」と、箔馬は剣を抜刀して尊の喉元に突きつける。
「ちょっと尊、泣かしてやるってのそういうことなの?」
慌てたアルテが二人の間に入る。
「やかましいお嬢様の口を黙らせただけだ」
キッと尊を睨みつける箔馬。
「よしなさい!ナイト」
「しかしお嬢様!」
「いいからしまいなさい」
フェリスの指示のまま剣を降ろす、箔馬。
「勝負しなさい!私たちと勝負して勝った方が生徒会長よ!天影乃アカネ!」
「どうやって勝負するつもりだ?」
「これよ。変身!」
フェリスは、赤いアーマードギアの姿に変身する。
肩と腰にはレールガンが二つづつ取り付けられている。
「このアーマードギアで思う存分暴れましょう」