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落星物語  作者: 間々 ようこ
果て
41/42

結末

 火は瞬く前に燃え広がった。人々が中庭に飛び出して来て、棒であたりを叩いて廻る。屋敷から女性たちが逃げ出し始める。貴子はその中に走りこんで、屋敷に入りこむ。

「きっと執務室の方だ」

 階段を上がっていると、逆の階段を一人の女性が下りていくのが見えた。

「星さま?」

 見ると、星によく似ているが、別の女性だった。

「椿! 椿」

 火が迫る中、悲愴な声が聞こえてくる。

「どこなの?」

 なんと、星である。

「星さま!」

「だれ?」

 星が足を止める。貴子は星と対面した。

「あなたの恋人です」

「……だれですか?」

 貴子が一歩つめる。

「あなたはどうかわかりませんけど、おれはあなたが好きです」

 星が一歩、後ろに逃げる。

「愛してる」

 ばあん、と炎にあおられて外に続く扉が開く。熱風が吹き込んでくる。

「わたしも」

 星が駆け寄る。それを、貴子が抱きとめる。

「わたしは時々頭がおかしくなる。これ以上おかしくならないうちに、あなたをあなたとわかるうちに、死んでしまいたい」

「星さま」

 その顔に痣が出来ているのを、貴子は見逃さなかった。

「これ、どうしたんです」

 突然星がおびえだす。

「わ、わたしを……亥虞修理が」

「ふふふ、どうしましたか」

 後ろで声がし、貴子が振り向く。亥虞修理と、その背に白銀が立っている。亥虞修理の手には剣が握られている。

「龍!」

 貴子が叫ぶ。

「星さまを外へおつれしろ」

「だが、お前は」

「おれには、玉璽がある」

「玉璽ですと?」

 亥虞修理の目の色が変わる。

「それをいただけたら、逃がして差し上げましょう」

「いや。秘薬が欲しい」

「秘薬?」

「カンファンに伝わる秘薬だ」

 ふん、と亥虞修理が鼻を鳴らす。

「自分の命はどうでもよいというのだな」

「おれは必ず帰ってみせる。自分の力で、お前を倒す」

「なにを」

 亥虞修理が切り掛かって来るのを、そのわずかな時間で貴子は矢をつがえ、彼の目の前で指を離した。


 矢は勢いよく放たれ、亥虞修理の頭を射抜いた。


「な……に」


 残す力で、亥虞修理が刀を振り下ろすが、既にそれは威力はなかった。

 亥虞修理は倒れ込むと、そのまま動かなかった。貴子は力を出しきり、膝から崩れた。白銀が歩み寄り、貴子の頭の上にたつ。

「秘薬を飲むか?」

 白銀は薬らしきものを取り出す。

「それ……は、星さまに」

「何言っているんだ、飲めよ」

 龍が叫ぶ。

「いやだ」

 火が回りはじめ、あちこち焼け落ち始める。

「おれはもう立てない。……龍、これを」

 貴子は玉璽を投げ、龍に渡す。

「龍平昌!」

「貴子」

「行ってくれ」

「いやだ!」

「たのむ……」

 燃える柱が貴子の上に落ちる。白銀がそれをかばう。

「……つれていけっ」

 白銀は片手で柱を押さえながら、もう片方の手で貴子を投げた。龍平はそれを負ぶさると、星の手を引いた。

「椿は」

「さきほど、中庭で遊んでおられました」

「白銀殿、それでは」

「爆発で、おそらく」

「ああ」

 三人は屋敷の外に出た。屋敷は火の海で、近寄ることも出来ない。時折火柱が上がり、ここにいても危険だった。

「さあ、薬を飲むのです」

 龍が用意した薬を、星は半分飲んで、半分を貴子に与えようと振り返った。しかし、貴子は動かない。

 冗談だと思って揺り動かしても、動かない。

 風が熱く、彼の頬を焼く。

「貴子。嘘よね……」

「貴子」

「嘘! 嘘って言って! わたしあなたに謝ってない。何も言ってない。本当はずっとあなたのことを、愛してたのに!!」

 わっと泣いていると、子どもの泣く声が聞こえて来た。

「椿?」

「おかあさまー」

 焼け落ちた壁の向こうに、火傷を負った子どもがたっていた。服も焼けて、肌も少々焼けているが、命に別状はない程度に見える。

「椿王子」

 星はぼろぼろ涙を流す。

「ああ……!」

 すがりついて嗚咽する星に、椿は一生懸命説明する。

「バーンってなってね、それでね、椿は空を飛んだの」

「爆発で吹き飛ばされたのですって」

「よくもまあ、無事だったことだ」

 龍は椿の下腹部に目がいった。

「あれ? 椿さまは、王女さまだったのか」

 それを星がぴしゃりと制止する。

「いいえ、焼け落ちたのです」

 あとで星が言うには、後宮の政情不安の中、王女ではなく王子を手元に持っていると思わせたかったのだそうだ。

「これからどうしますか」

「弔います」

「そうですね、貴子をまずなんとかしないと」

「いえ、わたくし、一生をかけて貴子を弔います」

「尼僧になるのですか」

「ええ」

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