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導かれる場所、過去の残響





あの鮮明な記憶の断片が、貞子の心を強く揺さぶっていた。白いワンピースを着た悲しげな女性。彼女は一体誰なのか。そして、なぜその記憶が、白い布の切れ端を通して流れ込んできたのか。


翌日、貞子はいてもたってもいられず、葉月に昨夜体験した不思議な出来事を話した。葉月は、さすがに顔面蒼白になり、「それはもう完全にヤバいって! 霊能力者に相談した方がいい!」と強く主張した。


しかし、貞子の心は、恐怖よりも好奇心と、あの悲しい女性への共感に強く惹かれていた。「霊」という言葉で片付けるには、あまりにも鮮明で、感情的な記憶だった。


その日の夕方、栞から電話があった。


「貞子、例の白い影だけど、今日、大島の古い灯台の近くで目撃されたらしいんだ。そこは昔、事故があって亡くなった女性の霊が出ると言われている場所なんだって」


栞の言葉に、貞子の心臓がドキリと跳ね上がった。白いワンピース、そして悲しい記憶。事故で亡くなった女性の霊……いくつかの点が、頭の中で繋がり始めた。


「栞ちゃん、その女性について、何か詳しいことはわかりますか?」


「うーん、詳しいことは……ただ、白いワンピースを着ていたっていう話だよ。満月の夜に、海を見つめていたとか……」


栞の話を聞くうちに、貞子の脳裏に、再びあの記憶の断片が蘇ってきた。暗い部屋、白いワンピース、そして海を見つめる悲しい瞳。


「栞ちゃん、私、今から大島に行く」


唐突に告げた貞子の言葉に、栞は驚いたようだった。


「えっ、今から? どうしたの、急に」


「なんだかわからないけど、行かなきゃいけない気がするんだ。あの白い影のことも、夢で見た女性のことも、きっと何か関係がある」


夜行フェリーに乗り込んだ貞子は、窓から見える暗い海を見つめていた。博多の街で出会った白い影、夢の中で彷徨う白い影、そして、布の切れ端を通して流れ込んできた悲しい記憶。それらは全て、この大島へと繋がっているのかもしれない。


フェリーが明け方の港に到着すると、栞が迎えに来てくれていた。久しぶりの再会に安堵する間もなく、貞子はすぐに灯台へと向かった。


古い灯台は、潮風に晒され、どこか寂しげな雰囲気を漂わせていた。周囲には、荒れた岩場と、打ち寄せる波の音だけが響いている。


「ここが……白い影が目撃された場所なんだね」


貞子が呟くと、栞は頷いた。


「うん。でも、今日はまだ現れていないみたい」


二人が灯台の周りを調べていると、岩の隙間に、何か光るものを見つけた。近づいてみると、それは小さな、古びたオルゴールだった。表面には、かすれた花柄が描かれている。


貞子がそっとオルゴールの蓋を開けると、途切れ途切れの、悲しい旋律が流れ出した。その音色を聴いた瞬間、貞子の頭の中に、再び鮮明な映像が流れ込んできた。


満月の夜、この灯台の近くの岩場で、白いワンピースを着た若い女性が、一人で海を見つめている。彼女の目には涙が溢れ、その手には、よく似たオルゴールが握られている。そして、背後からは、あの黒い影がゆっくりと近づいてくる――。


その映像を見た瞬間、貞子は全てを理解した。あの白い影は、この灯台で命を落とした女性の、残された想いだったのだ。そして、彼女は何かを「探して」いる。それは、あの黒い影が奪っていった、大切な何かを。


「栞ちゃん……この女性は……」


言葉に詰まる貞子に、栞は静かに頷いた。


「たぶん……昔、この灯台で事故に遭った、有紗っていう名前の女性だよ」


有紗。その名前を聞いた瞬間、貞子の胸に、深い悲しみと、強い使命感が湧き上がってきた。彼女は、この残された想いを、救わなければならない。満月の夜が、再び近づいていた。

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