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いつか、竜の舞う丘で。  作者: 水浅葱ゆきねこ
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はじめての夜を、あなたと。

 火竜王宮に仕えて以来、少なくとも衣食住の環境は格段に上がった。

 クセロは、羽毛布団の敷かれた寝台を見下ろしながら、そう思う。

 勿論普段はここまで上等な寝具は使えない。今は、高位の巫子と同じ船にいて、しかも事情があって一人部屋を与えられているからだ。

 だが現在、その柔らかな誘惑の上には、出会ったばかりの小さな生物が、ど真ん中で丸まっていた。


「……おやっさん。何で、そこにいるんだよ」

 落された呟きに、その重さで布団に埋もれていた地竜王エザフォスが片目を開ける。

『最もよい場を得るのが、竜王の権利じゃ。わしを立てるが巫子の役目じゃろう』

「違ぇよ」

 きっぱりと言い放ち、どすん、と隣に座りこむ。

「そもそも、おやっさんは硬かろうが柔らかかろうが、冷たかろうが暖かろうが、『全て等しい』んだろうが。床で寝たって一緒だろ」

『そういうことではない。竜王に対する敬意の問題じゃ』

「あーうん。ねぇわ」

 あっさりと答える。何となく、地竜王の背を撫でた。ざらり、とした感触が掌に残る。

『やれやれ。困った巫子を抱えたものじゃな』

 鼻を鳴らして、エザフォスは身を起こした。ぽふぽふと空気の漏れる音を立てながら、羽毛布団の上を歩いていく。

 が、枕のところまでくると、するりと掛け布団の中に潜りこんだ。

「おい?」

『半分残してやる。これでよかろ』

「半分って……。何でおやっさんと一緒に寝ないとならねぇんだよ!」

 幾ら何でも、色気がなさすぎる。

 しかし、今日は朝から水中で数時間過ごし、冬の水と風に凍え、人に囲まれて疲れている。そろそろ身体が辛くもあった。

 諦めて、クセロはその寝台へ身体を沈める。

「……おやっさん。冷てぇ」

『贅沢な奴じゃ』

 小さく文句を言うと、腹の辺りがゆっくりと暖かくなる。

 吐息を漏らして、クセロは目を閉じた。


「……っだぁあああああ!」

 深夜、怒声だか悲鳴だか判別できない声を上げて、クセロが飛び起きた。

『やかましいのぅ……』

「やかましい、じゃねぇ! 何でそんなにやたらと動くんだよ!」

 衣服を捲り上げて、つい先ほど尻尾をしたたかぶつけられた場所を確認する。びりびりと痛むそこは、少々肌が赤くなっていた程度で、内心ほっとした。

 地竜王の尻尾には、先端の鋭い黒曜石が生えている。磨き上げれば、刃物としても使える石だ。もしも勢いよく叩きつけられれば、人の柔らかな肉など、簡単に切り裂けるだろう。

 まして、顔、しかも目に当たったら、などと考えるとぞっとする。

「もう無理だ。そっから降りろ。今すぐ!」

 クセロの罵声に、地竜王は薄目を開けると、ぐるり、と丸くなる。

 衝動のままに叫んだが、しかし強要はできないことぐらい、クセロにも判っている。今の言葉を不問に処されているのが幸運なほどだ。

 眉を寄せ、呻きながら考える。

 つまり、地竜王が寝返りを打たず、尻尾が自分に当たらない体勢を維持できればいいのだ。

 地竜王は、無言で再び隣に入ってきた巫子を素知らぬ風にやり過ごそうとした。

 が、クセロの両手は竜王の背に回り、ぎゅう、と力をこめてきた。

 身じろぎしようとしても、金髪の巫子はそれを許さない。

「おとなしくしてろよ。エザフォス……」

 暖かさにつられたか、半ば眠りに落ちかけている声が漏れる。

 竜王の腹はクセロの方に向いており、自然、尻尾を揺らしても簡単には届かない。

『ふむ。我儘な巫子を持ってしもうたの』

 小さく笑い声を零して、地竜王もその黄金色の瞳を閉じた。



 翌日、プリムラの協力を得たクセロに、大き目の籠の中にクッションを敷き詰めた寝床を用意されて、地竜王はまた機嫌を損ねてしまったという。



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