フジ
第四章
そこにはすでに1人座っている。
「おお、君がレンスイくんかい?初めまして要の父です」
「あなたのことは雑誌で拝見したことがあります」
「食事をしながら話そう」要は近くにいた者達に食事を持ってくるように言った。
「それで、彼女が君の言ってた婚約者か。若く見えるが大学は出てるのかい?」
「飛び級をして2年で卒業しました。大学時代に色々と資格を取っておきましたのでそのまま彼と出会った洋服店に就職できました」
「私でも3年かかったのに近頃の子は優秀なようだ。しかもこの国の言葉も綺麗に話せている」
「お褒め頂きありがとうございます」
レンスイはそこらの留学生よりは上手くこの国の言葉を話せる。食事の間、質問を多くされたがレンスイはビージーに言われた通りに答えていった。
「そろそろ失礼するよ。要、明後日だからね」
「覚えておりますよ、父上」
レンスイは明後日が何のことを言ってるのか分からなかった。父親がいなくなってから要は再び口を開く。
「誕生日のことだよ。それより君は踊れるのかい?」
「踊る?…何それ」レンスイがそういうと要は少し血相を変えた。
「明日は特訓しないとね。食事の作法はビージーに教えてもらえばいい」
「もう教えてもらったけれど、今日の夕食の作法じゃ駄目だったかしら?」
一応レンスイはビージーに言われた通りにやってみてた。
「…今教わったのかい?さっきの食事する際の作法を?完璧すぎだ」
レンスイはにこりともしなかった。
「地下に入れられる前のことなんて全て忘れてしまったけど体は覚えているのね」
「父に君のことは全て伝えた。過去については詮索しないよう言ってある」
「ありがとう。でもよく異国の女を妻として承諾したわね」
「2人目の妻、僕にとっての義母がセレス王国の人だったからだろう。まぁ、昔はそんなに酷い関係じゃなかった。僕が10才のころに殺されたけどね」
セレス王国、殺された……この2つの単語にレンスイは顔をしかめた。
「あなたのお母様の名、聞かせてもらってもいい?」
「君の力で義母の死の真相でも明かしてくれるのかい?」
「わたしに過去を視る力はないわ。ごめんなさい、ただ……いえ、何でもないわ」
昔、セレス王国から出て行った女性を見たことがあったから……などとは言えなかった。私はあの時あの女性に何と助言したのだろう。
「それより、何でもいいから鏡ってない?この前見せたぐらいの大きさの鏡」
「視るときのためかい?あとでビージーに渡しとくよ」
レンスイは要と別れ部屋へと戻った。ビージーは帰ったのだろう……もう部屋にはいなかった。
そのころ要も自室に戻っており、久しぶりに母親のことを考えていた。
〜「ねぇ 貴方、私ここに来る前不思議な少女に会ったの。今は要と同い年かもしれないわ」
「不思議?どんな子だったんだい?」
「銀髪の少女だったの。その子ね、私に早くセレス王国から立ち去れって言ったのよ。誰にも行き先は伝えるなって。お金まで渡されたし、なんか目が必死でね…その子の言う通りにしたんだけど……」
「何かあったのかい?」
「問題はその後なの。旅人に聞いた話によると私が国を出て3日後、私の弟が王家の人に無礼をしたらしくて弟の身内は全員牢屋に……。まるで、あの子は知ってたみたい」
要もその話は何度も義母から聞いたことがあった。ノグレー国の周りの国の王家には魔力を持つ奴もいるらしい。〜
「まさか、な」昔のことだ。その少女が銀髪だからといってレンスイだと決めつけることはおかしい。セレス王国に跡継ぎがいないことはこの国の誰もが知っていることだ。
こうして、レンスイの演技の一日目が終わった。
第四章 END