ヒガンバナだと思っていた
第二章
僕の妻となってくれないか……。
レンスイが驚きで固まっている間に彼は話を進めていく。
「3週間でいいんだ、もちろん報酬は出す。
3週間後から住む家、もし成功した場合は プラス100コル」
「悪いけど、他をあたって」100コル(1000万ぐらい)という金が口から出てくるなど可笑しすぎる。
「あなたが何者かも分からないのに私が承諾するとでも思ってるの?」
「この方はノグレー国の王,要・ラオス様。私は国王の専属執事のゼクトと申します」
「国王?身も知らない人によくこんなこと頼めるわね」
「君は外国から逃げてきた貴族というところだろう?話し方が上品だ。それに、今夜泊まる宿もならそうだからいい提案だと思うけれど、3週間だよ」彼の言うことは半分当たったいた。もし、彼が本当に国王ならラッキーな話だ。そんなことをレンスイに頼むほだから外国の者も自分の存在など知らないのだろう。
「分かったわよ。でも、条件があるわ」
「立ち話もなんだから、車の中で話そう」
レンスイは来た時乗っていた車に再び乗ることになる。後部座席は2人乗ってもスペースが有り余るくらいだ。ゼクトの運転で車が発進する。
「条件というのは、私が話すまで私に何があったのか聞かないでほしい」
「わかった、こっちからもお願いがある。君は僕のお気に入りの服屋の店員ということにしてくれないか…それと、3週間後に君から振ったことにしてほしい」
「それぐらいならいいわ」レンスイは承諾する。………その後、沈黙が続いたがレンスイの声で破られた。
「あれは何?」窓から見えるのは人々の住む家々。
「下級地区の人の住む家だ。少し用がある」
要は車から出て、子供達が集まっているところに行った。国王はあんなことをするものなんだろうか。レンスイのいた国でもやってたことはないだろう。
「王様だー」「国王様ー」
慕われているようだ。彼の周りには子供達が寄ってくる。
「国王様ーお腹すいたぁ」
「今日は無いんだ。今度は持ってくる」
そんな会話を聞いて、レンスイは鞄からパンの入った袋を取り出し彼らの所へ行く。
「どうぞ」レンスイは袋にいっぱい入っているパンを渡した。パンは国を出る前に買っといたものだ。子供達だけでなく国王まで驚いている。
「パンだ」「お姉ちゃん、誰?」
「通りすがりの貴族よ、ここはいいところどわ。家族みんなが幸せそう」
「お姉ちゃんのお城よりも?」「もちろん」
もしかしたら、自分はこういうところに生まれた方が幸せだったかもしれない。子供達はレンスイの答えに驚いていた。
「レンスイ・クリスタル、本気でそう思ってるのか」要が聞くとレンスイは黙った。
自分はここより酷い所にいた。子供達の前でそんなことは言えない。子供達と別れ車に乗ると、彼は鋭い視線を向けてきた。
「話を聞くまで睨むのをやめなさそうね…。私は、一度も外に出たことはなかった。大切に育てられていたとかじゃない、暗くて寒い地下に1人でいた。だから、あの子たちが私にとっては羨ましいのよ」
「君はいったい何者なんだい?」
「教えなくてはいけない理由なんてないわ」
言えるはずない…自分が予知を視れるなど。
「腹減っただろ?ゼクト…」
「スープとパンのセットでいいですね」
ゼクトは車から降りたと思いきや、すぐに買って戻ってきた。手にはパンとスープがのっている。3つものせるなど器用すぎる。渡されたのは固そうなパンだった。どうやつて食べるのだろう。食べ方が全くわからず、要を見る。
「パンをスープにつけて食べてく」
「食べていいの?」「ん…ああ」
誰かと食事をするのは久しぶりだ。パンはレンスイがずっと食べてたものよりは柔らかかった。
「美味しい…」
「これが美味しいって、お前どこの出だ?」
「国王様、質問しないことは条件じゃなかったかしら?答えないけどね」
「王に向かってなんと失礼な」
「別にいいが、国王様と呼ぶな。要と呼べ」
「カナメ?分かったわ、要様。眠いから寝るけれど、毛布は持ってきてるから」
レンスイは座席を少し倒して寝る態勢へ。
「おやすみ。姫君」
ゼクトはレンスイとその後、要も眠ったのを見て車の速度を落とした。
翌朝、レンスイは陽の光で目を覚ました。
太陽に起こされるなど何年ぶりだろうか。
「おはようレンスイ」「ああ、おはよう」
ゼクトからジュースを受け取り飲む。彼のゆっくりとしている運転は心が休まった。そんな彼の運転が急に止まる。
「急ブレーキは危ないだろ、ゼクト」
「申し訳ありません。王、武装軍団です」
武装軍団?何のことだろうか。
「テロリストみたいなもんだ。人数は多いのか?」
「20人ほどですが、道路を遮断するように並んでいます。どうしましょう」
「ねえ、ここの場所詳しく教えて」レンスイは急にそんなことを言う。
「今はそんなに呑気なこと言ってられませんよ。場所はカルッタのハラカ 2-6付近です」
レンスイはゼクトから場所を聞くや鞄の中から鏡を取り出す。縦長の楕円形だ。裏には凝った模様がつけられている。
「何をやるんだ?」「黙ってて」
レンスイは鏡を持ち、瞳を瞑る。そうするとどこからか強い風が吹いてきた。車の窓は開いているが、強風など外では吹いていない。要には眼を開けたレンスイの瞳が一瞬紅く見えた。いつもは透明な瞳をしていたはずだ。
「専属執事、彼らが持ってる銃は弾無し。今すぐ突っ込んで」
「どうしてそんなことが分かるのですか?」
「急いで」「ゼクト、一か八かだ」
ゼクトは仕方なしに発進させた。レンスイの言った通り彼らの銃には弾はなく、彼らは横を通りすぎるとき何もできていなかった。
「ここで止めて」レンスイの声でゼクトは止まる。
…爆発音が聞こえた。さっき、通行止めをくらっていた所だ。あのままいたら確実に巻き込まれていただろう。
「あなたはいったい…」2人はレンスイを見る。
「私は予知を視ることができるの未来を視れるわ」レンスイは吐き捨てるように言った。こんな力欲しくなどなかったのだ。
「未来を視れるだって?どうやって?」
「場所、日にち、誰を視るのか…が分かればどこにいる人でも。驚いた?私はこの力のせいで君悪がられて地下で暮らしていたのよ。あなたもいらないと思ったでしょ?」
「どうしてだい?父はそういうのが好きなんだ、話してやってくれ。僕のような国王にとっては君の力は羨ましすぎる」
うらやましい…こんな力がだろうか。初めてそのようなことを言われた。
「人の死も分かるのよ。怖くないの?」
「もしかして君は誰がもうすぐ亡くなるのか、とか聞かれて答えてたのかい?死神とでも呼ばれたのかな?」
要の言うことは当たっていた。5歳のころ一度だけ答えてしまい、それ以降地下で過ごさせられたのだ。
「君の話をもっと聞きたい。思ってた以上に退屈しなさそうだ」
「鏡屋寄ってくれない?さっき視たせいで鏡にヒビがはいったみたい」
この鏡は伯母から送られてきたとかいう鏡で今となっては唯一の形見だ。会ったことのない姪にどうしてこんな鏡を送ってきたのかは分からないが…。
「近くにいい店があります」ゼクトはそういい、途中で車を止めた。
少し風変わりな店だったが腕はいいらしい。
「この鏡のヒビなおらないかしら?」
「……一週間でなおるよ。前払いだが」
レンスイは顔をしかめた。馬車代で結構使ってしまったのだ。
「出しとくよ」要が横から札を出す。
「奢られるのは嫌なのだが」
「おごり?返してもらうよ」
鏡を預け、再び車に乗りこむ。
「あれは大事なものなの?」
「視るときに鏡は必要だから。それにあれは今となっては伯母の形見なの。」
レンスイはそれ以上聞かれても何も答えなかった。ただ、ずっといらなかったこの力がほんの少し嬉しかった。
「国王様、着きました」「ありがとう」
ゼクトは2人のために車のドアを開ける。
目の前に広がったのはセレス王国の城と同じぐらいの広さの城。綺麗に咲き乱れている花と凝ったデザインの噴水。ここがノグレー国の王宮。
「ようこそ、ノグレー国へ」
この国の王,要・ラオスはレンスイにそう言った。
第二章END