72話 王族の会話
「影を連れてまで学園に行ったそうじゃないか。何かあったか結果を報告せい」
「はい。今は夏季休暇の時期だそうですが、予想以上に生徒が残っていて驚きましたよ」
「前置きなどどうでもよいわ」
「相変わらずせっかちですね」
話を急かす父上の態度に少し呆れた。この人はどうやら、僕が学園に行って見聞きした情報がどうしても欲しいらしい。
「学園には、他国の貴族や反王制を掲げる貴族派の貴族が多くいました。
彼らは表立って動いているようには思えませんが、家柄関係なく王族に悪意を持っているようです。
その中には貴族派筆頭であるエデル家の次女や、王国の海外輸入市場の占有をしようと動いている大和家の長女が入学していることも再確認できました。
…と言っても、その2人に出会うことはありませんでしたが」
「そっちはもうよい。書類に書かれているような内容ではないか。そのようなことが事実であるのかを確認しに行った訳ではないだろうに」
「はい。それでは、シンクルドのことについて報告させていただきます」
あいつは絶対勉学なんぞ興味はないし、昇級とかも気にしていないだろう。
生い立ちや立場を煽られたらイラつくだろうが、それは向けられた悪意に対してキレているだけだ。
別にコンプレックスになっているわけではない。
なら第1騎士団が職務継続に大きな支障をきたしている現状においても、彼が学園に居続ける理由は…。
と考えると、僕が先程報告したような、反王制のコミュニティと関わりを持ちたがっている可能性も十分に有り得た。
僕たちや第1騎士団が彼に行った仕打ちは決していいものではない。このことを踏まえると、今の扱いに疲れた彼が敵対する可能性は完全に否定できない。
しかし僕が学園に行って直接見た彼は、白だった。
少なくとも僕とは敵対していない。
とあれば、何故彼はあそこに居続けるのか。
そう考えた時、1年以上前の国家予算会議での、第1騎士団長の発言を思い出した。
「彼は第1騎士団の独断により、学園内部を調査している可能性が高いかと」
あの団長はずっと学園という存在を危ぶんでいた。それは予算会議で重鎮にめちゃくちゃ叩かれた後も健在だった、と考えるほうが自然な気がする。
そんな僕の考えを父上は鼻で笑った。
「そのことでもないわい。あやつが我ら王族を裏切るものか」
「???」
「そんなことよりも…これじゃ」
父上は懐から学園祭のチケットを取り出し、僕に見せびらかすようにヒラヒラとさせた。
その行動に思わず押し黙ってしまう。
「なんじゃ。お前は貰えなんだか??このチケットを?ええ??」
「…」
「おお、そうかそうか。これは無限に発行されるものでもなかったのだな。いやあ、残念だったのう?息子よ」
「この野郎!!!」




