05
そして、卒業パーティーの前日。
明日のパーティーの打ち合わせがしたいと手紙を貰ったアリス・ローザは外出用のドレスに着替える。
「遂にこの日が! アリスが王妃になる日も目の前よ。――ふふふ、アリスに跪く男どもを見てみたいわ」
ひとりで高々に笑うアリス・ローザ。
「アリスお嬢様、王子殿下の侍従がお迎えに来ております」
「わかったわ。直ぐに向かう」
緩む顔を抑えて王子殿下の侍従に導かれて馬車に乗り王宮へ向かった。
その間もにやけ顔を抑えるのに必死だった。
王宮について出迎えてくれたディーノの手を取ってエスコートされるアリス・ローザは浮かれディーノの冷たい目線に気づかない。
「ふふふ、アリスすごい楽しみです。忌まわしい悪女を排除できる日が来ることを」
「そうだね、(君の相手をしなくてもいい日が来ることを)僕も楽しみだよ」
ディーノの導かれて連れて来られた場所はパーティーなんかで使われている広場。
そこに集まっている者は、ディーノの婚約者のソフィアを含めて、この国の王太子エヴァンジェリンと体格のいい騎士達。
「やだわ。アリスと早く婚約したいからって一日早いわよ。もう、ディーノたら」
「いや、早くないよ」
ディーノは、アリス・ローザの手を払い距離を取る。
「今日は君の罪を暴く為に来て貰った」
「聞いてない! 騙したのね!! アリス帰る」
「帰れるわけないだろう?」
「アリスに罪なんてない。断罪するべき悪女はあの女よ。ディーノは間違っている」
ソフィアに指を刺して指名するアリス・ローザに眉を顰めるディーノ王子、ソフィア、エヴァンジェリン王太子殿下。
足音を立てて出入り口に向かうアリス・ローザ。
「騎士団に周囲を固めている。諦めて罪を認めるだね」
「罪を認める? このアリスが? 何で? アリスは何一つ悪い事はしない」
「魅了を――」
ディーノの言葉を遮るように言葉を重ねるアリス・ローザ。
「魅了? 可愛いアリスにぴったりね。その何がいけないの? ああ、アリスが可愛いからいけないのね」
「最後まで話を聞こうか、アリス・ローザ男爵令嬢」
「なによ」
「魅了の魔法の存在を知る者はほとんど居ないから仕方ないとしても、君のやった事は重罪でもある」
「何処がよ」
最早、取り継ぐつもりも一ミリもないらしい。
「公爵令嬢であるソフィアを嘘で貶めて嵌めようとした罪を重罪だ」
「あの女に虐められていたのは本当よ。殺されそうにもなった!」
「ソフィアには王家の影が常に付いている。ソフィアの行動、発言、全てが筒抜けなんだ。無理がある」
「あの女以外ありえない」
「君が虐めに遭っていると聞いてから学園側に許可を貰って映像装置及び音声録音ができるものを設置していただよ、見てみるかい?」
と、ディーノが問うと、指示を送る。
スクリーンに再生される映像に自分で教科を破いたり、机に落書きをしている姿。
そして、自ら数段階段から落ちる姿が映し出されている。
それだけではない。
ソフィアの暗殺計画までも企ていた。
全ての悪事が撮られていた。
「嘘よ! こんなのアリス認めない」
「王家が認めた物に難癖をつけるのかい。王家に対しの侮辱にあたる」
往生際が悪く喚くアリス・ローザにエヴァンジェリン王太子殿下が一言。
「連れていけ」
アリス・ローザは騎士団に抑え連れて行かれた。
事件の幕は閉じた。
私がその話を聞いたのは卒業パーティーが終わって一週間後のこと。
騎士に捕虜されたアリスは意味のわからないことを叫んでいたらしい。
「アリスはヒロインなの」「こんな事を間違えている」などなど。
私はこの話を聞いて考える。
小説の読み過ぎで、現在と非現実の区別がつかなくなったのかなと、可哀想にルナリアは思った。
現王国では、死刑制度は廃止になっているから生涯幽閉生活になること。
死刑するべきと声が高いが、今の法律で刑が執行したこと。
ここで認めて仕舞えば、この先も同じことがあった場合に認めないといけなくなるからとエヴァンジェリン王太子殿下は話してくれた。
遊び疲れて寝てしまったアレックス王子の頭を太腿に乗せて今までの出来事を振り返った。
未だに信じられない。
人の心を弄ぶような人非道な魔法が存在していたことが。
アレックス王子がうっすらと目をあけて、眠いのか、目を擦りながら顔を上げる。
「ルナリア帰るの? ここに残っちゃダメ?」
悪夢でもみていたのか、目には涙を溜めている。
なに、この天使。
こんなに小さいのに、この魅力。
まだ薄いけど紫色の特徴が出ている。
ああ、眩しい。
「ぼくのママにならないの?」
抱きついて、瞳をうるうるせて、見上げる天使ことアレックス王子。
ふたつ返事で頷きたいけど、こればかりは私がどうすこともできない。
近くで見ているこの子の父親は楽しそうに見守っている。
ほんとにこの子の義母になる事になるとは、この時は夢にも思わなかった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
現在、日本―――
《続いてニュースです》
《――意識不明で運ばれた、姫川アリスさん。昨夜、亡くなりになりました》
《看護師Aの話によりますと、"アリスはヒロイン""こんな事おかしい"と、呻くように息を引き取ったようです》
テレビに耳を傾けながら、ちらりと画面を見るひとりの少女。
「ずっと前に買ったのはいいけど、稀に自殺したり、事故にあったりするひとがいるから怖くできなかったけど。アリスに奪われて良かった。もしかしたら、わたしも―――………」
都市伝説のひとつに"イジメ"を苦に自殺したひとの呪いではないかと言われている。
iPhoneを手に持って、ネットを繋げる。
単語を入力して開く。
今流れたニュースで盛り上がっている。
『いい気味よね』
『世界は自分中心に回っているって思っているタイプだったし』
『中学の時にいた、あれ』
『名前なんだっけ?』
『忘れた』
『ww』
『自殺しただよね』
『自殺するなら学校来るなって感じ』
『言えている』
『ほんと迷惑』
『あのゲームやりたいけど、ウチも死ぬかもww』
『わたしもww』
ネットを切ってiPhoneを置いた。
事故死した、とある女子のゲーム機の液晶画面に映された文字。
◼️◼️失われた魔法の復刻――……。
またあるところで、こんな会話をしている二人の少女。
「これってもしかして、呪われたソフトじゃない?」
「怖くってできていないの」
「茉子は怖がりだからね」
茉子と呼ばれた少女の手に◼️◼️失われた魔法の復刻。
「持っているだけで呪われるらしいよ」
「え、え、ほんとに」
「うん」
「早く処分しないと! 呪われちゃう」
「私に任せて。そーいう当てがあるからさ」
「だけど、梨花が呪われちゃう」
「大丈夫。すぐに持っていくから」
「ほんとに頼んでいい?」
「うん」
笑顔に隠された黒い顔。
梨花と呼ばれた女子は心の中で微笑む。
(馬鹿みたい。呪いなんてあるはずないのにおびえちゃって)
(高額で売れるし、プレイ終わったら売ろう)
茉子から梨花へ手渡されたゲームソフトのケースには。
◼️◼️失われた魔法の復刻――………。
本当に呪いなのか真相は明らかにされていない。