一年の計
新しい一日は、日の出と共に始まるとされている。
当然、新しい一年もそう定められていた。
新年最初の日の出に居合わせられれば、その年は幸運に恵まれ、祈りは叶えられる、と言い伝えられている。
「……本当かよ」
生欠伸を殺しながら、男が呟く。
一晩起きている、と主張した子供たちは夜半を越えた頃には眠ってしまっていた。年上の者たちは、むしろ最初から徹夜などするつもりもない。
自然、彼が、夜明け前に皆を起こす役目となった。
『さての。わしが眠りにつく以前には、そのような風習はなかったようじゃが』
頭頂部に陣取る古き竜王が真面目な口調で返してくる。
肩を竦め、クセロは新たなワインの栓を開けた。透明な液体が、グラスの内側でとろりと渦を巻く。
『そなたなら、何を願う?』
「叶えられないと判ってるのに願う訳がねぇだろ」
気まぐれに尋ねられた言葉に、呆れ顔で返す。
『小童どもなら可能かもしれぬ。それに、わしが叶えぬとも限るまい』
無造作に、地竜王エザフォスはそう告げた。
「願いねぇ」
くい、と一口ワインを口に含む。
あの火竜王の高位の巫子に雇われている今のところは、金持ちになることなど望めない。享楽の限りを尽くすこともだ。
この使命を果たすまでは。
「そうだな。大将……たちが、無事でいてくれりゃ、それだけで楽だな」
小さく呟いた言葉に、男の意図を読める竜王はくつくつと笑った。




