第15話「第1章完結! ウルヴァの生涯」
海を望める丘に建つひとつのお墓。
墓標にはウルヴァの名が刻まれている。
そこに花束が添えられ、手を合わす火条ツカサ、火条アルテ、直江尊、ラルフそして
ハンカチで涙を拭う月代サヨの生活安全部一同。
「めちゃくちゃだったけど楽しかったぜ。おっちゃん」
「素敵な名前と戸籍をありがとうございました」
アルテの言葉にツカサは、ハッとする。
「どうして犯罪の片棒だけ残して逝っちまったんだおっちゃん!」
「まぁ、うさんくせぇおっさんだったけど、これからアビリティマシンの修理とかはどうするんだ?」
と、尊が手を合わせながらぼやくと「大丈夫。桐川コーポレーションが請け負ってくれるって」と、ラルフが答える。
「これまたうさんくせぇ女が出てきたな」
「みんな、ウルヴァさんにお別れのあいさつが済みましたら行きましょう」
「愚痴しかこぼさなかったな俺ら」
一同が再びお墓に手を合わせていると「おお、ここかな」と、老人の声が聞こえてくる。
「すまない。ここはウルヴァ殿の墓で間違いないかな?」と、小柄で中折れ帽子を被った白髪の老人男性が一同に話し掛けてくる。
「そうですけど…………」と、困惑しながらサヨが答える。
「そうか、そうか。いやぁまさかこの男がワシより先にくたばるとは」というと
ドバドバと墓標に柄杓で水をかけ始める。
「ウルヴァさんのご友人の方ですか?」
「これは、これはなんと素敵なお嬢さん。まさかウルヴァのコレか?(小指を立てる)」
「違います」
「おっと、すまないすまない。友人なんてもんじゃないよ。ただの元同僚だよ。仲の悪い」
「はぁ…………」
「ところで、おっちゃんどちらさん」
「おっと、申し遅れたワシは日本から来た徳川ヒデタダというものだ」
「徳川⁉︎もしかして現星帝のお父上様」と、口を覆うアルテ。
「そうそう」
「え⁉︎」と驚く一同。
「しかも日本の元総理だったはず…………」
「そうそう。ひょっとしてあなたたち、ウルヴァの教え子?」
「あ!はい、この子たちがそうです。私は同じキサヒメ学園で勤務する教師で」
「キサヒメ学園!そうかそうか、奴が学校を作ったという話は風の噂で聞いていたが、キサヒメと名付けていたか。
この男がまだあのお方のことを想っていたとは」
「どういうことですか?」
「キサヒメ学園…………キサヒメとは昔、ウルヴァが愛した女性の名だ」
***
高天原(現スメラギ国) の闘技場
闘技場の舞台には2人の男が対峙している。
ひとりは鋭い目で相手を睨む若き日のウルヴァ。
3枚のお札を広げて舞台中央に投げる。
「起動せよ、式神、炎の拳ファイヤーグリフォン、疾風の刃ソードウルフ、水流の咆哮ガンドライグ。
お札から炎の鳥と8本の風の刃を纏ったオオカミと水の龍が現れる。
対するは若き日の徳川ヒデタダ。鞘から日本刀を引き抜き構える。
***
観覧席から舞台を眺める天女=江。
「おのれ、ウルヴァ!神でありながら神を操るとはなんと外道な」
そして、一番高台の天覧席から眺める、アマテラスと若き日の華僑院玄徳の姿がある。
「やはり人と神の子。あのようなことが」
「あの者の母親は陰陽師だったと聞いています。なのでよりあのようなマネができるのだと」
***
舞台上で闘うウルヴァとヒデタダ
「チッしぶとい奴だな。行け!ファイヤーグリフォン。炎に焼かれろ」
「神を使うとは卑劣な」と、3体の式神の攻撃を交わすウルヴァ。
「黙れ!これが俺の戦い方だ」と、腰に差した日本刀を鞘から引き抜く。
刃と刃をぶつけ合う2人。ウルヴァの頬に切り傷が入る。
「チッ」
ヒデタダのムダの無い素早い太刀さばきにウルヴァは次第に舞台の端に追い詰められていく。
「どうした!このまま場外へと落ちて失格となるか!」
「来い!ソードウルフ、纏え!」
ソードウルフがウルヴァの日本刀の中に入る。
刀身が竜巻を纏うと、警戒したヒデタダは後ろに下がる。
ウルヴァはその隙をついて横に薙ぎ払う渾身の一太刀を放つ。が、ヒデタダはそれを受け止める。
ニヤリとするウルヴァ。その瞬間、ヒデタダの全身に十太刀以上の切り傷が入る。
「グハッ!」
「これがソードウルフの見えぬ刃。そして放って龍の咆哮!」
ヒデタダの背後から現れた水龍=ガンドライグの口から放ったれる水の咆哮がヒデタダの背中に直撃。
ヒデタダは口から血を吐きその場に倒れる。
試合終了を告げる鐘が空に鳴り響く。
***
天女たちからケガの手当て受けているヒデタダ。
そこに江が現れる。
「お江様!お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳けございません」
「まったくじゃ!あのような悪しき者に負けおって!奴は人の血をひいた化物ぞ」
「恐れながら、お江様、ウルヴァは人の血をひいているとはいえお家を継ぎ我らと一緒に
アマテラス様をお守りする神にございます。何卒、お認めを」
「そ、そなたそういうのであれば、し、仕方ないの化物と言ったことは撤回しよう」と、顔を赤くする江。
「で、でも妾は奴を認めないからな」
江は「よ、よう(包帯を)きつくしてやれ。早う治るようにな」と天女たちに言いつけ、その場を離れる。
ヒデタダは、江が離れて一息つくと、対面のウルヴァを気にかける。
ウルヴァはひとり、包帯を巻いて自身の手当てをしている。
そんなウルヴァの様子を観覧席から心配そうに見つめる、ウェーブのかかった長い髪を櫛でまとめ、着物に身を包んだ
ひとりの女性=キサヒメ。
***
夕方の神社
巫女装束を纏い、竹箒で境内の掃除をしているキサヒメ。
キサヒメは、巫女としてアマテラスが住まう社に仕えている。
「よう」と、やってくるウルヴァ。
「今日の手合わせご苦労様でした」
「観に来ていたのか?」
「見事な戦いぶりにございました」
「お世辞はいい。式神を纏った俺の技はまだ完成していない」
「左様にございますか」
「ああ、そうだ結婚式の準備をそろそろ始めるぞ。お江様が早くしろとうるさくてな」
「…………はい」と、表情が曇るキサヒメ。
「やはり俺との結婚は不服か?」
「いえ、そのようなことは…………ただウルヴァ様の方は如何なのかと…………」
「お江様がお決めになったことだ。仕方ないだろ。あんたこそ無理に俺とくっつかなくたっていいんだ」
「私は、ウルヴァ様をお側でお支えする覚悟はできておりますゆえ」
「ならいいが。そんなことより、最近辻斬りが出るって噂だ。神を斬るなんざ悪魔の類いだと思うが気をつけろ。夜は出歩くな。
それが言いに来たかった」
***
夜の料亭
賑やかに宴会が行われている。
「もっと酒を持って来い!」と大きな盃を持って酔う江。
「お江様、それ以上は身体に障ります」と隣でヒデタダがなだめる。
「うぃ〜ウルヴァめ、キサヒメと結婚したら覚えておれよ。
あの娘は親を亡くし身寄りもなく彷徨っていたところを我が母上が拾った人の子。
華僑院様は人間との結婚を禁忌と定めたばかり。奴が人の女子と結婚し子を成せば
もう天界たる高天原にはおられん」
「…………」と,黙って盃を口に運ぶヒデタダ。
「ヒデタダぁ〜妾も結婚したいのぉ、ヒデタダぁ〜」と、江はヒデタダの肩にもたれかかる。
困った表情を浮かべるヒデタダ…………。
そこへ血相をかいた護衛役人が入ってくる。
「お知らせいたします!件の辻斬りが出ました」
「なんだと⁉︎」と、ヒデタダは江を突き飛ばして
「参るぞ!」と、護衛役人と部屋を出て行く。
***
江戸時代の長屋のような建物が並ぶ町。
"ピー"という笛の音と「こっちだという」役人たちの声で騒がしい。
***
朝の長屋街
道端に倒れる役人たちの死体を検分するウルヴァとヒデタダ。
「この太刀筋、相当な手練れだな」
「3人もやられちまえばざまねぇな。アマテラス様の護衛役人ってのも」
「口を慎め!ウルヴァ我らの仲間がやられたのだぞ」
「ふん、こんなのは俺一人で充分だ。俺が片付ける」
「おい!ウルヴァ、勝手は許さんぞ」
「お前たちがやれば、そこに並ぶ死体が増えるだけだろ」と,ウルヴァは立ち去る。
「ウルヴァ!」
***
夜の護衛役人屯所
護衛役人は市街見回りなどの警備の役目があるため、交代で屯所に詰めている。
今日はウルヴァとヒデタダが当直で詰めている。
ヒデタダは机に向かい帳面をまとめている。その傍らでウルヴァは横になりうたた寝をしている。
この中でヒデタダはウルヴァの上官に当たり、徳川班として指揮を執っている。
そして外では"ゴロゴロ"とカミナリの音ともに雨が降り出す。
しばらくすると"ピー"という笛の音とが鳴り響く,目を覚ますウルヴァ。
同じ徳川班の護衛役人が入ってくる。
「ヒデタダ様!西地区の方で辻斬りがでたとのこと」
「あいわかった」
ウルヴァはヒデタダと護衛役人との間を割って飛び出していく。
辻斬りが現れたという西地区はキサヒメが住む長屋があるところ
ウルヴァは胸騒ぎを覚える。
***
西地区 長屋街
雨の中を走るウルヴァ。
道端に血を流し倒れている護衛役人を見つける。
役人が持っている刀に血が付いていることから、斬り合いになって相手もケガしていると睨むウルヴァ。
辺りを見回すと雨で滲んできているが、地面に血痕を見つける。
雨に流される前にと走り出すウルヴァ。
血痕は次第にキサヒメの家に近づいていることにウルヴァの胸のざわつきが大きくなる。
***
キサヒメが住む長屋部屋の玄関の引き戸が半開きの状態でその玄関先は大量の血が広がっている…………。
***
雨音が響く、薄暗い長屋の中。
「どうしてこんな」とキサヒメは
ずぶ濡れで肩から血を流した男の腕に布をきつく巻いて
流れる血を止血している。
「かまうな」
***
キサヒメの家の前に息を切らせてたどり着いたウルヴァ。
だが、玄関先の光景に切れた息も止まり絶句する。
***
ウルヴァは、「おい!いるか?」と恐る恐る中を覗く。
するとキサヒメの姿がすぐに目に飛び込んできて胸のざわつきがすっと治まる。
「ど、どうなさいましたのですか?」
「今晩は、部屋の鍵をしっかり締めておけ」
「は、はい」
ウルヴァはそのまま上がり込んで周囲を見回すと
キサヒメの足元に血のついた布があることに気づくーー
ハッと、気配に勘付いたウルヴァは裏口の方に動く影を見逃さなかった。
ウルヴァは刀を鞘から引き抜いて影を追う。
「おまいさん!」
裏口の引き戸を開けウルヴァは外に出ると側面から刃が襲ってくる。
相手の突きをとっさに交わしたウルヴァは態勢を立て直して男と向き合う。
「お前が辻斬りか?」
「斬る」
「わかりやすい返事だな」と、ウルヴァは斬りかかる。
男もウルヴァの太刀を日本刀で受け止める。
鍔ぜりあっていると男の刀から邪悪なオーラが溢れ出してくる。
「やはり悪魔だな。お前」
「違う!」と紫色に変化した髪を逆立てる。
「神のオーラ⁉︎こいついったい…………」
「俺は神と悪魔の血を引いている。すべての神は俺が斬る!」
「チッ俺と同じ化物か。俺は人の血を引いているどっちのハーフがすぐれているか決めてやる」
そこへヒデタダが追いつく。
「近づくな!こいつは只者じゃねぇ。お前じゃ簡単に殺られる」
「なっ!」
「見くびるな!」と、ヒデタダも刀を引き抜きかまえる。
ヒデタダは男の顔にピンっと来る。
「この男、まさかステイター⁉︎ 5年前に悪魔が天界に攻め入ったときに多くの神を葬った。神と悪魔の子」
「そうかい。俺が嫌われているのはこいつのせいか」
「理由のひとつでしかないぞ」
「うるせぇ」
2人で一斉にステイターに斬りかかる。
だが簡単に交わされ2人刃は地面を叩き割るだけ。
「ヒデタダ。こいつは俺が倒す。お前はキサヒメを」
「ウルヴァ!」
ウルヴァとステイターは長屋通りを走りながら刃と刃を火花を散らせながらぶつけ合う。
ウルヴァは道端に置いてある桶などを投げつけステイターを怯ませようとするが
ステイターの素早い剣撃がウルヴァを襲う。
ウルヴァの全身に刻まれた斬り傷から血が噴き出す。
ステイターはさらに刀に邪悪な魔力を込めてウルヴァの頭上に振り下ろす。
なんとか交わすウルヴァ。
「なんだこいつ…………勝てる気が起きねぇ」
焦りを見せるウルヴァはハッとして式神のお札を取り出す。
「いちかばちかだ。宿りやがれファイヤーグリフォン!」
だが強大なステイターの一撃が再びウルヴァを襲う。
長屋の一部が倒壊して土煙で辺りが見えなくなる。
手応えを感じないステイターはハッと上を見上げる。
空中には赤く変化した髪を逆立て全身に絡みつくような炎を纏ったウルヴァの姿。
「ようやく完成した神を纏う力。感謝するぜ」
のちのアーマードギアの原点となる力でウルヴァは拳や脚から繰り出す炎の攻撃で
先ほどまでの苦戦が嘘のようにステイターにダメージを与えていく。
「ととめだ!」と右脚を前に出し上体を屈め、
右脚に炎を集中させ高くジャンプする。
「ライドバーストキック!!」
ウルヴァの全身は炎に包まれ大きな火の鳥へと変わり、ステイターを貫く。
大爆発から煙が晴れると辺りは、瓦礫だけでそこにステイターの姿はない。
***
不安になるキサヒメをなだめるヒデタダ。
「ケガはないか?」と、ウルヴァが戻って来る。
「辻斬りはどうした?」
「逃げられた」
うつむくキサヒメ。
「おい、キサヒメ!」とウルヴァは刀を鞘から引き抜く。
鼻先に突き付けられた切先にキサヒメは慄く。
「何をするウルヴァ!」
「お前、あの男を匿っていたのか?」
キサヒメは、言葉を詰まらせながら話を始める。
「3ヶ月ほど前、あのお方がうちの前で血を流して倒れていたのを介抱してあげていました…………
それからしばらく一緒に暮らして面倒を」
「あの男を辻斬りと知っていたのか⁉︎」
「薄々と。あのお方が来られてから辻斬りの噂を耳にするようになりまして、夜な夜な出掛けては朝方に帰って来てましたから。
だけどあのお方から感じる悲しさや虚しさを超えた底知れぬ何かを感じてましたから咎めることができませんでした」
「恐い思いをなさったのですね」
「いいえ。むしろ心が安らいだのです。どこか私と似たところがありましたので」
「ならば、償いとして俺がお前を斬る」
目を見開くキサヒメ。
「これが夫としての俺の責務だ」
「お、お助け下さい」
「ダメだ!」
「お腹の中に子供が、あのお方の子供がいるのです」
愕然とした表情のウルヴァ。
「よ、よせ」とヒデタダが割って入る。
「どけ!!斬るぞ」
「よせ!」
睨み合うウルヴァとヒデタダ。
ウルヴァはその場に刀を捨て「勝手にしろ」と、出て行く。
その場に泣き崩れるキサヒメ。
ヒデタダは抱きしめぽんぽんと背中を叩く。
「のちのことは心配するな。私が面倒を見る」
***
お墓に手を合わせるヒデタダ。
「すぐにしてウルヴァとキサヒメの縁談は破談になった。その直後魔界と戦争が起きたりして大変だったが
その後もウルヴァにはいろいろ煮え湯を飲まされた。天界はウルヴァによって滅ぼされスメラギ国となった」
「スメラギ国は数年前にできた人工島じゃないのか?」と尊が尋ねる。
「結界が破壊され突如として現れた地図上にない島を世間に混乱が起きないように人工島として扱ったのだ。
むしろ本当の人工島は対岸のドルスだ。とにかく、ウルヴァの作ったキサヒメ学園という名には奴にとっての贖罪が込められているかもしれない。
ひとりの女もお腹の子も幸せにしてやることも、育ててやることもできなかった。
だから今度はキサヒメという学び舎で一緒に多くの子供を育てたかった」
「生徒たちの日常を守る生活安全部を作ったのもそのためなのですね」
ツカサは、3年前の光景を思い起こす。燃え盛る炎の中、瓦礫の下敷きになるリイサの前に対峙する木田とツカサ、
そして2人の間に割って立つプロトファイヤーアーマー。
「ありがとよおっちゃん…………」
「俺たちのアーマードギアには、おっさんの式神が宿っていたんだな…………」
「アビリティマシンにも」
「おっちゃん。見ていてくれ俺たちはこれからもヒーローを続けて行くぜ。このアーマードギアで!」
決意を新たに4人は笑顔でウルヴァの墓標にギアコマンダーをかざす。
第1章完
第2章魔法少女編へつづく。




