第12話「絶対の怪物」
スメラギ国 首都刑務所
白く巨大な扉の前でグールド・グレモリーは待ち構えている。
"ギギギギ"と重厚な音を立て扉がゆっくりと開くと
一人の元受刑者=木田春馬が姿を現す。
「あんたか?俺を外に出したのは?」
「超法規的措置だ。どうだ?神に救われた気持ちは」
「荒れるぜ」
「華僑院神の気まぐれだ」
「絶対の怪物を必ず後悔させてやる。まず何をすればいい?」
***
夜の廃工場
衝撃と共に弾き飛ばされるイシュタルトの信徒たち。
壁や地面に激しく叩きつけられ動かなくなる。
そこには、ローズファリテ=火条アルテとシルバルド=林田誠一郎がいる。
「あなたも精が出ますね」
「イシュタルトは、私が潰す。それだけ」
「信徒たちの潜伏先情報を提供する甲斐があります」
***
回想 キサヒメ学園 応接室
ストームゾーンの学園襲撃事件解決直後
アルテがグールドと会談した直後のことである。
火条ツカサ、ラルフ、そしてフェリス・グレモリーに真相を突きつけた後の直江尊たちは、理事長室に
集められ、グールドとはじめての対面をする。
グールドは、アルテに話したように黒幕が華僑院玄徳であること、救世の巫女を使った華僑院の野望(終末計画)を彼らに伝える。
そして、アルテがスメラギ国に来た日のことについて話が始まると、グールドの「入れ!」との声で、シルバルドが室内に入ってくる。
驚くアルテとツカサとラルフは思わず身構える。
「私の優秀な部下の林田だ」
シルバルドは、変身を解除すると、「林田と申します」と名刺を4人の前に差し出す。
「あのときは、すまなかった。あのままアルテミア様を華僑院の手の者に引き渡しては
ならないとの思いで林田を使って手荒なマネに及んでしまった」
***
アルテは、スメラギ国国際空港前での出来事を思い起こす。
黒ずくめの男達とアルテの間に複数の銃弾が着弾し火花が弾けると、シルバルドが現れる。
***
「華僑院の野望を阻止する為、共に戦おう」と、グールドと林田、生活安全部の4人は硬く手を結んだ。
***
日曜の朝ーー
大型ショッピングモールで買い物を楽しむアルテと同級生のリサ。
アイスクリームの店舗で、ショーケースに並べられた色とりどりのアイスに目を輝かせるアルテ。
そんなアルテの様子に「アルテ、はしゃぎすぎ。子供みたい」とリサは笑う。
「一度でいいから、ご学友と一緒に庶民のお店で庶民の買い物を楽しむことに憧れていました。とてもの楽しいです」
「うん、やっぱアルテは黒いね。大人みたい」
「え?どっちなのですか?」
「何でもない。アルテらしくて好きよ」
***
両手にたくさんのショ袋を持ったアルテは「疲れた〜」と、ベンチにへたり込む。
「じゃあ、ここで休憩しよう。その前に私、トイレ行って来るからここで荷物お願いね」
「はい」と、アルテはリサを見上げると、背後のサングラスをした黒ずくめの男に気がつく。
「!」と、なるアルテ。
男は胸元から拳銃を取り出し、銃口をリサに向ける。
アルテは、辺りを見回すと、黒ずくめの男達が4、5人自分達を取り囲むように見張っていることを確認する。
「行ってらっしゃい。ここで待ってますので、お早く」
リサが、アルテの前を離れると背後にいた黒ずくめの男も付いて行く。
そして、他の黒ずくめの男達は、ぞろぞろとアルテに近づいて来て取り囲む。
「抵抗はしない。あの子には、手を出さないで」
男の一人が頷くと、リサの後を付けていた男は歩みを止め、引き返して来る。
リサに危害が及ばないことを確認したアルテは、ベンチから立ち上がって男達と一緒にその場を離れる。
リサは、ふとアルテの方に振り返ると黒ずくめの男達に囲まれながら歩くアルテの姿が目に止まる。
「アルテ!」
***
薄暗い広間
床一面に大きな魔法陣が張り巡らされている。
その中央には、上半身裸で呪文を唱える華僑院玄徳の姿。
その身体にはたくさんのコネクトシールが貼られている。
魔法陣の各端には喘ぎ声を上げる女性達がいて、彼女たちの首筋に貼ったコネクトシールから
出るオーラを魔法陣が吸収しているように見える。
吸収されたオーラは魔法陣を伝って華僑院のコネクトシールに注がれ、彼の肉体がだんだん大きく膨れ上がっていく。
だが、呪文を唱え終わると、その場に倒れ込んでしまい、"ぜー、ぜー"と荒い息を上げている。
膨れ上がった肉体も見る見るうちに小さくなっていき、年相応の老人の肉体に戻ってしまう。
そして、イシュタルトの信徒達も近づいて来てバスローブを掛けてあげている。
***
スメラギ国 総理官邸執務室
安守公彦総理は秘書官から華僑院の容態について説明を受けている。
「華僑院様ですが、儀式が終わるたびに体力の衰えが激しく、最近では、左手までも不自由になっているとのことです。
これ以上のコネクトシールの使用は控えさせるべきだと考えます。たった一年で杖が必要なほど歩行困難になるなど、老体に強力なエネルギーを取り込み続けた影響なのは明らかです」
「無駄だ。覚悟はできている。世間では、80歳としているが実際のところは600歳。本来であればあと200年は生きられたはず。それほど、あのお方の執念は深い」
「左様ですか…………」
「それより、海賊の方はどうなっている?」
「回収には成功したようです。高い領収書が送られて来ました」
「機密費から捻出しておけ」
***
キサヒメ学園 生活安全部部室
日曜にも関わらず、ツカサ、尊、ラルフ、月代サヨ、ウルヴァの生活安全部一同は、
グールドからの伝言があるとフェリスに集められていた。
「感謝しなさい。お兄様から伝言よ。本日の夕刻、イシュタルトは、スメラギ海岸近くの埠頭で終末の儀式のひとつを行うそうよ」
「先回りして、その儀式を阻止しろということか?」
「そうよ。星の巡りと座標からそこで実行されることは間違いないわ。それにお兄様はこうも仰っていたわ。
おそらく華僑院はこれからオリジナルの救世の巫女を必要としてくる。あの元お姫様の身辺には気をつけるようにと。よろしくてアルテさん」
「…………」と静まる部室内。
フェリスは痛そうに頭を押さえながら尋ねる。
「あの、アルテさんが見当たらないのは気のせいかしら」
「アルテなら、リサと遊びに行くって出かけてて、今日はいないぜ」
「火条ツカサ、あなたには追試を言い渡します。テストを受けなくてもどうしようもないバカだということが分かりました」
「はぁ⁉︎、どういうことだよ!!」
「今まではお兄様がアルテさんをこの学園で自由に生活できるように手を回してあげていましたわ。
だけど華僑院の計画が最終段階に入った、お兄様が閣外に追放され政治生命の危機ですらある。つまり、アルテさんに簡単に危害が及ぶということです。
だから、あなたたちは普段からしっかり見張ってないでどうするんですか⁉︎」
「大丈夫だ。アルテにはアーマードギアがある」
「このバカ。大バカ。底抜けのバカ。甘いです。大甘です」
「はぁ⁉︎」
「相手は絶対の怪物と恐れられた男ですよ」
「じいさんだろ?」と、拳を突き出すツカサ。
「絶対の怪物を甘く見過ぎです。あなたみたいなバカとは拳を交えなくても、社会的に抹殺できるの。強さの次元が違うの」
フェリスとツカサの言い合いをよそにサヨは、リサからの着信に気づいてスマホを耳に当てると
「先生大変!アルテが黒い服着た男の人たちとどこかに行っちゃった。あれ絶対やばい人たちだよ」との知らせに背筋が凍る。
「え…………」
「月代先生、あなた3ヶ月減俸」
「そんなぁ」と半泣きのサヨ。
「探して!何としても探して!終末が来るわ!」
***
海岸沿いの山道を走る一台の黒いワンボックスカー。
車内の後部座先で、黒ずくめの男たちに挟まれて座るアルテ。
「私をどうするつもりですか!華僑院の手先なら思うようになるつもりはありません」
助手席の男は、タブレットを取り出してアルテに見せる。
そのタブレットに安守の姿が映し出される。
「はじめまして、アルテミア・グリティシア姫。私は、スメラギ国内閣総理大臣 安守公彦です」
「⁉︎」
「手荒なマネをしてすまなかった。これからあなたを安全な第三国である"日本"へ送りたい。そこならあのお方も簡単に手出しはできない」
「本来ならあなたがはじめてスメラギ国の地を踏んだあの日に日本へと送り届けるはずだったが、うちの若いのが余計な手出しをした。申し訳ない」
***
アルテは、再びスメラギ国国際空港前での出来事を思い起こす。
自分を出迎えた黒ずくめの男達とそこに現れたシルバルドとの出来事を。
***
「私は終末計画を未実施で終わらせたい。国民の生命財産を守るため。そのためにはオリジナルの救世の巫女であるあなたに、我が国に居て頂いては困る。
申し訳ないが、華僑院様の意向は止めることはできない。ただ先伸ばしにすることはできる。長くはならないはずだ。しばらく日本にて耐えていて頂きたい」
「ふざけないで! グリティシアを滅ぼしてまで私を連れ出しておいて、今さら居られては困るって勝手過ぎる!それにスメラギのためだけに我が国を犠牲にしたというのですか?」
「それは違う。全世界のためだ」
「世界が何なの!私は、クーデターの戦火の中で泣いている小さな女の子の姿を見た。ずっとお母さんって叫んでた。何もすることができなかった。
どんな国でも犠牲にしていい国民なんていないのよ」
「華僑院様に代わって詫びよう。オリジナルの救世の巫女であるあなたを手中に収めるためイシュタルトを使ってグリティシア王国を滅ぼした。すまなかった」
「謝らないで!謝ったて何も戻って来ない!お父様もあの日の小さな女の子の命も!だから私は決めたこのアーマードギアであなたたちスメラギ国政府を倒して
私たち生活安全部が国を作る。これでお相子よ!」
「アルテミア様にはぜひ、日本で物事を大局で見極めるというのを学んで頂けることを期待する」
安守との通信が切れ、タブレットは真っ暗な画面に切り替わる、突然、運転席の男が「何だ⁉︎あの後ろの車は」と、声を上げる。
バックミラーに写る、ライドファイヤーと運転するファイヤーアーマーの姿に
アルテは「ツカサ!」と、身を乗り出す。
***
「見つけたぜアルテ。ギアコマンダーの位置情報でバッチリだ」
ファイヤーアーマーは、アクセルを踏み込んで黒いワンボックスカーに迫る。
だが所詮は、偽装免許の高校生の運転。慣れない山道の運転に追い詰めきれない。
そうこうしているうちに、後ろの方からライドファイヤーに酷似した車体の黒いスポーツカーが
迫って来る。
「何だ?」
黒いスポーツカーを運転するのはブラックジョーカー=グールド。
「どうだ? セデス、新しい体の調子は」
「問題ない。順調だ。寧ろ快適すぎるぐらいだ」
人工知能を持ったこの黒いスポーツカー=セデスは、スピードメーターのLED表示の点滅と口調を合わせながら
ブラックジョーカーの問いに答える。
「なら本気で仕掛けるぞ」
「了解」
セデスは、カーブを曲がりきったところでワンボックスカーと並走すると
ジリジリとガードレール側に追い詰めていく。
2つの車両が山側の左カーブに入って姿が見えなくなると、
間もなく、急ブレーキの音と激しい衝突音とともに煙が上がる。
ライドファイヤーが、追いつくとセデスの姿は無く、木にぶつかって大破したワンボックスカーと
その周りに倒れている黒ずくめの男たち。そして立ち尽くしているアルテの姿がある。
「アルテ!」と、ファイヤーアーマーはライドファイヤーを降りてアルテに駆け寄ると、アルテは涙を流して「ツカサ!」と、ファイヤーアーマーに抱きつく。
安堵するファイヤーアーマーだが、辺りの木々の軋む音が"ざわざわ"とし出すと森の中から1体の大型の人型ロボットが二人の目の前に現れる。
ロボットの全身には血管のような赤いラインが張り巡らされ、ゴーグルタイプの目を光らせる。
そしてコックピットには、「待ちくたびれたぜ」と、木田が凶悪な顔をニヤリとして、操縦レバーを握る。
***
スメラギ海岸の埠頭付近の森
森の中のひらけた場所に大きな魔法陣が展開され、中央には5機のプロトフタイプロボ=ボルタス、ゴウカ、バイオラス、ハリケオス、ブリザルドが
集まっている。
それぞれの機体の頭の上には、フードを目深に被ったイシュタルトの信徒がひとりづつ立っている。
「時は近い。オリジナルはまだか?」
「オリジナルの祈りがあってこそ終末は完成する」
「情報は確かなのか?」
「皆、落ち着け。今しばらく待とうではないか」
信徒たちが苛立ちを見せていると、突然の爆撃と同時に
ソードライナーとAGX-Ⅱロボットモードの奇襲が始まる。
土煙と爆風の中、ボルタスの上に立つ信徒がフードを外して上空を見上げると、
ソードライナーとAGX-Ⅱはその顔に驚く。
「佐古井リルア⁉︎」
***
走る1台の黒いリムジン
華僑院が杖を構え乗っている。
同乗している、黒ずくめの男は華僑院に報告をする。
「グールド・グレモリー氏の指示した座標に魔法陣と擬似救世の巫女の配置完了致しました。
あとはグールド氏がオリジナルを連れてくるのを待つだけです」
「分かった。それでグールドは何を望む。忌々しい死刑囚を釈放してやった。次は何だ?」
「はい。官房長官もしくは党の幹事長です」
「ふん。終末を迎える世界でまだ権力を望むか。愚かな男よ」
華僑院はそっと目を閉じる。
「もうじき終末が成る。アマテラス様…………」
***
回想 炎に包まれる神殿。
玉座の間に5〜7歳くらいに見える色鮮やかな着物を羽織った幼女が立ち尽くしている。
そして、遠くから"ドーン!"と、砲弾が着弾する音と振動が響いている。
そこへ「アマテラス様!」と、鎧と黒い羽織りに身を包んだ壮年期の華僑院が駆け寄ってくる。
「玄徳!」
「お逃げくださいませ!アマテラス様」
「これはいったいなんじゃ?」
「ウルヴァです!ウルヴァが我々に牙を向けました。あやつは人間と手を組み、移動式人工島をここ高天原に接岸。
砲撃を繰り返しております。我が隊も応戦するもその勢いは止められず撤退!アマテラス様には一旦ここを退いて頂き
体勢を立て直したところで再び人間共に仕掛けましょう」
「玄徳よ。そなたは逃げろ。妾はここまでじゃ」
「何をおっしゃいますアマテラス様!」
「人間に崇拝されなくなった神は終わりじゃ。それに人と神の子であるあの男を否定した妾の報いじゃ」
「ダメですアマテラス様、私と一緒にお逃げ下さい」
「玄徳よ。人間を憎むのではないぞ」
「できませんアマテラス様、抜神攘夷などと声高に叫ぶ、愚かな人間とそれを煽るウルヴァを許すことは断じてできません!
断罪を与えなくては。たとえ私が怪物になろうとも」
アマテラスは額をそっと華僑院の額に当てる。
「ならぬぞ玄徳。なぜ妾がそなたに人間の子を側に置かせたと思っておる。そなたのためじゃ」
***
スメラギ国 総理官邸執務室
「アマテラス様、あのお方をお護り下さい」と安守は目を閉じて祈る。
***
戦うファイヤーグリフォンと謎のロボット。
ファイヤーグリフォンは、グリフォンソードを振り回すが、交わされてしまいダメージを与えることができない。
***
スメラギ海岸の埠頭付近の森
呪文を唱えるリルアに5機のプロトフタイプロボが集まる。
ロボは光と共に一体化して3倍くらいの大きさのキマイラスに変化する。
キマイラスの炎、雷、氷の同時攻撃に苦戦するソードライナーとAGX-Ⅱ。
キマイラスの炎攻撃がソードライナーに被弾。バスターライナー部分が大破する。
動けなくなったソードライナーにキマイラスが迫る。
その時、キマイラスの顔にミサイルが直撃。
森の中から颯爽と黒いスポーツカーのセデスが飛び出して
「チェンジ!」と人型ロボットモードに変形する。
「何だ?」
「苦戦しているようだな。生活安全部諸君」
「グールド・グレモリー⁉︎」
「来い!」の合図で、ドラゴン型ロボットのライドドラゴン、オオカミ型のロボットライドウルフ、トラ型のロボットライドタイガーが現れる。
「魔獣合体!」
セデスが天高く舞い上がり、ライドドラゴンが
両足から胴体に掛けての形になってセデスとドッキングする。
ライドウルフは右肩から腕へと変形し、ライドタイガーは左肩から腕へと変形して
セデスにドッキング。ドラゴンの顔を模した胸のエンブレムが輝き、紫と黒をベースにした20mを
超す大型ロボットへと姿を変える。
「セデスネスカイザー」と名乗りを上げて悠然と大地に舞い降りる。
この機体はどことなくファイヤーグリフォンに似ている。
「合体した…………」と、驚くソードライナーとAGX-Ⅱ。
***
攻撃が当たらず苦戦を続けるファイヤーグリフォン。
その様子を遠くから眺めるひとりの白衣を着た女性=桐川トウカ。
「どうだ?我が桐川コーポレーションの新作ZXシリーズは。AGXシリーズとは一線を画す機体に仕上がっている。
AGXシリーズかZXシリーズまたはプロトフシリーズそしてウルヴァのアビリティマシン。
さて生き残るのはどのシリーズか、または新シリーズの礎になるか、進化というのは戦いの中からしか生まれない。
創っては壊し生み出す。そのために積んだ学習能力装置、至高の発明品"X"。私の開発した機体にどんどん戦闘データを蓄積させてくれたまえ高校生諸君」
***
ライドアビオンのコックピットに座るローズファリテは、モニター越しにZXの動きを見て気づく。
「ツカサ、あいつファイヤーグリフォンが動く時に全身の赤いラインが光る。カメラか何かになっていて
ファイヤーグリフォンの動きを予測するのかも?」
「そうか、ヤツには全身に目があるようなもんか」
ZXのコックピット内は操縦者の木田を中心に上下360度球体状にモニターが設置されてる。
ファイヤーグリフォンの行動、攻撃パターンを分析、予測しているモニターもある。
「どこからでも来やがれ」
ファイヤーグリフォンは両腕を前に出して小型バルカンで応戦。
だが、ZXに当たらず地面ばかりに被弾する。
「どこを狙ってやがる」と笑う木田。
だが、土埃舞い始めて各モニターの視界が見え難くなっていることに気づく。
「⁉︎」
「尊らしく行きましょう」
ファイヤーグリフォンは背中のライドラダーのハシゴを展開して、水を発射。
崩れた地面の土を一気に泥化してZXに浴びせる。
全身の赤いラインは泥で汚れ、攻撃予測ができなくなる。
コックピットのモニターもメインモニターを残して殆どが泥で見えなくなる。
「クソ、どこへ行きやがった」
「上だあ!」
ファイヤーグリフォンは太陽を背に上空からグリフォンソードをかざしてを一気に振り下ろしてくる。
「うっ!」と、太陽に目をやられた木田は、ZXを操作することができずにそのまま真っ二つに破壊される。
***
スメラギ海岸の埠頭付近の森
ドラゴンソードを取り出すセデスネスカイザー。
ソードライナーとAGX-Ⅱが苦戦した攻撃を簡単にいなすと宙を舞いキマイラスを翻弄すると背後からドラゴンソードを振り下ろして真っ二つに破壊する。
キマイラスの爆発で舞い上がる炎を背にドラゴンソードの剣先を輝かせ悠然と佇むセデスネスカイザー。
***
走る黒いリムジン
目を閉じて座る華僑院は焼け落ちた神殿を見つめている壮年期の自分を思い起こしていた。
時が移ろい神殿の跡地にはスメラギ国の総理官邸が建ち、腰が曲がって杖をついた老いた自分が見つめている。
小さく「アマテラス様…………」とこぼすと華僑院は目を閉じたまま首をカクンとさせる。
***
海岸沿いの山道を走るライドファイヤー。
海岸線に沈む夕日のきれいな光景を見ながら運転するツカサと助手席のアルテ。
拉致してくれた黒ずくめの男のおかげでできたツカサとのデートドライブというシチュエーションにアルテはひとり心が高ぶっている。
となりのツカサも満足そうな笑顔を見せている。"ツカサが私と二人っきりの時間を楽しんでいる"とアルテは顔を赤く染めるが
おそらく新たな強敵の出現にワクワクしているだけである。
アルテは車中に流れるラジオに耳を傾ける。リスナーのリクエスト曲が終わり、ニュースに切り替わる。
「つづいてニュースですが、第3代スメラギ国内閣総理大臣を務めた華僑院玄徳氏が移動中の車内で心不全のため亡くなりました。
享年80歳でした。華僑院前総理は、先日体調不良を理由に10年務めた総理の職を辞任したばかりでした…………」
「ウソ…………」
「華僑院ってあの華僑院だよな?アルテの国を滅ぼしたりした俺たちの敵…………」
泣きながらダッシュボードを叩くアルテ。
「ズルいじゃない、ズルいじゃない、たくさんの人を苦しませておいて、自分だけ楽に死ぬなんて!
お父様の無念は?奪われた女の子たちの日常は?私の人生は?この悔しさは誰にぶつければいいのよ!」
泣き崩れるアルテに掛ける言葉を失うツカサ。
キサヒメ学園に戻るため、アクセルを踏み込んでライドファイヤーを加速させる。
夕日に向かって走るライドファイヤーの車体からは軽妙なラジオの音楽と泣き叫ぶアルテの声が響いている。
***
夜 グールドの事務所
暗い事務所内に鳴り響く一本の電話。
固定電話の受話器を取るグールド。
「マサユキか?元気にしているか?」
「兄さん、もうその名では」
「ハハそうだったな。すまなかったグールド・グレモリー。状況は聞いているぞ」
「私の方はご心配なく。早いうちに政府に戻れるように努力します」
「そうか。今度久々に会わないか?お前と飲みたい。今なら機会が作れるだろ?」
「すっかり暇ですからね。でも兄さんお断りします。兄さんと酒を酌み交わすなら
星帝であるあなたの隣に並んでも恥ずかしくない立場になってから」