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 彼が乱入して来た為、ヴェスタの女神の迎えの儀が中止になってしまった。私として見れば、彼に生きて会うことが出来たので、それはそれで良かったと思う。

 乱入者の為、ここが一時騒乱になっているのは仕方がないが、教会の守護をしているはずの僧兵達の姿があることはおかしい。それに、いつの間にか、父も姿を消してしまった。

 今、何かが起きている。それはわかる。だが、嫌な予感がする。胸騒ぎがして、仕方がない。一体、私はどうなってしまうのだろうか?

 そんなことを思っていると、次の瞬間、白い煙が広場全体を覆う。広場全体がパニックに陥る。何事か、と思っていると、ふいに私の手が引っ張られる。

 その方向を見ると、シスターの姿をしたこの前見た青髪の少女である。彼女がどうして、シスターの姿をしているのかも気になるが、ここに現れ、私の手を引っ張っている。

「………騒がないで頂けると、幸いです。今は緊急事態です。それを脱するのには貴女の力を貸してもらいたいのです」

 彼女はそう囁いてくる。

「貴女のしていることは立派な誘拐です」

「承知です。貴女叫びさえすれば、間違いなく牢にぶっ込まれることと思います。ですが、教皇、いや、貴女のお父様がやっていることと比べたら、些細なことです」

 私は彼女の言葉に絶句した。彼女は何処まで知っている?

「……どうやら、貴女は見て見ぬふりをしていたようです。それも仕方がないことだったのかもしれません。ですが、彼のような人間を野放しにしていくと、悲しむ人たちが多くなると思いませんか?」

 貴女のお友達のように、と彼女は言う。その言葉には言い返せなかった。そう、私が行動に出していれば、彼が悲しむことはなかったかもしれない。彼だけではない。彼の住んでいた村の人も……。

 ヴェスタの女神は何よりも平和を願っていた。彼女に身を捧げる私が人々の妨げになってはいけない。

「今こそ、貴女は自分の目で真実と向かい合わなければなりません。貴女がかのヴェスタの女神の巫女として、平和を望んでいるのなら、そして、彼のことを思っているなら……。貴女が真実と向き合う覚悟があるなら、私は貴女の手伝いをします。貴女が望むなら、幸せを運びます。だから……」

 彼女は言う。私の大切な人を助けて下さい、と。

 待っているだけではいけない。助けたい人がいるなら、自分で助けに行かなければならない、と。

 誰よりも大切だった彼をこれ以上悲しませないように。

 そして、何よりも、自分の為に。


***

 教皇が魔法を展開して、俺を襲う。威力は黒龍さん達と比べると、見劣りするが、タイムラグなしで、魔法を展開してしまうので、下手に反撃できない。魔法は魔法陣なくしては出すことが出来ない。だから、魔法陣に代わりになるようなものがある。おそらく、彼の手に持っている“紅い石”、あれが魔法陣の役割を担っているのだろう。

 そこまで分かっているが、紅い石がどんなものなのか、分からずじまいである。

 魔法陣破棄にはいろいろなやり方が考えられる。

 魔力が溜まりやすい血液を大量に使って、魔法陣を展開する方法。再生人形リバースドールが入っていた棺桶などを壊す際に、使われている方法もこれである。タイムラグを失くすことはできるが、これは魔法陣を展開するよりも、余計に魔力を使う上、高度の魔法を使うと、命の危険もさらされる場合がある。

 一撃必殺として用いられることはあっても、こんなに連発するものではない。それに、その手は熟練の魔法使いが使える裏ワザテクだ。彼のような人間が扱えるはずがない。

密度の高い魔力による魔法陣展開する方法。これは命の危機はないが、その理論はまだ解明されていない。魔力で魔法陣を展開することは地面に描くよりも高度な技術と抜群の魔力コントロールを必要とする。かなりの集中力が必要なので、タイムラグなしでは難しい。これらの問題を何らかの形で克服出来たら、できる可能性もあるが、それは天才の領域だ。一般の魔法使いが出来る芸当ではない。

とにかく、紅い石をどうにかしない限りはどうにもならない。考えろ、俺。こんなところで、死んだら、青い鳥に格好いい台詞を言った意味がなくなるだろう。

青い鳥が奇跡を連れてくるまで、踏ん張るんだ!!

「……巷で有名な最年少ライセンス持ちの魔法使いも型なしですね」

 彼はそう言いながらも、魔法を展開させる。俺はどうにか避けようとするが、その一つが避け切れずに、脇腹に直撃する。

「……う」

 俺は思わず顔を歪ませる。脇腹からは血が流れ落ちる。これでは思うように動けない。このままでは殺されるのも時間の問題だ。

 お前はあいつを置いて死ぬつもりか?そんなことあったら、あいつは自分を責めるだろう。そんなことはあってはならない。そんなことをさせてはいけない。

 俺は生き残って、あいつに元気な顔を見せてあげなければならない。その為に、生き残る方法を考えろ。脳内の知識を絞り出せ。

「これまでのようですね。とは言え、貴方方には驚かされました。いろいろなところで、幸せと幸運を振り撒いていると言う話を聞いたことがありましたが、死者を蘇らせることができるとは噂を馬鹿にするものではないですね」

 煙のない所に、噂が立つわけがないのですから、彼は勝ち誇ったような表情を浮かべる。

「………死者?何のことだ?」

 俺は怪訝そうに彼を見る。不老不死のお知り合いは教会が誇る殺戮人形、最終兵器と呼ばれる“再生人形リバースドール”だけだ。だが、彼女の存在は教会側によって、隠匿されてそうである。俺達が出しゃばらなければ、一部の執行者にもその存在を知られていなかったそうだ。それなら、末席の断罪天使エクソシアが彼女の存在を知っていたかと言うと、断罪天使エクソシアを他ならぬ再生人形リバースドールが助けたからだそうだが………。

 いや、待て。教皇が言っているのは彼女のことではない。彼女が助けた断罪天使エクソシアの方ではないか?そう、彼は死んだことになっていたのだから……。

 話によると、盗賊の集団が彼の村を襲って、村は全滅した。だが、運良く、一人生き残っていても、おかしい話ではない。なのに、彼は驚いている?

 それに、滅多なことでは動かない教会が、しかも、再生人形リバースドールを投入した時点で、おかしいと思うべきだった。

その事件は盗賊が滅ぼしただけで終わる話ではなかった。

「………まさか、あんたがあの村を滅ぼしたのか?」

 いや、あの村を滅ぼしたのは盗賊ではなかった可能性もある。どちらにしろ、あの村はこの教皇が描いた最悪最低のシナリオによって、滅ぼされたとしたら……。

「勘違いされては困ります。私は自分の手で滅ぼすようなことはしていません。ただ、サーラ輝石を狙う賊は多かったですから、私達の計画の為、彼らを利用させて貰っただけです」

 ああ言った賊は何もしなくても、動き出しますから、と彼は言う。

「後は賊が動き出すのを待つだけでした。賊と言うのは真夜中に現れるものです。まさか、村人が真夜中に出歩くようなことはありませんから。そして、あの日、とある賊があの村を襲いました。私達が予想した通り、たくさんの血が流れました。その時、あらかじめ展開させておいた魔法陣が発動し、ついに完成させることができました。これは人の限界を超えることを可能にした魔法のアイテムです。魔法陣破棄をするなど普通に考えて、不可能なのです。ですが、これを使えば、可能なのです。この石に宿る命を使えば……」

 彼は興奮しきった様子で、紅い石を掲げる。

 この男が何を言っているのか分からなかった。その言葉に俺は人知れず戦慄する。

 この石に人の命が宿っている?それが本当なら、この石に宿っているは村の人達の魂……。

「何を馬鹿なことを言っている。そんなことを理論的にできるはずが……」

「それができたんです。だから、目の前にこれがある。違いますか?まあ、彼の話によると、この石を完成させるには大量の魔力と密度の高い魔力を持つ人間の魂が必要だったそうです。その為に、たくさんの人の血が必要だったそうです」

 だから、その村を盗賊に襲わせる必要があった。

「しかし、一つ誤算がありました。この石の中にあった魂は当初使うはずだった人間の魂ではありませんでした。本当はあの少年を使うはずでした。先ほどまで、私も彼の魂がこの石にあるものだと思っていました。実際、彼は生きていました」

 まあ、今になってはどうでもいい話ではありますが、と教皇は興味なさそうに言う。それを聞いて、俺の中で何かがブッツンと切れたような気がした。

「……てめえは人の命を何だと思っている?」

 あの村の人達も、盗賊も同じ命である。その命を使って、その石を生み出す理由が何処にある?

「人の命?何のことでしょうか?勘違いされてしまっては困りますね。貴方方平民と私達貴族の命が同じだと思っているのですか?思い違いをされては困りますね。貴方方の命は私達に使われてこそ、意味を成すものです。そもそも、魔法は貴族の特権です。貴方のような平民が扱っていいものではありません。それなのに、私は魔法を扱うことがあまりできなかった。選ばれた人間である私が、です」

 それは理不尽なことです、と彼は言ってくる。理不尽なことを言っているのはお前の方だ。

 魔法は貴族の為にあるものではない。まして、彼の為ではない。魔法は習いたい者が学ぶべきである。貴族も、平民も関係なく……

 俺の尊敬する赤犬さんだって、貴族出ではない。もともとは孤児だった。そんな彼女を彼女の師匠である赤猫さんが魔法を教えてくれた。

 そして、赤犬さんは魔法を習いたいと言う俺の願いを叶えてくれた。

 魔法が貴族の特権なんてものではない。そもそも、魔法を扱うことができるかで、優位さができることこそがおかしいのだ。

「平民は私の為に使われるべきなのです。この街の民も、そして、ヴェスタの巫女も……。娘をヴェスタの巫女にするのは大変でしたよ。ヴェスタの巫女の候補を何人も暗殺しなければならなかったのですから。出来が悪い娘を持った親は本当に苦労します」

「………よく分かった。てめえが救いようもないほどの馬鹿で、どうしようもないほどのクズ野郎だってことがな」

 俺がそう言うと、彼の眼がピクンと動く。

「………平民如きがこの私にそんな口を叩くことなど許されるはずがあるか!!」

 彼はそう言って、魔法を展開させ、俺の身体に直撃する。だが、痛くない。こんなもの、この男に無念にも命を奪われた人達に比べたら……。

「てめえみたいなクズの攻撃が効くか!!」

 俺は全身から流血した血を使って、魔法を展開させ、彼の身体に火の玉をぶち当てる。すると、彼の身体はサーラ輝石の防壁にぶつかる。

「てめえには幸せも幸運も奇跡さえもくるはずがねえ」

 幸せや奇跡と言ったものは自分を信じることができたものにやってくるものだ。自分のことも信じず、他人も信じなかった。それだけではない。人の命を虫けら同然に扱っている奴に、本当の意味の幸せがやってくるはずがない。

 俺はそう言って、立ち上がるが、頭がくらくらする。大量に血を流した上、魔力を使い過ぎたのが原因か。思わずよろめくと、

「………どうやら、口だけのようですね。これで、止めをさしてあげましょう」

 彼はそう言って、氷の槍が俺の胸に向かって、襲いかかる。とは言え、身体がうまく動かない。

 これで、終わりか?終わりなのか?

 罪のない人達の命を奪ったこの男を野放しにして……。

 何よりも、青い鳥を置いて……。

俺はまだあいつの手伝いをしたかった。トラブルと不幸ばかり振りまかない奴だが、それでも、あいつは真剣で、そして、最後に奇跡と幸せを生み出しっていった。

だから、俺はまだ死にたくない。死んでたまるか!!

 その願いが叶ったのか、その魔法が俺に当たる前に消えてしまった。これはまさに、サーラ輝石の性質によるものだが、サーラ輝石は半径5センチ以内のものしか打ち消せない。だから、俺達を囲うように聳え立つサーラ輝石によるものではない。

 すると、胸ポケットからあいつの為に作った眼鏡が地面に落ちた。

 どうやら、青い鳥がまた助けてくれたようだ。それに……、

「俺はまだ天に見放されたわけではないようだな」

 そう呟いた瞬間、天井に穴が開き、その上には金色の翼を生やした天使がいた。

「………あんた、本当に蘇ったのか?」

 俺の呟きに、天使はつまらなそうな表情に、

「………さあな」

 そう答えると、魔法陣を展開させずに雷を轟かせる。

 教皇は俺を天才と言っていたが、本当の天才というのはああ言った奴を言うんだ。

 そして、俺を呼ぶ青い鳥の声が聞こえてくる。どうやら、こいつが奇跡を呼んできてくれたのか。

「………どうにか、時間稼ぎは出来たようだな」

「どうにかではありません。どうして、貴方はこんなぼろぼろになってまで戦おうとするんですか!?」

 こいつは今にも泣き出しそうな表情を浮かべながら、そんなことを叫んでくる。

 そんなの決まっているだろ?

「お前が幸せを運んでくれるって信じているからに決まっているだろ」

「貴方は馬鹿です。どうしようもないほどの馬鹿です」

 青い鳥にポコポコと叩かれる。別に、馬鹿でもいい。そう、こいつがたくさんの人に幸せを運ぶことができるなら……。

 とは言え、ここで俺の仕事が終わりではない。まだ、こいつは幸せを運んでいない。

 今回、こいつは幸せを運びたい人間がいないのかもしれない。それなら、それでいい。だけど、今回だけは運んで欲しい相手がいる。

「……青い鳥、幸せを運びに行くぞ」

 俺はよろめきながら、立ち上がる。

「………貴方のお人好しは死なないと、治りません」

 こいつは溜息を吐きながら、そう言ってくるが、気にしない。このことが終わったら、文句は聞こう。だけど、今は彼が格好良く戦えるように……。

 今度こそ、彼が姫君の騎士になれるように………。

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