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闇の目覚め





貞子は、深い、深い闇の中で目を覚ました。身体は鉛のように重く、指先一つ動かすこともできない。意識は混濁し、自分がどこにいるのか、なぜここにいるのかも定かではない。ただ、肌を刺すような冷気と、遠くで響くおぞましい呻き声だけが、現実であることを告げていた。


(これは…夢…?)


そう思いたかった。しかし、脳裏に焼き付いた悲惨な映像と、心に流れ込む悍ましい憎悪が、これが現実の延長線上にあることを示していた。もう一人の貞子の言葉が、こだまのように響く。「この憎しみに、あなたも染まるのよ…」。


身体中に、これまで感じたことのない負の感情が渦巻いている。絶望、憎悪、苦痛、そして、拭い去ることのできない裏切られた痛み。それは、自分の記憶とは異なる、しかし確かに自分の中から湧き上がってくる感情だった。まるで、これまで抑えつけられていたあらゆる穢れが、一気に噴出したかのように。


視界は暗闇に閉ざされているのに、目の前に、あの井戸の底が見える。冷たい水、届かない光、そして、見捨てられた幼い自分の姿。あの時感じた全ての感情が、今の貞子を支配しようとしていた。


「くっ…」


思わず声が漏れた。それは、貞子自身の声でありながら、どこか遠い、冷たい響きを持っていた。呼吸が苦しい。胸が締め付けられる。このままでは、あの井戸の底で、永遠に光を見ることなく朽ち果ててしまうような気がした。


その時、闇の中に、微かな光が差し込んだ。それは、か細く、今にも消え入りそうな光だったが、貞子の意識の深淵に、確かに届いた。


(…白い…花…?)


その光は、貞子が古文書から見出した「白い花」を思わせた。同時に、舞子や栞、葉月、そして沙織や紗栄子、奈緒…これまで出会った大切な人たちの顔が、走馬灯のように脳裏をよぎる。彼女らの温かい笑顔、励ましの言葉、そして、自分を信じてくれた眼差し。


「……違う…」


貞子の口から、か細い声が漏れた。闇に飲まれそうになる意識の中で、彼女は必死にもがいた。


「私は…終わらせに…来たんだ…」


憎しみに染まることを拒絶するように、微かな抵抗が生まれた。その時、井戸の底で、かつて自分が持っていたはずの、しかし忘れていたはずの感情が、かすかに震えた。それは、誰かを大切に思う心、そして、生きたいと願う、強い「光」だった。


その光に導かれるように、貞子はゆっくりと、重い瞼を持ち上げた。そこは、深い闇の中。しかし、もはや井戸の底ではない。冷たい石の感触が、背中に伝わる。自分が横たわっていることに気づく。


ゆっくりと、指先を動かす。震えながらも、確かに自分の意志で動く。そして、その視界の端に、あの白い花の押し花が、ほんのりと光を放っているのが見えた。

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