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貞子と葉月





栞からの電話で、鳴海が一人で筑豊へ向かったと聞いた貞子の胸に、不安が広がった。奈緒の一件で、鳴海の責任感の強さと、一人で抱え込んでしまう 性格を知ったからだ。もしかしたら、奈緒を苦しめた抜け殻への復讐の念も、彼女を突き動かしているのかもしれない。


「一人で行かせるのは、危険かもしれない…」


隣で心配そうな顔をしている葉月に、貞子は呟いた。あの抜け殻が、まだ完全に消滅したわけではない。もし、鳴海の心の隙を突いて、何か悪影響を及ぼすようなことがあれば…。


「私も、筑豊へ行こうと思う」


貞子の言葉に、葉月は驚いた。「え、でも…」


「奈緒さんのことも心配だけど…鳴海さんのことも、放っておけない。それに…」貞子は、言葉を濁した。「あの抜け殻が、私に戻る可能性があるって、栞さんが言っていた。もしそうなら、私が直接、その目で確かめたい」


葉月は、少し考えてから頷いた。「分かった。私も一緒に行くよ。一人で行かせるわけにはいかないもんね」


葉月の優しい言葉が、貞子の心を少し和らげた。かつては一人で井戸の底に閉じこもっていた自分が、今ではこうして心配してくれる友がいる。その事実が、彼女の背中をそっと押してくれた。


二人はすぐに支度を始め、筑豊へと向かう列車の切符を手配した。車窓から流れる景色は、福岡の街並みから、しだいに山深い風景へと変わっていく。貞子は、遠い故郷を後にした時のことを思い出していた。まさか、自分が再びこの地に戻ってくることになるとは、想像もしていなかった。


列車が筑豊の駅に近づくにつれて、貞子の胸の鼓動は早まっていった。鳴海は今、どこで何をしているのだろうか。そして、あの抜け殻は…。様々な思いが交錯する中、列車は目的の駅に着いた。


駅のホームに降り立った貞子と葉月は、まず鳴海の スマホに連絡を取ろうとした。しかし、何度かけても電話は繋がらない。


「どうしよう…どこに行ったんだろう?」葉月が心配そうに辺りを見回した。


「手がかりを探すしかないね」貞子は、息を深く吸い込んだ。筑豊の景色は、どこか懐かしいような、それでいて湿った匂いがした。この山の中に、鳴海の、そして抜け殻の痕跡が残っているのだろうか。


二人は、駅の案内所で、狗ヶ岳に関する情報を尋ねてみることにした。しかし、狗ヶ岳は古より神聖な場所ではあるものの、特に言い伝えや何か特別な過去があったという話は聞かれなかった。


途方に暮れかけたその時、奥に座っていた女性が、 思い出した様に付け加えた。「そういえば、少し前に、若い女性が、熱心に狗ヶ岳の古い伝承について尋ねていましたよ。少し慌ててる様子で…」


その特徴は、間違いなく鳴海だった。貞子と葉月は、わずかな手がかりを頼りに、狗ヶ岳へと向かうバスに乗り込んだ。山道を進むバスの中で、貞子は、胸騒ぎを感じていた。鳴海は一体、何を探しているのだろうか。そして、あの抜け殻は、この近くにいるのだろうか。


山深く入っていくにつれて、山道は濃くなり、木々の色彩が目に鮮やかになった。 バスの窓から見える景色は、静かで美しい。しかし、その静けさの奥に、何かが潜んでいるような、そんな予感が、貞子の心を締め付ける様でした 。

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