01.後悔後は立たずって正にこのことね
〈 ホイストン子爵夫人side 〉
ホイストン子爵家にはふたりの娘がいた。
長女ルナリアと次女リリス。
長女ルナリアは特にかく変な子どもだった。
特に変わり種の無いものに対してキラキラしているとか、アレ黒いとか意味の解らないことを兎に角言う子だった。
真っ白の花に対して黄色く光っているとおかしなことを言う。
最初のうちは妹ができて構ってくれなくて、構って欲しい気持ちからくる子どもの嘘で、ちょっとした可愛らしい我が儘。
小さい子によくあること。
今まで自分中心に回っていたのが、妹や弟ができた事で愛情が奪われたと寂しさからくるものだったと思っていた。
急にお姉ちゃんになっただもの、まだ甘えたいのねと、抱っこをすると太陽のような笑顔でふんわりと笑う。
私の後を追う小さなルナリアは本当に可愛らしくて、ルナリアもリリスも平等に愛し、護っていこうと誓った。
そう思っていたから抱きしめたり、褒めたり、一緒にお出かけしたりとふたりの時間を作るようにした。
それがいつからだろうか、ルナリアが怖くなったのは。
「あのひと真っ黒、怖い」
指を刺された男性が馬車の事故で亡くなった。
一度目は何も思わなかった。
「あの人、真っ黒」
贔屓にしている呉服の女性店員の顔見知りの女性が溺死した。
ただの偶然と少しの疑惑。
「なんで? ここの子たち全員真っ黒の?」
土砂崩れで子どもも含めて孤児院で働いてる職員全員が亡くなった。
ルナリアが恐ろしくなった。
いつか、自分も指を刺されないか。
自分だけでない。
家族の誰を指を刺してあの言葉を言わないか。
怖くて、ルナリアを遠ざけ屋根裏部屋へ押しやった。
私がルナリアを雑に扱うから使用人まで雑に扱うようになって、それが当たり前になりいつ日か使用人以下の扱いが当たり前で気にも止めなくなった。
あの子が悪い。あの子が変なこと言うのが悪い。私は悪くないと見てみにふりをする。
次女のリリスは、物心がつく前から長女のルナリアに何をしてもいいと思いが強く気に食わない時があると当たり散らすようになり、私もそれに加算した。
学園に通うようになる歳になれば、虐待が暴露る事が怖くて綺麗な制服を着させて家では古びた服。
何処で間違えた。
あの子が笑った顔が思い出せない。
表情を無くして人形のような顔。
あの子の声はどんな声をして、どんな風に話したのかも覚えていない。
話すことも無くなった。
家で使用人紛いの働きをして、学園では誰とも話すことなく本を読んでると聞いた。
もし、私があの子を怖がらなかったら―――。
もし、誰かに相談していたら―――。
もし、もしも、考えても取り返しができない程に遅かった。
王家の者が我が家に話があると訪ねて来た。
王家の者が突然我が家にやって来たと聞いてリリスは喜んだ。
「ふふ、もしかして私、王太子に見染められたのかしら」
と、頬を染めた。
そんなはずない。
きっと、あの事だと思いながらも認めたくない私がいて、きっとあの子が悪いと思い込むことにした。
案の定、話があるのはルナリアで、何かを勘付かれたのかそのままあの子は連れて行かれた。
家に取り残されたリリスは暴れまくり物を壊す。
「ノロマなクズが何で! エヴァンジェリンに連れていかれるのよ!! 王太子妃になるのはこの私よ! お姉様なんかでは無いわ」
この時、私はリリスの育て方も間違えたと思い知った。
解っている。
全ては私が弱いせい。
ちゃんとルナリアと向き合っていれば―――。
今更何もかも遅いけど、もう一度。
一度だけでもいい、笑いかけて。