第4話「ロールアウト」
ウルヴァに案内され、キサヒメ学園の地下深くへと続く細い通路を
歩く、火条ツカサ、直江尊、ラルフ、アルテの生活安全部4人。
通路は薄暗く、スマートフォンのライトで足元を照らさないと
つまづきそうな程だ。
しばらくして広い空間に抜けると4人は驚いた。
目の前では、ライドファイヤーなどのアビリティマシンの
整備や修理がアーム式のオートロボットによって行われていた。
ウルヴァは口髭をなぞりながら、自慢気に話す。
「私が用意した地下の秘密基地だよ。普段はアビリティマシンをここに格納しているんだ。
ライドアビィオンが発進する時なんかは、学園の裏山を真っ二つにしてそこから発進する」
「マジかよ!おっさん。他にはどんな仕掛けがあんだ」と目を輝かせるツカサ。
「その気になれば、校庭や校舎からだって出せるよ」
男の子のハートを擽る仕掛けにツカサは終始興奮を隠しきれない。
***
これだけの技術力があれば、祖国を取り戻すせるのではと
地下基地の設備を食い入るように見るアルテ。
「なあ、本当に良かったのかよ。アルテ?」
「なんのことですか?ツカサ」
「名前、俺と同じ名字にして本当によかったのか?」
ツカサの問い掛けに、アルテは、その場に三つ指を立てて頭を下げる。
「不束者ですがよろしくお願いします」
「は?」
「ツカサ君、言い忘れていたんだけど、アルテ君が皇女という立場を捨て、名を捨てたときに
国籍を取得するため、ツカサ君と結婚したことにさせて頂いたよ」
「はぁ⁉︎」
「自動車の免許証を偽装するに当たって君の戸籍上の年齢は20(はたち)ということに
させて貰っているからね」
「おい、ちょっと待てよ」
「まぁ、私の娘という手もあったけど、歳が離れ過ぎていて恥ずかしい。周りの目も
あるし」
「俺の周りの目はどうなるんだよ!だからって、なんで結婚なんだよ⁉︎他に方法はなかったのか⁉︎」
「月代先生の妹とも考えたんだけど、戦場カメラマンの弟さんがいらっしゃるし。
迷惑になってしまうからね」
「だから俺の迷惑はー‼︎ おっさんの犯罪の片棒をどんどん担がされているじゃねーか」
「こう見えても若い頃は、おっさんモテてたんだよ。2人の女性との間に子供儲けちゃって」
「知らねーよ!」
「意外と細かいことうるさいんだね。ツカサ君は、頭の方が弱そうだから
利用しやすいと思ったんだけど、めんどくさいなぁ。おっさんの見込み違いだったよ」
「本性現しやがったな、クソジジイ!」
「迷惑・・・迷惑なんですね、ツカサ」と、アルテは目に涙を潤ませる。
「いや、それはその・・・・」
「私は、ただ、この国で助けて頂いた恩人であるあなたと同じ名を使わせて頂けたらとの想い出・・・・」
と、手で顔を覆い泣き出すアルテ。
「決して下心ややましい感情はなくて、どんな方法であろうが戸籍を手に入れた今、生活安全部を使って
祖国を裏切った者達の殲滅作戦を企てようとか、いっそのこと、徳川国際政権を打倒して私が星帝になってやろうとか
、いざとなればツカサを首謀者に仕立て上げようとかこれぽっちも考えておりません」
「(何か漏れてる、聞こえちゃいけないものが漏れてる)・・・」
「受け入れるんだ、ツカサ君。例えそれが罪だとしても、たったひとりを救うことができるのなら
それは正義だ」
「お、おう・・・って何言ってんだおっさん⁉︎」
「君にもやがてこの言葉の意味が分かるときが来る。とにかくおめでとう!」
「ツカサ!」と、とびきりの笑顔でツカサに抱きつくアルテ。そしてウルヴァ。
「ええ〜」
何をやってんだと、3人のやり取りを呆れて見ている、尊とラルフ。
「ラルフ、お前のアビリティマシンは用意されているのか、ウルヴァのじいさんに聞いたのか?」
「ああ、いらないって断った」
「そうか・・・えっ⁉︎ なぜだ! この間のロボットと再び戦うようなことがあったらどうするんだ」
「僕は、アビリティマシンのような人間と一体化して起動する先進的なロボットはロボットとして
認めていない。ロボットというのはやっぱりコックピットに座って自分で操縦してこそロボットなんだ」
尊は、機械を見るとブツブツつぶやくラルフの姿を何度か目撃したことはあったが、2行以上のセリフをはっきりしゃべる姿に目を丸くする。
「僕に言わせれば、アビリティマシンは邪道だね。てなわけでジャーン!」
制服のシャツをめくり上げ、お腹からタブレットPCを取り出すラルフ。
「桐川コーポレーションの最新人型機動兵器のテストパイロットに当選したんだ」
桐川コーポレーションは人型ロボット兵器を開発、販売する軍事企業だ。
ラルフは、ここ1ヶ月余り、授業中も憚らず隙あらば応募ハガキを書き続けていた。
その枚数は1万枚を超えていた。
「・・・お前、ずっと書いてたもんな」
***
3日後
桐川コーポレーション特設バトルコロシアム
桐川コーポレーション本社の隣に併設されている。
かつてサッカースタジアムとして利用されていた施設を
改築したものだ。観客は4万人収容できる。
選考されたテストパイロットはラルフを含めて12名。
それぞれ自分のピットで人型機動兵器=AGX-Ⅰ(ワン)と伴に待機している。
ラルフのピットでは、ウルヴァ、サヨ、ツカサ、尊、アルテがメカニックとして
騒がしくラルフをサポートしている。
観客席にはまばらにスーツ姿の男たちが、製品案内のカタログを手に今かと
待ちかねている。
その中に林田とピンク色の長い髪をツインテールにまとめた少女フェリス・グレモリーがいる。
「ずいぶんとギャラリーがいらっしゃいますのね」
「国際政府軍の関係者に幹部、競合する軍事企業の方も、注目度は高いようですね。
何せ機動性が高いにも関わらず燃費が良く、徹底的にムダを省き、信じられないほどにコストが抑えられたと
ありますから。デザインもシンプルにまとめられてますね。まぁ、桐川博士らしいですが」
「まるで興味がありませんわ」
「何はともあれ、我々クリエスルから独立してはじめての製品お披露目お手並み拝見と致しましょう。社長」
フェリスの視界に桐川トウカの姿が写る。
「相変わらず、いけ好かない女。後見人のお兄様の顔に泥を塗るような真似したら許しませんわ」
「来ていたのか、フェリス」
グールド・グレモリーが観客席の階段から降りてくる。
「お兄様⁉︎」
「グールド様!」
「ご公務の方はよろしいのですか?お兄様 」
「こっちの方が大事さ。なんせAGXシリーズが国際軍に正式配備されれば、スメラギ国の国際的地位は飛躍的に向上する。
華僑院政権が成し得なかった、国際政府への閣内入りも夢じゃない」
「あらま、お兄様は総理になられるおつもりですわ」
「おいおい、どこに記者がいるか分からない。安易なことを言うもんじゃないよフェリス」
「ごめんなさい。お兄様」
「フェリスにも負担を掛けるな」
「大丈夫です。任せて下さいお兄様」
花火の音が場内に鳴り響く。
「そろそろはじまるようですね」
お披露目のプレゼンは、AGX-Ⅰ同士を闘わせ、トーナメント制による勝ち抜き戦で
行われるものだ。
優勝したテストパイロットには、優勝賞金が贈られ、今後は桐川コーポレーション専属のテストパイロットとして
契約が出来る。
今回、テストパイロットに当選したのは、元格闘家や退役軍人などの猛者ばかりだ。
***
第1回戦ラルフの試合が始まる。
2機のAGX-Ⅰがバトルステージに入り向かい合う。
ルールは、互いのAGX-Ⅰの頭部に付けられた的を先に破壊した方が
勝ちとなる。
両腕を前に出して、ファイティングポーズをするラルフ機と相手機。
相手機の黒人パイロットは、余裕の笑みを浮かべ、ラルフ機に襲い掛かる。
相手機から放たれる右ストレートをすばやく交し、低く前屈みの姿勢を取るラルフ機。
黒人パイロットは、映し出されるモニターから突然、ラルフ機の姿が消え躊躇する。
その隙にラルフ機は、相手機の腹部に1発浴びせ、怯ませる。
「僕のイメージした動作がスムーズに実行される、凄い! まさに人馬一体」
ラルフは、右足のフットスイッチを力強く踏み込んで、ラルフ機からハイキックが繰り出される。
瞬く間に相手機の頭部の的が破壊され、ラルフの第二回戦進出が決まった。
ピットのツカサ達は歓声を上げる。
***
桐川コーポレーション管制室
大型モニターが3台設置され、AGX-Ⅰの試合が映し出されている。
モニターの前には、試合内容を観察する桐川とパソコンに向かい送られてくるデータを
処理している白衣を着た科学者の男女たちがいる
「第1回戦全て終了しました」
「では、実験を遂行する。AGX-ⅡOSインストール!」
「インストール!」
桐川の宣言に、科学者達は一斉に答え、パソコンに入力作業を開始する。
***
第2回戦に進出するテストパイロットと機体は各陣営のピットで整備をしながら待機している。
コックピットのラルフは、サヨから水筒を手渡され水分を補給する。左肩についた装甲の傷をモニター越しに確認して
AGX-Ⅰの応答速度にやや不満を感じる。
「僕が相手の攻撃を交わすために操作してから、実行するまでに0.4秒掛かった。
僅かながら相手の攻撃が左肩をかすった・・・これがミサイルやすばやい攻撃なら確実に被弾する。
第2回戦からは武器を使用する。センサーの感度を上げるしかない。とにかくハードはウルヴァさんに
指示した通りに調整して貰ってこっちはOSの方を改良するしかない」
ラルフはモニターからコンソールを立ち上げて、すばやいタイピングでプログラミングを書き込む。
***
各陣営のAGX-Ⅰの目が赤く光って突然動き出す。
突然のことに驚いたパイロットたちは、必死に操縦レバーを操作するが制御が効かない。
コックピットから脱出を試みるパイロットもいるが、ハッチが開かず
完全に閉じ込められている。
「何が起きているんだ?」
ラルフは自身の機体を起動させる。
暴走をはじめたAGX-Ⅰはハンドガンを取り出し、観客席側に向かって発砲する。
凄まじい程の衝撃と振動に、観客たちは悲鳴を上げ一斉に逃げ出す。
「落ち着いて下さい。観客席は電磁バリアで守られています。だから安心してゆっくり避難して下さい」
グールドの言葉に落ち着きを取り戻した観客たちは、列を作って避難をはじめる。
「林田、フェリスを頼む」
「はっ」
「お兄様は?」
「私には責任がある。事態の収集に努めるよ」
グールドと林田は、バトルステージ中央に目をやると
ツカサ、尊、アルテの姿がある。
「あれはキサヒメ学園の制服・・・」
ツカサ、尊、アルテはそれぞれの変身アイテムをかざして
アーマードギアの姿に変身する。
「そうですか、彼らが」
林田はグールドと顔を見合わせニヤリとする。
***
ハンドガンを乱射する機体を取り押える、ラルフ機。
管制室の桐川たちは暴走せず動くラルフ機に驚く。
「なぜ、あの機体だけに変化が表れない」
「桐川博士、3番のパイロットは、OSのプログラムの書き換えを行っていたようです。
それでAGX-Ⅱのアップデートが完了していなかったのかと」
「あのOSをこの短時間で⁉︎ パイロットは何者だ?」
「それが・・・高校生です」
ラルフ機は背後から来た2体にハンドガンで撃ち込まれ、その場に膝をつき機能が停止する。
「クソ!」
ラルフは、操縦レバー動かすが、反応がない。
ライドファイヤー、ソードライダーが駆けつけて、暴走するAGX-Ⅰに応戦する。
「大丈夫か?ラルフ」
「ああ。ありがとうツカサ」
ラルフはコックピットを飛び出す。
「1回戦で敗退した機体がどこかにあるはず・・・」
ラルフは戦える機体を探すため、観客席下の通路を走って
桐川コーポレーション本社棟に向かう。
通路を進んで行くと扉が開いている部屋がある。
中に入るとそこは格納庫になっていた。
そこには、AGX-Ⅰに酷似した機体が一機ある。
AGX-Ⅰよりシャープに仕上がったその機体はまだ完成していないのか全身のあちこちが
ケーブルで繋がれていた。
ラルフは、さっそくコックピットに乗り込み、機体を起動させる。
モニターにはAGX-Ⅱと表示される。
コンソールを立ち上げ機体の仕上げ作業をはじめる。
「やはり後継機か。メインカメラの視野角も広がって、俊敏性も問題無い。
AGX-Ⅰで感じた不満点がすべて解消されている」
機体の状態を確認しつつ未完成のプログラムを書き込む。
すると、「そいつはじゃじゃ馬だ!」と、女性の声が聞こえてくる。
声の主の方を見るとそこには桐川がいる。
ラルフは、専門誌の特集記事や関連本を集めるほど
彼女に憧れ尊敬している。今日は会えることを期待していた、
その人物が目の前に表れ、緊張で声を失う。
「その機体は、何人ものテストパイロットが乗り込んだが、
誰一人としてまともに操縦できなかった。貴様は操縦できるか?」
腹の底から声を押し出し問いに答えるラルフ。
「もちろんだ!ロボットは動かすんじゃない。持っているスペックを引き出すんだ!
僕はこいつを理解した。だから戦える」
「フッ、やってみろ。お前がこいつのお眼鏡にかなうパイロットかどうか試してみろ」
ラルフはコックピット内のあらゆるスイッチを押して機体を完全に起動する。
全身に繋がれたケーブルは外れ、機体の目に光が灯る。
「お前の全てを引き出してやる!AGX-Ⅱ」
正面のゲートが開きカタパルトが出現すると、
「ラルフ、AGX-Ⅱ出る!」
ラルフが操縦レバーを引いて一気に射出される。
***
コロシアム内を破壊して周るAGX-Ⅰ。
それを止めようと戦う、ライドファイヤーは首を掴まれると、軽々と持ち上げられ、
壁に向かって投げ飛ばされ、叩きつけられる。
「なんてパワーだ・・・」
その時、コロシアム上空にAGX-Ⅱが颯爽と飛翔する。
AGX-Ⅱの姿に「真打ち登場か」とこぼすグールド。
AGX-Ⅱは右手にビームソードを取り出し、左手にバスターライフルを構える。
そして、瞬きをする間も無いスピードで駆け抜け、4機のAGX-Ⅰの手足が飛ぶ。
目一杯、操縦レバーを引くラルフ。
「フライトモード!」
AGX-Ⅱはバスターライフルを機首にして飛行形態に変形する。
太空に向かって真っ直ぐ上昇するとある程度の高度から、
機首を地上に向けて、残る一機目掛けて下降する。
シューティングアーマーに変身したラルフは、
ターゲットを捉え、「この一発の辺りどころによっては大爆発を引き起こしかねない。
安全に機能を停止させるにはバックパック辺りを狙うしか無い。1mmでもズレればアウト。
だが、AGX-Ⅱの射撃制度は0.1mm。シューティングアーマーの射撃補正をかければ
誤差は0.01mm!」
スイッチを押すラルフ。
機首部のバスターライフルから放たれた一発は見事ターゲットのAGX-Ⅰのバックパック
を貫いた。
機能を停止するAGX-Ⅰ。
「まさに、戦場に舞う天使の姿をした破壊者・・・」
グールドの前に桐川が現れる。
「桐川コーポレーションが社運を賭けて発表した製品は暴走を起こし、あわや観客の命を奪いかねない
事態を招いた、大失態・・・とは思っていないようだな」
「真の発明は戦いの中からしか生まれない。AGXシリーズのOSは戦闘戦闘データを蓄積することで
学習し成長するプログラム。今回の戦闘データで見事AGX-Ⅱをロールアウトすることができた。
破壊されたAGX-Ⅰのパイロットにケガ一つないことで高い安全性を証明できた。ギャラリーの反響も大きい。
AGX-Ⅱのお披露目は大成功だ」
「そういう考え方は嫌いじゃない」
AGX-Ⅱの足元ではしゃいでいるラルフら生活安全部一同を見下ろすグールドと桐川。
桐川の肩にそっと腕を回し抱き寄せるグールド。