ごめん
15分前に待ち合わせ場所に着いたのに、彼はもう来ていた!
のんびりと駅前の花壇に咲く花を眺めている。
「ど、どうしてもういるの」
赤いブーツをコツコツと鳴らして近づき、皆野の背中に声をかけた。自分のほうが確実に早いと思っていたのに、そんなことは全然なかった。逆に待たせていた。途端に申し訳なく思う。どれぐらい待たせたのだろう。寒かっただろうに、彼の口から漏れる白い息が外の冷たさを痛感させる。
「瑠華早かったなー」
皆野は振り向きながらそう言う。あなたのほうが早いじゃない。言いたくても言えない。いつもの憎まれ口も今日は控える。彼を傷つける言葉は、もう言いたくない。
「うん……」
たいしたことも言えない。彼を見るのが恥ずかしい。目を合わせられない。手が震える。
「どうした。寒い」
そっと私の手をとりそうになった彼の指先から咄嗟に逃げる。思い切り拒絶した。そういうふうに捉えられてしまう。しまった、と思ったときには遅かった。彼の少しごつごつした人差し指が小さく震え、すぐに彼のジャケットの中に消えてしまう。
「ちが、……ごめん」
小さい呟きが、私たち二人の間をすり抜ける。会ったばっかでこの雰囲気の悪さはないだろう。気持ちが浮ついて、行動が空回り。落ち着け、落ち着け、と何回も自分に言い聞かせた。
彼と気持ちを共有してから、初めてのデートだった。彼を好き、と自覚してから初めて外で待ち合わせをするデートだ。意識していなかった時からは考えられない恥ずかしさと緊張で胸が締め付けられる。
彼はどんな顔をしているだろう? まだ一度も顔を見ていなかったので、ゆっくりとだが顔を上げる。ばちんと目が合った。皆野の顔は彼の髪の色のように赤くなった。もちろん私もだ。かっこいい……。思っていたよりずっとお洒落で驚いた。と、不意に自分の服装に不安が募る。子供っぽくなかっただろうか、可愛すぎ。イメージと違う。そもそも似合ってない。昨日何時間もかけて決めたコーディネートにさっそく緊張する。
「……ビックリした。瑠華こっち見るんだもん」
皆野がくすくす笑う。その笑い方が、笑い声が、妙に大人っぽくて、自分が子ども扱いされているようで苛立った。
「そ、そりゃ見るよ! 見て悪い」
「ごめん、悪くないよ。瑠華、可愛いね」
苛立ったのと共に、すごく愛おしそうに名を呼ぶから、胸が締め付けられたのだ。愛されていると実感する。嬉しいはずなのになぜか苦しい。まるで水の中で溺れているかのように、息苦しい。苦しいと共に涙が出そうになる。もうすぐ私は消えるのに、消えたらあなたは一人なんだよと思う。
私は病気なんかじゃない。明日死ぬ、今日死ぬ、なんてこともきっとないと思う。なのにそういう考えにおちつくのはなぜ? どうして、この人を一人にしてしまうとわかる? わからない。なぜそういう気持ちになるのかわからない。なのに気持ちはざわつくのだ。
「ごめん。私やっぱり」




