日頃の感謝をこめて
「……母の日?」
きょとん、とアルマが呟く。
「そういえばあったね。そういう記念日が」
苦笑したのは、オーリだ。
彼ら、竜王の巫子たちは、基本的に生まれた時の家族とは別れている。オーリとグランに関しては、時代の断絶もあり、今では全く意識しない日であろうことは推察できた。
一方、残る仲間たちも、生き別れていたり死に別れていたりと、彼らは全員母親との縁が薄いのだ。
「母親って、どういうものなんだ?」
むしろその縁の薄さが、互いに気を使わずに済んでいるのか、珍しくアルマはそう問いかけた。オーリは僅かに宙を見上げ、記憶を呼び覚ます。
「そうだな……。食事を作るのは、母親の役目だった。羊を潰した後、保存食にするのは専ら母の手だ」
「それはかなり特殊なケースだな」
「それに、服を作るのも、母親だ。羊毛を洗って、紡いで、織ったり編んだりするんだよ。破いたりしたら繕ってくれるし」
「多分それも特殊だと思うぜ」
口々に補足され、不満げに青年は仲間たちを眺め渡した。
「……後は、まあ、悪さをしたときに怒ってくれることかな」
「苦労かけたんだな、お前……」
「あのねぇ。何でそこまで言われないといけないんだよ」
僅かに非難するように、オーリがぼやく。
「でも、そうか。食事を作ってくれて、服を繕ってくれて、怒ってくれるのが、母親か……」
しんみりと、アルマは呟く。
一同は、何とはなしに、何かを思い浮かべていた。
「ねえ、何か今日、妙にみんな優しいんだけど、何かあったの? ご飯を代わりに作ってくれるとか、お菓子をいっぱいくれたりとか、髪の毛結ってくださったりとか」
「そうかそうか」
「ちょっと、何でクセロまで撫でてくるのよ!」




