01
物心がつく前から私の世界はカラフルだった。
それは、人や動物、物や植物などに囲むように色がついていて、輝いているようにも見えて、子供心ながらに不思議と綺麗だと思っていた。
あの頃の私は、他の人にも同じように見えていると思っていた。
「お母様、なんでおれんじ色に輝いているの? すごいきれい」
お母様の色は、オレンジ色とピンク色。
いつも、笑っていて優しいお母様にぴったりの色だと思った。
「あらま、綺麗だなんて嬉しいわね」
嬉しそうにお母様は笑った。
お母様が笑ったことが嬉しくて、その日からいろいろと報告したことを今でも覚えている。
ただ、大好きなお母様に褒められたくて、笑って欲しかっただけだった。
だから、本当にいろいろなことをお母様に報告していた。
初めのうちは、お母様もお父様も私の話をよく聞いてくれていた。
「お母様、あの箱、前見たときと変わっているの。変なの」
最初に見た時は綺麗な黄色をしていたのに、色が褪せてきているのが不思議だった。
この時は色の変化に、只々不思議だったけど、後にその理由を知った。
――物の寿命だった事に。
少しずつ人には見えない速度でゆっくりと寿命に近づき、色もそれに伴い少しずつ変化をしていたけど私は気づく事なく、気づいたら色が変化していた、というだけの話。
私は相変わらず知らずにお母様に報告をしていた。
お母様の色の変化に気づかずに――。
「お母様、あの人の色こわい。真っ黒なの」
その日の夜にあの人は馬車の事故で亡くなった。
お母様とよく行くお洋服を買う店員のお姉ちゃんがいつもと違って真っ暗に染まっていた。
「お母様、お姉ちゃんが黒いの」
次にお店に行ったときに、お店の主のおじさんがお姉ちゃんは、水難事故で亡くなったと聞かされた。
支援活動で孤児院に行ったとき、全員が黒く染まっていてとっても怖かった。
「みんな真っ黒で怖いよ、お母様」
数日後、ルナリアと同じ歳の子供も職員全員が亡くなったと聞かされた。
そんな事が何度も続くと、お母様の色にも変化が目に見えて解るくらいに変わっていた。
あの時と同じようにお母様も色が変わっただけ、そう思っていた。
うっすらと黒が混ざり、それが少しずつ黒く染まっていく、怖かった。
そして、徹底的なことが起こった。
「ほんとに不気味な子ね」
怖い目で睨まれながら放たれた言葉がずっしりとのしかかった。
「泣くじゃない。気持ち悪い」
何かが壊れるような音がした。
その日からルナリアの周りからひとがいなくなったの。
――ナルリア、5歳の年だった。
その日を境に、使用人よりも酷い扱いを受けている。
硬いパンにはカビが生えていて、スープには残りカスの屑野菜。
酷い時には丸一日何も食べられない時もあって、お腹が空いて我慢できなくて、ごはんを作る場所に向かって、何か食べれるものを探していたらお父様に見つかって、何度も叩かれた。
痛くて、痛くて、泣いたら更に叩かれるから涙を必死に堪えた。
薄い毛布はところと穴が空いていて小さくて、冬は寒さで凍えそうになる身を丸めて寒さに耐える。
どうして―――。
どうして、ルナリアにひどいことをするのか解らなかった。
ただ、ルナリアはお母様に笑って欲しくていろんなことを報告していただけだったのに。
何がいけなかったの?
考えても答えなて見つけられなくて、毎日辛い日々を耐えていた。
妹のリリスと過ごせたのは私が五歳で、リリスが二歳の時までで、妹が産まれた時はとっても嬉しかった。
真っ白で、初めて見るその色はとっても綺麗だった。
私がこの子を守らなくちゃと、この時の私は本気で思っていた。
その頃の私の気持ちは消え、早く怒りが収まるのを待つだけ。
「今日中にこれに刺繍をしていてって言ったでしょ!! なんで言った事もできないのよ! 馬鹿で鈍間のお姉様にお仕事を与えてあげているのに簡単なこともできないの、役立たず」
「この子のせいでホイストン子爵は大変な思いをしているのに……」
「お前のせいで! 赤字続きだ! 疫病神め」
理不尽に殴られ、蹴られて、罵倒されて、心も身体もぼろぼろで只々早く終わることを祈る。
私がまだ両親とも比較的に仲が良かった頃は起業にも成功し、順調に功績を上げていき比較的に裕福だったのも関わらず、いつの間にか嘗てないほどの財産難に陥り、使用人を多く雇える余裕も無く、経営が危うくなったのは私のせいだからお前がその分役に立つべきだといい雑務をこなしている。
泣きたくなる日もある。
どうして、私だけがこんなにも辛い思いをしないといけないの? 同じ家族なのに……と、何度も思った。
そんな私も王立学園へ通う歳になった。
お金の無駄と両親は不服そうだったけど、数年前から貴族だけではなく、平民も学園へ通うことが義務になった。
もし、義務でなかったら私は通うことが出来ずにずっと家という牢獄で働き詰めだったと思う。
義務化にしたのは現王太子エヴァンジェリン・セレスティア殿下で、学びは心を豊かにし、より良い国を築くことになると仰った。
そして、現在――。
私は、学園でもひとりで過ごしている。
噂はねじ曲がって、私と関わると死ぬと言われている。
だからか、私と関わろうとする者はこのクラスには存在しない。
興味本位で近づいてくる者も稀にいて、その人達の色に黒が混ざっている。
これまで出来事から"黒"は危険や悪意だと判明できた。
他にも噂はある。
癇癪持ちで気に入らない使用人に体罰をしているとか、浪費癖があって家族を困らせているとか、妹のリリスを虐めているとか、兎に角悪い噂が絶えない。
その事で何度か"保護センター"という職員から教育を受け、最初のうちは声に出して訴えた。
「私はなにもしていない」「妹に、使用人に手を挙げていない」と、「私の方が家族に使用人に酷いことをされている」と。
聞く耳を持っていない人物に何を言っても無駄だと悟り、口を閉ざした。
✳︎ ✳︎
ルナリアは、学園では静かに本を読んでいる少女だった。
入学初頭は友達をつくることが楽しみだったけど、クラスから遠巻きにされていることに気づき一人でいることを決めた。
本から目を逸らし、何気なく窓の外を見る。
「――あ……」
クラスは違えど、同じ歳に第二王子とその婚約者が通っていることは知っていた。
「糸がある」
糸――、私はそれを絆の糸だと思っている。
家族によく見られ、たまに婚約者や夫婦にも糸が結ばれていることがある。
「素敵ね、いつまで繋がって欲しいわね」
羨ましくもあり、嬉しくもあった。
次代の国王を支える二人が仲凄まじいことは国の安泰にも繋がる。
その二人に暗黙が降りかかる出来事が起こるなんてこの時の私は知る由もなかった。
そんなある日――。
ひとりの少女が王立学園に入学してきた。
「アリス・ローザと申します。えー……と、解らないことばかりなので、皆様ご指導の方をよろしくお願いします」
にっこりと微笑むアリス・ローザは美しかった。
綺麗な金の髪を靡かせて、大きな瞳は空を思わせるような美しい蒼。
ぷっるとした唇は、うっすらピンク色をしている。
まるで絵札から飛び出してきたような美しさに男性陣の心を一瞬で奪い去ったのが一眼で解った。
周りからピンク色の花が咲いた。
ピンク色の花には、恋慕が含まれている。
アリス・ローザの周りには男性陣が集まり、絶賛の声があがった。
国宝級の美少女―――例えるなら国の国母に相応しい美しさだと。
男性陣が絶賛の声を上げる中、不満の色に染めている女子達。
赤黒色は嫉妬の感情によく見られる色。
ちなみに、感情の色は外側に現れ、輝きはない。
アリス・ローザから溢れ出す真っ黒い色は、全身を覆い顔も判別し難いほど彼女を囲み恐怖から思わず悲鳴を上げそうな声を咄嗟に押さえた。
ルナリアはこの時、"何か、起きる"予感がした。
警告音が鳴り響いていた。