68話予想以上に早い再開
「シンクルドー」
「え!?先輩??」
「うっわなんですか急に。どっか行ってください」
寮の部屋でニホが漫画を描いているのを横目に腕立て伏せをしていたら、ド畜生太郎が背中に飛び乗って来た。急に何の用だよ。早く出て行ってくれ。
「それがさー。薄い高濃度の膜?みたいなのが学園全体に広がっててさ、そのせいで魔力探知がバグりちらしててキモくてテンション萎え萎えでー」
「はあ?」
そう言われて魔力探知の効果を広げてみた。特段何か引っかかるわけでもなく、普段との違いが分からない。
「...」
もう一度強めに魔力探知を行ってみたが、本当に何も引っかからなかった。
少なくともド畜生太郎先輩がこの部屋にいるというのに。
「なんだよこれ...どうなってんだ?」
「ね?ヤバいでしょ?こんなのこの学園に来て初めてだよ」
どういう状況だ?その手の幻覚系魔法か?
いや、夏休みとはいえ学園寮にはまだ人が多くいるはずだろ。そんな高度な魔法を広範囲にばらまけるはずがない。
...たぶん。
少なくとも騎士団の人間じゃ無理。
「あ、元凶っぽいのが近づいてきてるよ」
「まじでか」
なんで今なんだよ?教授がいるかも分からない状態で変なの来ないでくれ。
とりあえず放置できるような内容じゃないし、攻撃も探知もよくできない俺一人じゃどうしようもない。
「先輩」
「何?」
「一緒に様子見に行きましょう」
「いやだよ。怖いし」
「一緒に行ってくれたらまた今度居酒屋にいきますよ」
「ヤバそうだったら見捨ててすぐ逃げるから」
ド畜生太郎先輩の言質を取った後、急いで準備をしていると、ニホが怯えながらも声をかけて来た。
「あの...僕も...」
「ニホはダメだ。一般人は巻き込めない」
「僕も一般人でしょ?」
「ド畜生太郎先輩は別枠です」
「酷ーい。人種差別だー」
「あんた結構魔法使えるでしょうが」
巨大ミミズ討伐とか夜間警備に駆り出されるくらいだし、探知魔法以外にも護身魔法系が使えるだろ。長生きしてるらしいし。
*****
怯えるコン太郎先輩をひっぱりながら、学園の入り口近くに移動した。
普段なら人通りの少ない時間帯だが、今日はやたら混雑している。何かあったのか?
「ここら辺が特にバクってるよ。多分原因が近くにあるんじゃないかな?じゃ、僕もう帰るね。こんな場所に長居したくない」
「できればタマを連れてきてほしいんですけど...」
「りょーかい」
そう返事をしたコン太郎先輩は今までにないスピードで逃げて行った。魔力探知が使えないのが、よっぽど不愉快だったらしい。
普段なら嫌味の一つでも言ってやるところだが、まあ、確かに俺ですら不快に感じるぐらいだしな。その手の魔法を得意としているヤツなら、まじで地獄みたいな状況なんだと思う。
とにかく、このバグの元凶を突き止めないと。
...とはいえ、人通りが多すぎてまともに探索できない。本格的にやると不審者だと思われちまう。つーかなんで長期連休なのにこんなに人がいるんだよ。家に帰りやがれ。
現状の把握を続けていると、遠くから大きな悲鳴が複数回にわたって聞こえて来た。なんだ、敵が暴れ出したのか!?まだタマと合流できてないのに!?
とにかく急いでそちらの方へと向かうと、多くの人間が1人の人間を囲っているのが見えた。
周囲の人たちは、中心に立つ人物の様子をうかがいながら、ひそひそと話している。
(なんでだ?)
異様な光景に引きながら視線を向けると、そこにはどこか既視感のある美女が、日傘をさした状態で静かに立っていた。




