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落星物語  作者: 間々 ようこ
官府
18/42

「だれ?」

 黄珠は宿坊の外で気配を察して振り返る。そこには、気の弱そうな男が立っていた。見覚えはない。衣の色から従五品であることがわかる。

 男はおずおず口を開いた。

「あなたはご存知じゃありませんか? 貴子さんは男ですか?」

「はあ?」

 一体誰だろう、聞かれて答えるはずもないことを聞かれ、黄珠はぎょっとした。

「あなたは誰?」

「僕は検非の斑学文。貴子さんを人に言われて調べています」

「ふ……ふうん?」

「去年貴子さんは人を殺していますね。そしてその時使った剣が、ここにあります」

「剣? そういえば返っていないと言っていらしたけど」

「じゃ、じゃあやっぱりこの剣は……!」

「その剣がどうしたの?」

「この剣は三十年前に隣国から献上された品で、それから数年後にある人物に下賜されたものだったのです」

「それは?」

「前宰相・秀弓。その剣は乱とともに行方不明になっていた、彼の愛刀なのです」

「……!」

「なぜそれを彼女がもっているか、知りたいんですけどね」

「私は知らないわ」

「そうですか?」

「ええ」

「あなたはどちらのご出身ですか? なまりが少し」

「黒都です」

「黒都といえば亥虞修理のおさめる不落の城塞都市。そこから人が来るのは珍しいですな」

「ちょっと、急ぎますので」

 胸が苦しい。黄珠は駆け出した。どこからか鳥の声がする。手を伸ばすと指先に白い鳥がとまる。

 その足には文が括り付けられていた。

「それはなんだ?」

 はっとして振り返る。先ほどの男かと思えば、黒猫をつれた別の男だ。

「亥虞修理の女なのか?」

「え」

「黙っていてやる。俺に今宵つきあえば、な」

「あなたは?」

 丸い猫のような目が、印象的だ。すぐに黄珠は誰であるかわかった。

「富山さま」

「なぐさめてくれ」

 富山はぽろぽろ涙をこぼした跡の残る頬を黄珠の髪に押し付けた。雨の匂いがした。

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