第29話「内閣不一致」
ドルス国際評議場 4F 国際軍幹部会議室
官僚から報告を受ける国際防衛大臣レオス・アルベルト。
「人質が消えただと⁉︎」
「はい。人質はおろか乗務員、同乗していたはずの帯同者、あわせて130人。パイロットの機長以外全員です」
「どうなっているんだ!」と、レオスは拳でテーブルを叩く。
何かを発見した別の官僚が封書を持って来る。
「大臣、親書の中にレオノール国新政府の組閣名簿が同封されていました」
手渡された閣僚名簿を確認するレオス。
「この首相に名を書かれているハバード・ロイジャーというのは何者だ?」
ラドルフ大佐は"ハッ"とする。
「ハバード⋯⋯」
「知っているのか?」
「ハバード・ロイジャーは3ヶ月前、レオノール国で消息を絶った国際軍の兵士です」
「⋯⋯」と、レオス、国際警察機構長官グールド・グレモリー、国際政府官房長官 渡辺ノブサダらは言葉を失う。
***
とあるビジネスホテルの一室
窓際の椅子に腰を掛けているレイラ・レオノール。
彼女の前にひざまずくハバード・ロイジャー。
「姫様、なぜグールド・グレモリーに会おうなどと?」
「私なりに考えた結果です。民の幸せを一番に考えたとき、政情が安定すること。そして各国から支援を受けることです。
古くから友好関係にあるスメラギ国の協力が得られたならば、それも叶う。
そのためには、先ず私が身を引くことが最善たると判断しました」
「それは違います。あなたがレオノール国の国王となり、民の希望となられることこそが民の一番の幸せ。私たちにお任せ下さいませ」
***
ドルス国際評議場 国際軍フロア 控え室
「手続き終わったわ。自由にしていいわよ」と、フェリス・グレモリーが入ってくる。
フェリスが室内を見渡すと天影台アカネ、氷城冷菓、泊馬騎士の3人しかいない。
「あなたたち減った? 減りましたわよね。⋯⋯勝手にするのはいいけど無茶だけはしないでほしいですわ」
***
ドルス国際評議場 4F 直江カネツグ執務室
入ってくる直江尊、火条ツカサ、織田ラルフ、火条アルテの4人。
「とんでもないことに巻き込んでしまったな」と、直江カネツグが出迎える。
***
回想
ドルス国領空
飛行するスーパーソードライナー、ファイヤーグリフォン、飛行形態のAGX−Ⅲ、ジェットモードのグランドザウラーは旋回して進路を変える。
「(尊)大佐の命令とあらばどこへでも駆けつけます。同じ頃、理事長のところにもグールド・グレモリーの秘書からメールがあったようですが⋯⋯」
グランドザウラーに搭乗しているフェリスはスマホを確認している。
***
ドルス国際評議場 4F 直江カネツグ執務室
「(ツカサ)俺たちヒーローですから」
「頼もしいな。君たちが尊の友達だな」
「大さ⋯⋯いや、父だ」
「はじめまして」と、あいさつする生活安全部の3人。
「よく来てくれたな(魔王に元お姫様そして化物。実におもしろい組み合わせだ)」
「事件のことについて教えて下さい。人質になっていたのはレオノール国の姫だとか? だけど警察機構の特殊部隊が乗り込んだ時には人質の姿はなかった」
「人質だけじゃない⋯⋯」
***
回想
レオノール国政府専用機
銃を構えたNEXTAの隊員たちは、警戒しながら機内を探索する。
「(カネツグ)もぬけの殻だった。いるはずの乗務員、執事やメイド、お供の官僚、全員姿がなかった。パイロット1人を残してな」
コックピット内に踏み込んだ隊員に両手を上げるパイロットの機長。
***
ドルス国際評議場 4F 直江カネツグ執務室
「(アルテ)全員⋯⋯」
「気になる人物がいる。事件発生直前、レオノール国で消息を絶ったはずの国際軍の兵士があらわれて、ラドルフに辞表を出していった。てっきり殉職したものと思っていた」
「(尊)レオノール国とはいったいどのような国なのですか?」
***
同・4F 国際軍幹部会議室
林田誠一郎とヘイムダルの幹部は席を外し、国際政府の閣僚たちがぞろぞろと入って来て、円卓のテーブルに着く。
「(ノブサダ)経緯は以上です」
「(グールド)レオノール国の近況を」
「ハッ」と、国際軍の官僚は資料を手に説明をはじめる。
「レオノール国は、かつては産油国として栄えていた大国で近年は頼みの原油が枯渇。
天候による農作物の不作も続いて国民のほとんどは貧困にあえぐ状態だと伺っております。優秀な政治的指導者を失い、ハイオネスク地域国の合併話も持ち上がったことで
政府に不満を持つ勢力が一斉蜂起。治安は非常に悪い状態です」
「(ラドルフ大佐)そのため、国際軍は3ヶ月前、加盟国ではなくとも人道支援の大義名分のもとハバード・ロイジャー大尉を隊長とする部隊をレオノール国に派遣しました」
「ハイオネスク地域国の合併というのは具体的にどういった事業なのか教えて頂けますか?」と、グールドはレオスに尋ねる。
「ハイオネスク地域全体は産油国として栄えたが、それにも限りがある。そこに経済団体が介入して6ヶ国に工業団地を作った。とくにレオノール国の対面に位置する
隣国グルドラシル国が飛躍的に成長した。経済団体は経済活動を活発にしたいとグルドラシル国を中心とした合併を提案した。だが、"アレ"を持つレオノール国は強気に反発」
「"アレ"ですか⋯⋯」と、国際外務大臣ランザ・ハーキンが溢す。
「現国王は病で床に伏せっていて継承権のある王子はまだ10歳にも満たないため、摂政が政を仕切っていてる。その摂政がとくに反対をしている」
「(ラドルフ大佐)その摂政は"アレ"がある限り我々が手出しできないと踏んでいます。おそらく合併などではなくハイオネスク地域を実行支配することがレオノール国の目的。
20年以上前から軍事開発に力を入れているのもそのためです」
「"アレ"とは"地球の記憶"のことですかな?」
「!!」となる閣僚たち。
「なッ! 軽々とその名を」
「レオノール国とは、我が国が高天原と名乗っていた頃からの付き合いです。当然存じております」
「クッ、"アレ"だけでなく高天原までも口に」
「(ノブサダ)グールド長官、発言には注意して頂きたい」
口をつぐむグールド。
***
同・ 4F 直江カネツグ執務室
「(カネツグ)レオノール国の内情は以上だ」
「(アルテ)かつておじい様から聞いたことがあります。レオノール国はとても裕福でそれは素晴らしい国だったと⋯⋯それもかつてのことだったのですね」
「(ラルフ)だけど、消えたお姫様は何者なのですか?」
「(カネツグ)⋯⋯」
同・4F 国際軍幹部会議室
1人の官僚が慌てた様子で入ってくる。
「ご報告致します。先ほど、レイラ・レオノール様を乗せたレオノール国の一団の車列が星帝に謁見するためこちらに向かっているとの情報が入りました」
「(レオス)なんだとッ!」
「(ノブサダ)どこからの情報だ?」
「ハッ、レオノール国首相ハバード・ロイジャーと名乗る人物から内閣府に通達があったようです」
「(ラドルフ大佐)行方をくらませた人質がこっちに向かっているだと?」
「(レオス)いったいどうなっているんだ⁉︎」
巨大モニターに高速道路を走る30台の黒塗りの車の一団が映し出される。
国際文部大臣イルタ・ハウザが口を開く。
「レイラ・レオノール様とはいったいどのような人物なのですか?」
「(レオス)先代国王の孫娘だ。王位継承権のある王子とは従兄弟関係にある」
「(イルタ)ずいぶんと国民に慕われているようだが」
「(グールド)確かに、何かの意思によって担がれているようにしか見えないな」
「(レオス)外務大臣もレオノール国について詳しいでしょう」
「(ランザ)レイラ・レオノール様は、慈善活動に力を入れていて飢餓や病気に苦しむ国民たちに手を差し伸べています。そのため国民からとても慕われています。
そして19歳とは思えぬほど聡明な方でおられる。政府に不満を持つ勢力からも新たな国主にと推す声が高い。
故に彼女の存在が国民感情を煽っているのは確かです。このまま彼女が存在し続ければ争いの長期化が避けられません。我々国際政府が目指す全世界の恒久和平にも大きく影響します」
「(レオス)ここは世界の平和のためにもお隠れになって頂いた方がいいな」
「(グールド)殺せと?」
「致し方あるまい。官房長官ご判断を」
「待ってくれ。彼女を国王として認め、我々の一員とする選択肢がまだ残っている」
「言ったはずだ。途上国の姫を合併国の代表にするわけにはいかない。ハイオネスク地域全体に火種を抱えることになるぞ。政情をムダに混乱させるだけだ!」
「レオノールの王家は、近代、途上国であっても神の系統だと聞く。それだけでも代表にふさわしいと思うが」
「神の血をひいているからと言って国主になれるなんてそんな時代じゃないだろ」
「(ラドルフ大佐)こうしては如何でしょう。虫ほどの超小型ドローンを使い、毒で車中のレイラ姫を病死とする。マスコミには悲願を目の前に散った悲運の姫と書かせて、
レオノール国内の合併を容認する勢力への支持を高めてみるというのは」
「(レオス)官房長官、ご判断を」
「(グールド)姫を生かしたまま利用できる手段があるはずだ」
「(ノブサダ)では、こうまとめる。レイラ・レオノールの国王宣下の申し出は棄却。こちらに向かっている車両の一団を国際評議場の敷地に入ることは認めない。
超小型ドローンの使用は許可する。政府発表はレイラ・レオノールが合併支持を表明するため、星帝との会談を希望。国際評議場に向かう途中での車内で病死。
彼女の意思を広めることを大義に全世界に発信し、ハイオネスク地域国合併への関心と支持を集める」
「(グールド)姫の意思とは異なる真実を作ってまで成したい平和とはなんだ?」
「(レオス)ここでの決定が真実になるんだ」
「どうしてグールド長官はあそこまで反対なされるんだ?」と、国際外務大臣のライザは隣に座る国際文部大臣のイルタに語りかける。
「姫と歳が近い妹君がいらっしゃるようだ」
「なるほど」
レオスとグールドの口論が続く中、ノブサダは席を外し、後方にある固定電話の受話器を手に取る。
***
同・星帝執務室
執務机の上に設置された固定電話の受話器を取る星帝 徳川イエミツ。
「私だ」
***
「星帝、緊急の閣議にてグールド・グレモリー長官が一人、反対なさっております」
***
「マサユキが⁉︎ 議題はなんだ?」
***
巨大モニターにイエミツが映し出される。
「その議案は、私は承認する。早く決議を」
「兄さん!」
「閣議は、閣僚全員による全会一致が原則だ。官房長官は、まとめ上げてくれ」
***
国際評議場に併設された国際軍施設のハンガーデッキ。
格納されたファイヤーグリフォン、スーパーソードライナー、ローズライダー、グランドザウラー、AGX-Ⅲを見上げる冠庭トオル。
隊長の シェル・ルミナーが「冠庭さーん。出動命令ですよー!」と、声をかける。
***
公園近くにある交番
警察官の制服に身を包む黒崎京馬は乗ってきた自転車を入口の前に停めていると、
「キョーマさん!」と、背後から声をかけられる。
キョーマが振り向くと、キサヒメ学園の制服を着たロード・スクリームの姿がある。
「ああ、今日だったな。ロード」
「本当に刑事じゃないんですね」
「その様子だとお前もまだ、高校生を続けているようだな。今、お茶を出すからそこに座って待っていろ」
「理不尽だと思いませんか?キョーマさん」
「何をだ?」
「フリーゲートブリッジ事件でキョーマさんとグールド長官の単独行動がラドルフ大佐の反感を買って問題視された。長官は3ヶ月の減給で、キョーマさんは服務規定違反として交番勤務に左遷」
「いいんだよ。またそのうちに戻れる」
「キョーマさん、グールド・グレモリーという男をこのまま信用していていいんですか? 俺はそうは思いません」
「あの人は俺たちに約束してくれただろ」
「警察を省に昇格させる。そのために刑事に誇りを持つキョーマさんから、刑事の立場を奪っていいんですか? 立土岐さんといい、これ以上、優秀な刑事を失うのは耐えられない」
「交番のお巡りさんも悪くないぞ。市民の安全と日常を守る。お前たち(生活安全部)と一緒じゃないか」
「キョーマさん⋯⋯」
***
国際評議場に繋がる道路
国際軍の兵士たちがバリケードを設置して道路を封鎖している。
前方から黒塗りの車の一団が迫ってくる。
上空には、トオルが操縦するAGX-Ⅱノーマル機がバスターライフルを構えている。
トオルはターゲットが表示されたモニターを見つめ感心する。
「なんて射撃精度だ。これなら確実に目標が乗った車だけを撃ち抜くことができる」
「冠庭さーん。威嚇射撃だけですからね。間違っても姫様の乗った車撃っちゃダメですからね」と、シェルから通信が入る。
「(グラップ・ロッズナ)頑張るでありますよ」
「(巻咲ミツハ)緊張してる? トオル」
「(シェル)みなさん、冠庭さんの集中の邪魔をしないで下さーい」
「うるさい」と、溜息をつくトオル。
***
国際評議場 4F 国際軍幹部会議室
巨大モニターに黒塗りの車の一団の映像が映し出されている。
車列の先頭から数十メートル先に白いラインが確認できる。
「いいか。先頭車両が白いラインを越えたら撃て!」と、ラドルフ大佐がトオルに指示を出す。
「国際軍は手を出すな。元々、私に会いに来たのだ。我々、国際警察機構が武力を行使せず、レイラ・レオノール様を出迎える」と、グールドは席を立ち、会議室の出入り口の方へ歩き出す。
「グールド長官!」と、ノブサダはグールドに歩み寄り顔を近づける。
「我々、国際政府の閣僚は常に世界の利となる最善を判断しなくてはならない。グールド長官が考えていることが正しいというのであれば盤面を覆してみせろ! (グールドの耳元で)さすれば我々の判断も変わる」
グールドは目を見開いてノブサダの目を見る。
ノブサダの本気の表情を見たグールドは、会議室を後にする。
***
スマホを耳に当て廊下を歩いてくるグールド。
「私だ。生活安全部の力を借りたい」
***
国際評議場に繋がる道路
先頭を走る黒塗りの車と白いラインまでの距離が50cmを切る。
トオルは標準を合わせてトリガーに掛けた指にゆっくりと力が入っていく。
その時、辺りから航空機のようなエンジン音が聞こえてくる。
音は次第に大きくなり、近づいてくるのが分かる。
集中が切れて「なんだ?」と、辺りを見渡すAGX-Ⅱノーマル機。
遠くの方から飛んでくるグレートファイヤーグリフォンが見える。
グレートファイヤーグリフォンはウィングからドローンビットが射出させ、レーザー光線が
レオノール国の車列と国際軍の間に降り注がれる。
爆煙が晴れると道路に大きな溝ができている。
それによってレオノール国の車列が立ち往生する。
***
公園
人集りができていて騒ぎになっている。
その人集りの中心には汚れた白いワンピースを着た女性が倒れている。
人集りを掻き分けてキョーマがやってくる。
「ちょっとどいて下さい」
女性は顔を上げてキョーマの顔を見やる。
「私を⋯⋯国際評議場に連れて行って下さい⋯⋯」
その女性はレイラ・レオノール。
つづく




