第49話「父と娘の記憶(メモリー)」
話は少し前に遡るーー
月明かりだけが薄っすらと照らす、深夜の河川敷。
怒鳴り声を響かせながら、口論をしている男女。
顔ははっきりと見えない。
女に袖を掴まれた男は、力まかせに振り払うと、姿勢を崩した女がその場に倒れ込み、大きな石に頭をぶつけて"ゴン!"と鈍い音を立てる。
静かになる女。
「おいっ、おいっ!」と女の体を揺する。
女はピクリともしない。
女の胸部に耳を当てて確認する男。
男は取り乱して女が所持していたバッグから何かを取り出してその場から立ち去る。
***
ドルス国際評議場・1F・ドルス署・廊下
険しい表情を浮かべながら歩いてくる黒崎京馬 (キョーマ)。
「おい、キョーマどこへ行っていた?」と、目の前にドルス署捜査一課の刑事課長の堂島剛造が現れる。
「すみません。グールド長官と会っていました」
「長官と? 何で? お前が⋯⋯」と、堂島は怪訝な表情でキョーマの目を見る。
「サボっていたのを誤魔化すならもっとマシなうそをつけよ。なあキョーマ」
「す、すみません」
「まあいい、2課からの応援で頼まれているレクシオの不正調査なんだけどな、昨晩、データ管理を請負っているアーバレス社のサーバーからレクシオの機密に関するデータが盗まれた」
「何ですって⁉︎」
「防犯カメラの映像から盗み出したのは、アーバレスの社員。石崎莉奈子、26歳。今朝、遺体で発見されたけどな」
「え⁉︎」
***
けたたましくサイレンが鳴り響く早朝の河川敷。
KEEPOUTの規制線の向こう側に
複数の鑑識の捜査員が行き来きしている。
おお向けに倒れている女性の写真を撮っている鑑識の捜査員。
***
「だが、落ちていた所持品から肝心の機密データが入ったメモリー端末が見つかってない」
「犯人が持ち去った⋯⋯」
「そうとしか考えられないな。だけどいいざまだな。民間企業であることを盾にして、警察機構に機密データの提供を拒んでいたのに、それを身内に盗まれるとは」
「⋯⋯」
***
同・2F・捜査会議室
背広の刑事たちが集まっている。
席に着いて捜査情報をメモしている柊紫月。
「失礼します!」と、野太い男の声が響き渡る。
刑事たちは声の方向に振り返る。
「国際軍です!」
軍服姿の男たちが隊列を成して入って来る。
「国際軍さんが、何のようですか!」と、捜査本部長が声を上げる。
「この事案は、警察機構の領分を超えています。以降は我々で引き継ぎます」
呆気に取られる紫月。
***
同・正面玄関前ロータリー
ポケットの中でスマホの着信が鳴り、取り出して通話するキョーマ。
「エージェント、さっきはありがとう」
電話の主はグールド・グレモリー。
「さっそくだが、アーバレス社の社員が殺害された事件は知っているね」
「ええ」
「その事件なんだが、国際軍が突然捜査会議室に乗り込んで来て、捜査権を奪われた」
目を見開いて「⁉︎」と、なるキョーマ。
「国際警察機構としてテリトリーを奪われるのは面白くない。そこで君に任せたいと思う」
キョーマの目の前に無人のパトカー走ってきて止まる。
「さっそく使ってくれアビリティマシン・ライドストライカーだ」
そして林田誠一郎が開いた状態のアタッシュケースを抱えながら歩いてくる。
その中身はギアコマンダー。
「そのアビリティマシンに対応した第3世代型ギアコマンダーだ。私が用意できるのはここまでだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい」と、戸惑うキョーマ。
「軍人に帳場を踏みにじられて黙っている君じゃないだろ」
「長官⋯⋯」
「加賀奏太。アーバレスの社員を殺して資料を奪って逃亡している男がいる。国際軍より早く加賀の身柄を確保して欲しい」
「…⋯」
「警察の意地見せてくれ。エージェント」
キョーマの目に決意の意思が宿る。
キョーマは、ライドストライカーに乗り込んで急発進でドルス国際評議場をあとにする。
***
同・4F・国際軍幹部室
制服組の幹部官僚が補佐の官僚から報告を受けている。
「軍と警察の比重を変えるだと?」
「グールド長官は警察機構を警察省に昇格させることで国際防衛省と同格にして、将来検討されている軍と警察の統合が実施された際に警察側が
主導権を握れるようにとのお考えのようです」
「レオス大臣はなんと言っている」
「レオス大臣はすでに懐柔されたようです」
「これだから政治家は。それでアーバレスの件はどうなっている?」
「アーバレス社員殺害事件は想定外でしたが、なんとか警察側から捜査権を奪うことに成功しました」
「そうか」
「それ以外は、直江カネツグ大佐の描いた絵図通りです」
「アーバレスは民間企業ゆえ、圧力で保管している例の"アレ"を提供させることができなかったが、海賊ハウンドの手引きで用意してもらった武装組織に
アーバレス本社のサーバー管理棟を襲撃させ、テロ事件の捜査と護衛というもっとも正攻法な名目でアーバレスを従わせる。さすがは勝つためには手段を選ばない男だ」
***
渋滞の車列の中にいるライドストライカー。
ハンドルを握っているキョーマは辺りを見回す。
目の前は検問で複数の制服警官に封鎖されている。
「所轄も国際軍にいいように使われているな」
小銃を持って市街をうろつく軍人の姿に眉をひそめるキョーマ。
軍と警察の統合の噂がキョーマのあたまの中をよぎる。
「あんな威圧的なやり方で本当に市民の安全と暮らしが守れるのか?」
と、夏休み、少年キョーマが、落し物を交番に届けてお巡りさんに頭を撫でられたときの光景を思い起こす。
「見守っていることこそが俺たち治安を維持する者の役目だろ」
ライドストライカーはサイレンを鳴らして車列から外れる。
キョーマは力強くアクセルを踏み込んで制服警官たちに向かって突っ込んで行く。
慌てて逃げ出す、制服警官。
「加賀が潜り込んだ地区ごと封鎖?やり過ぎだ! 国際軍も力押しすれば解決するもんじゃないぞ!」
"この先通行止め"の看板を蹴散らしライドストライカーは走る。
「⁉︎」とあっけに取られる制服警官。
***
ネットカフェの個室
パソコンを見入っている、加賀奏太。
画面には無数の数字が入り組んだ文字列が映し出されている。
「なんじゃこりゃ、これが機密資料?何かのプログラムか?」
マウスを動かし画面が切り替わると、ネットのニュース画面が表示される。
"アーバレス社員遺体発見", "事件に関与している男、行方不明"
と、書かれている。
「⋯⋯」と、言葉を失う加賀。
***
ネットカフェの入り口から飛び出してくる加賀。
平静を失った様子で辺りを見回ながら逃げるように立ち去る。
***
ビルとビルの間の狭い小路。
ゴミ袋、雑誌が山積みされていて、それを掻き分けながら進む加賀。
そして息を切らして、その場にしゃがみ込む、加賀。
「ウソだろ。莉奈子が死んだって⋯⋯」
見上げると、空には国際軍のヘリが数台飛び交っている。
「テロでもあったかのような勢いだな⋯⋯」
"ハッ"と、する加賀。
さっき見たニュースの記事の中に"アーバレス サーバー管理棟、数日前に武装組織の襲撃を受けたばかり。同一組織の犯行か?"
の見出しがあったことを思い出す。
「俺をテロリストか何かと? まさか⋯⋯いや、じゃなきゃ国際軍がうろついているわけがない⋯⋯」
人影が見えると、とっさに身を隠す、加賀。
ゴミ袋の隙間からそっと覗くと小銃を持った国際軍の隊員達がウロついていた。
「ウソだろ?」と、加賀は胸ポケットからカード型のメモリー端末を取り出す。
焦燥した顔でメモリー端末を見つめる。
「あいつらに保護して貰うか⋯⋯いや、暴力団系の企業にコレを売れば…金にも…」
回想
古いアパート。
六畳一間の和室。
ビールの空き缶がちゃぶ台の上や畳の上に転がっている。
ビールを片手に横になっている加賀。
ちゃぶ台の席には莉奈子がいる。
「義兄さん!ミヲの事故に関する資料を持ち出して来た、職場から」
「あ?」
「これを公表してもう一度裁判をやり直すの」
「もううんざりなんだよ。裁判とか」
「義兄さん、今なら世間は味方になってくれるわ。奴隷問題といい、次々に出てくるレクシオの不正が注目を集めている。今だったらミヲの事故も」
「また職を失うだけだ」
「もう一度、戦って、姉さんとミヲのために」
「それは…金になるのか?」
莉奈子の表情が変わる。
「ゲスがッ!」
「あ?」
「姉さんが嘆いているわ」
出て行く、莉奈子。
「私、一人で戦う」
「おいッ!」
「知らないッ!」
バタンと、扉が閉まる。
***
メモリー端末を見つめる加賀。
「ミヲ…」
加賀は内ポケットからスマホを取り出しメモリー端末を挿入する。
スマホの画面には加賀とその妻と娘のミヲが写った写真が表示されている。
「あー! どうしたら」と、大きな声をあげる加賀。
「誰だ!」と、銃口を向ける隊員たち。
両手を挙げて姿をあらわす加賀。
「そこで酔いつぶれて寝てたんだ。俺は何もしてない」
顔を見合わせる隊員たち。
「加賀奏太だな」
「(え?)⋯⋯」
無線で連絡する隊員
「目標のテロリストを発見」
「おとなしく投降しろ!」
慌てて逃げ出す加賀。
「待て!」
発砲する隊員。
銃弾が加賀の頬をかすめる。
「ひえッ⁉︎」
***
響き渡る銃声に辺りを見回す、キョーマ。
***
物陰に隠れる、加賀。
手元のスマホの画面が光っている。
身体中が震えている。
「俺がテロリスト…なんで俺、追われているんだ」
「パパ…」
「?」
加賀は声の方に振り向くと、6才くらいの少女が立っている。
少女の姿に目を見開いて驚く加賀。
「ミヲ!」
***
銃声がした方向に走るキョーマ。
キョーマは、紫月から聞いた捜査情報を思い出す。
***
回想
ハンドルを握っているキョーマ。
ハンズフリーの状態で紫月と通話しているキョーマ。
「加賀はレクシオと、ある病院を相手に訴訟を起こしていました」
「訴訟?」
「加賀には石崎莉奈子の姉である。加賀響子と娘のミヲがいました⋯⋯」
***
なぜ、どうしてーー
何が起きてる⋯⋯
目の前のミヲの姿に言葉を失っている加賀。
「パパ⋯⋯」
ハッとする加賀。
「ミヲ、ミヲッ!」
ミヲを力強く抱きしめる加賀。
「(泣いて)ミヲどうして⋯⋯」
「パパ、パパ痛いよ⋯⋯」
「あっ!ごめん」
ニコっとするミヲ。
「パパ⋯⋯大好き」
「いたぞー!」と男の叫び声。
ハッとする加賀。
隊員が来る。
「逃げるぞ」
ミヲを抱え走り出す加賀。
躊躇無く発砲する、隊員。
「くッ」と、歯を喰いしばって走る加賀。
「パパ」
「待てーッ!」と、追いかける隊員達。
逃げる加賀と隊員たちの間にライドストライカーが急ブレーキで飛び込む。
道を塞がれる隊員達。
「乗れッ!」と、キョーマは乗車をうながす。
困惑しながらも頷いて加賀はミヲと、後部座席に乗り込む。
キョーマは、ミヲの姿に驚く。
紫月から送られてきた加賀とその家族の写真に写っていた少女だからだ。
「加賀の妻響子と娘のミヲは、すでに亡くなっていて⋯⋯」と通話で紫月はそう話していた。
そう娘は死んでいるはず⋯⋯。
急発進で走り出すライドストライカー。
愛おしそうにミヲ抱きしめている加賀の姿をバックミラー越しに何度も確認するキョーマ。
そのとき、キョーマのスマホに着信が入る。
通知には"ロード・スクリーム"とある。
「こんなときになんだ⁉︎」
「もう真の当たりしましたころですね、キョーマさん。存在しないはずの女の子が目の前にいることを」
「ロード、何を企んでいる。悪いが亡くなったはずの人間が目の前にいる現実を、俺は受け止めることができない」
「彼女は人間ではありません。人間の姿を得た地球の記憶。そのもです」
「どういうことだ⁉︎」
「それは側にいる父親に聞いてみてください。では、また(通話が切れる)」
「おい!」
***
ドルス国際評議場・エントランス
聴き込み捜査から戻ってきた紫月。
目の前の方から黒服の部下たちを引き連れたロード・スクリームが歩いてくる。
背筋が凍る紫月。
ロードが掛けているサングラスの下の右眼を紫月が誤って斬りつけてしまったことを負目に感じている。
だが、それだけじゃないただならぬ不気味な雰囲気を感じとる。
「これはこれは、お久しぶりですね。柊紫月」
全身が硬直する紫月。
「あなたのおかげでよく見えるようになりましたよ⋯⋯」と、紫月に顔を近づけサングラスを外すロード。
「過去も未来も現在も」
眉から下瞼まで切り傷がついたロードの顔、そしてロードの右眼は虹色に光っている。
***
走るライドストライカーの車内
しばらくして加賀はうつむきながら経緯を話しはじめる。
「ーあれは1年前のことです⋯⋯」
***
赤いランドセルを背負ってはしゃぐミヲ。
「ミヲ、こっちだ!」と、カメラを構える加賀と
ミヲを微笑ましく見ている、響子がいる。
「ミヲが、小学生に上がる直前でした…」
***
とある総合病院
ミヲが救急車からストレッチャーに乗せられ、病院に内へと運ばれて行く。
ミヲの傍で響子が「ミヲ!、ミヲ!」と呼び掛けている。
「あんなに元気で、小学校に上がるのをとても楽しみにしていた娘が突然、倒れたんです」
***
診察室
説明をする医師。
うな垂れながら話を聞く、加賀。
その隣では響子が泣いている。
「くも膜下出血でした…子供で発症するのは珍しく、手術がうまくいったとしても脳に障害が残るか最悪の場合、脳死すると言われ、私たち夫婦は絶望しました」
***
明かりを付けず部屋で膝を抱えている響子。
響子の様子に言葉を掛けられず立ち尽くすしかない加賀。
「手遅れでした⋯⋯余命1ヶ月。精密検査の結果、手術ができない状態だと医者にそう告げられて、我々には刻々とその時を待つしかありませんでした」
***
とあるバー
「そんな時でした⋯⋯」
カウンターでうなだれる加賀。
隣に男が座る。
「聞いたぞ、娘さんのこと」
(レクシオに勤める同級生から声を掛けられたんです⋯⋯)
「放って置いてくれ」
「アーバレスって知っているか?」
「?ーー たしかスメラギ国にあるデータ管理会社だよな?」
「ああ。アーバレスの研究なら娘さんを救えるかもしれない」
「(笑って)医療メーカーでもない企業に何ができるんだよ」
「ここだけの話だが、今、レクシオとアーバレス、あとツカサ機関って研究機関と共同である研究をしている。その研究は医療分野にも
応用可能だと注目を集めている」
***
「ツカサ機関⁉︎」と、驚くキョーマ。
バックミラー越しに加賀を見やる。
***
「脳の記憶をデータ化⁉︎」
「声が大きいよ。今、ツカサ機関の菊糸公和って博士から技術提供をしてもらって研究をしている。
記憶をデータ化することで、その記憶を保存できるんだ。だから万が一忘れたとしても専用端末に接続することで思い出すことができる。
アーバレスはこれから記憶をデータ管理するビジネスを展開させようと企んでいるんだ。
例えば、認知症患者に保存した記憶を供給して認知症を治すことができると考えている。お前の娘さんもそうだ。データ化した記憶から作った人工脳を
装着すれば、損傷した脳も補うことができる」
***
「私たちは藁にもすがる思いでした」
ベッドの上のミヲの頭にヘルメット状の機械が被される。
ミヲは、設備があるスメラギ国の総合病院に転院した。
「メーティスと言います」と、医者が嬉々と説明する。
「これが人工脳⋯⋯」
「はい。これでミヲちゃんの脳死も免れることができます」
手で口をおさえて涙ぐむ響子。
「障害を負った部分もメーティスが補いますから、これで会話も」
「本当ですか⁉︎ でしたらどのようにすればミヲと会話が?」
「お父さんとお母さんには、メーティスの外付け端末が用意してあります。こちらを頭に装着して頂き、仮想空間内に用意した部屋で、ミヲちゃんの意識と会って会話ができます」
顔を見合わせ歓喜する加賀と響子。
「メーティスは、今はこのような大型の装着タイプですが、これから小型化して脳内に組み込めるようになればまた外に出て自由に遊ぶことができます。
ここはスメラギ国ですから自国の法に縛られず各国が研究開発を進めるためにつくられた一大実験場。あと半年すればそれも完成します。
これから心配なされる学習の遅れも、取り戻すどころか大人の意味記憶を流し込んでいますから、むしろ大学生くらいの知能に成長します。ミヲさんの自立がはやまってしまうかもしれませんね」
笑い合う3人。
加賀は医師の手を握り深々と頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「お父さんの決断があったからこそですよ」
***
淡々と語る加賀。
「メーティスの普及、さらには医療用としての展開には臨床実験が必要でした。
どんなリスクがあるかはわからない。それでもと決意しました」
***
仮想空間の部屋
部屋の中を飛び回ってはしゃぐミヲ(アバター)
「つっかまえた」とミヲを抱き上げる加賀
「(笑って)つかまちゃったぁー」
ミヲに頬を擦り寄せる加賀。
「ミヲー」
「パパ、はなしてよぉ」
「どおしてだぁ、ミヲはパパとママの宝物だ。もう離さないぞ」
***
テーブルを囲み談笑する、加賀、ミヲ、響子。
「夢のような時間でした。もう二度と帰って来ないと思っていた私たち家族の日常。メーティスが私達家族に希望を与えてくれたんです」
***
総合病院・ミヲの病室
(そう感じていたのはほんの束の間でした⋯⋯)
荒い息のミヲ。
「ミヲちゃんの意識がロストしました」と、看護師が叫ぶ。
聴診器をあてる医者。
鳴りっぱなしの心電図のアラーム。
メーティスに繋がっているケーブルが虹色に光っていて、メーティス本体も誤作動を起こしている。
取り乱す響子。
「どうしたんですか⁉︎ ミヲは⁉︎ ミヲの身に何が起きているんですか⁉︎」
「わかりません。メーティスに膨大なエネルギーが注ぎ込まれていて。今、先生やレクシオのエンジニアの方たちが診てくれていますから」
「娘は私がなんとかします!」と、響子はメーティスの外付け端末を装着する。
ケーブルをメーティスに接続すると虹色の光が響子の端末に伝って大きな悲鳴をあげる。
***
フリーゲートブリッジの下層にある線路を走る電車。
吊革の加賀は、急ぐあまり足をパタ付かせている。
速く、速くと…心の焦りが募っていく。
「キ、キィー!」と、耳に突き刺さるブレーキの音
「!」とする加賀。
「只今、次の駅で人身事故があったため、急停車をしています」
とのアナウンスが広がる。
なぜだとばかりに焦燥する加賀。
***
総合病院・ミヲの病室
駆け込んで来る加賀。
"ピー"という電子音が鳴り響いている。
ミヲを前に肩を落としている医師。
その奥にはベッドの上で顔に白い布をかけられた響子がいる。
その横で、看護師が顔を覆って肩を震わしている。
何も言葉にならない…その場に立ち尽くすことしかできない加賀。
***
走るライドストライカー
ハンドルを握るキョーマが口を開く。
「だから訴訟を?」
「はい。ですが、すべては決断した俺の責任⋯⋯そう言われ棄却されました。大企業を相手にしたことで俺はすぐに会社を追われ、娘と妻の死は突然の病死として闇に葬らることになりました。
たしかに実験に協力した俺の責任です。だけど、ミヲと妻の死は実験や病気によるものじゃない!
あのメーティスに、レクシオの機器の起きてはならない故障で殺された。レクシオの大量の不正が明るみになったときはざまぁみろと思った。
俺は逃げていました。職や家族を失った現実から。なのに義妹は妻と娘に関する資料を手に入れたと喜んで俺のところに来た。もうたくさんだった。これ以上傷つきたく無かった」
「だから殺したのか?」
「俺は殺していない!」
「⁉︎」
「確かに家を飛び出した義妹を追いかけて、口論になりました。そのとき勢い余って押し倒してしまって、だけど⋯⋯」
***
倒れている莉奈子の胸部に耳を当てている加賀。
「義妹は気を失っただけでした」
***
「信じてください!」
「できない」
「……(こぶしを握りしめる)そうだよなぁ…最低のクズ野郎だ俺は。だけどミヲは俺をパパと呼んでくれていた。
まだ俺、父親だったんだな。とっくに捨てちまったと思ったのに」
握ったこぶしの上にポツポツと雫が落ちる。
バックミラーを見やるキョーマ。
ミヲがそっとこちらを見ている。
「確かに、クズでどうしようもないバカ野郎だ」
「ええ」
「自分がやっていないと証明したいなら、警察で話せ。
俺は真犯人は別にいると言ってやるぐらいしかできないが」
「? 刑事さん⋯⋯」
ロードから再び着信が入る。
「キョーマさん、もうお分り頂けたでしょ? 加賀ミヲが亡くなった日はハイオネスクでの争乱が静まった日です。そう、その日は地球の記憶の門が崩壊した日でもある。
スメラギ国とレオノール国はただ同盟関係だったわけでなく、地理的に1本の龍脈で繋がっていた。加賀ミヲに起こった事故は龍脈を伝って流れてきた地球の記憶が偶然にもメーティスに流れ込んでしまったもの。
その膨大なエネルギーゆえに耐えきれなかった加賀ミヲと加賀響子は死んでしまった。だが、地球の記憶は加賀ミヲという存在を記憶した。そして地球の記憶はメーティスを通して、加賀ミヲの記憶データを収集してしていた
アーバレスのサーバーに流れ込んでそのまま保存されていた。
今回の事件はアーバレスに保管されている地球の記憶を流出させたいという地球の記憶を欲する者たちによって引き起こされた事件です」
「その1人はお前だな」
「ええ。ですがまだ⋯⋯」
交差点に差し掛かったところで黒塗りの大きな輸送車が道を塞ぐ形でライドストライカーの前に停車する。
急ブレーキをかけるキョーマ。
輸送車の中から黒いアーマードギアの集団が降りてくる。
ライドストライカーの後方からも黒い輸送車が来てはさみうちするように停車する。
逃げ場がなくなってキョーマと加賀、ミヲの3人はライドストライカーから飛び出して走り出す。
***
ドルス国際評議場・4階・政府会議室では国際警察機構の省昇格と警察機構装備強化に関する有識者会議がはじまろうとしている。
グールド、国際防衛大臣のレオス・アルベルト、国際官房長官の渡辺ノブサダの他、警察機構、国際防衛省のそれぞれの幹部官僚と外部の有識者
が集められている。
「(レオス)先日発生したアーバレス社サーバー管理棟の爆破テロ事件の一味と思われる人物がドルス市街地を逃走中ということで、本日、国際軍を主導する警察機構との合同捜査が展開しています。
本会議は、その合同捜査をモニタリングする形で進めます」
「(警察機構幹部)まずは警察機構の装備強化について、我々は試験的にアーマードギアを導入し、数年後に起こると想定されるアーマドギア犯罪に備えていきたいと考えているわけでありまして⋯⋯」
議題説明をしている警察機構幹部を尻目に小声で談笑する国際防衛省幹部たち。
「今回の合同捜査で証明されるのは国際軍の重要性だ」と、笑う。
***
ふらつきながら、走る加賀。
ミヲを抱き抱えて走るキョーマに着いていけずその場にしゃがみ込む。
「加賀‼︎」
黒いアーマードギアたちが迫ってくる。
「ミヲッ!」
ミヲは脚をバタつかせ、キョーマを振り解く。
「パパ!」
響く発砲音ーー
数発の銃弾がミヲに向かって行く。
加賀は咄嗟にミヲを抱きしめる。
鈍い音ともに「うっ!」と声が出る。
加賀の背中には数カ所銃弾の跡ができて大量の血が流れ出ている。
「パパッ!」
「ユイ…お前を守るのがパパとママの仕事だ…」
加賀、顔をクシャクシャにしながら涙を流す。
「パパやったぞ。ようやく⋯⋯ようやく⋯⋯つらい思いをさせる悪い奴からお前を守ってあげることができた」
「⋯⋯お父さんつよいな」
「大好き、パパ⋯⋯」
キョーマはミヲを抱き上げ走り出す。
バタりと倒れる加賀。
「パパ、パパ」と手を伸ばすミヲ。
どんどん加賀の姿は遠くなっていく。
***
ミヲを担いで走っているキョーマ。
「黒崎京馬刑事。降ろしてください」
「!」と、なるキョーマ。
ミヲをそっとアスファルトの上に降ろす。
ミヲの全身から光のエフェクトがこぼれ出している。
「そろそろリアル環境でこのアバターを維持する時間に限界が来ました。
黒崎刑事、先ほどの通話相手が申してた通り私は人間ではありません。加賀ミヲという人格を記憶して形作られた地球の記憶。
つまりデータです」
「どうして⋯⋯」
「すみません。パパ⋯⋯いや、加賀奏太の前では加賀ミヲでいてあげたかったのです。ご存知のように私は地球誕生から現在までを記憶したエネルギーの集合体です。
ですが、門が壊され解放されたあの日、加賀ミヲとひとつとなってはじめて人間の人格というものを記憶しました。そして彼女の中にある家族への想いを。
だから加賀ミヲでいたかったのです」
「そうか」
「お気をつけください。今、4つの組織が私を狙っています。その中でも黒崎刑事はツカサ機関という組織が引っ掛かっている。危惧している通りツカサ機関はアーバレスに記憶のデータ管理をさせることで人型ゼロノイドのクローンを量産させることが
メーティス計画の目的にありました。ですが、今、黒崎刑事が恐れなくてはいけないのは先ほどの黒づくめの部隊です。彼は黒崎刑事の命を狙っています⋯⋯」
ミヲの額にデコピンが飛ぶ。
「くゃッ!」
「人間じゃなかろうが、データだろうが、あのつよいパパとママの子には変わらないよ」
ハッとするミヲ。
「そうでした…⋯」
キョーマはミヲの頭を撫でる。
「本当に痛かったか?」
「ただ、なんとなくです」
笑い合うキョーマとミヲ。
ミヲは笑顔のまま、光のエフェクトととなり消える。
キョーマの手のひらにスマホがぽとりと落ちる。
キョーマはスッと立ち上がって黒いアーマードギアたちを睨みつける。
ギアコマンダーを翳して「変身!」と、叫ぶとキョーマはパワーアップした新たな姿バリケードアーマーへと姿を変える。
剣型武器ポリスセイバーを取り出して黒いアーマードギアに斬り込んで行く。
取り囲んでくる黒いアーマードギアたちを反撃の隙も与えず斬り裂いて、そして間髪いれずポリスセイバーの刀身にエネルギーをチャージしてチャージ技で一気に
黒いアーマードギアたちを撃破する。
この戦いの様子は政府会議室からモニタリングされている。
国際防衛省の幹部官僚のところに官僚が駆け寄ってきて耳打ちする。
「先ほどの黒ずくめの組織は我々が仕込んだ国際軍の隊員たちです⋯⋯」
幹部官僚はテーブルの下で拳を握って撼わす。
戦いが終わったバリケードアーマーところに国際軍の部隊が到着する。
"アレ?"とした表情で困惑する隊員たち。
***
倒れている加賀に近寄るロード。
「あなたにはもう少し戦ってもらわないと」と、加賀の首筋にコネクトシールを貼る。
***
地響きとともに市街地に岩石のような装甲をまとったプロトフタイプの巨大ロボット=ガンロックが現れる。
それを見たバリケードアーマーが「ライドストライカー!」と、叫ぶと
ライドストライカー、トレーラー型警察輸送車両=ライドキャリオン、白バイ=ライドパトライダー、小型ヘリ=ライダーファイターの4機がやってくる。
バリケードアーマーはライドストライカーと合体してライドファイヤー、セデスと同タイプの人型ロボットに変形する。
そこから一気に「警察合体!」と叫んで合体シークエンスに入る。
ライドキャリオンが下半身から胴体、ウィングにかけてのパーツに変形。
ライドパトライダーが右腕、ライドファイターが左腕に変形。
ライドストライカーを中心に4機がドッキングして「ストライカーガーディオン!」と、完成する。
ストライカーガーディオンは、ファイヤーグリフォンとセデスネスカイザーと同タイプの機体。
ガンロックは両肩についた砲包から熱を帯びた岩石を射出して攻撃する。
ストライカーガーディオンは左腕のプロペラを回転させ「ロータリーシールド!」と、岩石を弾き返す。
「一気に決める!」と、ストライカーソードを取り出して天高くかかげる。
刀身に光のエフェクトをまとって「アレストブレイク!」と、ガンロックを真っ二つに斬り裂く。
爆散するガンロックを背に悠然と佇むストライカーガーディオン。
***
海の向こうにスメラギ国がのぞめる港をキョーマはスマホで通話しながら歩いている。相手はロード。
「事件の解決おめでとうございます」
「すべてはお前の書いた絵図だろ?」
「めっそうもない。私はただ、加賀奏太というイレギュラーを地球の記憶を欲する者たちの計画に加えただけですよ」
***
回想
夜の河川敷
倒れている莉奈子の腕に注射を射つ黒服の男。
そばに駐車している黒塗りの車の後部座席の窓が開いてロードが顔を覗かせる。
***
「どうしてそこまでする必要がある!」
「あなたもレオノール国で目の当たりにしたでしょ? あの強大な力を。それが解き放たれ、過ぎたる者たちがその力を欲している。
私は地球の記憶、加賀ミヲを任せられる者に託したいんですよ。ご存知ですか? アーバレスは地球の記憶を独占するために民間の盾を使って
あなたたちを拒んでいたわけではない。メーティスの研究者の中にレオノール出身者がいました。彼は祖国の意思を継いで守ろうとした。
加賀奏太と同じじゃないですか」
***
執務室でマーリュ・レオノール、渡辺ノブサダと握手する白衣の男性。
***
「だが、あなたのクライアントは違う」
立ち止まるキョーマ。
「?」
***
ドルス国際評議場・国際警察機構・長官執務室
電話をしているグールド。
「エージェント、回収に成功したようだね。君の活躍のおかけで省への昇格と警察機構の装備強化法案が次の閣議で通りそうだ」
「長官、すみません。これは警察にとっても過ぎたる力です」
「どういうことだ?」
「こんなものがなくても、俺たち警察は大丈夫ですよ。まだ。1日でも早く星帝になって下さい。ですが今を改変して世界を作り変えることは賛同しかねます。
私はどんな過去も乗り越えて今がありますから」
通話が切れる。
「エージェント⋯⋯」
ボー然とするグールド。
「エージェントが私の意に背く、このようなこと私の未来予測にはなかった⋯⋯」
グールドは過去を振り返る。
***
とあるレストラン
窓際のテーブル席の莉奈子と林田。
林田は莉奈子にハッキング用のプログラムが仕込まれた端末を手渡す。
***
窓外の景色を見つめるグールド。
「やはり私の未来予測に干渉する力がある⋯⋯」
***
海を見つめるキョーマ。
大きな機械音に見上げるキョーマ。
上空から飛行型海賊船ハウンドシップが飛来してくる。
甲板にはキャプテン・バロック=冠庭トオルがいる。
「そっちからか」
キョーマは、キャプテン・バロックに加賀のスマホを手渡す。
キャプテン・バロックを通じて、キョーマが想う任せられる者たちに加賀ミヲを託すために。
つづく
最終回まで残り3回




