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落星物語  作者: 間々 ようこ
官府
15/42

小刀

 その晩宰相は宮殿で盛大に宴を開いていた。実の娘が正式に王妃になったのだから、これほどめでたいことはない。

 にぎやかな晩は過ぎて、宰相は酔いつぶれた人々を側において、満足げに杯を傾ける。千鳥足で外に出てみると、満月である。

「今のわしは満ち足りておる。怖れ一つもないはずだ」

 その時、庭で何かが光った。なんだろうかと見ると、小刀をもてあそぶ男がいた。刀に満月の冷たい光が反射していたのだった。

「めでたい日に刀で遊ぶ奴があるか、馬鹿者め」

 のしのしと太った体で男に近づき、小刀を奪う。男は「あ」と言って、ひれ伏した。

「申し訳ございません。この刀は愛刀でございまして、王妃さま誕生に喜んだあまりいたずらしてしまったのであります」

「愛刀? こんなつまらない刀で」

 言いかけて、宰相はその刀に見覚えがある、と思った。

「これはお前の刀か?」

「ええ、そうです」

「このような立派な刀をなぜお前がもっているのだ。衣の色から見て従五品だろう」

「ひえー」

 男はのけぞった。そしてぼろぼろと涙をこぼすと、拝みだしたではないか。

「じつは事件に使われた刀を横から拝借したのです」

「なんだと」

「ひえええええ」

 すっかり宰相は酔いが醒めていた。

「この小刀には見覚えがある。だがどこで、誰のであったかが思い出せない。お前はこれを調べよ」

「宮中の女官のものでございました」

「ばかもの、そういう意味ではない。誰のゆかりかを調べよというのだ」

「は、はい……」

「必ず調べ上げよ。そうでなければ罰する。牢屋入りだ!」

「は、はい!」

 男が身を投げ出して礼をする。

「名はなんと言う?」

「斑学文です」

「そうか、よろしく頼んだぞ」

 宰相は再び月を見上げた。雲がかかって辺りが暗くなる。

 嫌な予感がした。

 この小刀は、じつに精巧だった。生半可ではない。

 じっとにらんでいるうちに、秀弓の顔が浮かんでは消えた。

 秀弓……!

 地方出身の田舎者。女帝をたぶらかし、軽んじて権力を欲しいままにし、国政を牛耳った男。女帝の夫だった先々帝に取り入り、その亡き後を託された男。

 美男子で、洗練されて、本当に虫唾が走る思いだ。

<なぜその男なのですか>

<秀弓は、お前にないものをもっている>

<なぜですか。なぜですか、——女帝!>

 十年あまり前のことが、ありありとよみがえって来る。


「秀弓の縁者は、皆消したのだ」

 宰相が、月を瞳に映し込んで、つぶやいた。

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