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水野奈緒





舞子と栞をサービスエリアで降ろした後、水野姉妹の車は再び夜の闇を走り出した。車内には、先ほどまでの和やかな雰囲気は消え、代わりに重い沈黙が漂っていた。


運転席の鳴海は、バックミラー越しに助手席の妹・奈緒を一瞥した。妹の表情は、いつも通りの穏やかさを保っているように見えたが、その瞳の奥には、かすかな陰りが宿っているのを鳴海は見逃さなかった。


「奈緒、大丈夫?」


鳴海は、声を潜めて問いかけた。「なんだか、さっきから考え込んでいるみたいだけど」


奈緒は、窓の外の暗闇を見つめたまま、ゆっくりと答えた。「うん、大丈夫よ、姉さん。ただ…少し、あの『抜け殻』のことが気になっているだけ」


「あの、貞子さんの?」


鳴海の声には、警戒の色が滲んでいた。妹が、あの忌まわしい存在に、何か特別な感情を抱いているのではないかという懸念が、彼女の胸をよぎった。


「うん」


奈緒は、小さく頷いた。「舞子さんが言っていた通り、ただの悲しい記憶の残滓なのかもしれないけれど…なぜだか、もっと深い何かを感じてしまうの」


「深い何か、って?」


鳴海は、さらに問い詰めようとした。しかし、奈緒はそれには答えず、ただ静かに首を横に振った。


「今は、まだ分からないわ。でも…あの抜け殻の存在は、私たちが考えているよりも、ずっと重要な意味を持っている気がするの」


鳴海は、妹の言葉に不安を覚えた。奈緒は時折、常人には理解できないような、鋭い直感を見せる。それが、もし災いの予兆だとしたら…。


「舞子さんたちは、大島に戻って調査をするみたいね」


鳴海は、話題を変えるように言った。「私たちも、言われた通り、残りの二つの『海門』について、手がかりを探さないと」


奈緒は、ようやく窓の外から視線を戻し、静かに頷いた。「うん、そうだね。それが、今の私たちにできることだわ」


しかし、奈緒の心は、依然としてあの抜け殻のことでいっぱいだった。サービスエリアで感じた、あの冷たい気配、空虚な瞳の奥に潜む深い悲しみ。それは、奈緒自身の過去の痛みに、どこか共鳴するような、忘れられない感覚だった。


(あの抜け殻は、一体何処へ向かうのだろう…。そして、それは、私たちの計画にどのような影響を与えるのだろうか…)


奈緒は、誰にも悟られないように、そっと手を握りしめた。彼女の中には、姉にも言えない、秘めたる思惑が渦巻いていた。貞子の力に触れることで、何か自身の過去と向き合い、解放されるきっかけになるのではないかという、微かな期待。そして、あの抜け殻の悲しみに、ほんの少しでも寄り添いたいという、複雑な感情。


「姉さん」


ふと、奈緒が低い声で呼びかけた。


「何、奈緒?」


鳴海は、警戒の色を隠せない声で答えた。


「私たち、本当に…ただ、この地の災いを鎮めたいだけなの?」


奈緒の問いかけに、鳴海は一瞬言葉を詰まらせた。妹の意図が読めなかった。


「もちろんよ。それが、私たちの使命でしょう?」


鳴海は、そう答えるのが精一杯だった。しかし、奈緒の瞳の奥に、一瞬見えたような、複雑な光を見逃さなかった。それは、単なる使命感だけではない、もっと個人的な、そして、どこか危険な匂いのする感情のように感じられた。


「そうね…そうだといいわね」


奈緒は、それ以上何も言わず、再び窓の外へと視線を戻した。夜の闇が、彼女の表情を深く覆い隠している。


鳴海は、妹の横顔をじっと見つめた。奈緒の心に渦巻く、言葉にされない感情。それは、この先の計画に、どのような影を落とすのだろうか。彼女は、かすかな不安を覚えながら、アクセルを踏み込んだ。それぞれの思惑を抱えながら、夜の闇の中をひた走る。それぞれの目的地へと向かう道は、まだ見ぬ未来へと繋がっていたが、その先には、予期せぬ出会いと、危険な真実が待ち受けているのかもしれなかった。

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