ツキミソウ
第三章
「本当に王様だったのね」
「僕が嘘をついているとでも?」
要は笑いながらレンスイの手をひき王宮内に入る。
「おかえりなさいませ、国王陛下」
玄関にはメイドと執事がずらりと両端に並んでいた。
「君の部屋を案内するよ。部屋は僕と別々だが、隣の部屋でもいいかい?」
「どこでもいいけど、静かな部屋がいいわ」
「それなら、青龍の間にしよう。あの部屋は白と水色、青で統一されている部屋だから落ち着けると思うよ。家具は別の色だけれどもね」
レンスイは2階の部屋に案内された。部屋のドアを開けるとなんというか別世界が広がっていた。あてがわれたのは3LDKの部屋。風呂、トイレ、洗面所、ベランダ付きだ。キッチンも一応ついている。
「食事は一緒にとって朝と夜の挨拶さえしてくれれば、部屋に閉じこもってくれても構わないよ」
「そう。で、このメイドの数は?」
レンスイは部屋にいる10人前後のメイドを指差して言った。
「まぁまぁ、なんとお美しいお嬢様でしょう。疲れましたでしょう?お風呂が湧いておりますよ」
「えっ、ちょっと…」レンスイは強引に風呂場に連れて行かれる。
「自分で洗うから出て行って」
「そんなことおっしゃらずに、さぁさぁ」
メイド達はそんなことを言いながら、レンスイに服まで着せさせた。
「やっぱり、それなりの格好をさせると美しいな」要は不機嫌そうなレンスイを見ながら言った。
「もう沢山だ。メイドはいらない、侍女を誰かつけてくれ」
「似たようなものだろう?」
レンスイは彼の言い分に頭を抱えた。
「メイドは家に、侍女は個人に仕える者だ!それぐらい私でも知っておるぞ」
「悪い悪い。僕は採用試験の時、面接をするくらいだから。どんな子がお好みだい?」
レンスイはほんの少し考える。
「身分は平民、秘密を守れて、同い年がいいわ……21よ」
「21?成人したばかりかい?」
「そうよ。成人したからというのが理由で両親に無理やり結婚させられそうになったから逃げてきたの」
「同い年とは思えないんだが。見た目はもっと若く見えるが、中身は大人という感じがするな。君はいったいどんな生活…失礼、君への質問は禁止だったね」
レンスイは頷く。要はレンスイの要望通りメイド達を追い払った。
「侍女にビージーはどうだろう?平民階級だし秘密は絶対守る。僕にすら漏らさない子だ。ただ、20なんだか……」
「いいわ。実際会ってみたいんだけれど、いるかしら?」
レンスイがそう聞くと要は携帯を取り出してどこかにかけた。
「国王陛下、お呼びとお伺いいたしましたがどのようなご用件でございましょうか?」
ビージーは赤茶色の長い髪をもっていた。綺麗なストレートの髪だ。
「彼女が侍女を探しているんだが、君でもいいかい?」
「私はこの家に仕える身ですゆえ、世話係としてならお受けいたします」
彼女はメイドと侍女のちがいをよく分かっているようだ。
「気に入った。初めまして、私はレンスイ・クリスタル、彼の妻となるの」
「ビージーです。あの、他の侍女は?」
「お前一人だ。給料は1.5倍にしといてやる、しっかり働けよ。レンスイ夕飯は7時だ」
要はそう言って出て行った。きっと、7時にまた来るのだろう。ビージーは侍女が他にいないということを知り目が点になっている。レンスイは自分が頼んだことだと言った。
「何人もいるのって疲れるのよ。お茶にしましょう。2人分よ」
「あの、私はクリスタル様と頂くなど」
「いいじゃない?それと苗字は嫌よ、名前で呼んでちょうだい。ビスケットも用意して」
普通の貴族とは違う、ビージーもそう思っただろう。普通の貴族はこんな誘いはしないからだ。
「こう見えて私、外国人なの。言語はマスターしてるんだけど、この国の文化とかあまりよく分からないから教えてくれない?」
「えっ、うそ…外国人ですか?」
「彼が王なんて知らずに町で話しかけたらばれちゃったけどね」
「国王を知らない住民はおりませんゆえ。陛下の専属執事から大体の事情は聞いております。服についての専門知識でも覚えておきましょうか?」
「助かるわ」レンスイはビージーから要がよく行くお気に入りの洋服店について色々と聞いた。その店の店員となるために必要な大まかな経歴、資格。
「大学は飛び級したという設定にしろとのことでしたので、2年で4年制大学卒業。陛下は1年で卒業されましたので問題はないかと思われます」
「あいつってそんなにすごいの?」
「頭が良い方だったそうです」
ビージーと楽しく会話をしているとドアを乱暴に叩く音がした。
「そろそろ時間だ」要だ。
「さぁ、レンスイ様着替えましょう」
ビージーはレンスイに似合いそうなドレスをウォークインクローゼットから出していく。
レンスイはそれに着替えた。
「ごめんなさい、待たせたかしら?」
「1分遅刻…だ、その衣装はビージーが?」
「ええ、そうよ」
レンスイは初めて着た衣装に慣れない様子だ。レンスイはワイン色をしたナイトドレスを着ている。
「親父が待ってる」「あなたの父親?」
「実は僕、明後日が22の誕生日なんだ。その日までに結婚しないと国王のくらいが父親に戻るんだ…この国の王家のしきたりとでも思ってくれ」
「へぇ、それで妻が必要と。別にいいわよ、私も色々と隠している身だし」
レンスイは要に連れられて、1階の食堂に案内された。
第三章 END