表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第一章 二人の始まり

 あの子は一体、誰だったのだろうか。

 ぼんやりと昼食のパンを咀嚼していると、なんて疑問が浮かんだ。

 その答えを探すように周囲に視線をめぐらせると、どこまでも続くような澄んだ青空と、『誰もいない』学校の屋上が俺の瞳には映る。

 誰もいない理由は単純。

 季節は春と言ってもまだ四月の初旬、この肌寒い時期に外で昼食を摂ろうとする物好きはそうそういないだろう。……ま、俺がその物好きなわけだけど。

「……でも、さすがにまだ寒いな」

 なんて呟くと、自然と苦笑がこぼれた。

 そろそろ撤収するかな、と食べ終わったパンの袋などを一纏めにしてから、頭上に広がる青空へと再び顔を向けてみる。まだどこか冬を感じさせる靄の掛かったような快晴に、飛行機雲が流れては消えていく。

 そんな青空は、俺の瞳には白と黒の二色にしか映らない。

 変わることのないそれを確認しつつ、俺はあのときのことを脳裏に思い浮かべた。


* * * 


「――に、人間?」

 少女はそう呟いたかと思うと、逃げるように樹の向こう側へと隠れてしまった。

 その一連の行動にどう反応すればいいのかわからず、ただ呆然と立ち尽くしていると、樹の陰から少女が覗くようにして顔を出してくる。……お、逃げないんだな。

 その様子は、人見知りの子が誰かの後ろに隠れている姿によく似ていて、どこか小動物に対するような愛嬌すら感じてしまう。

 ……んで、どうすりゃいいんだ? これ。

 どうも、こういった手合いは苦手なんだよな。

 こちらを見ている少女に視線を向けると、びくっ、と怯えたように樹の陰に隠れて、しばらくするとまた樹の幹に隠れるようにしながらこちらの様子を伺ってくる。

 目が合うと、今度は逃げるようなことはせず、じぃ、とこちらの瞳を覗き込んでくる。

「「…………」」

 互いに無言を貫いているために、先ほどのような静寂が訪れる。

 いい加減に黙り込んでいるのにも嫌気がさしてきて、本気でどうするかを考え始める。考えられる選択は簡単に言ってしまえば、この二つだけだ。

 1、このまま何もせず立ち去る。

 2、少女に話しかけてみる。

 普段の俺なら迷わず前者を選択しているところだが、先ほどから「……あなたは誰?」と視線で問われているような気がして、このまま立ち去るのも気が引ける。

 ……はぁ、しょうがない、か。

「……君は?」

「…………」

 訊いてみたけれど、じぃ、とこちらを見つめるばかりで、返答はない。

 その瞳に映るのは、こちらに対する興味と警戒と思われる感情が半々、といったご様子。

 それに、さっきからのどこか怯えているような反応もあるから、どうも近づきにくいんだよなぁ――と、ついつい頭を抱えたくなってくる。

 怖がらせてしまうのは論外として、そうなるとどうすりゃいいか……。

「あ、あの……」

 考え込もうとすると、ためらいがちに、澄んだきれいな声が鼓膜を揺らした。

 その真実に思考が追い付かず、少しばかりフリーズしてしまう。……いや、怯えるような様子からして、向こうから話しかけてくるなんて思うか? 

「……えーと、なんだ?」

 少女の唐突な行動に面食らいつつも、どうにかそう口にする。

「……あ、あなたは、誰? ……ですか?」

 そりゃ、最初の質問はそれだよな。ついさっき、俺も訊いたし。

 ……あー、なんだか調子狂うな。一拍だけ遅れている、とでも言えばいいのか。

「俺は浩之。高瀬浩之だよ」

「……ひろ、ゆき。ひろゆき?」

 少女は確認するように小さく繰り返して、うん、となぜか頷く。……なんだ?

 その行動の真意を考えてながら見つめていると、たどたどしくも言葉を紡いでいく。

「……どうして、ここに?」

 いきなりそれを訊くか……できれば、言いたくないんだけど。まぁ当然だよな。

「…………道に迷った。できれば……道を教えてもらえると助かるんだが」

 いい年にもなって、と言いたくなるが現在進行形で俺は道に迷っている。

 この桜にも彼女の歌声に誘われてやってきたようなものだしな。勘だと……左かな。

 少女はこちらの問いに恐る恐るといった様子で腕を持ち上げて、俺が考えたのとは正反対、右方向を指さして小さく「……向こう、です」と答えてくれた。

「……またはずれ」

 少女の指す方向を見つめながら、ため息を吐きたくなってくる。

 ……勘が当たる確率、これで五割を切ったなぁ……と、しかも悪い意味で。

「……何か、言いました、か?」

 俺の小さな呟きに、不思議そうに首をかしげてくる。

「いや、なんでもない。……それとまぁ、ありがとう」

「……? なんで感謝するの、ですか?」

 少女はやはり不思議そうに、頭上に疑問符が浮かんでいそうな表情で首をかしげる。

 その様子からは本当に理解していない、ということだけがひしひしと伝わってくるよう。考え込んでるからか、次第に困惑顔になってくし。

「道を教えてもらったからな。それに対して、ありがとう、って言ったんだよ」

「……そんなことで?」

 そんなこと、って。俺にとっては死活問題になりうるんだよ。

 疑問と困惑が大半を占める表情で呟く少女をよそに、心の中で悪態をつく。

「ああ、助けてもらったら礼をする、普通だろ?」

「……たすけ、る? 私が、あなたを?」

 呆然と、信じられないかのように俺の言葉を繰り返す。

「……道に迷ってたから本当に助かるよ。方向さえわかれば、たぶん森から抜けられる」

 『若干』方向音痴な俺でも、方向さえわかれば……まぁ、何とかなるだろ。

「あなたは、方向音痴、なのですか?」

「…………若干、な。まぁ、そういうわけで、ありがとな」

 訂正を加えつつ、そう言って少女の指した方向へと足を向ける。

 そこでふと、ほんの気まぐれのようにあることが浮かんで、歩みを止めた。

「なぁ。またここに来てもいいか?」

 いきなり振り向いたからか、びくっ、と少女は肩を跳ねさせる。

「…………」

 そして、返答はなし、っと。

 少女は相変わらず、樹の陰に隠れて覗くようにして、こちらを見つめている。

 人見知りが強い子なのか、ただ初対面の人と話すのが苦手な子のか……ん? 意味が似通ってる気もする。まぁ、どっちでもいいか。

 ……せめて、いいのか悪いのかだけでも聞いておければ、とか思ったんだけどな。

 返答は待っていても得られそうにないと判断して、苦笑気味に微笑む。

「こんなにきれいな桜を初めて見たから、またここに来るよ」

 満開の花を咲き誇らせる桜の樹へと目をやってから、今度こそ足を踏み出そうとすると、


「――き、来ても、大丈夫です!」


 と、背中におそらく緊張のせいで裏返った声がかかった。

 驚いて振り返ると、樹の反対側へと向かう少女の背中が見えただけで、彼女はそのままどこかへ行ってしまった。

 ……一体、なんなんだ?

 と、少女のよくわからない行動に対して、そう心の中で呆れながら呟きをこぼした。


* * * 


 あれから三日。

 いつも通りに平穏極まりない生活を送りつつ、あの少女のことを考えてみたりしていた。

 それにしても、考えれば考えるほどに疑問が増していくのだから、考えが纏まる、なんてことはなく、気づけば三日も経っているわけである。……我ながら、馬鹿らしい。

「……やっぱり、直接聞いたほうが早いよな」

 俺の知りえる情報量では考えるだけ無駄、と切り捨てていいレベルだろう。

 それにあの森を抜けられたのは方向を教えてもらっていたからだし、もし方向がわからなかったら……と、思うと寒気がする。『若干』でも、方向音痴はつらいものだよな。

 ……お礼も兼ねて、放課後にでも行ってみるか。

 そう決めてお礼に何か持っていくかな、と考え始めると、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。




 特筆することもなく、無難に午後の授業を切り抜けた放課後。

 学校の近くにある商店街でお礼のためにケーキを買って、ケーキの入った箱を片手に森の中を歩いていく。

 一度通れば憶えるものだなぁ、なんて思いながら、三日前に通った獣道を進む。

 憶えてしまえば特に複雑な道でもなく、途中まではわかりやすい山道。途中で横に逸れる細い獣道を二、三回ほど曲がって進むと桜のある場所に辿り着くという道程だ。

 木々の合間を縫うようにして光が溢れているそこへと、一歩、足を踏み入れる。

 ざぁ、と桜の花が風に舞うように樹の枝がなびいて、空を桜色に染め上げる。

「……きれい、だな」

 無意識のうちにこぼれた呟きは、心からの言葉。

 ……そういや、あのときも桜に見惚れて、色があることに驚かなかったな。

 ここまで鮮明に、美しく色が映えることに。

 もともと、感情の機微は大きくないけど、色々ありすぎて驚く暇もなかったのだ。

 そこには、先日と変わらずに満開の花が咲き誇らせ、美しくも儚い印象を抱かせる古樹。そしてその根元には、一人の少女がどこか物悲し気に座っているのが見えた。

 ……よかった。いなかったら困るからな。

「久しぶり、でもないか?」

「……え?」

 声をかけると、少女はうつむかせていた顔を跳ね上げ、こちらをその瞳に映す。

 その瞳にはこの前のような警戒の色はなく、ただ純粋な驚きだけが映っているようだ。

「……本当に、来てくれたの……ですか?」

「ああ、また来るって言ったし、お礼も兼ねてな」

 ケーキの箱を持ち上げて見せる。

「……あ、ありがとう、ございます」

 少女はそう、どこか嬉しそうにはにかみながら頭を下げた。

 ……なんていうか、律儀だな。まさか頭まで下げられるとは、想定外だった。

 なんてことを考えながら、今回は警戒されてないようなので少女のもとへと歩み寄る。それにしても、改めて間近で見ると本当にきれいな顔立ちをしていた。

 流れるように腰の辺りまで伸びる桜色の髪。

 うっすらと潤んだ瞳の色はアメジストを連想させる紫色で、宝石ですよ、と言われたら本気で信じてしまいそうなほど。

 その二色が、真っ白な肌にとてもよく映えており、右目の上あたりには桜を模した髪飾りが花を咲かせている。

 座っているものの、彼女の身長は俺より少しばかり低いくらい、だったろうか。

「……あなたは、不思議な人です」

 ……不思議なのは君のほうでは?

 どこか知らないものを見るような、呆然とした呟きに思わずそう言い返しそうになる。けれど声になる寸前でどうにか抑え込んで……ふぅ、危ない危ない。

「な、なんで俺が不思議なんだ?」

 口走りそうになったことを取り繕うように、多少つかえながらも口にする。

 ……それにしても、不思議? どこにでもいる一般人だろうに。何もしてねぇぞ、俺は。

「あなたは、いままでに会った人たちと違って、私と普通に接してくれます」

 そりゃ、一応は誰に対しても平等に対応するよう、心掛けてるからな……って、ん?

 ――『いままでに会った人たちと違って』?

「……それに、あなたはしっかりと約束を守ってくれました」

 こちらの疑問など露知らず、少女は嬉しそうに話を続けている。……気のせい、か?

「……って、約束?」

 約束なんてしたか? ……まったく、記憶にないんだが。

「はい。――『またここに来る』、そう約束してくれました、よね?」

 胸の前で手を合わせて、微笑みながら確認するように訊いてくる。

 ああ、確かに。三日前の去り際にそんなことも言ったな。……でも、あれは『約束』なんて大層なもんじゃなくて、挨拶みたいなつもりで言ったんだが。

「あれは約束なのか? ただの挨拶みたいなつもりだったが……」

 思っていることを口にすると、きょとん、とした表情で首をかしげる少女。

「そう、ですか? そういったものでも、守ってくれたのはあなただけですよ?」

「…………」

 えーと、どう反応すりゃいいんだ? 笑えばいいのか? いや、違うよな。

 さっきから聞いてればどんな人生を送ってるんだよ、この子。今までの話を要約すると……『誰からも普通に接してもらえず、ほんの口約束でも守ってくれた人はいない』で、いいのか? ……重い、重すぎる。

 しかも、そんな意味にも取れる話を、微笑みすら浮かべて話してるよ。

 気づいてないのか、こっちの反応を見て首かしげてるし……あー、わからん。

「……まぁ、その話はいい。こっちから一つ訊いてもいいか?」

 本人が気づいてないなら、これ以上は触れないでおこう。暗い話は好きじゃないからな。

「なんですか?」

 無垢な子供のように、小さく首をかしげる。

「答えたくないなら答えなくていいから。……君は、どうしてここに?」

「……え、っと」

 訊くと少女は言葉に詰まり、表情を目に見えて曇らせる。

 やっぱり、あまり触れられたくない話題だったのだろう。けれどもう口に出して訊いてしまった以上、どうすることもできない。反応を待っていると、彼女は唐突に立ち上がったかと思うと、口を固く結んで俯いてしまう。

 それは、何かを決心したようにも――逃げ出そうとしたようにも見えた。

「…………」

 そんな少女の姿を無言で見つめながら、彼女が心の中で何かを決めるのをじっと待つ。

 しばらくして、ようやく意を決したのか、うつむけていた顔を上げてこちらに 何か明確な意思を灯した瞳を向けてくる。

「……し、信じて、もらえるか、わかり、ませんけど……聞いて、もらえます、か?」

 ゆっくりと、こちらの様子を窺うように、たどたどしくも訊いてくる。

「ああ、俺から訊いたんだ。最後まで付き合うよ」

 まぁ、そのために来たんだしな。

「あ、ありがとうございますっ!」

 ぱぁ、と少女は表情を明るくして、安心したように強張っていた頬を緩める。

 そして表情を引き締めると、すぅ、と胸の前で手を重ねて、深呼吸をしてから、


「……で、では。――私は、この子。『白雪』と呼ばれる樹の、精霊です」


 ……………。

「……は? 精霊?」

 と、思わず訊き返してしまうような内容から、彼女の話は始まった。


 * * *


「……私は、気がついたらこの樹の下にいました。記憶はないのに、この樹の精霊だってことと、それに関することだけは頭の中にあったんです。その頃の私は、ただ漠然と『私はそういう存在なんだ』って、納得していました」

 先ほどとは異なる、どこか遠い過去を見つめるような、丁寧な口調で話し始める。

「その頃はまだ、私は誰にでも見ることができたようです。……よく小さな子どもたちと一緒に、山を駆け回ったりして、遊んでいました」

 楽しかったなぁ、と小さくこぼした呟きは風に乗って消えていく。

「……けれど、その子たちもやがて大きくなって、私を恐れるようになりました」

 少女はふっと、哀愁に満ちた微笑みを浮かべる。

「……何年、何十年と経っても私はずっとこの姿のままなんですよ? ですから、そんな私が恐れられるのは、当然のことですよね」

 ふふ、と無理をしたような、乾いた声が少女の口からこぼれる。

 その声には、心が軋みを上げている、そんな感想を抱かせるものがあった。

「……その頃からです、私が周囲に認識されなくなり始めたのは。最初は、近くを通った女の子。声をかけてみても反応がなくて、その瞳が私を捉えることはありませんでした」

 少女がうつむくと、寂しげに桜の髪飾りが揺れる。

「……そんな私に、優しくしてくれる人もいました。けど、その瞳の奥には私に対しての恐れのような色があったのも真実で、誰も私との約束は守ってくれませんでした」

 こんな私を、信頼していなかったんでしょうね、と寂しげに笑ってみせる。

 ……そういう、ことか。

 ここまで話してもらえれば大体の事情は呑み込むことができた。まだ信じられないけど、もしこの話が真実だったとするならば、彼女のおかしな言動にも説明がつかなくもない。

「それでも一人だけ、私を恐れないでいてくれる子がいたんです。その子が私にこの桜の髪飾りをくれたんですよ。お揃いだね、って」

 そっと、大切そうに髪飾りに触れる。

「けど、やはり彼女も、私との約束は……守ってくれませんでした。家の事情か、その後は一度も会っていません。……それから、誰も私を見ることができる人はいなくなって、私もこの子から離れることができなくなってしまったんです」

 ……私にはもう、この子しかいなかったんです、と。

 そっと樹の幹に触れて、労わるようにそっと撫でる。その姿から、本当にこの桜の樹を大切に想っていることが伝わってくる。

「……そんな日々を過ごしているうちに、私はすべてを諦めることにしました」

 諦観したような色を灯す瞳のまま、彼女は無理に作ったような笑みを浮かべる。

「そうすれば、誰も傷つかないから。……私も、他の人もです。――そうして私は、誰にも認識されなくなったのです」

 ……嘘だな。

 と、少女のこの一言には確信を持つことができた。

 ――『誰も傷つかないから』。

 それだけは嘘だと断言できる。なぜなら自分では笑っているつもりなのだろうが、彼女は悲しそうな、傷ついたような表情を浮かべているのだから。

「……それなのに、あなたはなぜか私を見ることができています」

 彼女は振り向くと、どこまでも続くような、深い紫色の瞳でじっとこちらを見つめる。

 その瞳には、色々な感情が渦巻いているのがわかる。

 その中でもすがるような期待、駄目かもしれないとの諦め……俺にはこの二つの感情が大きいように感じられた。

「……以上です」

 と、少女が短くも長い話を締め括った。

 彼女の語った話の内容は普段の俺なら、絶対にありえない、と一蹴するような内容だ。けれど、そうできないでいるのは彼女の瞳の真剣さが、ありえるんじゃないか、と思わせているから。……まぁ普通なら、ありえないだけどな。

「……簡単にまとめると、君はこの桜の精霊で……まぁ、色々とあって誰にも認識されていなかったのが、なんでか知らんが俺には認識できている――って、ことでいいか?」

「……はい。信じられないと、思います、けど。……こんな話」

 しゅん、と落ち込むように、またうつむいてしまう。

 その様子に居心地の悪いものを感じつつも、脳内では彼女の話をどうするか、と考える。

 話を聞いている限りでは、ありえない、というのが素直な感想だ。普段ならここで思考を止めたと思う。……考えるだけ無駄、と。けど、そうせずに考え続けているのには彼女の瞳の奥に、寂しさなどの思い出に対する……本物の喜怒哀楽を見てしまったから。

 それらが演技だとは思えないもので、それが引っ掛かって嘘だとは割り切れないでいる。

 ……俺も色々あるから、無視できねぇんだよな。

「…………」

 少女のほうへと視線を向けると、彼女はこちらを見つめて返答を待っているようだ。

 ……迷うような話じゃないよな。

 と、ため息とともに心の中で呟いて、この面倒な話に結論を付ける。

 それに少女は諦めたように肩を落として、うつむいてしまう。……まだ、何も言ってないんだけどな。それじゃ、勘違いしているようだし、出した結論を――さんはいっと。

「いいんじゃないか? それでも」

「……え?」

 俺の出した結論にうつむけていた顔を上げて、きょとん、として固まる。

 ……そりゃ、信じられない、って言われると思ってたらしいからな。

 少女の反応に満足しつつ……ん、なんか違うか? まだ固まって反応がない彼女に構わずに勝手に理由を語らせてもらうことにする。

「俺からしてみりゃ、君がこの樹の精霊だろうとなかろうと、どうでもいいことなんだよ。どう足掻いたって君は君だし、それなら細かいことを気にするだけ無駄だからな。俺はこうして『君』と話をしてる、それだけだ」

 結局のところ、精霊だったとしてなんだというのだ。

 精霊だからといって俺から見れば、何が違うんだよ、と言いたくなることばかりである。そんな些細なことなら気にするだけ無駄ってものだろう。

「……本当に、あなた……ひろゆきは不思議な人です」

 またもや呆然とした様子で、少女はそう呟きをこぼす。

「さて、どうだろうな」

 そうはぐらかすように答えると、ふふ、と少女は微笑む。

 それは、俺が初めて見る――彼女の心からの笑顔のような気がした。

*変更点

 改行後、一つずつ開けさせてもらいました(こちらのミスで、なかったので)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ