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「………中々、面白い方でしたね」

 彼は黒犬さん達が帰った後、そう呟く。

「……面白い方とはどういうことですか?」

 私は怪訝そうに彼を見る。あの方達はとても誠実そうな方に見えた。いつも、ここにやってくる貴族達よりは好感が持てた。

「黒犬と一緒にいた少女はメアリーと名乗っていましたけど、あの少女は青い鳥ですね」

 彼はそう言ってくる。青い鳥?あの少女も魔法使いなのだろうか?

「今や、注目を浴びている女剣士ですよ。話によると、この前の武道大会で、翡翠の騎士と引き分けをしたと言う話ですよ」

 私はそれを聞いて、驚きを隠せない。翡翠の騎士と言えば、王の側近中の側近である宮廷騎士である。その正体は謎に包まれているが、王への忠誠は絶対とされている。彼の実力は国随一の剣士と言ってもいい。そんな彼に引き分けることができるとは、彼女は一体何者だろうか?

「それに、いろいろなところで噂になっている幸せを運ぶ鳥と言われている人物と似通っていますし。本当に、彼らはサーラ輝石を目的にやってきたのでしょうかね?」

 彼は不敵な笑みを浮かべる。


***

「いつものことながら、とんでもないことをしてくれるな」

 あの後、サーラ輝石を見せて貰ったのだが、こいつと来たら、許可をもらわず、神聖なものであるサーラ輝石をペタペタと触り始めた。その結果、バチっと言う音が聴こえ、サーラ輝石が壊れた。それを見た教皇達は驚き、俺はと言うと、顔を真っ青にし、冷や汗も出てきた。

 青い鳥がしたこととは言え、それを止められなかった俺の不注意もあるので、弁償すると言いだしたのだが、相手方は気にしないでいいと言ってくれた。

 その為、こいつを連れて、急いで教会をでた。教会経由でサーラ輝石を手に入れることは難しくなってしまった。サーラ輝石を掘りに行かなければならなくなったじゃないか。

「………私の手は魔力の波動を変える力です。魔力を宿している魔法具や魔法石の類は効力がなくなったり、壊れてしまうことがあります」

 俺が憤慨していると言うのに、こいつはそんなことを言ってくる。確かに、こいつは魔力を変えてしまう手を持っている。その手が効力を発揮するのは魔法陣や魔法具である。そして、さっきの現象を見れば、魔力の塊である魔法石にも効果がある。

 魔力が宿っているなら、こいつの手で壊れてもおかしくない。だが、待てよ。俺が捜している“サーラ輝石”はもともと魔力を持たない石である。それを聞けば、ただの石ころではないかと思うが、どんな物質にだって、大小あれど、魔力は宿っている。そう、有機物だろうと、無機物だろうと、生きていようと、物体だろうと、それは同じ。

 魔法石と言うのは濃度の高い魔力の塊である。そして、その逆に、魔力を全く持たないのがサーラ輝石。

 そう、本物なら、青い鳥が触っても、壊れるはずがない。俺はそう言ったものを求めて、ここに来たのだから。

 と言うことはあの教皇は俺達に偽物を見せたということである。どうやら、とことん甘く見られていたようである。

「昨日、教会で見た貴族が持っていた石に、少しの魔力が宿っていました。もしあれがサーラ輝石として売られたのなら、偽物を掴まされたことになります」

 だから、私は試しました、とこいつは言う。だから、サーラ輝石を見たいと言ったのか。そして、こいつの予想通り、彼らが持ってきたものは本物ではなかった。一応、試しに触ってみたら、壊れた。

「サーラ輝石を高額で売り捌いていると言うことも許されることではありませんが、偽物として売ることはもっと許されることではありません。どうして、彼らはサーラ輝石を偽物として売り捌いて、何をしようとしているのか、確かめる必要があります。その為に、本物のサーラ輝石を見る必要があります」

「お前の言い分は分かった。とは言え、どうやって、手に入れるつもりだ?」

 全て、教会が管理していると言う話だぞ、と俺が言うと、

「なら、直接手に入れるに決まっています。堀りに行くとします」

 貴方だって、それが必要ではないのですか、とこいつは言う。確かに、必要だ。その為に、ここに来たようなものだから。


 俺達はサーラ輝石が発掘できる鉱山の場所を聞いて、その山のふもとまでやってきた。話によると、この山のふもとには鉱山町が栄えていたそうだが、数年前に、とある盗賊団に滅ぼされたそうだ。その時に生き残った者はおらず、その悲惨さが残っているそうだ。

 俺達が見た町跡にはほとんどの家が焼けてしまったからか、姿形が残っていない。

「どんなことをすれば、こんなことになるんだろうな」

 俺はそれを見て、そう呟く。ここに住んでいた人達は何もしていないのに、殺されなければならなかったのだろうか?殺されていった村の人達の無念さは計り知れない。

「………どうやら、この街の人の墓があるみたいです」

 こいつはとある方向を指す。確かに、立派な墓とは言えないが、確かに墓はある。どうやら、全て手作りのようである。これだけの墓を誰が作ったのだろうか?

「………」

 あいつはそこに行き、無言で祈りを捧げる。俺も青い鳥に習って、手を合わせ、祈りを捧げる。

 彼らがどう言った人達か知らない。どのような死を迎えたのか知らない。

 だけど、祈りを捧げたい。彼らに救いが、癒しがありますように、と。

「………お前達がどうしてここにいる?」

 俺達が祈りを捧げていると、聞きなれた声が聴こえてくる。その方向を見ると、大量の花を持った断罪天使エクソシアがいた。おそらく、この花はここに眠る人々の為に摘んだものだろう。

 確か、彼は言っていた。全てを失った、と。おそらく、ここは彼が生まれ育った場所……。

「偶然です。私達はサーラ輝石を掘りに来ました」

「………サーラ輝石を掘りに来た?あそこは教会が所有権を持っているところだ」

 彼は怪訝そうな表情を浮かべる。

「サーラ輝石を手に入れることが出来れば、ラッキーですが、今は本物を見ることさえできればいいです」

「………本物?見ることができればいい?何の話をしている?」

 彼は眉間に皺を寄せる。彼が理解できなくても仕方がない。

「少しサーラ輝石のことで気になることがあったんでな。本物のサーラ輝石はこいつの手で壊れるのか調べに行くところだ」

 もしサーラ輝石にも少しの魔力が宿ることがあるなら、こいつの手で壊れてもおかしくない。彼らが俺達に差し出した物は本物となる。とは言え、その可能性はほぼゼロに等しい。なんたって、昔、サーラ輝石を研究していた魔法使いが発見したものであり、その文献は国立図書館にも残されている。サーラ輝石に魔力があるなら、彼らが嘘出鱈目を言っていたことになる。昔のことだから、そう言うこともあるかもしれないが、俺はそう思えない。

「………サーラ輝石が壊れる?そんなわけがないだろう。アレの硬度は並大抵の石には及ばない。それに、魔力を通さない成分が含んでいるから、魔力が宿るはずがない。……付いて来い」

 彼はそう言って、大量の花をそこにおいて、来た道を戻っていく。俺達も彼に付いていくと、目の前に小さな小屋が見えてきた。彼はその扉を開けて、中へと入って行く。すると、簡易ベッドや調理道具などが置いてある。どうやら、彼は里帰りしている間はここに滞在していたようである。

 そして、その小屋の端には地下室につながる梯子があり、俺達にここで待っていろ、と言うと、彼はその梯子で降りてしまった。しばらく待っていると、彼はとある袋を持って、上がってきた。そして、彼は袋の中から透明な石を取り出し、

「………これがサーラ輝石だ。触ってみろ」

 青い鳥に差し出す。青い鳥は言われた通り、触ってみると、先ほどのように壊れることはなかった。

「……やはり、あれは偽物でした。なら、どうして、彼らは偽物を本物と偽って、売っていたのでしょうか?」

 青い鳥はもっともな疑問を口にする。

 確かにその通りだ。そこまでして、手に入れたお金をどうするつもりだ。

「それもそうだが、どうして、あんたがサーラ輝石を持っていたんだ?」

 貴重なもので、しかも、教会が全て所有しているものではなかったのか?

「………数年前はサーラ輝石を含めた鉱石はここの人達が採掘して、教会に納めていた。だが、あの事件以来、教会が委託した民間ギルドが採掘しているそうだ」

 これは彼らが最後に採掘した分だ、と彼は言う。それを聞くと、やるせない気持ちになってしまう。

「………断罪天使エクソシア、訊いていいですか?ヴェスタの教会がサーラ輝石の所有権を全て持っているそうですが、貴方達の組織は知っていましたか?」

「………教会がサーラ輝石を所持していることは知っていた。だが、全てとは初耳だ。サーラ輝石は30パーセントほど国が所有しているはずだし、俺がここにいた頃は稀ではあったが、商人達も扱っていた」

 おそらく、国には納入していただろう。そうでなければ、話は大きくなっていたはずだ。まあ、どのくらいのパーセントで納めていたかは疑問に残るが。

「なら、貴方達の組織は教会が貴族達に売りさばいていたことは知っていましたか?」

 こいつがそう言うと、彼は眼を開き、

「………それはどういうことだ?貴族に売り飛ばす?アレは防壁として使われたりするものだ。貴族達が手に入れて、何に使う?」

 驚きを隠せない表情で言う。どうやら、執行者や教会の上層部も知らなかったことらしい。まあ、彼らが黙認していたら、何か意図があると思うが、彼らが知らないとなると、ますます、雲行きが怪しくなったものだ。

「まあ、サーラ輝石を売り飛ばしていると言うのも語弊があるかもしれないかもな。彼らが売っている物は本物を騙った偽物だったんだから」

「………お前達が言っていた偽物とはそう言うことか。サーラ輝石を貴族に売り飛ばしていることも疑問に残るが、どうして、本物と偽って、売り飛ばす必要がある?」

「考えられる仮説があるとしたら、何らかの事情で、サーラ輝石がたくさん必要で、かつ、莫大のお金が必要と言うことになります」

 嫌な予感がしますが、とこいつは言う。確かに、たくさんのサーラ輝石と莫大のお金を何に使うと言うんだ?

「………その話が本当なら、聖焔セラフィムに確認を取る必要があるな。少し待っていろ」

 彼はそう言って、目を瞑った。彼は何をしていると言うのだろうか?

「教会に伝わる独自に連絡法を使っているのだと思います」

「っげ。そんなものが教会にあるのかよ?」

 もしかしたら、魔法協会よりも、教会の方が技術が進んでいるのではないのだろうか?一度、そう言った技術を教わりたいものだが、それを知った途端、表世界には戻って来ることができないかもしれない。

 しばらくすると、彼は目を開け、こちらを見る。

「………聖焔セラフィムは勿論、上層部もそのことは知らなかったようだ。一体、彼らが何の為にそんなことをしているのかは知らないが、まだ尻尾を掴んでいない時点では本格的に行動を起こすわけにもいかない」

 彼らは所謂、後始末役なので、大事にならない限りは出て来ることができないのだろう。

「………その為、俺は教会に行って、様子を見に行くつもりだが、どうする?」

 どうやら、彼は執行者として探りを入れるらしい。

「……ちょっと待って下さい。教会に探りを入れる必要があるのは確かですが、私が思っている通りでしたら、貴方が行くべきではないと思います」

 青い鳥はそんなことを言ってくる。

「………それはどういうことだ?」

 彼は怪訝そうに青い鳥を見る。

「彼は私達が思っている以上に危険な人物かもしれません。彼が私達のしようとしていることを読んでいたとしたら、ここで切り札を切るわけにいけないと言うことです」

「………切り札?」

「そうです。教会は私と彼の存在を警戒していると思います。もしかしたら、貴方達の組織に対しても」

「………」

「ですが、彼らは貴方が出てくるとは思っていないと思います。何故なら、貴方は死んでいると思われているのですから」

 こいつがそう言うと、彼は目を見開いてこいつを見る。

「………お前は何を言って」

「これは憶測の話です。本当のことは誰も知りません。ですが、それを使う手はありませんか?」

 ああ言った人は予想外の手を使われると、弱いものです、と青い鳥は言う。

はたして、こいつは何をしでかそうとしている?

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