第46話「戦争賭博」
回想
日本国・エド城(徳川ヒデタダの居城)
全面畳が敷かれた大広間にて、6歳の保科マサユキ(グールド・グレモリー)は
裃に身を包み、お江与の方と徳川イエミツに謁見する。
「ヒデタダ公がそなたを引き取ってしまったからには、そなたには徳川に仕えてもらわねばならなぬ」
「はっ」
「よろしい。そなたの方が1つ歳が上じゃが、今日からはこのイエミツの弟として仕えよ」
「⋯⋯」
「しかしながらそなたに徳川を名乗らせるわけにはいかぬ。したがってそなたには、古くより徳川のお家に仕える保科の名を与える。保科マサユキと名乗るがよい」
「⋯⋯」
「わしがそなたの兄じゃ」と、イエミツが無邪気に言葉を発すると、マサユキは「は、ははあ」と、手をついて深々と頭を下げる。
***
首都国・ドルスの都心の街頭では配られる号外の新聞や大型モニターのテレビから期日が迫った星帝選挙のニュースが踊っている。
「次期星帝選挙への出馬が目されていたレオス・アルベルト氏が出馬を取りやめると発表しました。
政府官邸では、以前、高い支持率を維持している徳川星帝の二期目を期待する声が高まっています」
***
西洋式の大きな屋敷
エントランスでは、舞踏会が開かれていて、財界の要人が集まっているからなのか、高価なタキシードとドレスに身を包んでいる参加者は全員顔に蝶仮面を付けている。
参加者たちはワイングラスを片手に談笑や、エントランスの中央で華やかな社交ダンスを披露して盛り上がっている。
金の装飾が入ったアンティーク調の大きな扉がゆっくりと開く。
そこにレオス・アルベルトを伴ったグールド・グレモリーの姿がある。
2人は蝶仮面も付けず、素顔のまま堂々と中へと入ってくる。
「あれはグールド・グレモリー⋯⋯」「なぜ、ここに?」と、怪訝な表情でヒソヒソ話をする参加者たち。
「よく来たな。スメラギの小僧」と、男の声が響く。
参加者たちが見上げると、赤絨毯が敷かれた階段の最上段に杖をついた90代の老人が執事たちを伴い立っている。
姿を現した老人に参加者たちはざわつく。
老人は長くて白い顎髭を撫でながらゆっくりと階段を降りてくる。
「グールド・グレモリーといったな。ヘイムダルを手中に納め、経済団体に泥を塗り、今度はワシに会いたいなどと⋯⋯思い上がるのも大概にせねば。レオス。すっかりそやつの飼い犬だな。哀れな」
老人から目を背けるレオスは、グールドの意向の下、仲介役を果たし、最後は星帝選挙の出馬断念を条件にこの老人との会談に漕ぎ着けていた。
「お会いしとうございました。世界皇帝ロス・クリスフェラー・チャイルド公」
「その不遜な顔。レオノールの騒乱を鎮めて英雄になったつもりか? よかろう礼儀を知らぬ者には恥をかいてもらおう」
世界皇帝が杖で床をひと突きすると床の一部がスライドして中からテーブルと座席がせり出してくる。
「座れ。ケンカを売りに来たからには我々のやり方で決着を付けさせてもらう」
エントランスの照明が落ち、辺りの壁や天井からモニター出てくる。
「世界皇帝自らプレイヤーを⁉︎」と、驚く参加者たち。
「ハイオネスク地域の合併推進、順調で何よりだ。国際政府の介入によって絶好の稼ぎ場を失った。ここにいる者の中の殆どの者が損をしてな。ワシは自ら彼らの溜飲を下げ無くてはならぬ」
テーブルの上面がモニターになっていて地図が表示される。
「戦争賭博だ。ワシらは有史よりこのやり方で世界経済を動かしてきた。だが、世界がひとつに纏まり肩身は狭くなった。
世界から戦争がなくなる⋯⋯それはあってはならぬこと。経済という巨龍を支配するためにも。
だからワシらは経済団体を使い歴史や文化の違いで数世紀も対立してきたハイオネスク地域の6カ国にあえて合併を促し、敵対感情を煽って戦争状態を保ってきた」
「民間の事業を傘にされては、こちらもその実態が軍産複合体の温床になっていることが分かっていても介入することができなかった。星帝も手をこまねいていました」
「このようなところに何食わぬ顔でやってくる者が、世界平和を望むような夢想家とは到底思えん。何が目的だ?」
「戦争を陰で操り世界経済を支配する真の世界の支配者、世界皇帝に一度お会いして、教わりたかった」
「ほう? このジジイに何を?」
「人間がいかにしてこの地球の支配者に成り得たのか? その深淵を」
「教わるほどのことではないぞ小僧。金だ。金の力は神や悪魔をしのぐ。それだけだ。それをこれからやるゲームで身を持って知るがいい」
「見ろ」と、世界皇帝はテーブルのモニターの地図に目を向けさせる。
「見覚えはないか? 旧グリティシア王国の地図だ。グリティシア王国は崩壊後、イルミテ公国統治の下、暫定政府が樹立したのは存じておるな? 」
「ええ」
「だが、政府内の親国王派と革新派の対立もあって暫定政府の政権運営はうまくいかなかった。領民の不満が高まったところへグリティシア国王が亡命していたスタリオン皇国が
グリティシア国王の遺言であると不当な暫定政府討伐のために旧グリティシア王国領に侵攻した。スタリオン皇国の拡大を快く思わないソラトリア国は、姪にあたるミリアル妃(火条アルテのいとこ)に
遺言は偽物だと宣言させ、スタリオン皇国討伐のために同じく旧グリティシア王国領に進軍。そこへイルミテ公国が、ソラトリア国の進軍は暫定政府への不当な干渉行為だとして兵を出した。それによって3国は衝突することとなった。
3国共立派な大義を掲げているがその実、グリティシア王国の旧領を取り合って争っているだけだ」
「ハイオネスクの一件から短期間で旧グリティシア王国領を戦争状態に持っていくとは⋯⋯」
「容易いことよ。華僑院のクソジジイのおかげでいい稼ぎ場が見つかった。50年は安泰だ。この3国は国際政府に恭順の姿勢を示している。しばらくは介入できまい」
モニターに旧グリティシア王国領の平原が映し出される。
地図には、平原で対峙する陣営をあらわす駒がホログラムで浮かび上がる。
「この平原でこれより戦争が起こる。ルールは簡単だ。目をつけた陣営に支援を行い、この戦争に勝たせれば勝ちだ。何をベッドしてもかまわんぞ。金でも最新の兵器でも
好きなものを出したまえ。ワシは手はじめに金をかける。見ていたまえ」
***
旧グリティシア王国領の平原
2つの陣営が対峙している。両陣営のにらみ合いは2日目に入っていた。
一方はソラトリア国きっての猛将オルデオン・イルト大佐が大将を務める軍勢が布陣している。
対するもう一方はスタリオン皇国に従属する旧グリティシア王国の貴族ガゼット・オルドが大将を務める軍勢が布陣している。
ガゼットは高い忠誠心からグリティシア国王の側近として仕え、軍事参謀を務めるほどの知将として知られていた。
1週間前には裏切るやり方で暫定政府軍を破り勢いに乗っている。
ガゼット軍の兵士カッシュは、双眼鏡を覗きながらオルデオ軍の様子を観察している。
「開戦までもう少しってとこか」
「おーい。どうだカッシュ?」と、マッシブな体型に肩と顔の半分にタトゥーの入ったスキンヘッドの男グラッゼが声を掛ける。
「数ではほぼ拮抗。いい勝負だ。だけどこっちにはスタリオン皇国の援軍がやってきて奇襲をかける。こっちの勝利は硬い」
「それはよかった」
「楽勝だ。だけどここでも最前線に立たされているのは旧グリティシアの兵士ばかりだ」
「どの国も旧グリティシアの領主たちに本領安堵をエサにして引き込んでいるからな。自分たちの国の兵を損なわず領土が手に入るんだからおいしいもんだ。
聞いたか? ここの大将もかなりクセ者のようだぞ。裏切りを繰り返しては少しでも好条件の本領安堵を約束する勢力についているようだ。その甲斐もあって領地が徐々にでかくなっているそうだ。
完全に3国を手玉にとっている。ガゼット公は旧グリティシアの貴族の中でも国王への忠誠心が高いと聞いていたが、結局は自分の利益のことしか考えていない。旧グリティシアの忠誠心とはなんなのかね」
「知ったこっちゃねぇ。俺たちだって傭兵だ。旧グリティシアに忠誠どころか、何の縁も持ち合わせちゃいない。稼げる場がほしくてハイオネスクからこっちに流れてきただけだ。
俺らだって傭兵ギルドで、この戦で兵士を募集しているところを見つけてやってきただけだろ。現場が違えば敵同士のときだってある」
カッシュは、傭兵に仕事先の戦場を案内する施設"傭兵ギルド"の掲示板に貼られていた張り紙に目が止まり、この戦場にやって来ていた。
「まったくだ。まさかこんなところで戦場のバウンティハンターカッシュに出会えるなんてな」
「俺は、賞金首のオルデオン・イルトの首が取れればそれでいい」
カッシュはオルデオン大佐の顔写真が入りで日本円で5000万相当の金額が記載されたポスターを握りしめる。
「まさかこんな最前線に陣を構えてくれるとは。賞金は俺の手の届くところにある」
カッシュが覗く双眼鏡から、陣の外に出て戦場の様子を伺うオルデオン大佐の姿が見える。
***
オルデオン大佐の陣
参謀とガゼット軍の様子を観察するオルデオン大佐。
彼が着る白い軍服には30以上の勲章バッチが取り付けられている。
「まさかこれだけの兵を集めるとは、ガゼット公も侮れぬな」
「金をばらまいてたくさんの傭兵を雇った聞いています。しかもその金は攻めてくるスタリオン皇国軍撃退のための砦を築くためだと言って暫定政府軍から調達し、その直後に
裏切ってスタリオン皇国側につき、暫定政府軍を攻め破ったそうですからガゼット公は噂以上のクセ者です」
「さようか」
「それでも急ごしらえの部隊には変わりはありません。連携の面でほころびが出ます」
「ならば部隊の練度で勝る我らが勝たないといけないな」
「お気をつけ下さいませ大佐。傭兵の間で大佐に多額の賞金が賭けられていると聞いています。やつらがどんな手を打ってくるか。大佐にはもっと後方に待機して頂きたい」
「心配ありがとう。私はこの目でこの戦の行く末が見たい。ここで控えさせてくれ」
***
「あんたにはなんの恨みも憎しみもないが賞金のためだ。死んでもらう。おいグラッゼ! 防具はつけたか?」
「おうよ! もちろんだ。おすすめのジャンク屋の防具中々だな」
「人型機動兵器の残骸で作った鎧だぜ。並大抵の武器じゃ貫けない。戦艦一隻でもないとな。それに俺の大剣。これも人型機動兵器のナイフ武器を俺がもちあげられるサイズにまで
改造したものだ。もともと人型機動兵器の硬い装甲を切り裂くための武器だぜ。人に使えば殺傷能力なんて比じゃない」
「そりゃあすげえな」
「おっ! お2人さんやっているね」と、同じく傭兵の小柄な青年ジャックがやってくる。
「お前も万全だな。ジャック」
「へへへッ」
***
ガゼット公の陣
スタリオン皇国から届いた書状を読んで焦燥するガゼット。
「スタリオン皇国内でテロが発生してこちらに兵が出せないと書いてある」
「なんですと!」と、驚く側近たち。
「如何いたしますか親方様? このままソラトリア国に降るのも手かと」
「バカを言え。ソラトリアとは一回縁を切っている。せっかく取り戻した領地を取り上げられてはかなわん」
「ですがこのままでは⋯⋯」
ガゼットたちの頭上に"ピュン"という音が聞こえてからしばらくして"ドゴーン"と、爆発音が聞こえる。
「砲撃がはじまった!」
***
「先ずはおいらが様子をみるよ」と、ジャックは積み上げた土嚢の前に寝そべり小銃を構える。
ジャックは土嚢との隙間から顔を覗かせると敵陣から"ピュン"と飛んできた銃弾が彼の右眼を貫く。
そして銃弾の威力によってジャックの体は十数メートル飛ばされる。
固まるカッシュとグラッゼ。
***
世界皇帝の屋敷
「グリティシア王の側近ガゼット・オルドに目をつけたのはよかった。戦況も優勢であったからハンデとしてもちょうどいい。だが、ワシの方が上手だ」
「スタリオン皇国のテロはあなたが?」
「もちろん。手始めの金でテロリストを動かした。これで戦況の流れが変わった。どうじゃ? このゲームの醍醐味がわかってきただろ」
「なるほど。単純に手駒を補強するだけじゃないと」
「それだけじゃない⋯⋯」
***
ジャックに駆け寄るカッシュとグラッゼ。
ジャックの頭部は跡形もなく吹き飛んでいる。
「(カッシュ)おいどうなってんだこれ⋯⋯」
「(グラッゼ)人型機動兵器の装甲で作ったヘルメットつけてたよな。こいつ⋯⋯」
もう一発"ピュン"と銃弾が飛んできてカッシュたちの近くに着弾ーー土嚢が弾け飛ぶ。
そこから次々に銃弾が飛んできてあちこちに着弾しては爆散。
地面がえぐれた跡まで残っていて、大砲に匹敵するほどの威力がある。
***
オルデオン軍の兵士は最新鋭のライフル銃を構え発砲している。
「(世界皇帝)人型機動兵器が使うライフル銃を人が扱えるサイズにまでダウンさせた兵器を提供した」
戦場の様子を見つめるオルデオン大佐。
「これが最新兵器の威力⋯⋯政府に報告して導入を決定しよう」
***
世界皇帝の屋敷
「理解してきたところで、おまえは何を賭ける?」
「では、私はこれを」
グールドが提示したものに眉をひそめる世界皇帝と唖然とする参加者たち。
地図を見つめるグールドの瞳が虹色に光っている。
***
「クソッ。本隊の状況はどうなっている」と、カッシュはイヤホンに電源を入れる。
カッシュは、戦況が悪くなるとよく傭兵が切り捨てられること詳知しているため、本陣に盗聴器を仕掛けている。
***
ガゼット公の陣
「ここは一旦お退きくださいガゼット様!」
「ダメだ! このままグリティシアの領地を奪われるわけにはいかない」
***
「おいおい、マジかよ」
***
「ですが、このままでは!」
「私は卑怯者の汚名を着せられようがグリティシア王国の旧領回復の為に戦ってきた。ここで手放すわけにはいかない。いつかアルテミア様がご帰還なされたときのために国を残さなくてはならない。
グリティシア王国再興のためにも私は戦う。武器商人に依頼した最新鋭の武器がもうじき届く。勝機はまだある!」
***
「⋯⋯やれやれ」
「カッシュ逃げよう。縁もないところで戦って死んでも仕方ない」
「いや、俺は戦う。忠義ってのはめんどくせぇからこんな稼業をしているが俺にも矜持がある」
「何を言っているんだカッシュ? この戦は負けだ」
「ああ、たしかに歴史的大敗かもしれない。死ぬかもしれない。だけど賞金首が目の前にいるんだ。ここで逃げては俺のふたつ名が泣く」
「バカか⁉︎」
「俺は金のために生きている。その金が手に入らないなら死んだも同じ。だったら戦って死んで名誉くらいもらってやらぁ!」
飛び出していくカッシュ。
飛んでくる銃弾の中を突っ走っていく。
「俺は、強い武器と俺自身の腕を糧に戦ってきた。てめぇらただの駒に格の違いを見せつけてやる」
カッシュは大剣を振り払い、銃撃隊の兵士たちを一太刀で両断する。
「どうだ」と、ニヤリとするカッシュ。
カッシュの左肩に銃弾が被弾する。
「!」
***
「ガゼット様! 武器が届きました!」と、兵士が駆け込んでくる。
「まことか!」と、運ばれてきた大きなケースに駆け寄るガゼットたち。
開封した兵士は「なんだこれは⁉︎」と、驚く。
ケースの中には白い布と長い竿のようなものが納められている。
「白旗?」と、騒然とする兵士たち。
***
「何やってんだ」と、立ち上がるカッシュ。
「ああいう連中は詐欺師のような奴らだ。ここへきて何つかまされてんだよ。しかも白旗ってどんなブラックジョークだよ」
カッシュが見上げた先にオルデオン大佐の姿がある。
カッシュは再び大剣を構え走り出す。
「大佐。見慣れぬ武器を持った男がこちらへ向かってきます! お下がりください!」
「待て。私は迎え撃つ」
「何を⁉︎」
「戦士が1人単騎で向かって来ているのだ。死を覚悟している。手向かわねば無礼というもの。戦士の恥だ」
「あの者、どう見ても金に目が眩んだ傭兵。かような士道持ち合わせているとは思えません」
「かまわん」と、オルデオン大佐は馬に跨り、剣を抜いてカッシュの方へ向かって走り出す。
走るカッシュの全身の鎧は銃弾が擦るたびに変形していく。
カッシュはその衝撃に耐えながらひたすら走っている。
***
ガゼットは白い布を手に取り確認していると模様が描かれていることに気づく。
「これは⋯⋯」
***
対面するオルデオン大佐とカッシュ。
「うぉおお!」と、雄叫びをあげ走るカッシュ。
オルデオン大佐も馬を叩いて加速する。
すれ違いざまに2人の剣先がぶつかる。
"キンッ"という鉄の音ともにカッシュの剣が手から離れ地面に転がる。
その場に大の字で倒れるカッシュ。
「チクショウッ!」
オルデオン大佐はカッシュにゆっくりと近寄る。
「よくやったな」
疲れきった表情のカッシュは空を見上げながら息を整えるのが精一杯。
「負けだ⋯⋯」
その時、オルデオン軍の兵士たちが次々に持っていたライフル銃を捨て逃げ出す。
オルデオン大佐は、ガゼット軍の方に振り向くと、いくつもの白い旗がはためいている。
その白い旗には、グリティシア王国の紋様が描かれていた。
この戦場にいるほとんどは旧グリティシア王国の兵士たち。
王国の旗に攻撃することは国王に仇なすこと。
それをわかっている兵士たちは、戦意が喪失し、その場に武器を捨て泣き崩れる。
「どうやら負けたのは私のようだ」
無線から少女の声が響く。
「あ、あー、聞こえますかみなさん? 私はアルテミア・グリティシアです。私は訳あってレオノール国に来ています。
しかしながら、ここでレオノール国とも離れなくてはいけません。せっかくグリティシア王国の近くに来たからみなさんにあいさつせねばと
メッセージを送ります。私はまもなく夫火条ツカサを新たな王として連れて帰ります」
「(火条ツカサ)おい、何言っているんだアルテ!」
しばらく「よせ!」「何するんだ離せ」と、生活安全部のメンバーの声が混じる。
「私は宣言します。この新たな王とともに新生グリティシア帝国を建国致します。それまでの間、どうか国をお護りください」
***
平原に大きなアンテナが設置されている。
傍らに立つヴィダルファングが、両軍の無線を傍受してこの音声を流していた。
「恩は返した⋯⋯」と、ヴィダルファングはケガを負った日、アルテに手当てしてもらったことを思い返していた。
音声は、生活安全部がレオノール国を去る直前、「せっかく近くまで来たんだ」と、グールドの提案で残されたものだった。
***
ガゼット軍やオルデオン軍に所属する旧グリティシア王国の兵士たちも「新生グリティシア帝国バンザーイ!」の声をあげる。
カッシュは声をあげて笑う。
「どんなに強い武器やどんなに強い腕がなくても、戦争に勝てるんだな。戦争の神様ってのは分からんもんだ」
***
世界皇帝の屋敷
「戦争の神の正体が金の欲に塗れた人間とは皮肉なものだ」と、ほくそ笑むグールド。
「錦の御旗とは⋯⋯」と、悔しい表情を見せる世界皇帝。
参加者たちも騒然となる。
「やがてこのうねりは大きくなる。ひと月後彼らは暫定政府を倒し新生グリティシア帝国を建国する。
大義を失ったスタリオン皇国、ソラトリア国、イルミテ公国の3ヵ国は手を引かざるおえなくなる。
そして戦争は終わる」
「どこの馬の骨とも分からないやつにこのワシが負けるとは⋯⋯」
SPたちが駆けつけてグールドに銃口を向ける。
「私をどこの馬の骨と罵るのならば、それはあなた自身を否定することになりますよ」
「それはどういう意味だ⁉︎ 貴様がヒデタダの子ではく、星帝とは血の繋がらぬ兄弟であることは存じているぞ!」
「私の母の名はキサヒメ」
「キサヒメ⁉︎ それはワシの妾が産んだ娘の名⋯⋯高天原に奉公してたと聞くが⋯⋯! 貴様は何者じゃ」
「あなたの孫ですよ」
この事実に参加者たちもヒソヒソ話をはじめる。
「たしか世界皇帝は、若君が早逝されて以降、一族に男児が生まれていない⋯⋯」
「ということはグールド・グレモリーが次代の王」
***
首都国・ドルスの都心の街頭では配られる号外の新聞や大型モニターのテレビからグールドのニュースが流れてくる。
「グールド・グレモリー氏が次期星帝選挙への出馬表明しました。同時にグールド氏が発表した経済政策は
"グールノミクス"と市場で高く評価され株価が急反発しています」
***
総理官邸・総理執務室
執務机の椅子に座るグールド。
「さて、生活安全部を潰そうか」
つづく




