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落星物語  作者: 間々 ようこ
官府
22/42

 どこから考えたらいいのか、貴子はわからない。河原に駆け込んだ時には、まだ明鈴は生きていた。しかし、斬首の前に抱き寄せて奪った時には、息絶えていたのである。

 なぜだ、と思いながら貴子は馬を走らせる。このとき、もう一頭の馬がついて来ていた。

「誰だ!」

「まて、妹の亡がらを置いていけ!」

 振り返ると、龍だった。

「龍! おれだ、貴子だ!」

「貴子!?」

 二人は追っ手をまいて岩陰に馬を止めると、抱いていた明鈴の亡がらをそっと馬からおろした。

「なぜ男の姿なのだ」

「明鈴を、助けたくて」

「そうか」

 龍は明鈴を抱き寄せると、涙した。

「とどめを刺したのは、俺なんだ。斬首の苦しみから逃がしたくて、こいつで」

 と吹き矢の筒を見せた。

「俺が助けたのは、かえって悪かったのか」

「そうじゃない。おれが早まったんだ」

「龍」

 龍があまりに泣くので、貴子は側に行って、肩を撫でてやる。

「堅い手をしている」

 ぽつりと龍がつぶやく。

「男なのか」

 少し驚いて、それから小さな声で、貴子は答えた。

「ああ」

 大きな手で顔を覆い、龍は一言、「ああ!」と叫んだ。

 それからゆっくりと貴子の手を払うと、立ち上がった。

「カンファンに帰る」

「あんなところ」

「いいんだ。お前といたら、俺」

「龍」

 龍は貴子を抱きしめた。

「なんで間違えたんだろう。好きになる相手を」

 それから、じっと貴子を見つめた。

「口づけ出来るだろうか」

「……やめておけよ」

「気持ちとしては、大丈夫なんだが」

「無理すんな」

「そうだな」

 龍ははじめて、かすかに笑った。

「だが好きなのは変わらん。かならず、側にいる」

「龍……」

「おれ、カンファンに戻る」

「わかった。明鈴は俺が葬る。もう、行け」

 龍と入れ違いに、四人の男がやって来た。亥虞修理の一党だ。

「星が気分を悪くしたので、宴は無しだとか。なんだかごちゃごちゃしておるぞ」

「だがわしらには関係なきこと。とにかく、黒都に戻ることにしよう」

「——俺も行って、いいですか」

 貴子の一言で、亥虞修理が微笑む。

「いらしてください。私たちは反乱軍ですが、頭になってくださいますね」

 貴子は、うん、と力強くうなずいた。

「王を倒して、俺は星さまを妻にする」

 日は沈みかけ、赤い光があたりを包む。馬の後ろ姿が、黒く映えた。一同は、街道を走り、黒都を目指すのだった。

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