8話 凹む
学園生活3日目。本来ならば初めての学園の授業に胸を躍らせながら朝日を浴びるこの日。俺は二日酔いを理由にサボろうとしていた。そんな俺をニホは説得しようと何度も話しかけてきた。
「シンクルド!起きて!もう11時だよ!」
「うるせぇ。俺は二日酔いを理由に休むんだよ。ニホだけで出席してくれ」
「その理由だと教授に内申点めちゃくちゃ下げられますよ!」
「もう知らんわ授業なんて。学園爆発しろ」
「昨日と今日でどうしちゃったの!?」
最悪な目覚めだ。任務2日目で正体バレたし、なぜか革命軍を名乗るヤベー集団に入団させられて二重スパイみたいになってるし。
「せめて昼ごはんは食べに行こうよ!タマさんも待ってるよ!」
「嫌だ」
「もー!僕は先に行くから!」
「あいよ」
怒りながら出て行ったニホには申し訳なさを感じるが、正直それどころじゃない。今後どう動くか考えないと。
とりあえず今週の土日に王都の騎士団本部に文句言いに行くとして、そこで何をどう言おうか。騎士団の情報が何処で漏れているのかが分からないので下手に動けない。
お先が真っ暗だ。人生でここまで絶望したのは親を亡くして以来か?いや、当時よりも売国奴ポジションにいる今の方がやばいか。
思考に耽っていると突然、部屋の扉が乱暴にノックされた。
「シンクルド!さっさと出てらっしゃい!」
「げ」
今1番聞きたくない女の声が聞こえる。
「ニホから状況は聞いたけど、何が二日酔いよ!そんな理由で授業を休むなんて信じられないわ!」
「やかましいわ!無理なもんは無理じゃい!」
「もう!こうなったら引きずってでも連れ出すわよ!」
「勘弁してくれ!」
なんでコイツは普通に話しかけてきとんねん!怖いわ!難癖つけてきた次の日に突然距離を詰めてきてたし。冗談抜きで話しかけてこないで欲しい。
「もう部屋に入るわよ!」
つーか改めて考えてみたら俺を反乱軍に入れる理由なんてねーじゃねえか!タマはなんかごちゃごちゃ言ってたけど、泳がせるぐらいならどっかに監禁した方が絶対反乱軍的には楽でリスクも少ないだろうし。
第1騎士団の情報が欲しいのかとも思ったが、団長の言動や俺が密偵であることを知っている時点で情報発信源はもうあるのだろう。とすると余計に意味わからん。
「起きて。昼食を取りに行くわよ」
「嫌だよ」
「ニホが私たちの分の席までキープしてくれてるの。早く行かないと、周りにも迷惑がかかるわ」
「今日はどっかのガチヤバ集団のせいで心がしんどいんだよ。追い込んだ原因の一味が普通に話しかけてくるな」
「あれは…ああするしかなかったのよ。私はあなたを殺したり拷問したりするのには最初から反対してて、」
「頼むから今日は帰ってくれ!」
「…」
正直タマがあまりにも普通に接してくるのが怖い。どうしてここまで図々しくなれるんだよ。
「…じゃあ私は食堂に向かうけど、3限目の魔法技能講義は受けておいたほうがいいんじゃないかしら?」
「…?」
「ほら、あの授業って戦闘能力が飛躍的に上がるってことで大人気じゃない。騎士団の団員としては受けるに越したことはないんじゃないかしら。それに…」
タマは俺の耳に顔をよせ、聞き取りづらいくらい小さな声で話しかけてきた。
「今、リーダーが貴方の行動を怪しんでるわ。騎士団に連絡を取っているんじゃないかって」
ぞわりとした。反射でタマと距離を置く。硬直してしまった俺に、タマは真剣な顔つきで話す。
「昨日も言ったけど...私は貴方の敵になるつもりはないわ」
そう捨てセリフを吐いた後、タマは部屋を出て行った。
「意味が分からん…」
タマの言動が怖い。怖いけど、魔法技能講義は俺でもその名を耳にしたことがあるくらい有名だし、今後のことを考えると真面目に学園生活を送るほうがいいのも事実だ。
「いやだなぁ…」
どうせ考えたところで何もいい案は出てこないだろう。とりあえず、3限目からは出席することにした。