戦唄
細い歌声が、流れてくる。
ぼんやりと、寒々しい部屋の中でアルマはそれを聞いていた。
戦唄だ。
小さく口ずさみながら、部屋の隅で弓の弦を手にしている青年は、全く気負った様子はない。
唄は、戦いを叫んでいる。草原を征き、岩山を越え、敵を見つけ、殲滅せよと。
敵意を煽り、高揚させるその唄を、何故今オーリは選んだのか。
あの時の、風竜王の高位の巫子を思い出す。
エスタを、自らの、風竜王の仇だと定めた時の。
その瞳に、口元に、声に満ちた、狂気にも似た喜悦。
それは、出会ってから今まで、一貫して冷静に、論理的に行動してきたオーリからは想像もできない一面だ。
あの時、アルマは明らかに怯んだ。怯えた、と言ってもいい。
順当に考えれば、あの箍を外した敵意を受けていたのは、自分だったのだ。〈魔王〉の裔であり、名を継いでいるアルマナセルが。
どれほど、頭で理解していたとはいえ、オリヴィニスの敵意は、怨みは、深すぎる。
……そう、エスタの名を呼んだのは、警告だった。
袂を別ったとは言え、十年、傍にいた青年だ。
そして、オリヴィニスは、味方になったとは言え、三百年の怨みを抱えている。
只人が受けるには、それは重すぎる。
歌声が、細く、続く。
邪魔にならない程度に、小さく溜息をついた。
「全く……。そもそも似合わないんだよなぁ」
「何かいきなり酷いこと言われてないかい?」
呟きを聞き咎め、甘い声の抜け切らない青年はじろりとアルマを睨みつけた。




