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残された海門





沖ノ島を後にした舞子、栞、奈緒、そして羽田雫は、福岡本土へと戻り、静かな漁港の近くにある民宿に身を寄せていました。奈緒の体調は徐々に回復に向かっていますが、まだ完全に安心できる状態ではありません。


夕食後、四人は囲炉裏を囲み、今日までの出来事を振り返っていました。


「そういえば、鳴海さん…」舞子は、少し遠慮がちに鳴海に話しかけました。「あの時、あなたが言っていた、この地に災いを封じる『海門』が三つあるって話…改めて聞いてもいいかな?確か、一つはもう…」


鳴海は、少し悲しそうな表情を浮かべましたが、舞子の言葉に頷きました。「ええ。伝承では、この地に災いを鎮める重要な場所が三つあるとされています。そのうちの一つ、神奈川県の羽田にある海門は、二週間前に貞子さんと、沙織さんの妹である美咲という方が、力を合わせて封印したと聞いています」


雫は、静かに頷き、古びた地図を広げました。「ええ。古くから伝わる伝承と、水野さんからの情報が一致します。『海門』と呼ばれる災いを封じる場所は、確かに三つ。羽田は既に封印済み。残るは二つ、この近く、筑豊の山奥にあるとされる『狗ヶ岳』。そして…博多湾の沖合、『玄界島の沖』という伝承が残っていますが、詳しい場所は定かではありません」


三人は、雫が示す地図を食い入るように見つめました。遠く離れた羽田の海門が既に封印されているという事実に、安堵と同時に、残る二つの海門への懸念が募ります。舞子は、鳴海の口から出た「貞子さん」という名前に、言いようのない引っかかりを感じていました。


その時、奈緒がふと呟きました。「サービスエリアで感じた、あの抜け殻の悲しみ…今でも、忘れられないんです」


雫は、奈緒の言葉に静かに耳を傾けました。「あの抜け殻は、強い怨念の塊であると同時に、深い悲しみを抱えている。かつては一人の人間だったのですから」


そして、舞子に向き直り、真剣な眼差しで言いました。「舞子、あなたも感じたでしょう?あの抜け殻が、何かを求めているような、不安定な気配を」


舞子は、サービスエリアでの遭遇を思い出しました。「はい…確かに。なんだか、放っておけないような…」


「ええ。おそらく、抜け殻自身も、その存在に苦しんでいるのでしょう。しかし、放置すれば、さらなる負の感情を増幅させ、新たな災いを引き起こす可能性もある」


そこで、雫は静かに立ち上がり、窓の外の暗闇を見つめました。「私は、あの抜け殻の行方を追います」


舞子は、驚いて雫を見つめました。「雫姉さんが、一人で…?危ないよ!」と心配そうに言いました。


「ええ、危険かもしれません。しかし、放っておくわけにはいきません。それに…」雫は、少し寂しそうな微笑みを浮かべました。「…私には、少し心当たりがあるのです。あの抜け殻が、どこへ向かうのか」


「心当たり…ですか?」舞子は、訝しげに問い返します。


「ええ。かつて、私も同じような存在を感じたことがあるのです。その時の経験が、今なら少しは役に立つかもしれません」


雫の言葉には、深い悲しみと、強い決意が滲んでいました。彼女は、過去に何か辛い経験をしたのかもしれません。


「でも…」舞子が何か言おうとしましたが、雫は静かに手を上げ、それを制しました。


「大丈夫よ、舞子。心配しないで。あなたたちは、残りの二つの海門について調べてください。狗ヶ岳、そして玄界島の沖…手がかりを見つけたら、すぐに連絡をちょうだい」


雫の強い意志を感じ、舞子と鳴海は頷くしかありませんでした。奈緒もまた、心配そうな表情を浮かべながらも、「雫さん、どうかご無事で」と声をかけました。


夜が更け、雫は一人、静かに民宿を後にしました。彼女の目は、遠くの闇を見据え、まるで何かを探し求めるように、微かに光っていました。残された舞子、鳴海、奈緒は、それぞれの思いを胸に、残る二つの海門の手がかりを探すべく、話し合いを始めるのでした。舞子の胸には、水野姉妹への複雑な想いと、「貞子」という名前に隠された何かを探りたいという、新たな感情が芽生え始めていました。

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