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意識が混濁とする中、舞子は微かにその声を聞きました。「諦めないで…」。それは、どこか温かく、そして強い響きを持つ声でした。そして、背後から差し込む眩い光。それは、舞子の持つ白い石と同じように、清らかな輝きを放っていました。


ゆっくりと意識を取り戻した舞子が目を開けると、そこには、見慣れない女性が立っていました。年齢は三十代くらいでしょうか。物静かで、どこか憂いを帯びた美しい顔立ちをしています。その手には、舞子と同じような白い石が握られ、満月の光を浴びて静かに輝いていました。


「あなたは…?」


掠れた声で問いかける舞子に、女性は優しく微笑みました。


「私のことは、今は気にしないで。それよりも、あの子を助けることが先よ」


女性の視線の先には、苦悶の表情を浮かべ、黒い靄に包まれた奈緒がいました。舞子の放った光と、女性の持つ石の光が共鳴し、奈緒を取り巻く闇を僅かに押し返しているようにも見えます。


「あなたも…羽田の血を?」


舞子の問いに、女性は静かに頷きました。


「ええ。あなたと同じようにね。そして、この石も…私たちの血を受け継ぐ者だけが扱えるものなの」


女性は、そう言うと、白い石を掲げ、静かに祈り始めました。すると、石の輝きはさらに増し、まるで生き物のように脈打ち始めます。その光は、奈緒に向かって優しく降り注ぎ、黒い靄を少しずつ浄化していくようでした。


「奈緒…聞こえる?あなたの心には、まだ温かい光が残っているはずよ。苦しいだろうけど、どうか、その光を思い出して…!」


舞子も、力を振り絞って叫びました。鳴海は、変わり果てた妹の姿に涙を流しながらも、二人のそばを離れずに立っています。


光が降り注ぐ中、奈緒の表情が、ほんの僅かに和らいだように見えました。黒い靄が揺らぎ、その奥に、かすかに奈緒自身の瞳の色が覗いたような気がしました。


しかし、影の抵抗もまた激しく、黒い靄は再び勢いを増し、光を押し返そうとします。女性は、額に汗を浮かべながらも、祈りを続けました。


「この地には、古より伝わる封印の力が宿っている。それは、私たち羽田の血を引く者の使命…」


女性は、そう呟くと、さらに強い光を石に注ぎ込みました。すると、洞窟の壁面に描かれた古代の巫女たちの壁画が、淡く光を帯び始めたのです。まるで、彼女たちの祈りが、再びこの場に蘇ったかのようでした。


壁画から放たれる光と、二つの白い石の光が共鳴し、洞窟全体が神聖なエネルギーで満たされていきます。黒い靄は悲鳴のような音を上げながら、徐々に後退し始めました。


その光の中心で、奈緒の身体が激しく震え始めます。苦悶の表情を浮かべながらも、その瞳には、かすかに光が宿り始めていました。


そして、ついにその瞬間が訪れました。奈緒を取り巻いていた黒い靄が、まるで霧が晴れるかのように消え去り、彼女は、力なくその場に崩れ落ちたのです。


「奈緒!」


舞子と鳴海は、すぐに駆け寄り、妹を抱き起こしました。奈緒の瞳には、以前の優しい光が戻っていました。


「…お姉ちゃん…舞子…さん…?」


掠れた声で、奈緒は二人を見つめました。その瞳には、深い悲しみと、そして安堵の色が滲んでいました。


女性は、静かに微笑みながら、舞子に近づきました。その瞳には、深い愛情と、ほんの少しの悲しみが宿っているようにも見えました。


「舞子…久しぶりね…大きくなったわね…」


その優しい声と、どこか懐かしい眼差しに、舞子の心臓が大きく跳ねました。


「あなたは…まさか…雫姉さん…?」


女性は、ゆっくりと頷きました。


「ええ…雫よ。そして、あの子は…私の大切な…知り合いの娘なの」


舞子にとって、雫は幼い頃から共に育った、義理の姉のような存在でした。いつの間にか姿を消してしまっていた雫が、なぜここに?そして、奈緒とは一体どんな関係が?


「雫姉さん…一体、どうしてここに…?それに、この子は…?」


舞子の問いに、羽田雫は静かに首を横に振りました。


「色々なことがあったの。今は、まず、奈緒を休ませてあげましょう。そして、この場所から離れるのよ。ここは、まだ完全に安全とは言えないわ」


羽田雫の言葉に、舞子と鳴海は頷きました。奈緒を救うことができた安堵と、思いがけない義姉との再会、そして多くの謎。様々な感情が入り混じる中、三人と一人(奈緒)は、静かに光を失った洞窟を後にしました。残されたのは、壁面に描かれた古代の巫女たちの壁画と、祭壇の上に置かれた二つの白い石だけでした。夜明けが近づき、空が曙色に明るくなり始めていました。

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