70話 知らない話
「ん」
そう言いながら、第一王子は手のひらを向けて来た。
「ほら」
「は?」
なんだよ急に。もしかして俺、何かたかられてる?
驚きで反応できずに固まっていると、第一王子はムスッとした。女装のおかげで妙に様になっている。
「俺にわたすものあるだろ」
「マジで何なの?」
「おい!学園祭のチケット!俺の分渡せよ!」
「ねぇよそんなもん」
「はぁ!?」
反乱軍の本拠地やら実害を出してる怪異が出現する場所に王族呼べねぇよ。というか、なんで俺が第一王子を招待する前提で話してんだよコイツ。
「お父様には渡してただろー!?」
「ああ、あれか!!あれは王様に渡したわけじゃなくて、持ち物検査で没収されたんだよ」
「嘘つけ!俺煽られたたし!」
「煽られた?何をだよ」
「チケット見せながら『朕は不法侵入者のシンクルドからこのようなものを貰ったのだが...お前は貰っておらんのか。ほう。そうかそうか』って言われたんだ」
いや本当に没収されただけなんだけど。つーか王様が第一王子と会うことを妨害したんだから、俺と第一王子が接触していないことは王様だって知ってただろ。そのうえでそのセリフ言ってるならこの国のトップの性格がダルすぎる。
「あれは没収されただけで王様に渡したわけじゃねーよ」
「じゃあ僕の分を今渡してよ」
「お前の分だったわけでもねーよ」
「は~???じゃあ誰に渡すつもりだったんだよ。彼女か?」
「そんなもんいねぇよチクショウ」
本当は副団長に渡すつもりだったんだけど...。でもそれを言うと『なんで僕にはくれないんだよ!!』とかいい出しそうだな。ここはとぼけてやり過ごすか。
「チケットは処分し忘れてただけだ。あの日は普通にお前と雑談しに行こうとしたんだよ」
「それならどうして僕に会わず、お父様に学園祭のチケット渡して、吸血鳳と窓ガラス割ることになるんだよ」
「それは不法侵入したらウェルカムアルコールで気絶して所有物没収された上で脱走したからで...」
「何変なこと言ってんだよ」
「これが事実なんだよ」
自分で言ってて泣きそうになったわ。そう考えるとよく第一騎士団の連中は納得できたな。緊急事態に対する耐性が付きすぎだろ。
「とりあえずもうチケットはないし、王様に渡した覚えもない。つーかこの学園には他国の人間とかが多く出入りしてるから、王族にはできるだけ来てほしくないんだよ。とっとと帰ってくれ」
「さっきの状況からして大丈夫じゃない?」
「今は夏休み中だからあれだけで済んだってだけだろ。講義が始まったら危なくなる」
「学び舎が危ないってなんだよ!」
「魔法実技の関係でどうしてもな...。実際サークル勧誘で爆発事故が起きて救護室送りになった人だっている」
「まじかよ」
これはホントにいた。ちなみに、あの事件のことは未だによく分かっていない。
「影にずっと護衛してもらうわけにもいかないだろ。これ以上奥の手を見せびらかすなよ」
「それはそうだけどさ...」
第一王子は真剣そうに頭をひねらせている。もう帰ってくれ。
これ以上何をする気なんだよ。




