龍
どこから考えたらいいのか、貴子はわからない。河原に駆け込んだ時には、まだ明鈴は生きていた。しかし、斬首の前に抱き寄せて奪った時には、息絶えていたのである。
なぜだ、と思いながら貴子は馬を走らせる。このとき、もう一頭の馬がついて来ていた。
「誰だ!」
「まて、妹の亡がらを置いていけ!」
振り返ると、龍だった。
「龍! おれだ、貴子だ!」
「貴子!?」
二人は追っ手をまいて岩陰に馬を止めると、抱いていた明鈴の亡がらをそっと馬からおろした。
「なぜ男の姿なのだ」
「明鈴を、助けたくて」
「そうか」
龍は明鈴を抱き寄せると、涙した。
「とどめを刺したのは、俺なんだ。斬首の苦しみから逃がしたくて、こいつで」
と吹き矢の筒を見せた。
「俺が助けたのは、かえって悪かったのか」
「そうじゃない。おれが早まったんだ」
「龍」
龍があまりに泣くので、貴子は側に行って、肩を撫でてやる。
「堅い手をしている」
ぽつりと龍がつぶやく。
「男なのか」
少し驚いて、それから小さな声で、貴子は答えた。
「ああ」
大きな手で顔を覆い、龍は一言、「ああ!」と叫んだ。
それからゆっくりと貴子の手を払うと、立ち上がった。
「カンファンに帰る」
「あんなところ」
「いいんだ。お前といたら、俺」
「龍」
龍は貴子を抱きしめた。
「なんで間違えたんだろう。好きになる相手を」
それから、じっと貴子を見つめた。
「口づけ出来るだろうか」
「……やめておけよ」
「気持ちとしては、大丈夫なんだが」
「無理すんな」
「そうだな」
龍ははじめて、かすかに笑った。
「だが好きなのは変わらん。かならず、側にいる」
「龍……」
「おれ、カンファンに戻る」
「わかった。明鈴は俺が葬る。もう、行け」
龍と入れ違いに、四人の男がやって来た。亥虞修理の一党だ。
「星が気分を悪くしたので、宴は無しだとか。なんだかごちゃごちゃしておるぞ」
「だがわしらには関係なきこと。とにかく、黒都に戻ることにしよう」
「——俺も行って、いいですか」
貴子の一言で、亥虞修理が微笑む。
「いらしてください。私たちは反乱軍ですが、頭になってくださいますね」
貴子は、うん、と力強くうなずいた。
「王を倒して、俺は星さまを妻にする」
日は沈みかけ、赤い光があたりを包む。馬の後ろ姿が、黒く映えた。一同は、街道を走り、黒都を目指すのだった。




