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落星物語  作者: 間々 ようこ
黒都
32/42

潜入

「追えー!」「くせ者だ、追えー!」

 貴子は女の格好で、追われていた。場所は王宮内である。

 なんとか王宮内に龍の恋人の振りをして入りこんだものの、すぐに男だとばれてしまった。

 そりゃそうだようなあ、おれも十七だもの。

 とほほと、こうなるまでそれに気づかなかった自分にあきれかえる。とにかく、何が何でも火薬の製造法を見つけ出さねば。

 そこへ、白い影が閃光とともに現れる。

「わあ」

 追っ手が目つぶしにあって足止めになる。

「旦那さま、こっちです!」

 みると、陽子である。白い動きやすそうな衣をまとい、格闘武器を手にして目の前に立っていた。

「逃がして差し上げます。さあ、こちらへ」

「おまえ?」

「わたしは王の隠密。この王宮は、庭ですわ」

「何だって」

「なんでこんなことをなさったんですか!」

 二人は走りながら問答を繰り返す。

「ある人を手に入れるためだ」

 その答えに、陽子がちらりと貴子を見る。

「女性ですか」

「……うん」

 陽子は何か考えているようだった。

「あたし、あなたと未来を生きたかった」

「え」

「あたしなら、あなたの暗い顔を笑わせられるって、思ったんだけど」

 墓地を抜けて、草原にでる。

「さあ、ここから道をまっすぐに行くとわたしに実家です。行ってください」

「お前もいくのだろう?」

「追っ手をまきます」

「陽子?」

 陽子がにっこり笑って貴子に手を振る。

「またあとで」

 陽子は死ぬ気なのだと、このとき貴子は気づかなかった。

「またあとで」

 てをあげて、貴子は挨拶すると、背を向けて走り出した。

 陽子は見届けると、墓地を駆け出した。


 やがて、貴子は草原を抜けて、小さな民家にたどり着いた。

「おう、若! 女装ですかい?」

「まあな」

 弾む息で、貴子は辺りを見回す。壁には武器がいっぱいだ。そして机の前には、黒く丸い何かの塊。触ろうとしたとたん、怒声が飛んできた。

「馬鹿野郎、死にたいのか! それは炸裂弾だ!」

「えっ」

 何だそれはと思いながらも、怒声に驚いて手を引っ込める。

「よう、親方! 酒が切れているぜ」

「朱さん、飲み過ぎだ」

「そうはいったって、女がいなけりゃつまらない。酒が進むんだよ」

「女ならいるじゃないか」

「二階にだろ? 龍と仲良くしている女は、女じゃない」

「ははは」

 親方と呼ばれた男は、貴子の肩に手を置いて、顔を覗き込んだ。

「陽子から話は聞いている。火薬が欲しいんだろ?」

「いえ、火薬の作り方が知りたいんです」

「火薬は怖いぞ。凄まじい力をもたらしてくれる。その誘惑に負けないなら、教えてやろう」

「まけません。おれが欲しいのは、力じゃない。ある人が欲しいんです」

「わかった、あとで工房に来るといい。とりあえず、着替えを用意するから着替えなさい」

 なぜこの人は火薬の作り方を知っているのだろうと思ったが、壁の武器と陽子が隠密であることを考えると、何となくわかるような気がした。

「ありがとうございます」

 貴子は深々と頭を下げた。

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