第1話「ヒーロー登場」
雑居ビルに囲まれた広場、普段は人目につかないようなこの場所で、全身フルフェイスの鋼のバトルスーツ『アーマードギア』を纏った青年二人が金属パイプを持ったギャングの男たちに囲まれている。
リーダー格の男が罵声を浴びせる「たった二人でレッドワイズに喧嘩売ったこと後悔させてやる!」
青のアーマードギア=ソードアーマーを纏った直江尊「後悔?脅しのつもりでこの姿に変身したんだが、一眼で己の不利な戦況を理解できないのか、脳筋ってのは哀れだな」と漏らし、腰に差した日本刀の様な武器を鞘から引き抜く。
尊が背中を預ける緑のアーマードギア=シューティングアーマーを纏うラルフ
「むしろ、こっちのセリフ。タケル、どうする?このまま二人でやっちゃっても」
「いや、作戦通り行く。こんな奴らごときに大乱闘を演じる必要は無い」
「何ごちゃごちゃ言ってやがるやっちまえ」とギャングの男たちが、金属パイプを振り回し迫って来る。
尊とラルフはさらりとかわし「こっちだ」とビルとビルとの隙間に誘い込む。
「待ちやがれ」「逃げるな!」とギャングの男たちは追う。
次々にビルの隙間になだれ込むギャングの男たち。その様子をビルの屋上から俯瞰している人影がある。
「今だ!」と叫ぶ尊。
「うぉおおおお!」と拳を突き出し空から降ってくる赤のアーマードギア=ファイヤーアーマー。
天を見上げ慌てふためくギャングの男たち。ファイヤーアーマーが突き出した拳には炎が纏う。
そのまま男たちの群れの中に突き刺さるように突っ込んで大爆発とともに爆煙が巻きあがる。
炎の中からファイヤーアーマー=火条ツカサ(カジョウツカサ)が歩いて来る。
「よっしゃ!」となる直江尊とラルフ。
***
朝の駅に面した大通りの四角交差点。出勤や通学のサラリーマンや学生で混雑している。
ビルの上層部に設置されている巨大モニターには、グリティシア王国が軍事クーデターにより
崩壊したニュースが映し出されている。ニュースを伝える女性キャスターは国王の逮捕と娘である皇女が行方不明になっていることを必死に伝え、世界に動揺が広がっていることをアピールしている。
***
走る少女の足元。
薄暗い高架橋の下を長い金髪の少女が薄汚れた服装で息を切らしながら走っている。
仕切りに振り返り背後を気にしている。
***
キサヒメ学園高校の正門。進学校であるが決してレベルが高いとも言えない中流の学校。
白地の学生服に身を包んだキサヒメの生徒達が部活や授業の会話をしながら門をくぐっていく。
***
『学園生活安全部』と手書きの張り紙がしてある引戸、中から声が聞こえてくる。
6畳間ほどの小さな部室で「この街は狙われている!」と話すウルヴァ。
白髪混じりの初老の男でキサヒメ学園用務員。ツカサ、ラルフの2人は小さく拍手する。
窓外では尊が日本刀を構え、集中した様子で人に見立てた藁人形を切り倒している。
「君たちが退けた男達はレッドワイズの構成員だったみたいだね」
「ああ、自分たちでそう名乗ってたぜ」と、ツカサが答える。
ウルヴァは手に持った指揮棒でホワイトボードに貼り付けた地図を指し、
「レッドワイズは、最近、急成長をしてきているカラーギャングのひとつだ。最大勢力を誇るブルーウルフに次ぐ規模にまでなってきている。彼らはついにこの街にまで進行してきてその勢力をさらに拡大しようとしている。今までこの街を治めていた組織が衰退の末、消滅したことが原因のようだね」
鍛錬を終え、汗を拭う尊は「やつらだけじゃないさ。輩どもは空白地帯になったこの街に次々に入ってきて衝突を繰り広げている」
ノートパソコンに目をやるラルフは続ける「ギャング同士の抗争で街の設備がいくつも破壊されているようだし」ディスプレイには破壊された公園の器具や火の手が上がったビルの写真が映し出されている。
「うちの生徒たちに被害が及ぶのは時間の問題だ。キサヒメ学園の平和な日常を守る君たち学園生活安全部の仕事だ!期待しているよ」
「よっしゃー!俺たち生活安全部がいる限りこの街で好き勝手させねぇ!」と気合が入るツカサ。
「ウルヴァさん!」と引戸がバーンと大きな音を立てて開く。
息を荒くした月代サヨ(つきしろさよ)が入ってくる。キサヒメ学園2年3組の担任教師だ。
「サヨちゃん!」とツカサが気安く声を掛ける。
「先生です!」
「月代先生どうしたんですか?」
「どうしたじゃないです。生徒達をこれ以上、危険な目に合わせるのは止めて下さい」
「月代先生これはですね」
「友人の妹さんのことでウルヴァさんに相談しましたけど、まさかうちの生徒だったなんて聞いてません。
ウルヴァさんの知人が警察では対処できないことでも専門に受けて下さると おしゃったからお願いしたんです。てか何で学生が刀を持っているの!」
と、尊を指差すサヨ。
尊は慌てて刀を背に隠す。
「サヨちゃん。俺たち学園生活安全部だから心配しなくても大丈夫だ。俺たちは強いんだぜ」
「そういう問題じゃありません! それより生活安全部って何なんですか!?」
「もちろん生活安全部は部活だ」
「部の活動方針は?」
「正義のヒーローだ」
「顧問の先生は?」ジト目でツカサに迫るサヨ。
「えーと・・・ウルヴァのおっちゃん・・・」
「ウルヴァさんは、キサヒメの教員ではありません。なので顧問ではありません」
「そうなの?」とウルヴァ、尊、ラルフを見やるツカサ
「当たり前だ」とため息をつく尊。
「例え人数が足りても顧問のいない部は部として認められていません。取り返しのつかないことになる前に今すぐ解散しなさい。ウルヴァさんも子供達の正義感をむやみに煽るのは止めて下さい」
***
公園のベンチで話しをしているサヨと大学時代のサークル仲間だった男、御影マコト。
「そうだったのか・・・」
「ごめんなさい。生徒達を危険な目に合わせたくなくてこれ以上はもう調べることはできないの」
写真を見つめながらマコトは「いいさ。カンナが意識を失った日、最後に接触したこの男の身元を突き止めてくれただけでも感謝したい。それに君の生徒たちを危険な目に合わせてすまなかった」
「御影くん・・・」
腕時計を見やるマコト
「もうじき面会の時間が終わってしまう。僕はこれで」
「最後まで協力出来ずにごめんね」
「いいんだ」
サヨは立ち去るマコトに深々と頭を下げる
***
総合病院の病室
ベッドの上で点滴につながれ酸素呼吸器を取り付けられた状態で眠り続ける御影カンナ。
その傍らでうな垂れているマコト。マコトはカンナの手を取りか細い声で話しかける。
「カンナ、あの日お前に絡んできた男の正体が分かったよ・・・」
***
生活安全部の部室
テーブルの上に置いた一枚の写真を囲む、尊、ツカサ、ラルフ、ウルヴァの4人。
写真には金髪で耳、鼻、口にピアスをした20代前半の男と魔女のコスプレをした御影カンナが写っている。
写真は防犯カメラの写真を現像したものだ。
ウルヴァは顎に手を当て「カンナさんは当時コスプレをしてティッシュを配るバイトをしていた・・・」
「そのカンナさんに声を掛けて来たこの男がレッドワイズ構成員の坂本翼です。カンナさんは、この男に接触した直後に意識を失ったと思われます」と、ラルフは状況を整理する。
尊が写真を指差して「今日、御影カンナと同じバイト仲間だったうちの女子生徒に話を聞いてきた。当時も御影カンナと一緒だったようだ」
***
キサヒメの女子生徒園井サキは語る。
「カンナちゃんでしょう?うーんと」
***
夜の繁華街。魔女のコスプレをしたカンナとサキはポケットティッシュを配っている。
「いいなぁカンナちゃんは配り物がすぐ減って。ズルい」
「そんなことないよぉ」と大きな胸を揺らす。
サキはカンナの大きな胸と自分のペッタンコな胸を見比べ苦虫を噛み引き千切る。
そこへ通りすがる坂本翼。カンナが手渡ししたポケットティシュを受け取ると
「お!カワイイじゃん」と話しかけてくる。
「ねぇ、いいものあげるからさ。ちょっとあっち行かない?」
「ごめんなさい。今、バイト中なので」
「ちょっとだからさ。お願い」
怯えた様子のカンナに助け舟を出そうとサキは話しかける
「あ、あの・・・カンナちゃん・・・」
翼はサキの方を振り向き、睨みつけるような目でぺったんこな胸を見やる。
「あ?何?」
「⁉︎(えええー!態度が違う)」
「サキちゃんごめんね。ちょっとここを離れるね」
カンナと翼は人気のない路地へと消える。
***
「そう言ってカンナちゃん、その恐そうな男とどこかに消えてちゃったの。そこから20分くらい経っても
戻って来ないから心配で店長と探しに行ったら、カンナちゃんが道に倒れていて」
道に意識を失って倒れているカンナを前にして立ち尽くすサキ。
***
「じゃあ、救急車呼んだのは?」
「そう私よ。怖かったんだから」
***
「この空白の20分で何が・・・」と漏らす尊の片割らで
腕を組んでジッと前を見るツカサの頭の上には?が溢れている。
「おい、こいつ考えることを止めたぞ」
***
廃墟ビル一室。薄暗い部屋にはギャングの男たちが集っている。
男たちの中央には、革製のイスに脚を組んで深々と座る男がいる。
長めの金髪に白いスーツ着た一見ホスト風のその男は、レッドワイズのボス
シュナイド・ロズベル。男たちからはキングと恐れられている。
そして、シュナイドの後ろには、ピシッとした黒のスーツに黒縁メガネ、
右手にはアッタシュケースを持ったエリート風の男が立っている。
この場には当然似つかわしく無い男だ。
「8番隊とはいえ、全員が病院送りとはどこの奴らだ?」
レッドワイズのNo.2にしてひときわ堅いの大きい男ビショップが答える。
「連中がどこの所属かは定かではありませんが、プロテクターのようなもの
を身につけていたと聞いています」
「ほう。オタクのとこの製品か?」
と、シュナイドは背後の男の方に振り返り尋ねる。
「いえ、弊社の製品ではありません。話を聞く限りおそらく今、各企業がこぞって
開発を進めているアーマードギアかと」
「ならそれをうちに回してくれ」
「では、試作中のものがあれば」
「そいつらはゴールデンクラウンの残党かブルーウルフか・・・とにかく俺たち以外に
オタクのようなところから支援を受けている連中が入れば厄介だ」
「それがですね。キング、やられた8番隊の中に
連中がそのアーマードなんとかって奴を身につける前に
キサヒメの制服を着てたと話す者がいまして・・・」
「どういうことだ?ビショップ。アウトロー気取ってる俺たちがカタギにやられたってのか!?
ふざけるな!」
シュナイドはテーブルのグラスを手に取り床に叩きつける。
グラスは破片となり辺りに飛び散る。
「つまはじき者の俺たちが喧嘩にすらまっとうな連中に勝てなかったらただのクズだろ!」
シュナイドの激昂に固まる男たち。
「8番隊の頭は誰だ?」
「ジャックです。周りに4、5人殺ちまってると話してる例の・・・」
「殺せ!何人殺っちまおうが、学生のお坊ちゃんに負けるようなザコはいらねぇ。
ナイフで滅多刺しのサンドバックにするなり、皮引き剥がすなり好きにしていい」
「ヘイ!」とビショップとその舎弟達は部屋を後にする。
「キング!」と坂本はシュナイドの前に飛び出してきて両手をついて膝まづく。
冷や汗をかき怯えた様子で全身が震えている。
「なんだ?」
「キング、教えて下さい。俺たちが配らせられている例のシールあれ何なんですか?」
「ウェアラブル端末だよ。言っただろ?」
「すんません。あれ付けた女が急に悲鳴あげて倒れたんで俺怖くて」
***
困った表情でシールを手に取るカンナ。
「ちょっとだからさ。これさばけないと俺やばいんだよ」
と、手を合わせ頼み込む坂本。
とりあえず頼みを聞けば、男は帰ってくれるだろうと
カンナは首筋にシールを貼ってみる。
「これでいいの?」
「いいよ似合う!ありがとう。マジで助かる」
苦笑いを溢すカンナ。
突然、「ウッ」という声を出し首を掻きむしり出すカンナ。目は血走り悲鳴をあげその番に倒れこむ。
***
「その女はどうした?」
「意識もなくなっちまてて俺、本当怖くて逃げ出しちまったんです。すんません」
「間違いない。覚醒しかけている」
シュナイドは背後の男と顔を見合わせ頷く。
「でかした!お前には8番隊をくれてやる。今からお前が頭だ」
「⁉︎」となる坂本。どういうことなのか訳がわからないがシュナイドに「ありがとうございます!」
と地面に擦り付けるように頭を下げる。
「さっそく迎えに行かないといけないな」
「なら、俺に行かせてくれよ」
奥の方で携帯ゲームに興じている少年の方に
一同が振り向く
「ルーク。では、お前に任せる。隣の倉庫にあるアレを使え」
***
男たち二人がかりで巨大な鉄の扉が開かれる。
暗闇の奥から赤い2つの目が怪しく光る。
***
カンナの傍らで俯いているマコト。
妹をこんな目にあわせた男をブッ飛ばしてやりたい。
だが、男は街で幅をきかせるギャングの構成員、到底一人で太刀打ちできる相手ではない。
それでも妹を傷つけた男を許せるわけがない。マコトはやり場のない怒りを彷徨わせひたすら
葛藤を繰り返していた。
ただ、今は膝の上でぎゅっと握りしめた拳を震わすことしかできない。
マコトはふと、顔を上げカンナを見ると彼女の首筋に違和感を感じる。
彼女の髪をかきあげると首筋には何かの記号をかたどった様な5cm角のシールが貼られていた。
マコトはまじまじとシールを見つめ、手を伸ばす。
「これは・・・」
「あきらめるのか?」
突然の声に振り返るマコト。
そこに白衣を着た女性=桐川トウカが立っていた。
「誰だ!?」
マコトはカンナの担当医でもない、院内でも見かけない女医に
恐怖にも似た不信感を覚えた。
「お前に力をくれてやる。そのシール好きに使うがいい。欲しいのだろ?力が」
***
早朝。廃工場の扉前で身構えるアーマードギアの3人
ツカサが無線で「おっさん本当にここなんだろうな!気配がしないぞ」
と伝える。
***
生活安全部部室のウヴァル、パソコンに目を凝らしながら
「間違いない。防犯カメラの映像には数日前からレッドワイズの構成員たちが出入りしているのが
写っている。そこがレッドワイズのアジトだ」
***
「よし!行くぞ」と合図を送る尊。
頷く、ツカサとラルフ。
一斉に扉を開けて踏見込む3人。
「そこまでだ!」と武器を構える。
だが、3人は目の前の光景に言葉を失ってしまう。
十数人のレッドワイズの構成員たちが血まみれで倒れている。
奥には坂本の姿がある。
駆け寄る3人。息も絶えだえで全身真っ赤に染まった坂本。
ツカサが揺すって声をかける。「おい! どおした!?しっかりしろ」
意識はかろうじてある。
口を小さくパクパクさせてる坂本に耳を近づける3人。
「・・・バ・・・ケモノ・・・」とか細い声が聞こえてくる。
「ばけもの?」となる3人。
坂本はそのまま意識を失ってしまう。
***
KEEP OUTの黄色いテープが貼られた廃墟。
鑑識に、警官、刑事たちがウロウロしている。
その中に電話をしているウルヴァの姿。
「刑事さんたちの話だと昨夜から未明にかけて、レッドワイズだけじゃない
複数のカラーギャング組織のアジトが何者かの襲撃を受けたようだ」
***
電話を受け取るツカサは「相変わらず何者のなんだよおっさんは?」
「とにかくカラーギャングを狙う何者かがいる。危険だ!警戒は怠らないでくれ」
ビルの屋上から辺りを眺めるアーマードギアの3人。
***
走行中の車や歩道橋を踏み潰しながら、18m近くある白い巨大ロボット=プロトフが四つん這いで、
走っていく。
コックピットのルーク。
ルーク見つめるモニターには地図が映し出され、何かの座標を示す
赤いマークが点滅している。
「どこだ?どこ?どこ?待っててね僕が手に入れてあげるから」
ビルによじ登り、ビルとビルに飛び移って行くプロトフ。
***
雑居ビルの4階付近から爆発が起こる。
ビルの屋上に駆けつけるアーマードギアの3人。
爆煙の中、そこには人影がある。
背中から植物のような触手を生やしたマコトの姿。
「本当にバケモノ⁉︎」
マスク越しに目を細めジッとみる尊。
「ツカサ、よく見ろあれは依頼人の御影マコトだ!」
「なんだって!?」
「み〜付けた」と突然覗き込むように顔を出すプロトフ。
「巨大ロボだ!」と興奮気味に驚くラルフ。
「なんなんだテメー!」
モニターからマコトの姿を確認するルーク。
「男?女の子だって来てたけどまあいいや。いただきます」
プロトフの胸のハッチが開き、マコトを飲み込む。
「キター!」と、プロトフがその姿を変える。
無数のトゲトゲしい触手を生やした花のような植物型ロボットに変化する。
「バイオラス。君の名前だ。壊しちぇ」
ルークの笑い声を響かせながらバイオラスの触手は周りのビルを破壊していく。
「本物の悪登場!!ワクワクしてきたぜ。行くぜみんな」
「おう!」と、一斉にバイオラスに攻撃を仕掛ける3人。
だが、次々に触手に足や手を絡みとられ身動きできなくなる3人。
「クソ!コレじゃ勝てねぇ」と、もがくツカサ。
突如、バイオラスにミサイルが着弾し爆発が起こる。
「君たちー!」とのウルヴァの叫び声。遠くから青いバイクに乗ったウルヴァと
白いスポーツカーが向かってくる。
「おっさん!」
ウルヴァの乗るバイクから次々にミサイルが発射されバイオラスに命中していく。
ツカサたちを縛っていた触手は爆発で吹き飛ぶ。
ウルヴァの元に駆け寄る3人。
「さぁ、ツカサくん、尊くんコレに乗りたまえ」
ウルヴァはツカサの手を引き、スポーツカーに乗せようとする。
「俺たち17だぞ!高2だぞ!免許持ってねぞ!」
「大丈夫。免許なら偽装しておいた」
「そういう問題じゃねぇよ!まず運転の仕方わかんねぇし」
「自動運転システムがある大丈夫だ。尊くんを見たまえ、何も言わなくてもうエンジンをかけてるぞ」
バイクにまたがり、操作方法確認している尊。
「あいつなんで⁉︎」
白いワンボックスの軽自動車がやってくる。
中からサヨが降りてくる。
「先生!俺騙されてました。やっぱりこのおっさん危険です!助けて下さい」
「やっちゃいなさいツカサくん」
「は?」
「先生が間違ってました。街の脅威からみんなを守って生活安全部!今日から私が顧問です。戦いなさい」
バイクを走らせる尊。
サヨの言葉に呆気に取られるも覚悟を決めハンドルを握るツカサ。
タイヤを空転させスポーツカーが走り出す。
バイオラスへと迫る尊。
「変形!」と叫び、バイクが尊を包み込むように人型に変形する。
「ソードライダー!!!」と名乗りを上げ10m近いロボットが完成する。
2つの日本刀型の剣を腰から引き抜きバイオラスに飛びかかって行く。
「俺も!シフトチェーンジ!」スポーツカーもツカサを包み込むように
人型に変形する。
「ライドファイヤー!!!」と名乗りを上げ10m近いロボットになると
すかさずバイオラスにパンチを食らわす。
「なんなのこいつら?楽しくなってきたね」
バイオラスの触手が鞭のように攻撃してくる。
ソードライダーは触手の攻撃をかわし、剣先も見えぬ速さで、バイオラスの触手を切り落とす。
「よっしゃ最後は俺が決めるぜ!」
ライドファイヤーは天高くジャンプ、足を突き出して全身が炎に包まれる。
「ライドバーストキック!!!」
ライドファイヤーのキック技がバイオラスの全身を貫く。
そしてバイオラスは大爆発を起こして木っ端微塵吹き飛ぶ。
ライドファイヤーは握ていた拳を広げる。
その手のひらにはマコトが意識を失って横たわっている。
マコトの首筋に貼られたシールは静かに消えていく。
***
二体のロボットを目を輝かせながら触っているラルフ。
ウルヴァとサヨの元に駆け寄ってくるツカサと尊。
「よくやった。ご苦労」
「おかえりなさい」
「こんなでっかいロボットで暴れて大丈夫だったのかよ?ニュースになっちまうんじゃ」
「大丈夫さ。ここは人工島スメラギ。日本を筆頭に世界中の国々が研究開発進めるために作った国。
言わば一大実験場だ。ロボットが暴れようが何しようが日常のこと。大人たちは驚きもしないさ」
***
スメラギ国総理官邸の一室。
華僑院玄徳総理と安守公彦民自党幹事長
そして官僚たちがテレビを固唾を呑んで見守っている。
テレビではこの国の将来の行く末を左右する重要な発表がなされている。
この世界は星帝を中心として一つにまとめられ、星帝とその内閣によって政治が行われている。
閣僚は各国の首脳から選定される。星帝は国際議会の議員(各国の首脳)の選任を得て選出される。
世界がまとめられたことで世界の価値観は国レベル、各国々は都道府県と同じ価値観になっている。
そして現在、日本国代表の徳川イエミツ公が第3代星帝を務めている。
閣僚を務めていたグリティシア王国国王の失脚に伴いこの度内閣改造が行われ、
テレビでは最後の閣僚の名前が発表されようとしている。
スメラギ国は国際議会の与党に所属していながら、長らく閣僚から遠ざかっている。
華僑院政権は支持率が下落し窮地にある。閣僚に選ばれることで政権浮揚のきっかけになると期待していた。
だが、テレビに映る徳川星帝の口から告げられた最後の閣僚の名はイタリア代表であった。
その瞬間、官僚たちからは大きなため息が溢れる。
安守幹事長は、膝を叩いて「なぜだ、なぜ選ばれない。この国が国際議会にあれだけ
出資しているのになぜだ」と、落胆を隠せない。
華僑院総理は杖で床を突いて音を立てる。重い口を開く「もういい!今さら内閣に入ったところで何になる。
それより救世の巫女だ。なんとしても救世の巫女を手に入れるのだ」
ドアをノックし「失礼します」と、入ってくるグールド・グレモリー。彼は白髪のライオンヘアーが特徴で
30前半の若手イケメン議員。華僑院総理とは正反対に国民の人気も高く次期総理候補と噂されている。
「総理、救世の巫女はすでに手中に収めております。ご安心下さい」
安守幹事長はグールドを懐疑的な目で見つめている。
華僑院総理に何かと助言をするグールドに疑念を抱き危険視している。
「1日でも早く全部揃えるんだ。人間からこの世界を取り戻すのだ」
「はっ!」と膝まづき深々と頭を下げるグールド。
***
救急車のトランクが閉まり、サイレンを鳴らして走り出す。
見送るウルヴァら生活安全部たち。
「先ほど、病院から連絡があったんだが妹さんは意識を取り戻したようだ」
「本当か⁉︎」
「だけど皮肉だな、今度は兄の方が眠ったままになってしまうなんて」
と、尊がつぶやく。
サヨは「いつまですれ違うんでしょうか。兄妹は・・・」
と、語り走り去っていく救急車を見つめる。
生活安全部最初の事件は高校生ヒーローにとってどこか虚しさを覚えるものだった。
***
走る少女の足元。
ゆっくりと歩いてくるブーツの足。
人気のない高架橋の下を息を切らしながら走ってくる
金髪の少女。体がよろめきその場に倒れてしまう。
背後から剣を持った白銀のアーマードギアがゆっくりと迫ってくる。
つづく