ウツボカズラ
第11話
そして5日目…。
この日もまた彼から町に行かないかと誘われた。昨日あんな事があったのによく言うものだ。
「構わないけど、今日はどこ行くの?昨日散々まわったでしょう?」
「下級地区の子たちに会おうかと…行かない?」
「行く」レンスイは返事をしすぐに着替えた。
今回はちゃんと食べ物も持っていくらしい。ホカホカのパンに冷たい水と果実。
「今日はゼクト以外にも10名ほど護衛をつける」
「昨日あんな事があったしね。お好きにどうぞ」
昼ごはんもそこに着いたらすぐ食べるらしく、朝食は無しにした。車で数時間…車を運転してるゼクトによくもまぁ休憩なしにこんなに走れると感心した。
「着いたよ」「よく寝た…」
窓の外の景色を見るのにも飽きてグッスリ熟睡してしまってたらしい。
ここに来るのは二度目だ。あれからそんな日にちも経ってないからか、子供たちは皆レンスイの事を覚えていた。
「あん時の姫さんだ」「久しぶり」
それから持ってきたパンとスープを皆んなで食べ、レンスイは子供達に連れられて下級地区を案内してもらった。
「彼女は子供の扱いに慣れているようですね」
要はゼクトと並んでレンスイが子供達と走り回って遊んでる姿を眺めていたが飽きたため、彼もまた一緒に子供達と触れ合い始めた。ゼクトは王専属の執事ということもあり要の周りに不審な奴がいないか見張り。ついてきた兵たちも兵たちで自身の銃の手入れ…。誰もレンスイのことを見てなかった。
それからしばらく経った頃だろう…子供達が寄ってたかって王である要の元に集まってきたのは…。
「どうし……」
「姫さんがいない」「消えちゃった!」
子供達が口々にそう叫んできた。
「いないって?さっきまで遊んでたんじゃ…」
要はゼクトに目配せする。ゼクトは兵士たちを集め、彼女の捜索にあたらせた。
捜索から30分…レンスイは見つからずにいた。
「片っ端から探しましたが…。もうこの近くにはいないかと思われます」
「攫われた、ということか?」「はい」
なぜ、国王の僕ではなく一般人と公表されている彼女を狙ったのだろう?彼女と引き換えに多額のお金でも要求してくるのだろうか。
「…要様、一度城に戻るのがよろしいかと。前国王にも知らせなくては」
「そうだね」
兵士たちを半分連れて一時撤収。兵士の残り半分は引き続き捜索だ。
国中に通達でも出せばすぐに見つかるかもしれないが、相手がわからない以上、出来る限り穏便に済ませたい。
「国王陛下、謁見を申し出る者が先ほどからいらっしゃるのですが如何致しましょう?要件を聞いても王にしか話せないの一点張りで」
「今は緊急時だ。また次に機会にするよう伝えてくれ」
相手がわからないこともあるが、王家の妃がいなくなったとなれば王家の信頼性も欠けてくる。兵士たちの訓練状況など新聞に取り上げられるのは御免だ。
一応父親には伝えてみたものの 私は引退した身だ。口を出すことはない、と言われてしまった。
「陛下、今捜索部隊から連絡がありまきて、彼女の姿を見たものはおりませんでした。あの髪の色ですし、逃げるとこは難しいかと思われます」
「これからは誘拐の線で捜すよう伝えてくれ」
もし彼女が誘拐されたとしても、身代金の要求などが無いのはどうしてだろうか。こちら側の様子を見てるのか…。どれだけ考えても答えらしきものが出てこない。
「国王陛下、まだあの男がいるのですが如何致しましょう」
あの男、とは謁見を申し出てた奴のことだろうか。かれこれ1時間になるが余程の暇人なのか、それとも…。
「仕方ない、5分だけだと伝えてくれ」
国民に変に勘ぐられても困るのはこっちだ。それなら相談事の一つや二つ、どうという事はない。
謁見の間に行き、頭をさげる男を見たがどうもこの国の住民ではなさそうだ。旅人のような身なりをしている。
「待たせた。1時間も門の前にいたということだが、何か急用かい?」
「ノグレー国 国王陛下…どうか今から最後まで口を挟まず私の話を聞いていただきたい」ノグレー国の言葉が得意のではないのだろう、少し聞き取りづらい。
「わかった。時間を守ってくれるなら何とでも」
「私はセレス国、現国王 ローガンだ。敵国である国の王が突然押しかけてきて信じられないのはわかる」
そして旅人は着ていた服のフードをとった。
「口は出さないという最初に言ったが、訂正する。旅人のような身なりでしかも一人で来たと。…お前の顔はよく知ってる。今ここで捕らえることもできるけど何で君がここに?」
要は彼を捕らえようとしてるのを止めるよう兵士たちに手で指示した。
「もしあなたが今回の件に関して知ってることがあるのなら話して欲しい」
「今回の件?…僕の妃が行方不明ってことかな?」
「…そうでしたか。私がこちらに伺ったのは我が娘のことでして」
「娘?……君の国に王女さんはいなかった気がするけど」
いったい何の話で貴重な時間をとられるのだろうか。妃がいると言ったから求婚とかではあるまい。
「ある事情により彼女の存在は世間には公表しておりません。その姫がいなくなったのでございます。彼女ならきっとこの国に逃げ込むかと思いまし、不審な人物がこの国に入国してきたなどという情報がないかと」
「さぁ?ここにはそんな情報はきてないけど、なんなら国境付近にいる警備にでも聞いておこう」
話がそれだけなら帰ってくれと言うように彼は手を振った。
「彼女の名はクリスティナ…セレス国、第一王女だ。私は近くの下宿屋に何泊かするつもりなので、何かわかったら連絡が欲しい」
ローガンは自分が泊まるであろう宿の名前を紙に書き、要に手渡した。
「僕が君のいる宿を襲撃する可能性は、考えてないの?」
「我が国の王家は何かしらの能力をもちます。私の能力がわからないまま手を出すのはそちらの破滅に繋がるかと…」
「なるほど。そちらが仕掛けてこない限りこちらも手出しはしないことを少しの間約束しよう」
ローガンが帰ったのを見て、要はゼクトを呼んだ。
「如何なさいましたか?」
「レンスイを襲おうとした奴のことは何かわかったか?」
「あぁ、毒で自殺した奴ですね…それが、殺し屋だったようです。雇い主までは行き着きませんでした」
殺し屋とわかっても雇い主まで行き着かなかったということは、よほど雇い主が身分が高く、慎重だったのだろう。
「それで、彼女の事は?」
「……………実は先ほど、ビージーに彼女の荷物を調べさせたのですが」
「大した荷物もなかったと思うけど?何か面白いものでも見つかったの?」
「多分自分の身元がバレるようなものはいつも身につけていたと思われます。ですが…さすがに身につけれないものもあったようです」
ゼクトはレンスイが使ってた部屋に行くよう、要を促した。
第11話 E N D




