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プロローグ

誘いの天使が始まりました?今回は貧乏籤ばかりの彼がメインの話です。よければ、最後までおつきあいください

『―――俺がお前の騎士になって、お前を守ってやるよ』

 彼はニコッと笑顔を浮かべて、こう言った。

 彼は隣の村に住んでいる子であったけど、ちょくちょく、私の屋敷に忍び込んで遊びに来てくれた。

 彼と私の間には大きな隔たりがあった。本来なら、私達は出会うことはなかった。だけど、私達は出会ってしまった。それが偶然によるものなのか、神様のきまぐれによるものかは分からない。それでも、あの頃の私達は幸せだった。

『そう。なら、早く大きくなって、強くならなくちゃね』

 村の子にコテンパンにやられている状態では夢のまた夢だよ、と私が言うと、彼はムスッと不機嫌な表情となる。

 この先ずっと、私の隣に彼がいてくれることを信じて疑わなかった。いつか、彼が私の前から姿を消すことなど思いたくなかった。

 今はもうその彼はいない。私が彼を殺してしまったようなものである。

 こんな罪深い私がこの世界に生きていていいのだろうか?

 こんな罪深い私が神聖なる焔の女神(ヴェスタ)に仕えていいものなのだろうか?


***

 拝啓 青い鳥様

 俺は疲れた。死ぬほど疲れた。お前のボランティアで死にかけ、城の中ではシステムに壊されかけ、心身共に限界を超えている。家で休養しても、お前が邪魔をして、ボランティアに付き合わされることは目に見えている。だから、俺は一人静かなところで療養する。

 俺はしばらく旅に出る。だから、探すな。頼む、探さないでくれ。放っておいてくれ。

敬具


 俺は今まで練りに練った計画を実行する為、日が昇らないうちに、青い鳥の家に手紙を入れた。そして、駅へと向かう。

 今回ばかりは青い鳥を同行させるわけにもいかない。その為、青い鳥に気付かれないように、慎重に準備してきた。家を出る時、森の中に行こうとしていた親父に出くわしたわけだが、俺の恰好にあまり気にしていないようで、俺を一瞥した後、森の中へと消えていった。

 親父は放任主義なところがあるので、俺が大荷物を持って、何処かへ行こうとしていても気にはしないのだろう。そのまま消えても、親父のことだ。家を出て行ったのかと思うくらいで、探そうとは思わないだろう。

 十何年も一緒に暮らしているので、親父の性格は嫌と言うほど知りつくしているので、そのような行動をとっても、俺もあまり気にしてはいないのだが。

 そんなわけで、駅に行くと、見知った人影を発見する。青い髪に、青い目をした、俺が一日かけて手紙を宛てた本人・青い鳥である。

「………何で、お前がそこにいる?」

 駅から俺の家は一本道だし、その途中に青い鳥の家に寄った。その手紙を見て、追いかけて来たのなら、まだしも、こいつは俺が来る前に駅についている。つまり、手紙をみていないはずだ。それなのに、どうして、俺の計画がわかった?

「お早うございます。貴方を待っていました。何処へ行くのですか?」

 こいつはそんなことを尋ねてくる。流石に、俺の行き先は知らなかったようだが、俺がこいつを置いて、旅に出ようとしていたことは気付いていたようである。これでは、俺の計画が水の泡ではないか。

「お早うじゃねえ!!朝が弱いお前がこんな時間に起きれるはずがないから、この時間にしたと言うのに、何で、お前は起きてんだよ」

 それなら、俺は何の為に早起きしたか分からなくなる。

「そのことですか。カニスの狼バージョンを堪能する為、夜型人間改造計画を遂行していたのです。そしたら、何故か、超朝型人間になってしまいました」

 カニスとは“世界からの贈り物”、“神子”とも呼ばれる存在の一人、風精であり、満月の夜に狼に変身してしまう特異体質の持ち主でもある。普段は教会におせわになっているが、時折、我が家に遊びに来る。前、カニスの狼バージョンでいろいろと遊ぼうとしたらしいが、こいつは長時間睡眠者(ロングスリーパー)である為、数時間しないうちに眠ってしまい、あまり堪能できなかったらしい。

 一方、カニスはこいつが抱いたままで寝てしまった為、顔がちょうど谷間に挟まってしまったようで、大量の鼻血をぶちまけてしまったらしい。その後、俺の部屋へと避難してきたのは言うまでもない。

 こいつはその反省を踏まえて、夜型人間になろうとしたらしいが、逆に、超朝型人間になってしまったらしい。とても健康的だと思うが、俺にしては予想外の事態である。

「それに、最近、貴方がこそこそとしていたので、私に内緒で何処かへ行こうとしているのではないかとピンときました。今日、動くと予想して、待っていました」

 こいつは俺の疑問に答えてくれる。どうやら、俺はこいつの観察眼と洞察力を出し抜くことは不可能らしい。

「それが分かっているのなら、俺としてはその計画を知らない振りして欲しかったわけだが」

「それは甘いです。私は貴方一人にするのが心配で付いて行ってあげようとしています。貴方はその優しさを素直に受け取るべきです」

「そうですか。でも、俺の意図を汲み取って、見送ってはくれる優しさはないんだな」

 俺はそう言って、眠そうにしている駅長さんのところへ行き、

「ヴェスタ行き二枚発行して下さい」

 俺がそう言うと、駅長さんは「朝早くから行くのかい?若いねえ」と、ヴェスタ行きの券を発行してくれた。

「ほら、お前の分だ。お前が勝手に付いてくるんだから、金はちゃんと払えよ」

 俺は青い鳥にチケットを一枚渡す。


「―――ヴェスタは火山が活発なところです。温泉が有名です。あそこの温泉は肌がすべすべになることで有名です」

「………そうらしいな」

 その後来た汽車に乗った後、こいつの話に相槌しながら、景色を眺める。

「もともと、ヴェスタは数百年前に聖なる炎で都を守ったといわれる女神の名前で、その土地の人達は火の女神を信仰しています。ヴェスタには代々巫女がおりまして、一年に一度ヴェスタを祭る祭典があるそうです。確か、その祭りは今頃だったと思います」

「……お前、俺の目的地を知らないと言いながら、詳しすぎないか?本当は知っていたんじゃないのか?」

 俺はこいつに疑いの視線を送ると、

「失礼です。私は貴方の目的地が何処かは知らないと言いましたが、ヴェスタを知らないとは言っていません。私の将来の野望は世界一周をすることです。その為、有名どころは知っています」

 こいつはそんなことを言ってくる。それは初耳である。こいつは一つの場所にいることが苦手なので、そういう野望を持っていてもおかしくはないが。そう思うと、ふと、宮廷魔法使いの先輩だった紅蓮さんのことを思い出す。確か、彼も世界一周をしてみたいと言っていた。

 もしかしたら、この二人は似ているのかもしれないな。そんなことを思っていると、王都行きのアナウンスが鳴る。早朝と言うこともあり、汽車の中はガラガラだ。そう言えば、こいつの故郷に行く時も、こんな感じだったな。

 あの時は本当に大変だった。こいつの故郷は可笑しな連中のたまり場だったし、こいつの両親(詳しく言えば、育ての親。生みの親は不明)は殺人者だし、こいつの友達は教会の最終兵器だった。こいつの友達を自由にする為、断罪天使エクソシアと戦う羽目になり、死にかけた。

 もう、こいつの故郷だけは行きたくない。出来れば、執行者連中とも会いたくないが、何故か、遭遇率だけはやけに高い。実は今回も執行者と汽車でばったり遭遇と言った偶然にしては出来過ぎた話があるわけ………。

 俺はふと車窓を見ると、信じられない光景が広がった。見覚えのある人影が見えた。長めに伸ばした金髪に、俺にはない高身長。そして、肩にかけた太刀。俺の次に剣士に向いていないと言われている男……。

 寝ぼけているのではないかとさえ思った。こんな早朝に彼がいると思えない。いや、思いたくない。幻覚だ、幻覚。

 そう思い込もうとしたのだが、その男はドアを開けて、こちらへやってきた。彼も俺達がいるとは思わなかったようで、目を見開いていた。

「………何で、お前達がいる?」

 執行者の一員である断罪天使エクソシアがそう口を開く。それは俺が言いたい台詞だ。

「お早うございます。私達はヴェスタで温泉に入りに行きます」

 それはお前だけの目的だ。

「………ヴェスタに行く?俺もヴェスタに行く予定だが………」

「そうですか。なら、一緒に行きますか?お菓子もちゃんと用意してあります。どうぞ」

 青い鳥はお菓子を開けて、彼に渡す。

「………ああ、ありがとう」

 彼はそう言って、俺の隣へと座り、こちらへと見てくる。

 これはどういうことなのか、と。

 それは俺が言いたいことである。どうして、あんたも行くんだ?と。

 青い鳥よ。お前はトラブル発生機か何かなのか?どうして、お前と行動すると、彼らと高確率で遭遇することになる?

 こうして、俺一人で静かに始まり、人知れず終わるはずだった旅行が、青い鳥の介入で波乱の幕開けになってしまった。

 青い鳥はいつものように不幸を撒き散らし始めた瞬間だった。

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