ネリネ
第13話
父親はすぐに自国に連れ戻そうとしたが、レンスイも現在はノグレー国の王女という事もあるためそれは叶わなかった。
「さてと、話を聞こうか」
「案外バレるのが早かったのね」
レンスイ、いやクリスティナは残念そうにというより、つまらなそうに呟いた。
「この度は、馬鹿娘が面倒をかけまして申し訳ございませんでした」
「僕の父は僕に判断を下す権利をくれた。さてと、どうしようか」
殺したければ殺せばいい、クリスティナはそう思った。
「この国に戦争を仕掛けてこない事を条件に無罪放免でどうだろう?」
「陛下!それはあまりにもお優しすぎで」
ゼクトが驚いたように声を上げる。
「もちろん、いくらか額を請求はする」
「ありがたきお言葉」
どうせならこの父親を消してくれればよかったのに。
「どうする、今すぐにでも発つか?」
「えぇ。彼女がいなくては国も成り立ちませんし」
一応、嘘ではない。私の予知能力を使って戦争を仕掛ける日を決めてるのだから。
「荷物はまとめさせてある」
家出がこうもあっけない物だとは。父が私を取り返したくて必死だったせいかもしれない。
「レンスイ…」
「気安く呼ばないでください、敵国ノグレーの国王様」
お互い、今まで聞いたこともないような冷たい声だ。
「なぜ嘘をついた」
「嘘?私は貴方になにも話してない」
翌朝に馬車が手配された。この国の王も、今この場で私の父を殺せばいいものを。この父親も外面だけはいいから。
「国に着いたら当分は休まず働いてもらう」「わかってるわ」
次、私の監視が甘くなるのはいつだろうか。それだけを考えている。
「ゼクト、そんな怖い顔をするな」
「だからあれほど花嫁は慎重に選べと言ったのです。この国が大混乱に陥ります」
ゼクトのお小言が始まる。
「心配いらない。ちょっとした騒ぎは起きるかもしれないが、大きなものにはならないから」
「いったい何をお考えで?」
「……鳥籠の鳥を逃すんだよ」
長年彼とともにいるせいか、この王が何を言いたいのか分かる。
「そう簡単にいくとは思いませんが」
「そうかもね」
セレス国の私の部屋(地下)には空気を入れ替えるため窓が二つあるが、それ以外は壁一面が鏡で覆われてる。鍵のかかった扉にも鏡。
私が予知を見やすいようにらしい。いや、私に予知を見せさせるためか。
「逃げ出しやがって…」
監視の目はキツくなった。地下の階段からからこの部屋まで30を超える警備人がいる。
「クリスティナ、この国の未来を予言しろ」
父親はいつも適当だ。詳細を言わない。
『…二週間は安全』
予知の内容を聞くや、すぐに地下から出て行った。
二週間が過ぎるより前、何故か父が地下に来た。私の予知が外れたのだろうか。いや、そんなはずはない。
「お前に世話係でもつけようと思ってな」
「いらない」
世話係という名の監視だ。いらない、と言ったが、私に世話係をつけるのは決定事項と言われた。
「少しぐらいは要望を聞こうと思ってな」
「年齢の近い女性で」
あの時と似たような事を答えた。
父は一人の女性を連れてきた。
「新入りだ…前からいた奴にはお前と繋がってた者もいるだろうからな」
「ビーっ……ビー玉みたいな目ね」
少し不自然だったか……いや、父には気づかれなかったようだ。彼女がいるのは朝の7時から夜20時までとのこと。
父は連絡事項を伝えるや地下室から出て行く。
「どうして貴女がここにいるの、ビージー?」
父が世話係として連れてきたのはノグレー国でも私の世話係をしていたビージーだった。
「お久しぶりです、レンス…クリスティナ様」
「何がお久しぶりよ。よくバレなかったわね」
質問と回答があってない。
「言語は主人とゼクトさんに教えてもらいました。私は主人からの命に従う以外はありませんよ?」
主人?…要のことか?というか、教えてもらったからといって、異国の言葉はすぐすぐ習得できるのか。
「だから、彼は何で貴女をここに来させたのよ」「調査とその連絡です」
…説明不足にも程があるとは、まさにこの事。私は何の調査で来たのかを知りたいのに。
「それより、この国から出たいとは考えないんですか?」
「何馬鹿言ってるの?」
ついこの前、逃げたのがバレて捕まったばかりだというのに。
「警備が甘くなるのは何年後かしら」
「出たいと考えてるのですね。それならクリスティナ様はこれから数日、未来視で嘘をついてください」
嘘をつく?
「予知視で嘘をつけと?」
「内容は私が言います。主人から話す内容は教えてもらってますから」
ビージーは全て上手くいく、と言った。
クリスティナがこれから何が起こるのか、ノグレー国王である要が何を考えてるのか、が分かったのはそれから3日後の予知でだった。
彼が考えていたのはこの国へ戦争を仕掛ける事だったのだ。
何故彼がそんな事を計画したのか、それと勝敗もわからない。
ただ分かったことは、私がここから抜け出せるという事だった。
ビージーに言われた通り、嘘をついた。彼女が『南から敵が来る』といえば、クリスティナも父にそう伝え、彼女が『数日は安全』といえば、またクリスティナも父にそう伝えた。
「どうやって連絡取ってるのよ」
「広範囲型無線機です」
あっちの国にはそんな物もあるのか。
「大丈夫です、必ず成功しますから」
それから暫くして、ノグレー国がセレス国に戦争を仕掛けてきた。父は私に激怒したが、すぐに地下から出て行かざるおえなかった。戦の指揮を取るのは父だったからだ。
「あとは騒ぎに紛れて逃げるだけです」
「…そう上手くはいかないみたい」
クリスティナはビージーに手元にあった鏡を見せる。
燃えるセレス国の城…地下に残された二人の少女。
「ま、こうなるわよ」
ここから逃げ出せる予知は間違いだったのだ。予知視の力を持つ私を易々と外に出させるはずがない。
外が騒がしくなる…兵士どもが攻めてきたようだ。
煙くさい…ノグレー国の兵士どもが火を放ったのか、父が火を放ったのか。
「貴女まで巻き込んで悪いわね」
「いいえ…。こうなる事を主人は知ってましたから」「なにそれ」
こうなる事がわかってた?
「きっともうすぐやってくるはずです」
「なんでよ」
「この戦は貴女を助け出すためだけに主人が考えたから、ですよ」
ビージーは楽しそうに言った。
外がまた騒がしくなる。何人もの兵士の足音。
「ビージー、そこか?」
「はい。クリスティナ様も一緒です」
彼の声だ…一ヶ月ぶりだろうか。
「ドアから下がってくれ」
小さな爆発音が聞こえた。ポロポロと壊れてく地下の扉。
今、鳥籠が開いた……。
第13話 E N D
次回を最終話にしたいと考えてます。




