わたしのひかり
この季節は、馬車の中は酷く蒸す。
窓は開け放っているものの、前後の壁に阻まれて風は上手く通り抜けてはくれない。
こうしていると、ずっと馬に乗って移動していた頃が少し懐かしい。
「今回訪れる土地は、それは素晴らしいところなんですよ」
隣で、ペルルが嬉しげに微笑みながら話す。
そう、勿論、少しだけだ。
「そうなのですか」
促すように相槌を打つが、しかし彼女はそれ以上話してはくれなかった。
その街は、カタラクタにしては珍しく山沿いにあった。木々が茂り、渓流から流れた細い支流が、街の中を幾つも通り抜けていく。
大水になった場合は大変そうだな、とアルマナセルは思う。彼が学んだ様々なことは、生まれ故郷から遠く離れていても、思考の根底を成していた。
午前中には竜王宮に到着する。普段なら、その晩は領主たちとの歓談に使われることが多かった。
しかし、ペルルも竜王宮の者たちも、当然のように竜王宮での晩餐に予定を割いていた。
特に異論はないが、奇妙だ。
それとなく尋ねてみたが、皆、意味ありげに笑むだけであった。
やや疎外感を感じながら、案内する巫女について宵闇の濃くなった竜王宮内を歩く。
中庭に設えられた宴席を見渡した瞬間、アルマは棒立ちになった。
「なん……だ?」
川の流れを引いているのだろう、中庭の一角にはさらさらと涼やかに水路が流れている。
そして、一面に小さな光が舞っていた。
淡い黄色がかった光が、強く弱く、ふわりふわりと。
「蛍、という虫なの。こうして、夏の短いひと時に光りながら伴侶を探すのですって」
傍にそっと寄り添ってきたペルルが囁く。
その幻想的な光景に、魔王の裔は魅入られたように動けない。
「みんな、貴方にはまず一番に竜王宮でこれを見て欲しかったのよ」
気づくと、周囲の巫子たちが、嬉しげに微笑んでいた。
「〈魔王〉アルマナセル。カタラクタへ、ようこそ」




