遠い夏の想い出に
カタラクタ王国。
大陸の東に位置するこの国は、夏には相応に気温が高くなる。
「きつい……」
アルマは、布張りのソファを忌避して、硬い木の椅子にだらしなく座っていた。
「本当に湿気が凄いものなんだねぇ」
開け放った窓枠に腰かけたオーリが苦笑する。アルマはそれでも襟をぴったりと止めているが、この青年は緑色を基調とした長衣の胸元をかなり開いている。肌を露にしていないのが、せめてもの慎みか。
「この辺りは、湖沼が多いもので……」
少し申し訳なさそうに、ペルルが告げた。彼女は、北方の、又は南方の国の者よりは慣れた顔をしている。
普段の通り仏頂面であるグランはともかく、室内にはもう一人、平然とした顔をしているものがいた。
「……何か小狡い手を使ってるのか、クセロ?」
「我が竜王の名とその誇りにかけて」
渋い顔で、金髪の男は小さく呟いた。
その足元から広がった冷気が、閉め切った部屋の中にふわりと満ちる。
「おー」
純粋に感心して、アルマは小さく拍手した。
「一人だけ恩寵を受けているとは水臭いね」
嫌味を滲ませて、オーリはクセロを見やった。
「あまり大々的にするな、っておやっさんが言ったんだよ。何か、後から水浸しになってカビが生えたりするからって」
先刻まで自分の足元だけを冷やしていた男は、訳が判ってないのだろう、小首を傾げながら言い訳する。
何か考えこんでいたグランが顔を上げた。
「クセロ。氷は作れるか?」
錫製の器に入れられた水を、ペルルが浄化する。
次いでクセロがその器に手をかざし、凍りつかせた。
平たい桶の中に、ごろん、と高さ十五センチ程度の円柱となった氷を置く。
そしてオーリが、慎重に風の刃でその氷を削いでいった。
みるみるうちに、桶の中に白い雪のような氷が積もっていく。
「氷菓子だ。子供の頃、時折食べたものだよ」
懐かしげに、グランは呟いた。彼が、昔話をするというのは珍しい。
ペルルとプリムラは、色々な果物のジャムを手にして、楽しげにあれこれ選んでいる。
「……なあ、これ、売り出したらかなり儲けられるんじゃねぇか?」
「高位の巫子が三人必要って、どれだけ高い値段設定になるんだい?」
思案げに呟いたクセロに、呆れてオーリが返していた。




