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「―――サーラ輝石を手に入れたいと言う客が来た?何処の貴族ですか?その方は?」

 彼はそう言って、神父を見る。

「………少女を連れた青年でした。何処かの貴族の御子息かもしれませんが、恰好からはそう見えませんでした。ただ、その青年は“黒犬”と名乗っていました」

 その神父がそう言うと、彼は驚いた表情を浮かべ、

「その青年は黒髪黒眼をしていて、背丈に合わない大剣を持っていましたか?」

 そんなことを尋ねてくる。

「……確かに、その青年は黒髪黒眼でした。そう言われれば、大剣も肩にかけていました」

 神父がそう答えると、彼は確信したような表情をする。

「その青年は何処に宿泊しているか訊きましたか?すぐさま、言付けを寄こしなさい。明日、昼前にお越しいただければ、話を聞くことはできます、と」

 彼がそう言うと、神父は「分かりました」、とすぐさまこの部屋から出て行ってしまった。彼は貴族にだって、そこまでしたことはない。その青年は一体何者なのだろうか?

「………教皇、その“黒犬”とはどう言う方なのですか?」

 私は興味本位で尋ねてみると、彼は私の方を見て、

「ん?貴女は噂を訊いたことがありませんか?魔法協会ライセンスを最年少取得した少年のこと。かの国王の側近である黒龍以来の逸材と目されている魔法使いですよ。確か、今年で18になり、国王に見初められて、宮廷魔法使いになったと聞いていたのですが。一体、そんな方がここに、しかも、サーラ輝石が欲しいとは……。何にお使いになるのでしょうかね?」

 彼はニヤニヤと笑みを浮かべて、そんなことを言ってくる。


***

 あの後、俺はサーラ鉱石の件について教皇と話をしたい、と駐在している神父に言うと、アポを取っていない方を会わせることができませんが、一応、その話は教皇に話しておくので、教皇がお会いになる時は連絡をします、と言われ、名前と宿泊先だけを述べ、教会を後にした。事実上の門前払いである。

 これでは別の方法を考えた方がいいかもしれない。そう思ったのだが、俺達が温泉を堪能している時に、教会の使者が俺達が泊まっているホテルに現れ、先ほどの態度を急変させ、明日の十時に来てくれれば、教皇がお会いになると言われた。

 一体、この心境の変化は何なんだろうか?

「………相手は貴方がかの有名の黒犬様であることに気付いた可能性があります。ランセンス持ちの魔法使いなら、結構の額をぶんどれると踏んだのだと思います」

 この街の教皇は悪名高くて有名です、と青い鳥は言ってくる。本当に、お前はそう言った情報をいつの間に手に入れたんだ?こいつの情報網は謎に包まれすぎている。

「………と言われても、俺は協会に申請していないだけどな」

 今回は自費で購入するつもりなので、上限はたかが知れている。

「そうなのですか?私はてっきり、新魔法開発の為にそれを必要にしているのばかり思っていました」

「………確かに、その通りなんだがな。新魔法に繋がるか分からないものに、国から金をとれないだろう」

 どうやら、こいつはサーラ輝石を手に入れるのは新魔法開発の為と思いこんでいるらしい。まあ、余った輝石で、赤犬さんと共に新魔法開発しようと思っていたので、あながち間違いではない。ただ、メインが違うだけで。

「貴方は本当に殊勝です。新魔法に繋がらなくても、国のお金を使えるだけ使っている魔法使いもいます。貴方は新魔法開発の分野では注目されている魔法使いです。新魔法開発の費用なら、国が喜んで出してくれると思います」

 こいつはそう言ってくるが、特に、俺の場合、黒龍さんが目を光らせているので、無駄使いをした場合、彼にいちゃもんを付けられるのは必至だ。

 請求するなら、新魔法に繋がった時に申請すればいい話だ。そっちの方が黒龍さんに痛い目を遭わされることはない。新魔法には興味があるみたいなので、黒龍さんが協力してくれるかもしれない。彼は龍人の知識を持っているので、彼の頭脳を利用する手はない。その場合、黒龍さんの手柄になってしまうかもしれないけど、その時はその時だ。

「新魔法開発に繋がった時は協会に申請するつもりだ」

「そうですか。その時はお祝いをしませんか?」

 新魔法開発お祝いパーティーなら、美味しいものが食べられます。今から楽しみです、とこいつは言う。それが本音か。まあ、今はそれに想いを馳せていればいい。そっちの方が助かる。

「………それにしても、あの白髪の女性は綺麗だったな」

 教会のシスターだろうか?それにしては豪華な装いだったような気がするが。

「………貴方はああ言った女性が好みなんですか?」

「好み云々の話はしてないだろう?美人を美人と言って、何処が悪い」

 俺はただ素直な感想を言っているだけに過ぎない。すると、その瞬間、風を切る音が聴こえた。気がつくと、青い鳥のレイピアが俺の首から数センチ離れたところの壁に突き刺さる。

「………青い鳥さん、公共の施設に穴を開けるのはいただけないことだと思いますが?」

 というか、こいつは何を……。

「………鈍感な男の人は女性の敵と、お母さんが言っていました」

 こいつは淡々とそう言ってくる。鈍感な男?こいつは何のことを言っている?

「今の貴女の行動と鈍感男がどう関係おわっと」

 俺はあともう少しでこいつの剣の餌食になりそうになる。

「関係ありです。女性の敵は即刻排除するべきです」

 こいつはそう言って、剣を振るう。俺はこいつの猛攻を掻い潜って、逃げだしたのは言うまでもない。


 翌日、青い鳥の機嫌はあまり治らなかった。どうやら、俺が悪いようだが、心当たりが全くない。仕方がないので、教会に寄った後、美味しいもので食べさせるしかない。そうすれば、あいつは機嫌を戻してくれるに違いない。

 俺達は相手方が指定した時間に教会に行くと、昨日見た教皇が出迎えてくれた。どうやら、青い鳥の読み通り、俺のことに気付いているみたいである。まあ、俺が魔法名を名乗った時点で、その可能性はあった。いや、気づかせる為に名乗ったようなものだ。

 悪名高い教皇とは言え、国の後楯を持つライセンス持ちの魔法使いをないがしろにはしないだろう、と踏んだからだ。

 そう言ったものを振りかざすのはあまりしたくなかったが、これもサーラ輝石を手に入れる為だ。

「初めまして。貴方が黒犬さんですね。私はここの教皇・リオードと申します」

「初めまして、リオードさん。今回はサーラ輝石について話をお伺いしに来ました」

「それは彼から聞き及んでいます」

 では、中へ、と俺達は教会の中へ案内される。すると、中はコンビクトの教会と比べると、豪華さは劣るが、かなり豪華な方に分類されるだろう。おそらく、あそこが規格外なだけかもしれないが。

 俺達はとある応接室に通され、ソファーに座るように言われたので、そこに座ると、向かい側に教皇が座る。

 応接室を見ると、意味なく豪華な調度品が至る所に置いてある。どうやら、彼の噂のほとんどが真実のようである。

「………それで、どうして、サーラ輝石を欲しがっているのか、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 教皇はさっそく本題に入る。

「新魔法の開発の為、少しばかりサーラ輝石を戴きたいんです」

 本当は別の目的があるわけだけど、青い鳥の前と言うこともあるからその目的を言うわけにもいかない。

「………サーラ輝石は貴重なものですからね。今、欲しいと言われて、すぐに渡すわけにはいきませんよ」

 教皇は困ったような表情を浮かべる。それなら、昨日見た貴族が持っていたものは何だと言うんだ?そうは言いたいが、それを言ってしまうと、サーラ輝石を貰える可能性が低くなる。

「そこをどうにかなりませんか?」

 できるだけ下手にいく。こう言う相手には下手を売ってはいけない。だけど、そう言う時に限って、下手に動いてしまう奴がいる。それは青い鳥である。

「黒犬様、私、サーラ輝石を見たことがありません。実物を見てみたいです」

 隣に座っている青い鳥がそんなことを強請ってくる。青い鳥さん、貴方の辞書には大人しくしているという言葉はないのですか?

「すみません。彼女はこう言ったものに目がないようでして」

 俺はそう言って、横にいる青い鳥に睨みつける。どうして、お前は余計なことをするんだ、と。

「……構いませんよ。実物をみたいのなら、持って来させましょう」

 彼はそう言って、近くにいる神父さんを呼んで、サーラ輝石を持ってくるよう言っていた。

「………そう言えば、貴女のお名前は聞いておりませんでしたね」

 彼はそう言って、青い鳥を見る。すると、青い鳥さんはいつもの如く予想外の答えを返してくれる。

「私はメアリーと言います。彼の婚約者です。今日は私の誕生日プレゼントを買いに連れて行ってくれました。ですが、酷いんです。彼は私と言う人がいながら、白髪のシスターさんに見とれて、私を見ようとしないのです」

 青い鳥さん、青い鳥さん、いつものことですが、いつ、貴女は俺の婚約者になったのですか?それに、今回、貴女を連れて行く予定がなかったのに、付いて来たのは何処の誰ですか?そして、これだけは言いたい。かなり酷い人のように俺のことを言っているが、一番酷い人は貴女です。まあ、白髪のシスターに見とれていたのは事実だが。

 あと、何回俺の元カノの名前を使えば、気が済む?

「………白髪のシスター?ああ、サーラのことですか?まさか、サーラのことを見たことがあるとは思いませんでしたよ。それなら、紹介する手間が省けましたね。サーラ、入ってきてください」

 彼は納得した様子でそう言うと、昨日の白髪シスターさんが入ってくる。

「初めまして、黒犬様、メアリー様。私はサーラと申します。ヴェスタの女神に仕えさせてもらっている者です。よろしくお願いします」

 彼女はそう言って、一礼する。彼女の言葉には驚きを隠せなかった。彼女がヴェスタの巫女とは思いもしなかった。まさか、昨日、ヴェスタの巫女と会っていたとは……。これは青い鳥マジックによるものなのだろうか?

 それにしても、サーラか。彼女の名前はサーラ輝石から取ったものだろうか?確か、サーラ輝石の石言葉は純粋なる想いだったか?彼女にぴったりな名前である。

 一方、青い鳥は最初から彼女の正体を知っていたのか、あまり驚いていない。とは言え、こいつは何枚かの被りものを被っているのではないかと思ってしまうほど、表情と言ったものがない。ただ、表情を作るのが苦手と言うだけで、感情はちゃんとあるのだが。

「初めまして、サーラさん。こちらこそ、よろしくお願いします」

 青い鳥はそう言ってくる。

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